その場その場で好き放題動くので言動が一貫しないこともしばしばです。
「雄英体育祭が迫っている」
「「「クソ学校っぽいの来たあァァァァっっ!!!」
安堵と拍子抜けが混ざった叫びが教室に響き渡る。
USJでの事件直後ということもあり、開催を危ぶむ声も当然上がったが、相澤先生は淡々とその意図を説明した。
雄英がヴィランの脅威に屈していないことを世間に示す危機管理対策の一環であること。
全国各地からヒーローを集め、警備は例年の5倍に強化。
そして何より、現在のヒーロー社会において、かつてのオリンピックに代わる規模となったこのイベントが、プロヒーローへのスカウトや出資者を獲得するための絶好の売り込みの場であるということ。
「
「いやそこは中止しようよ? 」
正直、峰田くんに同意だが、この世界は超常社会。この程度のトラブルで揺らぐ姿勢は見せられないのもわかるってもの。
「相手は全国のヒーロー事務所だ。時間は有限。年に一度、計三回だけのチャンスだ。ヒーローを志すなら、絶対に外せないイベントだ! 」
相澤先生の言葉を受け、クラスの空気は一変した。
皆が皆、体育祭に向けて意識を向ける。
昼休み、教室は当然体育祭の話題一色だった。
「なんだかんだテンション上がるなオイ!! 」
「活躍して目立ちゃプロへのどでけぇ一歩を踏み出せる! 」
「皆すごいノリノリだ……」
「君は違うのか? ヒーローになるため在籍しているのだから燃えるのは当然だろう!? 」
「飯田ちゃん独特な燃え方ね、変」
瞬にとって、体育祭でヒーローとして活躍すること自体には大した執着はない。だが、この大舞台は表の「雄英生徒としての立場」を強固にし、裏の企みを推し進める最高の実証プラットフォームになり得る。
(どうせ踊るなら、最も効率よく盤面を動かせるステップを踏むまでだ)
瞬は脳内で自らの計画を推敲し、不敵な笑みを深く隠した。
その日の放課後。
「何ごとだぁ!? 」
帰宅しようとリュックを背負って扉の前まで来たお茶子ちゃんが、思わず足を止めて声を漏らした。
1-Aの教室の前には、廊下を埋め尽くさんばかりの人だかりができていた。
他科――普通科、サポート科、経営科、そしてB組の生徒たちが、群れをなして1-Aの様子を窺っている。
「出れねーじゃん! 何しに来たんだよ! 」
「敵情視察だろザコ」
(爆豪くん口悪すぎだろ)
USJの襲撃を生き延びた「ヒーロー科1-A」の実力をその目で見極めようという、無数の刺さるような視線。
それにしても、モブっぽい連中だなぁ……。ヒーロー科じゃないとはいえ雄英の生徒とは思えない没個性っぷり……。
あ、心操くんいる。
彼良いよね、個性鍛えたら衝撃で洗脳解ける欠点なくならないかな?
だったら、羨ましいんだけど。
「ヒーロー科のツラ見に来ただあ? 意味ねぇからどけ、モブ共」
「知らない人の事とりあえずモブって言うのやめなよ!! 」と珍しい口調で飯田くんがツッコミを入れるけど、爆豪くんの不遜な態度が火に油を注いだのは確かだった。
周囲の生徒たちから明確な敵意が膨らみ始める。
その時、人だかりの後方から、ぬらりとした雰囲気を纏った紫髪の少年が前に出てきた。普通科の心操くんだね。
「ヒーロー科ってのは、皆こんななのかい?
こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ」
心操くんは据わった眼を爆豪くんに向けながら、淡々とした口調で語り始める。
自分のように、ヒーロー科の入試で不合格になり普通科へ回された者が大勢いること。
しかし雄英体育祭には、結果次第で「普通科からヒーロー科への編入」が認められるらしいこと。
「敵情視察? 少なくとも
明確な挑戦状。
続いて、B組の鉄哲くんが大声を上げ、廊下の熱気は一気に爆発寸前まで高まった。
それでも、爆豪くんは態度を変えることなく、いたって普通に堂々と帰宅の途についた。
「待てコラどうしてくれんだ、おめーのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねぇか!! 」
「関係ねぇよ……」
「はあーーー?! 」
「上に上がりゃ、関係ねえ」
かっこいいーー!
爆豪くんはこれだからいいよね!
まぁ、体育祭は僕もそこそこ本気出すから? 優勝させられないけどね!
