無個性は個性をつくる 作:匿名希望
相澤先生から連絡が来たのは、直接転移の実用試験を終えた翌日だった。
内容は、青山優雅の個性をもう一度詳しく調べてほしい、というものだった。
以前にも何度か見ている。
ネビルレーザー用の装備を作った時点で、身体と個性因子の適合が悪いことも、個性が生まれつき形成されたものではなく後から入れられたように見えることも確認していた。
その時は、それ以上の事情を知らなかった。
今回は違うらしい。
◇ ◇ ◇
雄英側が用意した部屋へ入ると、青山と相澤先生のほかに、根津校長もいた。
青山は椅子へ座っている。
拘束されているわけではないが、普段のような派手な振る舞いはなく、こちらを見る顔にも余裕がない。
「空木、悪いな」
「いえ。検査ですよね」
「ああ。その前に、事情を共有する」
相澤先生から説明を受ける。
青山が無個性で生まれたこと。
両親がオール・フォー・ワンへ頼み、個性を与えられたこと。
その後、家族ごと脅される形で内通を続けていたこと。
USJ。
林間合宿。
その他、敵側へ渡していた情報。
さらに。
私についても調べるよう命じられていたらしい。
「なるほど」
それで。
以前の質問にも意味が通る。
後付けされた個性でも分かるか。
合わない個性なら外せるか。
当時は単なる技術的な質問だと思って答えたが、本人にとってはかなり切実な確認だったようだ。
◇ ◇ ◇
青山がこちらを見ている。
何か言われると思っているのかもしれない。
内通者だったことについて。
ただ。
特に感想はない。
敵へ情報を渡していた。
その結果として事件が起きた。
それは事実。
どう扱うかは学校や警察、公安側が判断すればいい。
私が責めることでも。
許すことでもない。
それに。
正直なところ。
あまり興味がない。
ただ、それをそのまま言えば。
さすがにこの場にいる人間の誰かが不快に思うだろう。
青山本人も。
今かなり追い詰められているように見える。
そこで余計なことを言って話を長くする意味はない。
私は何も言わなかった。
◇ ◇ ◇
「今回調べてほしいのは、個性そのものだ」
相澤先生が話を本題へ戻す。
「オール・フォー・ワンから与えられた以上、ネビルレーザーに青山本人も知らない機能が含まれている可能性を否定できない」
「具体的には?」
「通信。位置情報の送信。遠隔操作。発動への介入。他にも、こちらが想定していない追加機能だ」
「分かりました」
それなら。
見る項目は明確だった。
青山が不安そうに尋ねる。
「もし……何か入っていたら、分かるのかい?」
「分かると思いますよ」
少なくとも。
以前よりは。
私の解析性能自体が上がっている。
その理由まで説明する必要はない。
◇ ◇ ◇
「では、そこへ座ったままでお願いします」
「発動しなくてもいいの?」
「最初は大丈夫です」
私は青山を見る。
解析を始める。
以前より。
かなり細かいところまで見える。
個性因子。
定着位置。
全身との接続。
神経系との関連。
発現部。
身体側との適合状態。
後天的な移植痕。
そして。
個性因子そのものの内部構造。
やはり。
見覚えがある。
「変わっていませんね」
「それは……?」
「以前調べた時と基本構造は同じです」
ネビルレーザー。
腹部を中心として高出力のレーザーを放射する。
青山本人の身体と最初から一緒に形成された個性ではない。
後から。
外部から。
定着させられた個性。
そして。
身体との相性が悪い。
出力を上げれば負担が出る。
「だから以前から後付けに見えたんですね」
ようやく理由が分かった。
技術的な違和感そのものは。
最初から正しかった。
ただ。
誰が。
どうやって。
何のために入れたのか。
そこだけ知らなかった。
◇ ◇ ◇
「隠し機能は?」
相澤先生が聞く。
「今見ています」
レーザー出力以外の因子構造を分離して確認する。
通信機能。
ない。
位置送信。
ない。
外部から信号を受け取る構造。
見当たらない。
遠隔操作。
発動権限の外部上書き。
ない。
自壊。
爆発。
強制停止。
異常発現。
どれもない。
「今のところ、見つかりません」
根津校長が尋ねる。
「今のところ、というのは?」
「発動状態も見た方が確実なので」
構造上。
見落としている可能性はかなり低い。
ただ。
個性は発現中にしか表面化しない処理を持つ場合もある。
確認できるなら。
確認しておいた方がいい。
◇ ◇ ◇
「青山」
相澤先生が呼ぶ。
「一度使えるか」
青山は一瞬迷ってから頷いた。
「……うん」
いつもの装備は付けていない。
検査用に出力を抑えて発動する。
腹部から。
細い光線。
ネビルレーザー。
私は発動と同時に構造変化を見る。
出力経路。
エネルギー生成。
放射。
制御。
身体負荷。
以前にも見た。
そこに。
新しい何かが加わることはなかった。
通信反応なし。
外部への情報送信なし。
遠隔受信なし。
追加個性の起動なし。
「止めて大丈夫です」
青山が発動を止める。
私は解析結果をもう一度確認した。
◇ ◇ ◇
以前より。
私の解析能力は高い。
見える範囲も。
精度も。
個性因子の分離認識も。
当時とは違う。
それで。
もう一度見ても。
ない。
なら。
「多分、ないですね」
青山が瞬きをする。
「多分?」
「何か入っていると考える根拠がない、という意味です」
私は結果を整理する。
「少なくとも、ネビルレーザーの中に通信機能、位置情報送信、遠隔制御、外部からの強制発動、隠れた追加個性は確認できません」
