下種ドーパントのヒーローアカデミア   作:しゃしゃしゃ

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個性把握テスト

 

 

 グラウンドに吹き抜ける風が、少しだけ冷たく感じられた。

 

 校舎でのざわめきや新学期の高揚感はどこへやら、僕たち1-Aの生徒二十名は、体操服姿で広大なグラウンドに集められていた。

 

 

 

「個性把握……テストォ……!?」

 

 

 

 みんなが、裏返った当惑の声をあげる。

 

 その隣で、お茶子ちゃんも訳が分からないというように尋ねる。

 

 

「入学式は!? ガイダンスは!?」

 

 

「ヒーローになりたいなら、そんな悠長な行事に出てる暇はないよ」

 

 

 

 僕たちの前に立っているのは、先ほど教室で黄色い寝袋から這い出してきた男──1-A担任、相澤消太先生だ。

 

 

 ボサボサの黒髪に血走った目、首元には不気味な捕縛布を巻きつけ、淡々とした声で僕たちを突き放す。

 

 

「雄英は『自由』な校風が売り。そしてそれは、『先生側』もまた然りだ。中学の頃からやってるだろ? 個性禁止の体力テスト。

 国は未だ画一化された記録を取り、平均を作り続けている。合理的じゃない。まぁ、文部科学省の怠慢だよ」

 

 

 相澤先生は手元に計測器を準備しながら、淡々と言葉を続けた。

 

 

「爆豪。中学の時、ソフトボール投げ何メートルだった」

 

「六十七メートル」

 

「じゃあ、個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。早よ」

 

 

「んじゃまぁ……」

 

 

指名された爆豪くんが、険しい顔でサークルの中へと進み出る。

腕を大きく引き絞り、ボールを手にした爆豪くんは、次の瞬間──

 

 

「死ねぇ!!! 」

 

 

 

ドンッ!!!!!

 

 

 

 凄まじい爆風と爆音。手のひらからの爆発の推進力を乗せられたボールは、まるでミサイルのような勢いで空を切り、彼方へと飛んで行った。

 

 

 ピピッと音を立てる相澤先生の手元の計測器。画面に表示された数字は

 

──【705.2m】。

 

 

 

「すげえ!」

 

「やっぱりヒーロー科、個性を思い切り使えるなんて面白そう!」

 

 

 歓声をあげる生徒たち。だけど、相澤先生の表情は一転してして冷ややかになった。

 

 

「……『面白そう』……か。ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気か? よし、全八種目のトータル成績、最下位の者を一人、見込みなしと判断し除籍処分としよう」

 

 

 

「はあああ!? 」

 

 

 

(よしよし、いい感じで緊張感が高まってきたぞ)

 

 

 

 僕は列の後方で腕を組み、静かに思考を巡らせていた。

 

 

 どうせ原作通りなら、除籍云々はハッタリだ。

 

 いや、もしかするとガチかもだけど、その場合でも最下位になるとは思えないし、僕的には問題ナッシング。

 

 

(さて……僕の立ち回りだけど)

 

 

 僕が雄英高校に提出している個性の申請書。そこには、自身の個性を『変身』と書き届けてある。これは役所に提出する方も問題なく『変身』で統一してるから別にいい。

 

 

 だが──実際のところ、僕の『変身』は個性などではない。神様に与えられた特典、ガイアメモリという「アイテム」の力によるものだ。

 

 

 真の個性『時間停止』によって、それっぽく見せているだけの、それこそハッタリだ。

 

 

(相澤先生の個性が厄介すぎるんだよね……)

 

 

 相澤先生の個性は『抹消』。視界に入れた人間の個性を一時的に消去する非接触型の幻想殺しみたいな個性。

 

 

 

 もし僕がここで『変身』し、相澤先生が『抹消』の個性で僕を見たらどうなるか?