◇
人だかりがようやく散り、クラスのみんながぽつぽつと帰り始めた頃。
僕が砂藤くんとか響香ちゃんと喋ったりして適当に時間をつぶして、廊下へ出たところで、ぽつんと立ち尽くしている透ちゃんを発見した。
僕には丸見えだけど、傍から見たら制服だけが浮かんでるように見えるんだろうな、という感じの彼女。透ちゃんがなんだか沈んだ様子で佇んでいた。
普段の元気いっぱいな雰囲気からは考えられないような感じで、実際表情も沈んでいる。
「透ちゃん? 」
僕が優しく声をかけると、制服の肩が跳ねるようにびくっと揺れた。
「あっ……静一くん! えへへ、お疲れ様……」
努めて明るく振る舞おうとする声だが、語尾が微かに震えている。
USJで、見えない謎のヴィラン(正体はインビジブルドーパントに変身した僕)に拘束され、胸やお尻を揉まれて、それどころか乙女の大事な場所をくちゅくちゅされた恐怖。(あとはイかされた羞恥心とか? )
自分と同じ「透明化」の個性の
いくら透ちゃんがヒーロー志望の元気っ子でも、まだまだ子どもなんだから、そりゃあ……アレだよね……。
自分でやっといてなんだけど。
僕個人としては犯されなかっただけマシと思えば? って感じだけど、そういう問題じゃないよね。
僕は内心でツッコミを入れつつ、白々しく心配そうな表情(無駄に整った顔面を曇らせつつ)を浮かべ、彼女の隣に並んで歩き出した。
「顔……は見えないけど、なんだか元気がなさそうだね。USJの時のこと、まだ怖い? 」
「……っ。ううん、大丈夫だよ! ほら私、傷一つなかったし! そういえば、瞬くんがレスキューの人に場所を教えてくれたおかげで、すぐ助けてもらえたって聞いた! ありがとうねっ! 」
制服の袖がワタワタと泳ぐ。健気にも強がってみせる姿に、僕の意地悪な部分がくすぐられる。
「そっか。でも……無理しなくていいんだよ」
僕は歩みを止めると、透ちゃんの制服の肩のあたりに手をやって、そっと優しく包み込むように引き寄せた。
透ちゃんの体が硬直して、表情もぐっと固まる。
見えてないと思っているから、表情は素直だ。
明らかに拒否反応を示している。
表情が「怖い」「嫌だ」って雄弁に語ってるよ?
そりゃそうだよね! クラスメイトでも、怖いよね! 可愛いっ!
「静一……くん……? 」
「詳しくは聞かないけど……何かあったんだよね。守れなくてごめん、あの時、あの場所にいたのに、君を見つけられなくてごめんね」
「そんなの……気にしなくていいよ……! 私、本当に、なんにもなかったから! ただ、ワープした時に気を失っちゃっただけで……! 」
「大丈夫、大丈夫……。強がらなくていいよ、本当に、もう大丈夫だから」
「だ、だから……何もなかったんだって……! なにも……なにもなかったことにしてよ……お願い……」
はい。慰めると見せかけて! 事件を思い出させて傷跡を抉るの術です!
いやー! いい表情するよね! そうだよねっ! なすすべなく弄ばれた女の子はこうして泣くしかないよね!
最高に可愛いよ透ちゃん!!
「僕がいる。僕が絶対に守るから。二度と、透ちゃんを悲しませないから」
ベタなセリフです。
しかしシチュエーションとこの僕のイケメンフェイスが合わさればあら不思議!
殺傷力は120%!!
「~っっ!?!?」
涙を目にためていた透ちゃんの顔が見開かれて激しく揺れた。仮に姿が見えなくても、動きを見れば顔を真っ赤にしてテンパっているのが手に取るようにわかるだろう。
「や、やだなぁ静一くんっ! そんなこと言われたら、私……っ! あ、でも! 静一くんは悪くないよ!? ちゃんと隠れてて正解だったし、警察の人に教えてくれただけで静一くんは私のヒーローなんだからっ! 」
「ありがとう。でも、僕はもっと強くならなきゃって痛感したよ。……大切なクラスメイトを、もう二度とあんな目に遭わせたくないからね」
僕はぎゅっと、握った手に優しく力を込めた。
悲壮な決意を秘めた表情で遠くを見据えてみる。
カッコいいだろう?
