次回からトーナメント本番!
激闘の騎馬戦が終了し、雄英体育祭は昼休憩へと突入した。
スタジアムを埋め尽くす大観衆は、午前の『障害物競走』と『騎馬戦』の興奮冷めやらぬ様子で、売店や食堂へと押し寄せている。
メイングラウンドの熱気も一時的に和らぎ、巨大モニターには午後のレクリエーションと1対1のトーナメント戦を告げるテロップが誇らしげに躍っていた。
「さて、と。……タイミング的に、轟くんと緑谷くんがいろいろ話してる展開かな? 」
控室で身だしなみを整えた僕は、ぼんやりしながらそんなことを思った。
原作では、昼休み始まってすぐ位のタイミングで、轟くんが緑谷くんを呼び止めて、暗がりで話をするシーンがあった。
騎馬戦で気圧されたことと、USJでのオールマイトの気迫とを重ねて、「緑谷お前オールマイトの隠し子かなんか? 」的なことを言って、自分の出生の事情(エンデヴァーがオールマイトを超えるために作らせた、母親は俺に煮え湯を浴びせた)を伝えたり。細かいところまでは覚えてなかったけど、確かそんな感じのはず。
いいよねぇ。轟くんの壮絶な過去と、それを受けても「勝つ」と返す緑谷くん。いいシーンだと思うよ。
まぁ、興味ないからスルーするんですけどね。
興味ないというか、あえて野次馬根性で見に行くほどじゃないなというか……。
お腹すいたし、今日はちょっと面白くできそうだから、そっちの方が興味あるかなってことで。
そんなわけで、僕は鞄から持参した大きめの二段重ねのお弁当箱を取り出した。
そのまま食堂に足を向けて、クラスのみんなと合流。
「おーう、瞬。お前メシは? 」
「すげぇ行列だぞ。お前来るの遅かったから」
「あはは、実は僕、今日はお弁当なんだよね」
席について、お弁当を開ける。
その瞬間――ふわっと広がった出汁と揚げ物の甘い香りと同時に、視界に飛び込んできた光景に、僕の口元は自然と緩んだ。
「わ……すごい。気合入りまくってるなー……」
上段には、丁寧に型抜きされたハート型の玉子焼き、タコさんウインナー、海苔で精巧に「LOVE」と文字が象られたお米。
下段にはハンバーグやエビフライ、色彩豊かな野菜炒めがぎっしりと敷き詰められている。明らかに「愛情」という名の重圧がこれでもかと詰め込まれた、一目見てわかる愛のこもった手作り弁当だ。
「おいおいおい……ちょっと待てや瞬……!」
そんなお弁当の中身を見た峰田くんが、目と口を限界まで見開いて声をかけてきた。その声に込められた圧と形相を聞きつけて、上鳴くん、瀬呂くん、砂藤くん、切島くんといった面々がワラワラと集まってくる。
「な、なんだお前そのどっからどう見ても愛妻弁当な一品はーーーッ!? 」
「ハート型の玉子焼きに『LOVE』の文字……!? 瞬、お前まさか……彼女持ちか!? 」
「高校1年の体育祭で彼女の手作り弁当だと!? 許せねえ……俺お前許せねぇよッ! 」
男子たちの驚きの叫びが食堂に響き渡る。特に峰田くんなどは目が血走り、今にも噛みつきそうな勢いだ。
僕は困ったように苦笑いを浮かべ、人差し指を唇に当てた。
「しー、皆落ち着いて。彼女なんていないよ。これは……僕の幼馴染と妹が作ってくれたんだ」
「幼馴染と妹だと……!? エロゲッ――」
スパァンッ! と梅雨ちゃんの舌で突っ込みを入れられる峰田くん。
「うん。『静一くん、体育祭頑張ってね! 』って、今朝見送ってくるときに持たせてくれたんだよ。本当にいい子たちなんだー」
僕はポケットからスマホを取り出し、あくまで自然に、写真――あひるちゃん、ミルクちゃん、ひょうちゃんの3人が仲良く並んで弾けるような笑顔を見せている写真を、チラリと男子たちに見せてあげた。