 

 

 

 申告通りの「個性による変身」なら、変身が強制解除されて素の姿に戻るはずだ。

 

 

 しかし、僕の変身はガイアメモリのシステムによるもの。相澤先生がどれだけ目をカッと見開いて『抹消』を発動させようが、僕の変身は絶対に解除されない。

 

 

(……そうなったら、『個性を消されたのに変身が解けない男』という矛盾が発生しちゃうんだよな。「お前のそれ、本当に個性か?」ってなるのは間違いない。最悪、個性偽装で本当に除籍処分もありうる……)

 

 

 相澤消太というヒーローは、正しくプロだ。不自然な違和感を見逃すはずがない。

 

 

(だから答えは一つ──今回は一切『変身』を使わず、素のままで挑む。それも表向きは「身体測定レベルでいちいち変身を出すまでもない」というていでね)

 

 

 

 元より、僕は日頃から肉体を徹底的に鍛え上げている。

 

 

 ガイアメモリを使い続けてるせいか、それともこの世界の人類だからか、運動神経も身体能力も、変身せずとも常人の域を遥かに超えている。

 

 

 みんなのように派手な大記録を狙って目立つ必要はない。全種目で安定した上位をキープすれば、総合順位で最下位になることなど万に一つもない。

 

 

 原作のみんなの記録順位を思い出してみて。

 

 

 個性が『硬化』な切島くんが8位だよ?

 

 

 体力テストで生かせそうにない個性の持ち主でも上位の成績に入ってるんだよ?

 

 

 総合的に体力があれば図抜けた記録を出さなくても最下位になることはないってわけさ。

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 体力テストが始まった。

 

 

――第1種目:50m走。

 

 僕が一緒に走るのはなんと緑谷くん!

 

 原作では彼は爆豪くんとだったけど、出席番号の都合上、まさかまさか主人公の隣で走ることになった!

 

 

 

 

 

「位置について……ヨーイ……」

 

 

START!

 

 

 開始の合図で走り出す。

 

 走るのはあんまり得意じゃないけど、全力で!

 

 

 そしてあっという間にゴール。

 

 身体スペックの差で緑谷くんには勝ったけど、超人的とは言い難い記録。

 

 でもまぁ問題ない。つぎつぎ~。

 

 

 

 

 

 続く第2種目:握力、第3種目:立ち幅跳び、第4種目:反復横跳び。

 

 

 どの種目においても、僕は『変身』の仕草すら見せず、ごく当たり前に鍛えられた生身の肉体だけで、全て10位以内の並み以上な記録を連発していった。

 

 

 個性を使わずに順調に成績を積み上げる僕。個性を使えない緑谷くん。

 

 

 出席番号の関係で、僕の後に緑谷くんが種目に挑むから、なんていうか、雰囲気の違いがより顕著というか……。

 

 うんまぁ、あれだ。

 

 

「えっと、緑谷くん? 大丈夫? 」

 

「えっ?! えっと……瞬くん(だったっけ)」

 

「うん。なんか、気負いすぎっていうか……ひょっとして個性があんまりこういうのに向いてない系のなのかなって思って」

 

「あ、いや、その……うん。ちょっと……」

 

「やっぱりか~。いや、僕もあんまり体力テスト向きの個性じゃなくてさ~」

 

「そ、そうなんだ」

 

「あ、ごめんごめん。えっと、何が言いたいかっていうとね? 大丈夫!ってことを言いたくて」

 

「? えっと……? 」

 

「大丈夫だよ、緑谷くん。君は君の全部で頑張ればいいのさ。先生だって、真剣に取り組めば評価してくれるはず! 」

 

「(励ましてくれてるのかな)ありがとう……! 」

 

「どういたしまして! とはいえ僕も個性を使わないなりに、全力で頑張るけどね! 負ける気はないからっ」

 

「……僕も、やれるだけやるよ……! 」

 

 

 そんな風に発破を掛けつつ、内心でほくそ笑む。

 

 まぁ、この時期の緑谷くんは出力調整できないから最下位だろうけど。

 

 

 

 

 ……最下位なんだよなぁ。オールマイトに10ヶ月鍛えられても素の身体能力で勝てないのはちょっと鍛え方が足りないんと違う? と思わずにはいられないけど。

 

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 そして、テストは折り返し──ボール投げへと差し掛かった。

 

 

 お茶子ちゃんが無限大(∞)の記録を打ち立てたこの種目。

 

 

 僕含めて次々と投げ終え、緑谷くんの番。

 

 

 ここまで全種目で際立った成績を残せなかった緑谷くんは、決意を込めた表情で円の中に立っていた。

 

 

 

(さあ……来たぞ、ここからがハイライトだ!)

