怪獣と魔法少女が戦う世界に人型機動兵器を持ち込んだヤツ 作:⅔夜城
————コンコン
「ん?どちら様です?」
翌日。
割り当てられた基地の自室にて、生活必需品の整理をしていたところ、ドアをノックされた。
畳み掛けていた衣服を一旦置き、ドアを開ける。
すると向こう側には、腕を組み、灰色髪をウルフカットにした少女……〈腕輪〉を付けているため魔法少女だろう…が佇んでいた。
はて、なんか凄まじい目つきで睨まれているが、初対面だよな?
「えーっと、どちら様で?」
「〈
「司令が?」
少女にしては低い声で告げられる内容に、驚きの声をあげてしまう。
基地司令による呼び出しか。書類上の手続き———は考えにくい。
既に俺と烈風に関する書類は作成して提出済みだ。
『これらを出来るだけ早く済ましておいてくれ。遅くても3日以内に頼む』
『わかりました……って多いな』
まぁ中々に量があった上、
だから他に考えられるとしたら、俺の詳細な処遇が決定したとかだろうか?
現状、今の日本から見た俺は国籍不明の不法入国者である事に変わりはない。ただ厚木基地の司令官が上に掛け合い、しばらくの間はここに留め置かれる事になっている。
恐らく数日中に仮の国籍が用意される事になるとは思うが……
「着いてきて」
「分かった」
窓から差し込む日が照らす廊下を、2人静かに歩いていく。
外からはジェットエンジンの轟音が時折響くが、防音処理が為されているのかほとんど気にならない。
やがて中央管理棟に辿り着くと、エレベーターに乗る様に促される。
そしてそれを使って最上階に向かう間、灰室さんが話しかけてきた。
「……ねぇ、あなたは未来から来たと聞いたんだけど、本当?」
「え?あぁ、本当だ。信じられないかもしれないけど」
「…そう。僕は正直どっちでも良い。でも、司令官はあなたに期待してる。まだ碌に話したこともない、あなたにだ」
「———だから、失望させないで」
僕からはそれだけ。と最後に言い、灰室さんは壁に寄りかかって目を瞑ってしまった。
失望させないで、か。
「……任せろ。期待に応えるのは得意だ」
「なら、良い」
甲高い音が鳴り、エレベーターが最高階に到着した事を告げる。
廊下に出ると目の前には高級そうな木製のドアがあり、橘さんがそこで待機していた。
「来ましたね、皆が待ってますよ」
こちらの姿を認めた橘さんはドアをノックする。
すると中から「入れ」と短く返答があり、俺たち3人は中へと入った。
「短い間に2回も集まる事になってすまないね」
そう短く言うデスクに座った基地司令……〈
いずれも腕輪を嵌めている……魔法少女だ。
「この男が例の未来人ですか」
「パッと見は普通の鍛えている軍人さんですねぇ〜」
部屋に入ったこちらに視線を向けてくる2人。いや片方は本当に視線を向けてきているか分からんが……
「まぁ彼のことは後回しにしましょう。今は別の問題がある…ですよね?」
「あぁ、君らを呼んだ理由は他でもない…レイダーが出現した」
桐崎司令が言うと同時、傍に控えていた秘書らしき女性が端末を操作する。
同時に部屋の電気が暗くなり、窓からの明かりが遮られた。
「今から凡そ20分前、小笠原諸島沖200km地点に30m級の海棲型レイダー1体が姿を現した。10m級空翔型を複数体引き連れてな」
再び秘書が端末を操作すると天井からスクリーンが降りてきて、映像が投影される。
そしてそこには、
「機動拠点型…」
「ふむ、君の世界だとそう呼ぶのか。まぁ呼称の差異は今は置いておこう。問題はこのレイダー群が全くこの場から動こうとしないことだ」
「えっ…どう言うことですか」
「理由はわからん。哨戒機が上空で監視にあたっているが、海棲型も空翔型も半径500mの円の中から全く移動していない」
そこで一度言葉を切り、桐崎司令はこちらに視線を向ける。
「本来なら魔法少女を派遣して早々に潰すんだが、今回に限っては監視に留めている。理由は分かるな?」
「……俺と烈風の実力を見る、実験台か」
「如何にも。今後君がどう動くにせよ、我々が全く知らない状態は君にも不都合だろう?」
確かにそうだ。双方の認識違いによってフレンドリーファイアとか目も当てられない。
だが、夜間の戦闘ならまだしもこうも明るい状況で戦うのは、それこそ日本政府にとって不都合じゃ…?
