怪獣と魔法少女が戦う世界に人型機動兵器を持ち込んだヤツ 作:⅔夜城
「……あのー」
「ッ!?」
あ、また行ってしまった。これで6回目だが…一体誰だ?ぱっと見では黒い長髪ってことしか分からんし……
————俺が機動拠点型を倒してから、1週間が経った。
あの後基地に帰還すると、性能を垣間見た魔法少女達……主に日野原さんと灰室さんから多くの質問が飛び、そこへ更に事情を知ることが許された兵士や魔法少女達が集まってきて、中々の騒ぎになってしまった(と言っても精々十数人だから漏洩の心配はないと言える)。
幸い、騒ぎを聞きつけてきた司令官が一括して事なきを得たが、それでも彼ら彼女らの興味は治らず、食堂で食事を摂っている際にすら声が掛かるほど。
まぁなんだ…前の世界で俺は相当の腕を持っていた自負はあるけど…ここまで騒がれたことはないせいで少し萎縮気味になってしまった。
加えて、最近俺をどこかからじっと見つめる視線をたまにではあるものの、感じている。それも気味の悪いものでは無く、なんと言うか…好意的なものではあるんだ。
ただ、こちらから声をかけようとする、或いは近寄ろうとすると、一瞬で身を翻してその人物は消え去ってしまう。
離脱の速度からして魔法少女以外はあり得ないんだが、この基地に所属する実働部隊に所属していない魔法少女はそこそこ多い。また、俺の正体を知っているか否かで判断出来ないせいもあって、正体が掴めずにいた。
仮に俺へ用事があったとして、年上の男に声を掛けるのが難しいのは分かる。だがそれならば司令官等を通じて伝えれば良いだろうに、何か理由があるのだろうか?
「現状で取れる手段は精々警戒することくらい、か」
ここは軍事基地内部。もしこれで相手が暴行を振るってきたとして、即座に制圧されるのは目に見えている。それにわざわざ付き纏い被害を受けてると上申するのも気が進まないし、そもそも俺は被害と思っていない。
これで個室付近や明らかにプライベートな空間ですら気配があれば、多少の気味の悪さは感じただろうが、今の所視線を感じるのは魔法少女区画を通った時のみだ。
ここを通る用事も限られているし、あまり気にしすぎても……と言うのが、現状俺が感じている感覚だな。
無論、軍事基地内部であるという事実が俺の危険察知を麻痺させてる可能性は否めないが。
と、1人で考えながら歩いていると、ちょうど対面から見知った顔が歩いてきた。
「あれ?ルカさん?」
「あ、橘さん。…それに赤雛さんも」
「……奇遇ね」
赤雛さんとは1週間前の作戦以降、中々顔を合わせる機会がなかったが、特に変わった様子もなくこちらから視線を逸らす。相変わらず嫌われてはいそう……
「私たちこれから東京に行くんですけど、ルカさんも来ますか?」
「え?」
「外出許可も申請出せばすぐ通ると思いますし」
とうきょう……とうきょう…あぁ、東京か。
そうだよな、この時代には
…思った瞬間、俺の脳裏に、アグレッサーに蹂躙されて火の海となった東京が映る。そして明々と燃える街に、巨大な黒いシルエットが。
クソ…ダメだ、思い出すな。
家族を失ったからと言って立ち止まれない。そう言い聞かせたのは自分だろう。
怒りを堪えろ。もうアイツは死んだ。それに彼女が言ったのは俺の知ってる東京じゃ————
「ぇ…ねぇ!ねぇってば!」
「ッ!?」
肩を強く叩かれて、ハッと我に返る。目の前には紅い双眸と蒼い双眸が心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「過呼吸になってましたよ」
「そうか…すまない、心配かけた」
「ったく、驚かせないでよ…」
「…本当にすまない」
息を吐く2人に平謝り。
まさか、東京という単語を聞いただけでフラッシュバックするとは思わなかった。既に完治したものと……
「あの、どうします?誘った私が言うのも何ですけど、顔色悪いのでやめておいた方が」
「いや、せっかく誘ってくれたんだから行くよ」
