怪獣と魔法少女が戦う世界に人型機動兵器を持ち込んだヤツ 作:⅔夜城
「お待たせしましたっ!」
「おぉ、ホントに変わるんだな」
こちらに近づき、はにかむ茶髪の少女。加えてカチューシャを備えた彼女は、橘さんが変装した姿だ。
顔立ちや瞳の色すら変わっているため、目の前で対面してもぶっちゃけ分からない。声を聞けばまだ違和感を覚えるかもしれないが、遠目にはまず気付かないだろう。
「終わったわよ…」
言いながら、橘さんの後ろから出てくる黒髪黒目の少女。
当然のことだが、彼女は赤雛さんである。うん、分からん。
吊り目ぎみだった目は緩やかになっているし、髪も長かったのがショート?になっている。端正な顔立ちであることには変わりないが、こちらも本人だと気付くことは不可能な仕上がりだ。
一応、原理としては光学的に干渉しているだけであるため、実際には髪は長いままだし、触れることも可能ではある。
ただ、監視カメラや顔認証等は容易に通過出来る以上、この時代に於いてはイレギュラーな代物極まりないと言えよう。
「凄まじい技術だな、魔法は。対国家戦や諜報機関へ魔法少女が関わるのが禁じられているのも納得がいく」
無論、外部から検知する手段が限られている以上、何処かで利用されているのは容易に予想がつく。だが、20歳を超えると能力が弱体化していく事も鑑みると、潜入技術が熟達する年齢には恩恵は受けられない、か。
また、魔法少女としての能力が発覚するのは早くても12歳。この年齢から洗脳教育を叩き込んだとしても、社会経験の不足等でいずれ必ずボロが出るだろう。
同時に、大国の重要施設等は必ず魔力検知器が配備されている……そう考えると、見た目を自由自在に変えられると言っても、万能諜報員とまでは—————
「ねぇ…なんで黙ってるのよ…」
「え?」
「〜〜〜ッ!何でもない!」
「いや、何でもありそうな反応してるけど…」
「ふふふっ…」
キッと赤雛さんがこちらを睨み、橘さんが微笑む。
何だってんだ?まぁ確かにいきなり黙りこくったのは間違いないが……コミュニケーション拒否と受け取られたか?
だが、こちらから提供出来る話題なんか無いし…
マズイ、思考の迷宮に囚われそうだ。どうすれば。
と、俺が内心唸っていると、見かねたように橘さんが俺かを差し出してきた。これは、眼鏡?
「その眼鏡は、掛けると私たちが元の姿で映るようになる優れものです。これなら変装してても見失うことは無いと思います」
「…なるほど」
「それに、素の私たちが見えると言うことは服が似合ってるかどうか変装したまま判断してもらうこと可能です…!ね?」
言いながら、赤雛さんへウインクをする橘さん。
途端に赤雛さんは頬を僅かに染め、首をすくめる。その反応を見て、俺の脳裏に一つの仮説が思い浮かんだ。
「……まさかとは思うが、俺に君たちの服を見繕わせようとしているのか?」
「あ、正解です♪」
「…待て、待ってくれ。第一に俺は女性の服なんぞ何も分からないし、そもそも俺と君たちは会ってそこまで経っていない。そんな人間に服を選ばせるなど…」
「でも、距離を縮めるには良い手段だと思いませんか?食事や軽い遊戯はもうしましたし。それに要ちゃんが——」
「え、私!?」
まさか自分の名前を出されると思っていなかったのか、驚いた声が彼女の口から放たれる。対して発言を遮られる形になり一度黙った橘さんは、やや思考するような顔を経て、その口元をニヤつかせた。
……最初に会った時は大人しめの子かと思っていたが、さては本性こっちだな?まぁ初対面の相手に最初から本性を出す方がおかしいとも言えるが。
「あーなるほどー…?」
「な、何よ美桜……」
「んーん?気にしないで、言い間違えただけだから。…さて、じゃあ行きましょうか」
◇
「えーっと、今度は…」
「悪いな、俺の私物購入にも付き合わせてしまって」
「いえいえ、元々誘ったのは私達ですから」