 

 

 僕はみんなと一緒に、飯田くんと爆豪くんが緑谷くんの個性の云々について話しているのを聞きながら腕を組んで緑谷くんの姿をじっと見つめた。

 

 

 緑谷くんが意を決して腕を振り下ろす。右腕に『ワン・フォー・オール』の全力が宿り──かけたその瞬間!

 

 

 

 

 

 ボールはポトリと、目と鼻の先に落ちた。測定器の数値は「46m」。

 

「な……今、確かに使おうって……」

 

 

「個性を消した」

 

 

相澤先生の髪が逆立つ。鋭く対象を貫く眼光。相澤先生の個性『抹消』の発動だ。

 

「つくづくあの入試は、合理性に欠くよ。お前のような奴も入試出来てしまう」

 

「消した……! あのゴーグル……そうか! 抹消ヒーロー イレイザーヘッド!! 」

 

 

 相澤先生の容赦のない言葉が緑谷くんに突き刺さる。

 

 

「――緑谷出久。おまえの“力”じゃヒーローにはなれないよ」

 

 

 緑谷くんは顔を俯かせ、絶望に打ちひしがれているように見えた。

 

 だけど違う。僕は知っている。緑谷くんにとって大した問題じゃない!

 

 

 

 相澤先生が『抹消』を解除し、二投目を促す。

 

 緑谷くんは深呼吸をし、サークルの中で再び構えた。

 

 その瞳に宿る、決して折れないヒーローの意志。

 

 

 緑谷くんは腕全体ではなく──人差し指一本だけに、ワン・フォー・オールの力を集中させた!

 

 

「スマッシュ……!!!」

 

 

ドカァァァン!!!!!

 

 

指一本を犠牲にした衝撃波とともに、ボールは空を切り裂くような勢いで遥か彼方へと飛んでいく。

 

 

 ピピッと鳴る計測器。画面に示された数字は──【705.3m】。

 

 

 爆豪くんの記録を、わずか「0.1m」上回る数値!

 

 

「先生……! まだ、動けます……!」

 

 

 人差し指を痛々しく腫れ上がらせながら、不敵に微笑む緑谷くん。

 

 

 

 

(うおーっ! 出ました『まだ動けます』! 最高だねぇ、主人公してるよ緑谷くん!)

 

 

 僕は心の中で大喝采を送った。

 

 

 これこれ! こういうのを見たくて僕は雄英に入学したんだよ!

 

 

 かっこいいねぇ! 緑谷くん!

 

 

 

 直後、「どういうことだデクテメェ!! 説明しやがれ!!」って感じで爆豪くんがブチギレて緑谷くに飛びかかり、相澤先生の捕縛布で速攻で拘束されるという原作通りの展開が繰り広げられた。

 

 

 

 あー、楽しかった。さてさて、あとは持久走とかだっけ? サクっと終わらせちゃおう!

 

 

 

 

◆

 

 

 

 全種目が終了し、グラウンド中央にホログラムの順位表が展開された。

 

 

 

「それじゃ、結果発表な。全体合計は単純に各種目の評点を加算した合計だ」

 

 

 

 ホログラムに映し出される1位から20位までの名前。

 

 

 僕は――8位。切島くんよりは上だけど、尾白くんには負けてしまった。

 

 

(うーん……意外と下だったなぁ……推薦組とフィジカル強者に負けるのは覚悟してたけど、尾白くんにも負けるとは……。いや、別に下に見てたわけじゃなかったけど……僕も長座体前屈でトップ成績だったんだけど、それだけじゃ埋まらなかったか……)

 

 

 長座体前屈。僕は一番の成績だった。僕って意外と体柔らかいんだよね。

 

 股とかパッカーンできるし。誰得だけどI字バランスも綺麗にできるよ。

 

 ほら、体柔らかいと色んな体位で遊べるからさ。

 

 