…ここまで考え、疑問を呈しようとした瞬間だった。
「それと言い忘れていたが、日本政府は正式に君の国籍を認めることが決定した。だが代わりに君は……
「………は?」
「え?魔法少女…ですか?」
「司令官、説明を求める」
俺の他にも魔法少女達が驚きの声を上げる。
魔法少女になるってなんだ?そもそもなれるものなのか?
疑問は尽きないが、桐崎司令が手で制してきたので一度口をつぐむ。
「と言っても、あくまで形式上の話だがな。魔法少女には動物などを召喚して戦う者が居るんだが、君の烈風も同様に召喚系能力により顕現した存在として取り扱う、という訳だ」
「…そういうことですか」
合点がいった。
烈風を軍事兵器として認識させないためには、これ以上ないくらいベストな選択だろう。
…だがそうなると、俺個人は決して表舞台には立てないな。
魔法少女には女性しか存在しない。故に、もし中身が俺だと露呈すれば大変な事になるだろう。
それに、中身が男であると知られれば烈風への世界の認識も変わる。もし純科学で生み出された存在だと判明すれば……想像したくもない。
「ひとまず、現状決定した魔法少女登録名は〈ハイド〉。容姿に関しては———肉体が存在しないとした。幸い、魔法少女の中には容姿が不確定な者も存在する。詳しく追及されることはないだろう」
「なるほど、ならば作戦行動中はその名を使え、と」
「そうだ、アイビス1…だったか、元のコールサインとはかけ離れているだろうが、理解してくれ」
「構わない。作戦によってコールサインが変わることなどいくらでもあった。問題はない」
「なら結構。よし、話を続けるぞ」
桐崎司令が秘書に促し、映像が切り替わる。
先ほどとは違い、作戦図面のような映像だ。
「先ず今回の作戦目標は、日本近海に展開するレイダー群の殲滅。並びに魔法少女ハイドの能力測定だ。故に橘美桜…〈サクラ〉率いるコトノハ隊は上空待機。殲滅は魔法少女ハイドを中心として行う」
「…ですが司令。この男の戦闘力が不明な今、我々が上空待機していると言っても単独で当たらせるのは危険なのでは。能力測定で死なれれば元も子もありません」
桐崎司令の言葉にそう反論する黒髪の少女。
言い分は最もだ。恐らくこの少女は俺に関するデータを信用していないのだろう。
まぁ自分たちが必死に戦ってた相手を、魔法なしで撃ち倒すなんて信じようにも信じられないだろう。
ならば、今回で信用させる必要がある。
あくまで予想だが、俺は今後この少女達…コトノハ隊と行動を共にするだろう。その際信用を得られていなかったら、連携が上手くいかず足の引っ張り合いになる可能性も同時に発生する。
日本政府だけでなく魔法少女達からも信用を得る作戦。こう考えてみれば、最初に俺が疑問を呈しようとしたのは考えが浅かったな。
「司令、納得いく答えが欲しいです。仮にも私たちは素性不明な男のバックアップを行うのですから」
「この男が持ってきた兵器の性能は、対レイダー戦に特化している。それも数百年後相当の技術でだ。彼の許可を得て交戦記録を確認したが、50m級すら倒した記録がある……そして、いずれも私は本物だと判断した。この答えでは不満かな?
「……司令がそこまで言うのなら、信頼します。ただし……」
黒髪の少女が、その紅い瞳をこちらに向ける。
まるで血の様な虹彩には、凄まじい殺気と……嘲りの感情が含まれていた。
「もし途中で放り出そうものなら、私が貴方を墜とします。逃げるなら最初からさっさと逃げてください。途中でやっぱ無理〜なんて言わないでくださいね?」
「…………そうか」
あぶねぇ、やれるもんならやってみろとか言うところだった。
流石にこの状況で煽り返すのは悪手だ。
だから咄嗟に理性を働かせて……
「舐められたもんだな。そっちこそ恐れ慄いて逃げんなよ?」
「ッ…!」
………あれ?俺今何口走った?