無個性は個性をつくる 作:匿名希望
青山の検査を終えて自宅へ戻った後も、彼の事情について考え続けることはなかった。
ネビルレーザーに隠し機能は確認できなかった。それなら、依頼された検査は終了している。青山本人が内通していたことや、今後どう処分されるかについては、雄英や警察が考えることだ。
ただ、一つだけ別の部分が引っかかった。
青山がオール・フォー・ワンへ逆らえなかった理由。
本人だけではなく、家族がいたことだった。
「家族ですか」
研究室の画面を閉じながら、私は自分の場合を考えた。
◇ ◇ ◇
私自身を脅すだけなら、あまり意味はない。
研究を止めろ。
個性兵を使うな。
公安への協力をやめろ。
そう要求されても、従う理由がない。
本人へ直接攻撃してくるなら、個人護衛型がいる。身体には状態固定を含む複数の防御があり、個性因子への干渉や精神系への対策もしている。
拘束されても、脱出手段は複数ある。
殺害しようとしても、かなり難しい。
だから、私自身を人質として扱うことは現実的ではない。
では。
他人ならどうか。
雄英の教師。
クラスメイト。
ヒーロー科の生徒。
研究で関わった人間。
その辺りを人質に取られた場合。
「できるなら助けますけど」
それだけだった。
救助可能なら救助する。
助けるために余計な被害が増えないなら、その方がいい。
ただし。
それを理由に研究や作戦そのものを止めろと言われても、従うつもりはない。
相手が誰であっても。
基本的には同じだった。
◇ ◇ ◇
ただ。
二人だけ。
少し違う。
父。
母。
私は連絡先を開いた。
雄英へ進学してから一人暮らしをしているので、日常的に会うことはない。両親も元々放任寄りで、私が自分で判断できるなら好きにすればいいという人たちだった。
研究費も。
専門書も。
機材も。
かなり自由に用意してくれた。
今でも住居費などを負担している。
だからといって。
頻繁に連絡を取るわけではない。
それでも。
他人と同じかと言われれば。
違う。
「ここは対策しておいた方がいいですね」
◇ ◇ ◇
オール・フォー・ワンが私について調べていた。
青山が持っていた情報は少なかったが、少なくとも名前は知られている。
雄英サポート科。
装備製作者。
特殊な研究をしている。
政府側の作戦へ技術協力している。
個性兵を作っている可能性が高い。
タルタロスでは、人間まで運べるワープ能力を持っていることも知られた。
そこまで分かっているなら。
次に。
周囲の人間を調べる可能性はある。
私の家族を探すのも難しくない。
「やるかどうかは分かりませんけど」
相手はオール・フォー・ワンだ。
やらないと決めつける理由もない。
◇ ◇ ◇
もし両親が人質に取られたとして。
私は作戦を止めるだろうか。
少し考える。
「止めないですね」
そこは変わらない。
AFOや超常解放戦線の脅威を終わらせるという今の契約を放棄することはない。
両親を殺すと言われても。
必要な行動は続ける。
ただ。
可能なら。
殺される前に助ければいい。
それなら。
最初から護衛を付けておけばいい。
◇ ◇ ◇
私は個人護衛型の設計を開いた。
普段。
私の影の中にいる個体。
本体は外へ出ない。
代わりに。
複数の不可視分身体を展開する。
死角。
背後。
上空。
周辺。
そこから監視する。
攻撃を防ぐ。
拘束する。
逃走路を作る。
必要なら緊急退避させる。
私が研究へ集中していて周囲を見ていなくても、自律して動く。
両親へ付けるなら。
基本構造はこれでいい。
ただし。
もう一つ欲しい機能がある。
「医療ですね」
◇ ◇ ◇
護衛に成功しても。
負傷した後で死なれたら意味がない。
なら。
医療型を統合する。
生存している限り。
外傷。
欠損。
内臓損傷。
神経損傷。
火傷。
その他。
現在の医療型で治せるものは、そのまま治せるようにする。
護衛型。
医療型。
二つの役割を一体へまとめる。
戦闘力を大幅に増やす必要はない。
両親が狙われた時に。
攻撃を防ぎ。
敵を拘束し。
本人を退避させ。
負傷していれば治療する。
それでいい。
◇ ◇ ◇
設計をシミュレーター型へ送る。
父親を模した対象。
母親を模した対象。
それぞれの影へ護衛本体を潜伏させる。
不可視分身体だけを外へ出す。
日常生活では。
何もしない。
本人に触れない。
周囲の人間にも干渉しない。
ただ。
監視する。
危険がなければ。
存在しないのと同じ。
「これなら気づかれませんね」
次。
交通事故。
車両が接近。
不可視分身体が介入。
対象を危険区域から移動。
成功。
次。
刃物を持った人間。
接近。
攻撃動作を確認。
拘束。
成功。
次。
個性攻撃。
防御。
遮断。
本人負傷。
医療機能起動。
治療。
成功。
◇ ◇ ◇
さらに。
複数人。
遠距離攻撃。
毒。
火災。
建物倒壊。
爆発。
順番に試す。
護衛型だけでは。
負傷後の対応が弱い。
医療型だけでは。
そもそも攻撃を防げない。
二つを合わせると。
かなり扱いやすい。
「問題ありませんね」
両親自身に特別な戦闘能力を持たせる必要もない。
護衛側だけで完結する。
◇ ◇ ◇
もう一つ。
本体を影の中に置く方式には利点がある。
普通に護衛個性兵を一体付ければ。
当然。
本人が気づく。
「これは何?」
と聞かれる。
説明する必要がある。
オール・フォー・ワンに狙われる可能性があります。
なので護衛を付けました。
