広場では、焦燥と恐怖に狂った死柄木弔が、ガリガリと己の首を爪で掻きむしっていた。
「衰えた? 嘘つきめ、全っ然衰えてないじゃないか……ッ! あいつ俺に嘘を教えたのか……ッ! 」
「死柄木弔……落ち着いてください。よく見れば脳無に受けたダメージは確実に表れている」
黒霧の冷静な指摘に、死柄木はハッと息を飲んだ。確かにオールマイトは傷を負っている。
「あと数分もしないうちに増援が来てしまうでしょうが……、死柄木と私で連携すればまだヤれるチャンスは充分にあるかと」
「うん……そうだな、そうだよ、そうだ。やるっきゃないぜ。目の前にラスボスがいるんだもの……」
死柄木と黒霧が、動けないオールマイトに向かって地を蹴った。
オールマイトは一歩も動けない。強がりで立ち尽くす事しかできない彼の窮地に、緑谷出久が飛び出した。
「オールマイトから……離れろ! 」
両脚は骨折。飛び出した瞬間にブチ折れた。
死柄木の手が、黒霧のワープを通じて緑谷の顔面に向かって伸びる──『崩壊』の五指が届く、まさにその一瞬。
ズドン!!
銃弾が死柄木の手にめり込む。
同時に、上鳴を捕えていた電気ヴィランも両腕を撃ち抜かれる。
プロヒーロー・スナイプの個性による銃撃だ。
「1-A クラス委員長、飯田天哉!! ただいま戻りました!! 」
雄英校が誇るプロヒーローの集団が、一斉に雪崩れ込んできたのだ。
「来てくれたか……ッ!」
オールマイトが安堵の息を吐く。
スナイプが続けて右手の大型リボルバーを構えた。
撃ち出された幾重もの弾丸が、空間で曲がりくねりながら死柄木を狙う。
「ぐっ!! 」
「撤退です、死柄木弔!!」
銃弾の嵐の中、黒霧はワープで撤退するため、死柄木を包み込もうとするがしかし、
「(引っ張られる……?! )これは……! 」
13号のブラックホールがワープを阻害しようとする。
しかし負傷した13号の個性では、捕獲することはかなわず、黒い靄は徐々に小さくなっていく。
「今回は失敗だったけど……今度は殺すぞ、平和の象徴オールマイト」
◆
死柄木が撤退する少し前、百ちゃんと響香ちゃんから少し離れた位置にいた僕のすぐ目と鼻の先を、微かな風切り音が掠めた。
チュンッ──……!
(おや……?)
返信した僕の頬に、チリッとした鋭い摩擦熱が走る。ほんの数ミリ、髪の毛一本分の僅かな傍を銃弾がかすめ、電気ヴィランを撃ち抜いていった。
原作通り、これで上鳴くんは解放され、百ちゃんたちも助かるのだろう。
二人は崩れ落ちる敵を見つめながら、周囲の警戒を解いていない。
僕という見えない敵はいまだ健在なわけだしね。
人質が解放された以上、ここでさらなるセクハラ行為を仕掛けたら、個性で反撃されるのは確実。
残念ながら僕も「ゲームオーバー」だ。
『あらら、プロが来たみたいだね。残念だけど私も本当に消えるかな』
「この声! 」
「どこ……? 」
響香ちゃんが声の発生源を特定しようと耳を澄ませているけど無意味だよ。
今もゾーンの力で移動しながら発声してるから。
「……ッ! おい、俺も一緒に連れてってくれよ! 俺が必要なんだろう?! 」
両腕を撃ち抜かれ、痛みで動けない電気ヴィランが僕に向かって叫ぶ。
『ああ、そういえば、そんな話もしましたね。……ごめんね? あれ、嘘なんです。あなたは他の有象無象とおんなじ、使い捨てても問題ない雑魚なんです』
彼の顔(異形なんでちょっとわかりにくいけど)が絶望に歪む。
たのしー!
『なので、ばいばい♪ ああ、それと』
瞬間移動で最後に百ちゃんの正面に転移する。
『最後にもう一回……っ! 』
そしておっぱいダイブ!
