無個性は個性をつくる   作:匿名希望

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第11話 体育祭という研究機会

試作品の小型化は、翌日には少し進んだ。

 

大きさを減らすだけなら難しくない。不要な空間を削り、部品を小型のものへ交換し、配線を短くする。

 

問題は、それで元と同じように動くかだった。小さくすると熱が逃げにくい。各部が近づけば相互干渉も増える。個性因子を維持する環境も変わる。

 

昨日の試作品も、予定した寸法には収まったが、連続使用時の温度上昇が残っていた。

 

私は朝、学校へ行く前に記録だけ確認した。昨夜停止してからの状態変化、保存中の安定性。異常なし。

 

続きは帰宅後でいい。装置を保管し、朝食を済ませ、戸締まりをして登校する。

 

最近は、その流れが完全に固定されつつあった。

 

◇ ◇ ◇

 

「今年も体育祭がある」

 

ホームルームでパワーローダーが言った。教室の反応は大きかった。知っていた生徒も多いらしい。

 

雄英高校体育祭。名前そのものは私も当然知っている。雄英の行事の中でも外部から注目されるものだ。

 

ヒーロー科にとっては、プロへ自分を見せる機会でもある。報道もされる。観客も多い。

 

ただ、これまで私は特別に興味を持っていなかった。自分がヒーローになる予定はない。運動競技の順位にも興味はない。だから、詳しい競技内容までは調べていなかった。

 

「サポート科も参加するんですよね!」

 

発目さんがすぐに聞いた。

 

「ああ。出る」

 

「装備は!?」

 

「規定を守って、事前検査を通せ」

 

「いっぱい持ってっていいですか!?」

 

「検査を通ればな」

 

発目さんが笑った。嫌な予感をしたのか、パワーローダーが続ける。

 

「だからって何でも持ってくるなよ。競技以前に危ない物は却下する」

 

「大丈夫です!」

 

「お前の大丈夫は信用してない」

 

教室の何人かが笑った。

 

私は配布された資料を見る。体育祭の概要、参加方法、装備の持ち込み、禁止事項、検査。競技そのものの詳細は当日まで伏せられる部分もあるらしい。

 

サポート科の生徒が参加する目的は一つではない。純粋に競技へ出たい人間もいる。自作サポートアイテムを見せたい人間もいる。企業やヒーロー関係者へ技術力を示したい人間もいる。

 

発目さんは明らかに後ろ二つだろう。

 

「空木くんも出ますよね!」

 

横から声が飛んでくる。

 

「参加自体はします」

 

学校行事だ。特に欠席する理由はない。

 

「何持っていきます!?」

 

「まだ決めていません」

 

「ええっ!? もう作らないと!」

 

「今日説明されたばかりですが」

 

「だから今日からです!」

 

それは間違ってはいない。

 

私は資料へ視線を戻した。持ち込み装備、競技、ヒーロー科。

 

そこで、今までとは別の意味に気付いた。

 

体育祭では、ヒーロー科も競技へ出る。当然、個性を使う。それも一人や二人ではない。一年のヒーロー科だけでも多数いる。

 

さらに、競技という条件の中で何度も使用する可能性が高い。

 

私は資料を読み直した。競技場、選手同士の距離、観客席、待機場所、競技間の移動。

 

校内行事なので、私は正規の参加者だ。ヒーロー科へ勝手に侵入する必要はない。本人へ研究協力を頼む必要もない。競技中に個性を使う姿を見ること自体は、何の問題もない。

 

近い。数が多い。しかも、能力を隠す場ではない。むしろ見せる場だ。

 

これはかなり条件が良かった。

 

◇ ◇ ◇

 

私は個性研究を始めてから、資料の不足を何度も経験している。

 

本や論文で構造を知ることはできる。映像から発動を見ることもできる。試料が手に入れば、個性因子そのものを調べられる。

 

ただし、それぞれ欠点がある。

 

論文は対象が限定される。映像では細かい反応まで分からない。一般人へ研究目的で近づき、何度も個性を使ってもらうには説明と同意が必要になる。そして、相手が協力してくれるとは限らない。

 

体育祭なら違う。

 