瞬間、食堂の一角がにわかに騒がしくなった。
「な、なんだこの透明感あふれる美少女はぁぁぁっ!? え?なにお前の妹? 遺伝子仕事しすぎだろそうですよね兄妹ですよね?! 」
「おっ!(おっぱい!! の意) デッ!(デッカッッ!! の意) 瞬この野郎ッ!! 」
「チクショー! イケメンで、個性も派手で強くて、その上幼馴染の女の子だぁ!? 天は二物も三物も与えすぎだろぉぉぉッ! 」
上鳴くんが特に絶望の慟哭を響かせていて、峰田くんに至っては床に崩れ落ちて膝を叩き、文字通り血の涙を流しながら絶叫している。
「皆、静かに! 食堂は我々だけの空間ではない! 騒ぎたい気持ちもわかるが、ヒーロー科の名に恥じない行動を! 」
僕は嫉妬の炎で燃え上がる男子たちを余目に、あひるちゃんたちの愛情が詰まった唐揚げをパクリと口に運んだ。うん、美味しい。午後のトーナメントに向けた英気が養われていくのが分かる。
「瞬の幼馴染?! 見たい見たいー! 」
悲嘆にくれる男子(一部)とは違い、女子のみんなは良くも悪くもフラットな感じ。
「へー、幼馴染。でもなんからしいかも」
「かわいい子たちね。それにとってもいい子そう」
「妹さん、よく似てらっしゃいますわね」
みんなも僕がまさかこの三人全員と爛れた関係だとは思っていないだろうから、一目見てほへーって感じだ。
「この子、私の親戚かもって子? 」
透ちゃんが相変わらず距離感バグりちらかしながら聞いてきた。
近い近い近い。本当に君ってやつは自分が美少女だって自覚した方がいいよね。
「そうそう。この体が透けてる子。葉隠標本ちゃんっていうんだけど」
「なになに、何の話? 」
「僕の幼馴染の一人が透ちゃんと親戚かなんかなんじゃないかって話」
「透明化の個性で、姓が同一。確かに何かしら繋がりがあっても不思議ではないな」
話を聞いていた常闇くんがそうつぶやいた。
「うちの親にも聞いたけど、よくわかんないって言ってた」
「そっか~。まぁどっちでも別にいいけどね。標本ちゃんは標本ちゃんだし、透ちゃんは透ちゃんだし」
そんな風に、どうでもいい話をしながら僕らは和気藹々と英気を養うのだった。
◇
そうして昼休憩終了。
『最終種目発表の前に、予選落ちのみんなへ朗報だ!
あくまで体育祭! ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ! 本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ……』
プレゼントマイク先生の実況が朗々と響き渡るも、途中で失速。
『ん? ありゃ? どーしたA組?!! 』
チアア!!
と。そこにはお揃いのチアリーダー姿でポンポンも持ちながら、暗い顔で突っ立ってるA組の女子陣の姿があった。
可愛い! カワイイ! キュート!
こーれはいけませんよ! へそ出しルック!
今日は露出極小の体操服姿ばっかだったから、その反動もあってすっげぇスケベ!!
「峰田さん! 上鳴さん! 騙しましたわね!? 」
百ちゃんが怒ってる。
原作通り、『女子は全員チア服で応援合戦やる予定なんだぜ』的に騙されたらしい。
騙す方も騙す方だけど、騙される方も騙される方だと思う。騙され上手の百ちゃん愚か可愛い!
僕というキャラ的に表立って褒めることはできないけど、峰田くん上鳴くんGJ!
薄着で体型がモロに出てるのがエロいっすよねぇ……。
彼女ら、少し前まで中学生だったんだよなぁ……。こーれはドスケベ。
今日帰ったらあひるちゃんたちにチアーできじょーいー! してもらおっと!
がんばれがんばれーってしてもらうの楽しみ!