凡そ1時間電車に揺られ、東京屈指の繁華街である新宿に、俺達は足を運んでいた。
「一応家具類は全部終わったんでしたっけ?」
「そうだな、必要最低限は揃えられたと思う」
先ず最初は彼女たちの買い物に付き合うものと思っていたが、どうやらお目当ての店舗がそれなりに奥まった所にあるらしく、先に俺の不足している私物、主に家具類を購入することになったのだ。
幸い家具店はさほど混み合っても居らず、また機能の分かりやすいモノが多かったおかげで手間取ることなく購入を終えることが出来た。
人間が人間である以上、案外こう言った日用品は未来になっても変わらないものだと思えたし、中々実りのある時間であったと言える。
「にしても、賑わってるな」
「今日は休日ですからねー」
橘さんの声を聞きながら、目を閉じる。
……実際に訪れてみれば、こんなもんか。
俺の知ってる東京は、崩壊しかかったビルに、灰と燃え滓、そして残り火がちらつく栄華の跡地でしか無かった。
無論正確には、幼い頃に家族と住んでいた記憶……幾本もの摩天楼がそびえ立ち、極東で唯一の軌道エレベーターすら備える大都市の情景も僅かには浮かぶ。だが、破壊され尽くした東京と今の東京をどうしても重ね合わせることが出来なかった。
やっぱり、この世界は俺の居た世界とは違うと、強く思い知らされる。
…まぁ、起こった事はどうにもならない。今出来るのは、どうにかして未来へ帰ること。そして、それまで過ごすことになるだろう自室の環境を整え、魔法少女達と円滑に任務を行えるようにする事だ。
「ここに来てからずっと付き合わせているし、一旦君たちの方に行くか?」
「あ、良いんですか?」
「もちろん。それに今のうちに行っておかないと、荷物持ちの役割を果たせなくなるしな」
「に、荷物持ちは大丈夫ですよ…まぁ行きましょうか、ほら要ちゃんもそっぽ向いてないで」
「うっ…」
先ほどから黙って後ろをついて来ていた赤雛さん。しれっと終わらせようなんて許さないとばかりに、橘さんに捕まってしまった。
彼女は掴まれた腕を一瞬振り払おうとして……すぐに諦める。逃げられないと分かっているようだ。
そのまま、やや挙動不審になった赤雛さんを引きずり歩く事数分。
目的の店舗に到着すると、俺は意図的に忘れていた問題を脳の奥底から引き摺り出す。
……女性の服を選ぶという、極めて解決が困難な問題を。
先ほど荷物持ち云々でカッコつけた手前、情けない事を言うのは自分でもどうかと思うが、これも同様に、どうしようもない事だ。
…どうか無事に終わりますように。
「じゃじゃーん、どうですか?」
更に数分後。
自分のことでは無いのにドヤ顔をこちらに向けてくる橘さん。
彼女が俺に披露したもの。それは————
「ねぇ美桜?やっぱりこれ……」
黒を基調とし、紅い薔薇の刺繍がなされたワンピースに身を包む赤雛さんが、試着室の中で呟く。
……その姿を見て、綺麗だと、素直にそう思った。
とは言え、やはりそれ以上の感想が俺の中に湧いてくることはなく、もし詳細を聞かれた際どうしようかなと、必死に頭を働かせる。
「やっぱり似合ってるじゃないですか。自分には似合わないーっていつも言ってたのに」
「それは…!あぁもう、好きにしなさい…」
「…言いましたね?」
「ッ!待って!今のなし!」
「もう遅いです〜♪」
会話はイマイチよく聞こえなかったが、赤雛さんが何か迂闊なことを言ったのだろうことは分かった。だってスキップで行っちゃったし。
で、だ。
女性ものの服飾店に、側から見たら男1人はかなりマズイ。赤雛さんは試着室の中に引っ込んじゃったし、恋人でも無い男が待っているのも不自然極まりない。
もし店員、もしくは他の客の目に留まったら最悪……
そこまで嫌な想像が進んだ時、試着室の中から声が響いた。
「ねぇ、まだそこにいる?」
「ん?あぁ居るぞ。行くところもないしな」
「なら良かった…………………その、貴方に謝りたい」