参加者が自分から個性を使う。それも競技上、ある程度本気で。

 

出力、持続時間、発動条件、射程、使用前後の身体変化、連続使用時の変化、他の個性とぶつかった時の反応。資料では分からない情報が取れる可能性がある。

 

USJ事件の映像を見た時、情報不足で判断できないことが多かった。画質、角度、状況、誰が何をしたのか。全部が曖昧だった。

 

体育祭なら、自分も同じ会場にいる。かなり違う。

 

「……なるほど」

 

声に出ていたらしい。発目さんがこちらを見る。

 

「何か思いつきました!?」

 

「はい」

 

「ベイビーですか!?」

 

「研究方法です」

 

発目さんがさらに身を乗り出した。

 

「何するんです?」

 

「体育祭で個性を観察します」

 

「観察?」

 

「ヒーロー科は多数の個性を使用するでしょう」

 

「ああ!」

 

発目さんは納得したようだった。

 

「確かにいっぱい見れますね!」

 

「はい」

 

しかも合法的に。見るだけなら特別な許可もいらない。それだけでも十分価値がある。

 

「じゃあ空木くん、勝ちに行くんですか?」

 

「なぜですか?」

 

「近くで見るなら勝ち残った方がいいじゃないですか!」

 

一理ある。競技形式によっては、早期に脱落すれば参加者へ近づける時間が減るかもしれない。

 

ただし、優勝する必要はない。

 

「必要な範囲では残ります」

 

「優勝は?」

 

「目的ではありません」

 

「もったいない!」

 

「何がですか?」

 

「出るなら一位狙いましょうよ!」

 

「一位になることで観察対象が増えるなら考えます」

 

それ以外の価値は、私にはあまりなかった。

 

「プロからスカウト来るかもしれませんよ?」

 

近くで聞いていたクラスメイトが言った。

 

「ヒーローのですか?」

 

「そう。体育祭ってそういう場でもあるだろ」

 

「私はヒーローになる予定がありません」

 

「サポート科なら企業とかからも見られるんじゃない?」

 

「それはあるでしょうね」

 

技術を見せれば、興味を持つ企業はいるかもしれない。しかし、今すぐ就職先を探しているわけでもない。

 

「空木、そういうの興味ないの?」

 

「現時点では必要ありません」

 

一年生になったばかりだ。今後三年ある。就職について決める理由はない。

 

相手はまた少し不思議そうな顔をした。

 

私は資料へ戻った。

 

優勝、スカウト、評価。それらは体育祭へ参加する一般的な理由としては理解できる。ただ、私には優先順位が低かった。

 

その代わり、個性を調べられる。そちらの方が重要だった。

 

◇ ◇ ◇

 

授業が終わった後も、体育祭の話は続いていた。発目さんはすでに持ち込む装備を考え始めている。

 

「パワードスーツ系一個、移動用二個、射出系――」

 

「持ち込み重量は確認しましたか?」

 

「これからです!」

 

「先に確認した方がいいと思います」

 

「入らなかったら減らします!」

 

いつもの順番だった。

 

私は自分の端末で資料を確認する。競技内容は不明。なら、特定競技へ最適化した装備は作りにくい。

 

必要なのは汎用性。移動、防御、観察、状況対応。競技によって使い分けられること。

 

一つに全部詰め込む方法もある。ただし、大型化する。壊れた場合に全機能を失う。それより、小型装備を複数用意した方がいい。

 

今ちょうど進めている研究とも一致する。人工個性装備の小型化。これを体育祭までに進めればいい。

 

私は簡単なメモを作った。

 

腕、指、首、腰、足、頭部、衣服へ固定、口腔内。

 

身体の各部へ分散させれば、一つあたりを小さくできる。機能を分けておけば、必要なものだけ使える。故障時の影響も限定される。

 

問題は数だった。

 

競技が不明なら、ある程度多くの状況へ対応できるようにしたい。ただし、今の私は任意の人工個性を自由に設計して作れるわけではない。

 

手元にある個性因子を基に、段階的に改変したものしか使えない。新しい機能が必要だからといって、その場で好きな個性を作ることはできない。

 