「爆発したりは?」
根津校長が聞く。
「そういう構造もありません」
少なくとも。
個性因子内には。
ない。
◇ ◇ ◇
「じゃあ……」
青山が。
少しだけ身体の力を抜く。
「先生は、僕の個性を通してずっと見ていたわけじゃない?」
「その可能性は低いと思います」
オール・フォー・ワンが。
青山をどう管理していたかは知らない。
別の方法があった可能性まで。
私には分からない。
ただ。
ネビルレーザーそのものに。
監視機能はない。
そこは言える。
「基本的にはレーザーだけですね」
私はそう結論を出した。
◇ ◇ ◇
相澤先生が腕を組む。
「つまり、青山が向こうへ伝えなければ、こっちの情報が自動で漏れることはないと考えていいか」
「この個性が原因なら、そうですね」
「位置も?」
「送っていません」
「会話も?」
「送っていません」
「こっちから発動を止めたり、逆に勝手に撃たせたりは?」
「できる構造がありません」
相澤先生が頷く。
作戦に使うつもりなのだろうか。
そこは私には関係ない。
依頼されたのは。
安全確認。
なら。
その結果を出せばいい。
◇ ◇ ◇
青山が。
こちらを見ていた。
「空木くん」
「はい」
「君は……何も聞かないんだね」
何についてだろう。
少し考えて。
たぶん。
内通のこと。
「検査に必要な事情は聞きましたよ」
「そうじゃなくて」
青山が言葉に詰まる。
「僕が、みんなを裏切ってたこととか」
やはり。
そちらだった。
私は返答を考える。
興味がない。
それが。
一番正確。
ただ。
言わない方がいい。
「それは、私が判断することではないので」
代わりに。
そう答えた。
嘘ではない。
◇ ◇ ◇
青山は。
少し変な顔をした。
「怒らないの?」
「私がですか?」
「僕、君のことも調べてたんだよ」
「聞きました」
「それでも?」
「大した情報は渡していないんですよね」
相澤先生から聞いた範囲だと。
名前。
サポート科。
装備を作っている。
教師からも仕事を頼まれることがある。
全面戦争時に、政府側への技術協力で学校外にいた。
その程度。
研究拠点。
個性兵の保有数。
製造能力。
個人防御。
人工個性の詳細。
工廠型。
ワープゲート。
その他。
重要な部分は何も知られていない。
青山が知っていなかったのだから。
当然だった。
「それなら、特に問題ありません」
「問題……ない?」
「AFO側が私についてある程度推測したこと自体は、青山さんがいなくてもいずれ起きていたと思います」
神野で。
私の個性兵は既に見られている。
全面戦争では。
もっと大量に使った。
青山から。
私がその作戦へ関わっているという情報が入れば。
結びつけるのは難しくない。
それだけ。
◇ ◇ ◇
「むしろ」
私は青山を見る。
「以前の質問の意味が分かった方が、私としては納得しました」
「質問?」
「後から入れられた個性でも分かるか、とか。合わない個性なら外せるか、とか聞いていたでしょう」
青山の顔が固まる。
「覚えてたの?」
「覚えていますよ」
内容を覚えておこうと思ったことは。
基本的に忘れない。
「当時は、珍しい症例だから気にしているのかと思っていました」
実際。
ネビルレーザーは。
後付け。
不適合。
かなり特殊だった。
だから。
本人が自分の個性について調べたがっても。
不自然ではない。
「でも、オール・フォー・ワンから与えられた個性だったなら、気にしていた理由も分かります」
それで。
話は繋がった。
◇ ◇ ◇
青山が。
何とも言えない顔で俯く。
慰めた方がいいのだろうか。
たぶん。
そういう場面なのかもしれない。
ただ。
何を言えばいいのかよく分からない。
なので。
技術の話へ戻す。
「ちなみに」
青山が顔を上げる。
「事件処理が終わって、本人が希望するなら、ネビルレーザーは一度外せますよ」
相澤先生もこちらを見る。
「外せるのか」
「はい」
それは。
かなり前からできる。
安全に摘出。
保存。
必要なら再移植。
今なら。
もっと簡単。
「そのまま外して無個性へ戻すこともできますし、能力自体は残したまま身体との不適合だけ直して再設計することもできます」
青山の目が開く。
「身体に……合うように?」
「できますよ」
出力。
発現部位。
身体負荷。
今あるネビルレーザーの本質を変えず。
青山本人へ適合するよう調整する。
腹痛なども。
必要なら改善できる。
「ただ、それは今回の依頼ではないので」
今やる話ではない。
「必要なら、後で依頼してください」
◇ ◇ ◇
「……君って」
青山が。
少しだけ。
以前のような表情を戻した。
「本当にそういうところ、変わらないね」
「そうですか?」
「うん」
理由は分からない。
相澤先生が。
少し疲れたように息を吐いた。
「とりあえず検査結果をまとめてくれ」
「分かりました」
私は記録を整理する。
ネビルレーザー。
後天的移植個性。
身体適合不良。
主要機能。
レーザー生成・放射。
通信。
なし。
位置送信。
なし。
遠隔制御。
なし。
外部強制発動。
なし。
未知の追加個性。
確認できず。
結論。
「基本的にはレーザーだけです」
以前。
初めて青山の個性を見た時から。
ずっと感じていた違和感。
身体と一緒に育った個性に見えない。
後から押し込まれたように見える。
その理由も。
ようやく分かった。
オール・フォー・ワンから。
後付けされた個性だった。
なら。
最初から。
見え方は正しかったらしい。