ぱふぱふ!
胸の谷間に布地が無い百ちゃんのコスチュームだからできる行為!
甘いにおいと汗でしっとり濡れた玉のお肌がマリアージュ!!
幸せ~!
「――――ひゃっ……! このっ! 」
抱き着かれた、見えなくても感触でそこに居るというのを感じ取った百ちゃんの反応は素早かった。
硬直は一瞬。
次の瞬間には、シンプルな鉄の棒が僕の顔の前に創造され、飛び出してきた!
『おっと、危ない危ない』
僕はそれをブリッジ回避。そのままバク転。着地せずに瞬間移動で広場にジャンプ。
『じゃあバイバイ、カワイ子ちゃんたち♪ 』
転移した先では、黒霧が重傷を負った死柄木を回収し、ワープホールの中にその身体を滑り込ませようとしていた。
スナイプ先生による銃撃と13号先生による捕縛。それを受けながら彼らは撤退を完了しつつある。
(死柄木弔と黒霧の撤退……。原作通りの幕引きだね。……だけど、ただ指をくわえて彼らを見送るなんて、もったいない真似はしないとも)
僕は、腰に装着した変身装置「ガイアドライバーrex」に手を当てた。
時間を止め、レイズしていたゾーンメモリを排出。
再度時間を止め、手の中に別のメモリを現出させる。
(ヴィラン連合のアジト……死柄木たちが潜伏するバーの場所。原作知識として「神野区」にあることは知っているけど、正確な場所まではわからない。もちろん僕の能力なら、一軒一軒しらみつぶしにして特定することは可能だけど、それは面倒だしリスクも高い。だけどこの状況なら特定は容易だ。帰る彼らについていかせればいいだけなんだから)
「アイズ! 」
僕はドライバーのスロットに刺さっている『インビジブルメモリ』と対になるサブスロットへ、もう一本の記憶を保持したメモリを差し込み、力強く押し込んだ。
ドライバーから静かな電子音が響く。
インビジブルドーパントに、アイズメモリの持つ能力が上乗せされる。
僕の体からアイズドーパントの持つ小型の浮遊義眼が生み出されていく。
それらはインビジブルの能力で透明であり、発見されることはない。
音もなく放たれた浮遊義眼は、13号先生のブラックホールの吸引力から逃れようと急速に閉じかけている黒霧のモヤの隙間に向かって滑り込んだ。
黒霧のワープホールが、音もなく完全に消滅する。
それと同時に、僕の脳裏に、黒霧のワープ空間の向こう側──暗がりの中に酒瓶が並ぶ、彼らの拠点の光景が、鮮明な映像として浮かび上がった。
「到着っと。位置も……なんとなくわかるな。義眼はこのまま黒霧に埋め込んでおいて、と」
遠く離れていても僕の能力の産物であることは変わらない。
こういうのも実験しといて正解だった。
透明なまま、一息ついている黒霧のモヤではない実体に義眼を埋め込んでいく。
これに違和感や痛みを感じられると面倒なので一瞬でやる。
イメージ的には、ジョジョ7部のジャイロに遺体の眼球が潜り込んでいったような感じだね。
あんな感じで潜り込ませていく。
潜り込んだら後は放置で良し。
変身を解除しても『眼』は残り、僕に情報を与えてくれる。
正確な場所についても、繋がりをたどれば楽勝だ。
(これでよし。このイベントでやりたいことは大体できたかな! それにしても楽しかったな~! 今回は縁が無かったけど、お茶子ちゃんとか梅雨ちゃんとか三ん奈ちゃんとかのおっぱいもみもみしたいなー! 機械を待とう! ああ、これからも本当に楽しみだ! )
◆
プロヒーローたちの圧倒的な戦闘力により、USJ内に残っていた小粒のヴィラン残党は瞬く間に制圧された。
山岳ゾーンで孤立していた上鳴電気、八百万百、耳郎響香の三人も、駆けつけた救援隊によって無事に保護された。
「うぅ……マジで助かったぁ……」
「ええ……一時はどうなることかと……」