むしろ、現存する東京を見た方が良くなるかもしれないしな。
◇
初めて見た時は、不思議な人って印象だった。
男性にしては少し長めの髪に、空みたいな蒼い瞳。
背も特段高いわけではなく、わかりやすく言うなら、地味。
なのに、纏う雰囲気が地味には感じさせなかった。そのチグハグさが、不思議な印象を持たせたんだと思う。
まぁ……それ以上に全てを悟ったような目にイラッと来て、煽るような言葉を放ってしまったのは反省だ。
男性が苦手だからと言い訳も出来るけど…正直あれは私が悪い。
でも、まさか煽り返してくるとは思わなかった。まぁ案外、あの瞬間こそ彼の本性が垣間見えた気もする。
その後空気が悪くなったのも一応想定通りだし、あの男以外にはちゃんと説明しておいた。
……だけど、それとこれとは話が別。
『あぁ、友軍や部下と共闘した回数も合わせれば50回は超えるだろうな』
男の放った言葉が、どこか遠く聞こえる。
…こんな覇気を感じない男が、2年前、
…未来から来たとか、ロボットに乗ってとか知らないけど、とても信じられない。
少なくともこの目で見るまでは、絶対に。
…いや、この目で見ても認めない。じゃなかったら、姉が死んだ理由が人類の技術発展が間に合っていなかったから、なんて理由になってしまう。
姉が死んだ時、悲しかったし悔しかった。
けど、50m級と差し違えたならと、割り切れた。
本来破壊不可能であるマジックソウルが壊されたのも、今まで3体しか出現例がない50m級なら、あり得るかもしれないと思えた。
なのにこの男は、それをさも特別なことでも無いように言い放った。
何よ、それ。
魔法少女はその意思の力で限りなく強くなれるんじゃ無いの?
なら何で、魔法少女が存在しない世界の男が、私たちより戦えてるの?
認めない、認められない。
納得出来ない————はずだったのに。
『目標…沈黙…』
「……ははっ…」
天視の魔法少女の驚愕した声が、通信機から響く。
その直前まで繰り広げられていた、圧倒的な蹂躙。
脳裏に焼き付いた、灰色と蒼白い軌跡。
敵わない、と本能で悟る。
そして同時に、強烈に思い知らされてしまった。
これがあの男の力だと。
もちろん、あの男個人が強いわけではないなんて分かってる。むしろ生身で戦えば負ける気は全くしない。
……だからこそ、果てしなく遠く感じる。
肉体的には普通の軍人である男を、レイダーと互角、或いは上回る性能に格上げられる兵器に、それを難なく操る男。
言ってしまえばこれだけの事。でも、そのどちらもが私たちのいる所から途轍もなく遠い。
かつて聞いたことがある、技術の発展に伴い魔法少女が戦力の主体ではなくなっていくという内容の話。
それを体現した存在が、彼らなんだろう。
……なら、私はどうすれば良いか。
決まっている。
魔法少女として戦う、それだけだ。
対レイダー戦では男……ルカが優れているのは疑いようがない。でも、今の世界はまだまだ魔法少女を必要としている。だったら、人を救える力を持って生まれた以上戦う義務が私にはある。
…あぁ、最初から簡単な答えだったのかもしれない。ただ、私の考えが固まってしまっていただけで。
レイダーと戦えるのは魔法少女だけ、なんて言う私の価値観は完膚なきまでに破壊されたし、ルカへのマイナスな感情はその瞬間に吹き飛んでいた。
それに、強烈な畏敬も植え付けられてしまったと思う。帰還の途上、かつて姉に抱いていたのに似た感情が、灰色の人型へ向いているのも分かったし。
基地に帰還して、私は真っ先に彼の元へと向かおうとした。
まずは、ルカにちゃんとした謝罪を……
「あ、赤雛さん」
「ッ!?」
あれ?なんで目が合わせられないの?
この期に及んで負けず嫌いが出てきたわけじゃない。そもそも謝罪できないなんて人として問題だ。
じゃあ何で?
疑問は収まらない。ただ、そのあとも謝るタイミングを図ってるうちに時間は刻々と過ぎていく。
そして、1週間後の今日。
あぁ、何で、
何で、この男と並んで駅前を歩いているだけなのに、胸が高鳴るの?