そう説明すれば。
余計な心配をさせる。
面倒だ。
不可視分身体だけが周囲へ出て。
本体は影から出ないなら。
本人は何も知らなくていい。
◇ ◇ ◇
「言わなくてもいいですね」
危険がなければ。
生活は何も変わらない。
監視されていることを気にする可能性はあるが。
知らなければ気にしようがない。
両親からすれば。
今まで通り生活するだけ。
私からすれば。
対策が増える。
それでいい。
◇ ◇ ◇
設計を確定する。
個人護衛型を基礎。
医療・救護型の完全治療機能を追加。
不可視分身体。
周辺監視。
攻撃防御。
拘束。
緊急退避。
本人負傷時の即時治療。
零司との情報共有。
通常通信へ依存しない命令系統。
任務対象は一人に固定。
父用。
母用。
二体。
「これで十分ですね」
工廠型へ製造指示を送った。
◇ ◇ ◇
完成までの間に。
転移先を確認する。
両親の現在位置。
普段なら。
わざわざ追跡していない。
ただ。
今回は配置する必要がある。
連絡先や既知の生活圏から探すこともできるが。
直接転移を使うなら。
正確な座標が欲しい。
私は観測用の小型個性兵へ指示を出した。
両親を探す。
見つける。
それだけ。
しばらくして。
共有視界が二つ開く。
父。
母。
別々の場所。
どちらも。
特に危険はない。
◇ ◇ ◇
工廠型から完成通知が来る。
二体。
私は状態を確認する。
「任務を確認します」
『指定対象の常時護衛』
一体目。
『危険回避、攻撃防御、必要時拘束、緊急退避、生存中の完全治療』
二体目も同じ。
「対象から離れないでください。通常時は存在を認識させる必要はありません」
『承知しました』
「本体は影の中から出ないこと。外部活動は不可視分身体のみ。私から別命令がない限り継続です」
『承知しました』
問題なし。
◇ ◇ ◇
以前なら。
ここからワープゲートを開き。
個性兵を通して。
現地へ向かわせていた。
今は。
その必要もない。
直接転移。
ちょうど作ったばかりの能力がある。
「まず父から」
観測映像で。
対象の位置。
影。
周囲。
確認。
危険なし。
私は護衛個体を指定する。
転移先。
父の影。
発動。
目の前にいた個性兵が消える。
◇ ◇ ◇
観測側から確認する。
父は。
何も気づいていない。
当然。
見えるものは何も増えていない。
ただ。
影の中へ。
護衛本体がいる。
共有情報も正常。
不可視分身体を一体展開。
周辺監視開始。
父はそのまま歩いている。
「成功ですね」
次。
母。
同じ。
座標指定。
影。
直接転移。
消失。
配置完了。
不可視分身体展開。
監視開始。
母も。
何も気づかない。
◇ ◇ ◇
私は観測用の小型個性兵を回収する。
こちらはもう必要ない。
両親へ付けた個体から。
必要な情報は直接共有される。
常に映像を見る必要もない。
危険が起きた時だけ。
通知すればいい。
普段の生活を。
わざわざ見たいわけでもない。
「これでいいでしょう」
◇ ◇ ◇
考えてみれば。
今まで。
自分にはかなり多くの防御を付けてきた。
個人護衛型。
状態固定。
精神干渉対策。
毒。
個性因子干渉。
発現停止系への防御。
それなのに。
両親については。
何もしていなかった。
単純に。
狙われる可能性を考えていなかったからだ。
青山の件を見て。
初めて。
家族を使う相手がいることを具体的に意識した。
なら。
対策する。
それだけ。
◇ ◇ ◇
もちろん。
これで完全とは限らない。
護衛個性兵が破壊される可能性。
同時攻撃。
未知の個性。
精神系。
空間系。
まだ知らない方法。
何でもある。
ただ。
何もないよりは。
かなりいい。
二体とも。
私の個人護衛型を基礎にしているので。
普通の襲撃程度なら問題にならない。
大規模な攻撃が来れば。
私へ通知。
必要なら。
直接転移で両親をこちらへ移せばいい。
「その方が早いですね」
護衛個体が自分で逃がすより。
私が座標を取って。
安全地点へ直接移す。
今なら。
それもできる。
◇ ◇ ◇
連絡先をもう一度見る。
父。
母。
何か伝えるべきか。
少し考える。
やめる。
護衛を付けました。
と言っても。
たぶん。
「何で?」
と聞かれる。
オール・フォー・ワンに人質にされる可能性を考えたからです。
と答える。
その後。
面倒な会話が増える。
危険が来なければ。
何も起きない。
なら。
知らない方がいい。
「必要になったら説明しましょう」
必要にならない方が。
当然。
楽だ。
◇ ◇ ◇
二つの護衛個体から。
定期状態確認が届く。
対象。
正常。
周辺。
異常なし。
私は通知頻度を下げる。
危険時だけ即時。
それ以外は。
一定間隔の簡易報告。
これで。
研究の邪魔にもならない。
◇ ◇ ◇
青山一家は。
家族を盾にされ。
長い間。
オール・フォー・ワンへ逆らえなかった。
私なら。
同じ状況になっても。
必要な行動を止めるつもりはない。
それでも。
両親が死んでも構わないわけではない。
助けられるなら助ける。
なら。
人質にされてから助けるより。
最初から人質にされにくくしておけばいい。
「これで一つ減りましたね」
今後。
オール・フォー・ワンが。
私ではなく。
私の周囲へ手を伸ばした場合の不確定要素。
少なくとも。
一番気にする二人については。
先に処理した。
父も。
母も。
そのことを知らないまま。
いつも通り生活している。
それで。
特に問題はなかった。