「あ、静一くん! どうどう? 可愛い? 」
透ちゃんがポンポンをフリフリしながら近寄ってきて聞いてくる。
「(エロい!! ……と答えたい気持ちが9割だけどぐっと我慢して)可愛いよ。透ちゃん可愛い! 皆もとっても似合ってるよ! 」
手放しで、全力で肯定する。こういうのは照れとか無しにべた褒めするのが吉なのよね。
事実超かわいいし。
「そ、そうですか……? 」
「そこまで大声で褒められるとちょっと照れる……」
「瞬、私は? 私は? 」
「もちろん三奈ちゃんも可愛いよ! 活発な雰囲気とマッチしててとっても魅力的! 」
「おぉう……すっごい褒めるじゃん」
そんな風にきゃいきゃい戯れてたらまた飯田くんに怒られた。
一年生皆が再び集まって、整列。
『レクリエーションが終われば最終種目! 進出4チーム総勢16名からなるトーナメント方式!! 1対1のガチバトルだ!! 』
「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります! 」
主審のミッドナイト先生がくじの箱をもって説明する。
このくじ引きがどうなるか……原作と違って心操チームがいないから、尾白くんが棄権したりとかそういうの全カットなのよね。
昼休みに話聞いた感じ、心操チームは緑谷チームと激突してたらしい。緑谷くんが操られたり熱いやりとりがあったり、結構白熱してたとか。
「レクに関しては進出者16人は参加するもしないも個人の判断に任せるわ。息抜きしたい人も温存したい人もいるしね」
それも見たかったけど、仕方がない。
ちなみに僕はレクリエーションは不参加の予定。参加者の大半は不参加っぽいし、それに倣うつもり。
そんな感じでくじ引き!
「組はこうなりました! 」
第1試合:緑谷出久 vs 葉隠透
第2試合:轟焦凍 vs 瀬呂範太
第3試合:瞬静一 vs 上鳴電気
第4試合:飯田天哉 vs 発目明
第5試合:芦戸三奈 vs 砂藤力道
第6試合:常闇踏影 vs 八百万百
第7試合:耳郎響香 vs 切島鋭児郎
第8試合:麗日お茶子 vs 爆豪勝己
(おー、ほとんどは原作通り……見えない力が働いているかのようだ……)
「俺は芦戸、瞬は上鳴とか……」
隣に立っていた砂藤くんが、苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。
「もしも戦うなら決勝だね、砂藤くん。『決勝で会おうぜ! 』とかやっとく? 」
「俺だって負ける気はないけど、決勝か……。いや、そうだな! 決勝で会おうぜ! 瞬! 」
冗談めかして言ったらマジで返されちゃった。
「うん、決勝で」
拳を合わせる。
いいよね、こういう青春ぽいやりとり。
ミッドナイト先生が熱っぽく見てる。青臭い感じが琴線に触れましたかね?
ともあれ、そんな感じで僕らはいったん解散した。
A組女子's(参加する子も含めて)はせっかく着替えたからチアするみたいで残った。
僕は観客席に行って、周囲に見つからないようにしつつ彼女たちのチアをじっくり鑑賞させてもらった。
脇!
揺れるおっぱい!
チラリズム!
あー眼福眼福。
雄英に入学してよかったーと思いました。
そうして意外とこっちも見ごたえあったレクリエーションは終了し、
『ヘイガイズアァユゥレディ!? 』
『色々やってきましたが!! 結局これだぜガチンコ勝負!!
頼れるのは己のみ! 心・技・体に知恵知識!! 総動員して駆けあがれ! 』
『一回戦!障害物競走・騎馬戦と泥臭くも熱い戦いを見せてきた……緑谷出久!! 』
『
『姿は見えないが気迫十分!ステルスガール、葉隠透!! 』
『ルールは簡単! 相手を場外に落とすか行動不能にする! あとは「まいった」とか言わせても勝ちのガチンコだ! 』
『ケガ上等! こちとら我らがリカバリーガールが待機してっから! 道徳倫理は一旦捨て置け!! 』
『だがまぁ、もちろん命に関わるよーなのはクソだぜアウト! ヒーローは敵を捕まえるために拳をふるうのだ! 』
「葉隠さん……近接戦なら僕に分がある……? 」
「やるよー! 緑谷くん! 手加減しないからねー!! 」
『レディィィィィイ!! START!! 』
試合が始まった。