八百万は安堵の溜息を突きながらも、どこか不安そうな表情で首を傾げていた。
「どうした、何か気になることでも」
「……いえ。実は逃げた
「ああ、報告にあった透明化の個性を持つらしい
「その
「そうだね……しかも、その……」
「そちらも聞いている……怖かったろう。無理はしなくていい」
「いえ、問題ありませんわ。怪我をしたわけでもないのですから」
毅然と立つヒーローの卵たち。しかしその体が微かに恐怖で震えているのを救助に来たプロヒーローや警察官は痛ましげな視線で見つめるのだった。
◆
USJのエントランス付近。
救急車やパトカーのサイレンが鳴り響き、赤色灯の光が薄暗いUSJを怪しく照らし出している。
重傷を負った相澤消太や十三号、そして両足を骨折した緑谷出久などが次々と搬送されていく中、無事だった生徒たちが警察の警察官から安否確認を受けていた。
「──うん、君も無事でよかった。土砂ゾーンに飛ばされていたんだね?」
警察官にそう声をかけられ、こくりと頷く少年がいた。
瞬静一──僕だ。
もちろん、すでにガイアドライバーrexもメモリも解除している。
「はい。こういう場合は動かない方がいいかなって思って、物陰に身を潜めていました。僕はまだ学生で、
僕は今回、派手な活躍はしないことにした。その分セクハラにいそしんでいたわけだが……入試1位の僕が戦闘も救助も行わずにただじっとしていたのは不自然だ。
ゆえにルールを守ったという体裁をとらせてもらった。
ヒーローでもないただの学生として、交戦を避ける判断はむしろ望ましいだろうからね。
「うん、君たちはまだ学生なんだからそれは正しい判断だ。ああ、それと君が見つけてくれた彼女だけど……」
「透ちゃん……!? 彼女、大丈夫だったんですか!?」
僕は白々しく目を丸くして身を乗り出す。
当然ただ隠れていただけじゃあ、ちょっと格好悪いので、マッチポンプで透ちゃんを見つけたことにして位置を教えていたんだよね。
「ああ、土砂の物陰で気を失っていたところを救援隊が発見してね。命に別状はないよ。君が彼女の倒れていた場所を教えてくれたおかげで、発見が早まった。お手柄だよ、瞬くん」
「そんな……! 無事で本当によかったです……っ!」
胸を撫で下ろし、涙ぐむような仕草を見せる僕。
警察官は「いい子だ」と言いたげに僕の肩を優しく叩き、次の生徒のもとへと去っていった。
周りを見渡す。不安そうな顔をしたクラスメイト達。
塚内さんから先生たちの容体が伝えられ、特に重症の相澤先生の事情で、守られた梅雨ちゃんたちが顔を曇らせる。
とりあえず、今日は授業どころではないので事情聴取を行ったらお開き。
翌日も臨時休校になった。
その間僕は裏町で女体に溺れて透ちゃんや百ちゃんや響香ちゃんの感触を思い出しながら村々を解消したり、家であひるちゃんたちとイチャイチャラブラブぴゅっぴゅしながら有意義に時間を過ごした。
明けて登校日。
「お早う」
ガララッ! と教室の扉が重々しい音を立てて開いき、まるで平常運転といった様子で僕らの前に現れたのは、
「「「相澤先生ッ!?」」」
全身に痛々しい包帯が巻きつけられ、両腕もギプスで固定された痛々しい姿をさらしている相澤先生。顔面に至っては目と鼻の穴以外が全て包帯で覆われており、まるで歩くミイラ男状態。
「先生! 無事だったのですね」
「無事言うんかなあ、アレ……」
「俺の安否などどうでもいい。なにより……まだ戦いは終わっていない」
「戦い……?」
「まさか……」
「またヴィランが……!?」
爆豪くんや緑谷くんが身体を強張らせる。生徒たちの間に走る激しい緊張。
相澤先生は包帯に包まれた頭をゆっくりと持ち上げ、宣告した。
「雄英体育祭が迫っている」
「「「クソ学校っぽいの来たあァァァァっっ!!!」