 柔軟は特に力入れてて。

 

 

 

 

 それはそれとして、最下位の20位には「緑谷出久」の名前。

 

 

「ちなみに除籍は嘘な。君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

 

「「「「はーーーーーーっ!???」」」」

 

 

 クラス中に脱力と安堵の声が響き渡る。緑谷くんは胸の前でこぶしを握りながら安堵していた。

 

 

 

「これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから、目通しとけ」

 

 

 

 相澤先生は緑谷くんにぶっ壊れた指の治療のための「保健室利用書」を手渡し、背を向けて歩き出す。

 

 

 だが、すれ違いざま──相澤先生は僕の横でふと足を止め、ぼそりとつぶやいた。

 

 

 

「……瞬」

 

 

「はい、相澤先生」

 

 

「お前、結局最後まで『個性』を使わなかったな。手を抜いていたのか?」

 

 

 

 鋭い相澤先生の眼光が僕を射抜く。

 

 

 だが、僕は一切動じることなく、首を振った。

 

 

「いやー、僕の個性ってこういう体力テストに向いてなくて……。使わなくても最下位になる感じはしなかったので、素の自分の体力を試してみようかと! 」

 

 

 

 半分は本当のことを言いながら真っ直ぐな瞳で相澤先生を見つめ返す。

 

 

 相澤先生は数秒間、じっと僕の顔を見つめていたが、やがてハッと小さく息を吐いた。

 

 

 

「……使える力をあえて使わないのは合理的じゃないが、まぁいい。次は本気でやれ。以上だ」

 

 

 

「はい! 了解しました! 」

 

 

 

 それだけ言って相澤先生は今度こそ去っていった。

 

 

 この後、オールマイトに呼び止められて、除籍処分の云々について言われるんだろうな。

 

 

 この時もガチで除籍するつもりだったのかどうかは、もうわからないけど、原作通り合理的虚偽で通ってよかったよかった。

 

 

 

 

 そして、体操服を着替えて教室に戻って書類を纏めていると、タイミングよく葉隠透ちゃんが帰る準備を始めたので声をかけることに。

 

 

「ねぇ、ちょっといい」

 

「え? 私? 」

 

 

 困惑したように透明な手で自分を指さす透ちゃん。

 

 

 ……まぁ、僕には見えてるんだけど。

 

 

 そう、やっぱり、僕の幼馴染のひょうちゃんと個性の仕組みが一緒だったっぽくて、僕の目(改造済み)には透明なはずの彼女の姿がばっちり映ってるんだよね。

 

 

 可愛い! とんでもない美少女ですよこいつは……!

 

 

 と、いけないいけない。見えてることを悟られるわけにはいかないから、あえて視線を散らして……。

 

 

 

「うん、葉隠さん……だよね? 実は僕、幼馴染に同じような透明の個性で「葉隠」っていう名字の女の子がいてさ、ちょっと気になってたんだ」

 

 

 

「そうなの?! うわー、すっごい偶然! 親戚の子だったりするのかな……? 」

 

 

「だよね! 僕もちょっと興奮しちゃって、よければ友達になってくれないかな? 僕は瞬 静一! よろしくね」

 

 

「いいよ! よろしくね瞬くん! 同じクラスだしこれからよろしく! 」

 

 

 

「こちらこそ! あ、そうだ早速だし、写真見る? 顔見れば親戚の子だーってわかるかもだし」

 

 

「なるほど! って、透明なんじゃなかったの? 」

 

 

「透明は透明でも、うちのひょうちゃんは一味違うんだな~」

 

 

 

 

 そんな風にひょうちゃんを出汁に透ちゃん(下の名前で呼んでいいって言われた! 葉隠だと混乱するって言ったら普通にオーケー出してくれた! 距離感の近い陽キャ美少女とか最高すぎる! )と仲良くなった。

 

 

 ありがとうひょうちゃん。君のおかげだよ。

 

 

 

 ただ、彼女と仲良くおしゃべりしていたら緑谷くん達トリオが帰るシーンを見逃してしまった……。残念!

 

 

 

 そんな感じで僕の雄英での初日は終わりを告げた。

 

 

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