現時点で使える因子、すでに安定化しているもの、体育祭までに改変が間に合うもの。それらの組み合わせを考える必要がある。

 

これは少し時間がかかりそうだった。

 

「空木くん」

 

発目さんが覗き込む。

 

「なんです、そのリスト?」

 

「装備位置の候補です」

 

「いっぱい作るんですか!?」

 

「その方が合理的だと思います」

 

「何個?」

 

まだ決めていない。

 

私は現在使える機能を数える。小型化の難易度、培養時間、改変に必要な期間、装着箇所、予備、重複。

 

すべてを考えると、二十個以上にはなりそうだった。

 

「二十数個程度でしょうか」

 

発目さんの目が輝いた。

 

「いいですね!」

 

何がいいのかは分からないが、発目さんにとって数が多いことは好意的な要素らしい。

 

「全部違う機能ですか?」

 

「一部は重複させます。同じ系統でも配置や用途を変えた方が使いやすいので」

 

「見せてください!」

 

「まだ作っていません」

 

「作ったら!」

 

「検査がありますから、少なくとも学校には持ってきます」

 

「じゃあ見れますね!」

 

その通りだった。体育祭で使用する以上、学校の検査は通す必要がある。

 

それは後で考えればいい。まず作らなければ検査もできない。

 

◇ ◇ ◇

 

帰宅後、夕食より先に机へ資料を並べた。

 

途中で母から連絡が来たが、

 

『体育祭の準備を始めます』

 

と返すと、

 

『ちゃんと夕飯食べてからやりなさい』

 

と返ってきた。

 

仕方がないので先に食事を済ませた。その後で作業を始める。

 

現在保存している個性因子、改変済みのもの、研究用のもの、装備へ組み込んだ実績があるもの。一覧にする。

 

体育祭で何が起きるかは分からない。だから目的を二つに分ける。

 

一つは、競技へ残り、観察機会を確保するための装備。もう一つは、個性を観察・記録するための装備。

 

勝つためだけなら、もっと単純でいい。性能の高い装備を数個作り、それを中心に使えばいい。

 

しかし、私の目的は観察だ。状況に応じて必要な機能を切り替えられる方がいい。

 

私は机の端に、昨夜まで小型化していた試作品を置く。ちょうどいい。この研究を、そのまま体育祭用へ進められる。

 

ケースをさらに削る。維持系を分離する。共通化できる部分を探す。一つの大きな装置ではなく、装着部位ごとに小型化する。

 

ベルト、腕輪、指輪、ネックレス、足首、眼鏡。他にも使える場所はある。

 

私は紙へ配置案を書き始めた。

 

最初は数個だった。機能を分ける。予備を考える。別の用途を追加する。候補が増える。

 

十、十五、二十。まだ必要なものがある。

 

二十五前後あれば、かなりの状況へ対応できそうだった。

 

もちろん、数だけ揃えても意味はない。全部が動かなければならない。

 

身体へ付けられる大きさで、競技を妨げない重量で、安全性を確保して、学校の検査を通せる形で。

 

体育祭までの時間は有限だった。培養にも時間がかかる。段階改変にも時間がかかる。失敗すればやり直しになる。

 

私は作業予定を組んだ。優先順位、並行培養、加工、動作確認、安定性試験、装着試験。

 

かなり詰まる。ただ、不可能ではない。

 

USJ事件では、映像しかなかった。見たい個性があっても遠かった。情報も不足していた。

 

今度は違う。

 

多数の個性が、自分のすぐ近くで使われる。しかも私は正規の参加者として、その場にいられる。

 

これほど条件のいい機会は、今までなかった。

 

優勝する必要はない。スカウトされる必要もない。

 

必要なのは、できるだけ多く見ること。そのために競技へ残ること。そして、観察の邪魔になる状況へ対応できること。

 

目的が決まれば、作るものも決まる。

 

私は最初の試作品を分解した。

 

体育祭までに、装備を増やす。一つや二つではない。使える技術を、身に付けられる形へできるだけ分散させる。

 

机の上に部品を並べ、工具を取る。

 

最初の一個から、作り始めた。

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