(どうしようどうしようどうしよう!! 静一くんの手、すっごく温かくて大きい……!! さっきまでちょっと怖かったのに、なんか落ち着くしポカポカするし、私告白された!? )
「……静一くんって、本当に優しいんだね」
透の声から怯えが消え、いつもの柔らかく照れたような響きが戻ってきた。
「僕? 僕はただ、可愛い女の子には笑っていてほしいだけだよ」
「も~! またそういうサラッと変なこと言う~! 女の子皆にそんなこと言ってるんでしょ!? 」
「ははは、どうかな?」
ポンポンと肩を優しく叩いてから手を離す(イケメンに限り許された仕草! )と、透ちゃんは名残惜しそうに肩に手をやった。
「でも……ありがとう、静一くん。なんかね、胸のつかえが取れちゃった! 体育祭、私だって負けないんだから! 静一くんにもカッコいいとこ見せちゃうぞー! 」
両腕をキュッと握りしめて、オー!と腕を振り上げる透ちゃん。
その全身から溢れ出るようなやる気と元気を感じ取り、元の彼女に戻ったことに胸をなでおろす。
(うんうん、僕が怯えさせて僕が励まして……マッチポンプにもほどがあるけど、やっぱり可愛い女の子の笑顔は最高だね。体育祭――は、ちょっとあれだけど、次のイベントでは趣向を変えて楽しませてもらおうかな)
「うん、期待してるよ、透ちゃん。僕も負けないよ! 」
夕日につつまれた帰り道、僕ら二人の弾んだ会話がどこまでも続いていった。
◇
体育祭までの時間は、瞬く間に過ぎ去っていった。
そして、迎えた雄英体育祭本番当日。
巨大な雄英スタジアムは、早朝から押し寄せた超満員の観客とプロヒーローたち、そして無数の報道陣の熱気で爆発しそうなほどの熱狂に包まれていた。
――1-Aの控室。
出番を待つ生徒たちの間には、重苦しいまでの緊張感が漂いつつ、どこか浮ついたような落ち着かない雰囲気もあった。各自がコスチュームではなく体操着に身を包み、入場の時を待つ。
その時、壁際に立っていた轟くんが、静かに歩みを進めた。
彼が立ち止まったのは、緑谷くんの前だった。
「緑谷」
「轟くん……何? 」
突然声をかけられて、緑谷くんが驚いて顔を上げる。クラスの視線が二人に集まった。
「客観的に見て、俺はお前より強いと思う」
「へ!? うっ、うん……」
直球すぎる言葉に、緑谷くんは言葉を詰まらせる。
「だが……お前、オールマイトに目をかけられてるよな。俺は別にそこ詮索するつもりはねえが……お前には勝つぞ」
轟くんの瞳には、冷徹でありながらも、揺るぎない確執と執念の炎が宿っていた。父親である№2ヒーロー・エンデヴァーへの反発、そして自らの力を証明するための宣言。
緑谷くんは一瞬気圧されそうになったけど、拳を強く握り締め、正面から轟の視線を受け止めている。
「……轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのか……は、わかんないけど。皆……他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって……後れを取るわけにはいかないんだ。僕も本気で、獲りに行く! 」
二人の間に火花が散る。爆豪くんは不機嫌そうに口の端を歪め、他のみんなもゴクリと生唾を呑み込んだ。
控室の隅で、壁に背をもたれかけていた僕はというと、その光景を静かに見つめていた。
(熱いねえ。誰も彼も、トップを目指して全力だ。これもエゴってやつなのかね? )
ふと視線をやると、緊張でそわそわと体操着の裾を揉んでいる透ちゃんと目が合った。
僕が微笑みかけて軽くウインクを飛ばすと、透は「ひゃい!?」と跳ね上がり、顔を隠すように両手で顔を覆って小さく手を振ってきた。
(可愛いねえ。最終種目まで残れるとは思えないけど頑張ろうね)
入場口の外、ステージの実況席から、プロヒーロー・プレゼントマイクの爆音のような実況アナウンスが響き渡る。スタジアム全体を揺らす大歓声が、ここまにまで伝わってきた。
ついに始まる、雄英体育祭!
「1年ステージ、選手の入場だ!!!」
プレゼントマイクの声が合図となり、飯田を先頭に1-Aの生徒たちが一斉に歩き出す。
光が差し込む通路の先には、万雷の拍手と、無限の可能性、そして混沌とした思惑が渦巻く巨大なスタジアムが広がっていた。
今回、主人公は一位目指して行動(原作の流れを改変)しますが、目的は「目立ちたい・ちやほやされたい」です。
原作の流れを大きく変えず(原作の名場面は生で見たいので)、トップを目指します。
なりふり構わなければ全競技余裕で一位取れますが、それをすると一般大衆から白い目で見られそうなので、ほどほどに接戦を演出しつつ取り組みます。
ご期待ください。
いつも感想、評価、誤字報告ありがとうございます。