無個性は個性をつくる   作:匿名希望

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第109話 一度きりの機会

青山優雅からの連絡が届いたのは、こちらが次の動きを決めきれていない時だった。

 

全面戦争では死柄木弔を完成させきれず、ギガントマキアを失った。タルタロスでは僕自身の本体を取り戻すつもりだったが、それも失敗した。

 

原因の一つは明確だ。

 

空木零司。

 

彼がいる。

 

それだけで、こちらが想定しなければならない条件が増え続ける。

 

そして今回、青山が持ってきた情報は。

 

その空木零司を殺せるかもしれない、一度きりの機会だった。

 

◇ ◇ ◇

 

「青山から?」

 

スケプティックが端末を確認している。

 

僕はその情報を横から眺めた。

 

青山には以前から雄英内部の情報だけでなく、空木零司についても可能な範囲で調べさせていた。

 

大した成果はなかった。

 

それは最初から仕方のないことだ。

 

青山と空木は友人ではない。

 

ネビルレーザー用のサポートアイテムを依頼した生徒と、その製作者。

 

せいぜい、その程度の関係だった。

 

それでも接触できるだけ、他の雄英生徒よりはましだった。

 

空木零司。

 

雄英サポート科。

 

ヒーロー科の装備を作る。

 

教師からも依頼を受けることがある。

 

特殊な研究をしているらしい。

 

全面戦争の日には、政府側の技術協力として雄英を離れていた。

 

青山から得られたのは、ほとんどそれだけ。

 

けれど。

 

それで十分な部分もあった。

 

◇ ◇ ◇

 

神野で、僕は彼の作ったものを一度見ている。

 

人間ではない。

 

それでいて、自律して動き。

 

複数の個性に似た能力を使う。

 

妙な人工生命。

 

その一体から僕は個性を奪った。

 

だが。

 

あれは本体ではなかった。

 

個体そのものに必要な機能と、任務用の能力が切り分けられていた。

 

僕が奪ったのは。

 

交換可能な一部分だけ。

 

あの時点で。

 

空木零司は警戒に値した。

 

まだ学生。

 

ヒーローですらない。

 

それなのに。

 

既に個性を人工的に扱う技術を持っていた。

 

◇ ◇ ◇

 

その後。

 

全面戦争。

 

戦場に現れた人工的な兵士たち。

 

救助。

 

防御。

 

観測。

 

医療。

 

制圧。

 

そして。

 

ギガントマキアすら止める、小型の特殊個体。

 

青山から。

 

同じ日に空木零司が政府側の作戦へ参加していると聞いていた。

 

なら。

 

誰が作ったか。

 

考えるのは難しくない。

 

他に候補がいなかった。

 

断定できる証拠など必要ない。

 

十分に高い確率で。

 

あれは空木零司の戦力だ。

 

◇ ◇ ◇

 

そして。

 

戦争が終わると。

 

負傷したヒーローたちは、驚くほど早く復帰した。

 

オールマイトに至っては。

 

戦争より前から。

 

既に戦える身体へ戻っていた。

 

一度力を失ったはずの男が。

 

ほとんど全盛期に近い身体能力で戦っている。

 

誰がやったのか。

 

これも。

 

考えるまでもない。

 

空木零司。

 

ヒーローそのものを強くする。

 

負傷者を治す。

 

人工戦力を作る。

 

失敗すれば。

 

次には、その失敗を潰す技術を持ってくる。

 

非常に。

 

面倒な人間だ。

 

◇ ◇ ◇

 

一番大きな誤算は。

 

タルタロスだった。

 

あの時。

 

僕は距離を利用した。

 

海上刑務所。

 

遠い。

 

ヒーローが異常を把握してから。

 

戦力を集め。

 

海を越え。

 

到着するまでには時間がある。

 

そう考えた。

 

当然の計算だった。

 

空木零司の兵士が。

 

遠距離を移動できることは知っていた。

 

だが。

 

それを人間規模の戦力にまで使えるとは確認できていなかった。

 

だから。

 

できないと考えた。

 

違った。

 

彼は。

 

できなかったのではない。

 

やっていなかっただけだった。

 

◇ ◇ ◇

 

黒い空間が開き。

 

そこから。

 

オールマイトが出てきた。

 

プロヒーロー。

 

警察。

 

個性兵。

 

距離。

 

海。

 

移動時間。

 

それまで戦力配置を考える上で当然だった条件が。

 

一つ消えた。

 

あの瞬間から。

 

空木零司が生きている限り。

 

「遠くにいるから安全」という考え方は使えなくなった。

 

場所を知られているなら。

 

そこへ。

 

戦力を送れる。

 

タルタロスで。

 

僕はそれを学んだ。

 

◇ ◇ ◇

 

だからこそ。

 

今回の青山からの情報は。

 

慎重に扱う必要がある。

 

「内容は?」

 

スピナーが聞く。

 

スケプティックが読み上げる。

 

「空木零司が数日以内に、政府側の研究と規制関係の手続きで通常の活動拠点を離れる」

 

僕は黙って聞く。

 

「その間、大規模な人工兵戦力や工場型の設備とは切り離される。同行する護衛も少ない。青山が知る限り、同じ条件が次に発生する予定はない」

 

一度きり。

 

そういうことか。

 

◇ ◇ ◇

 

「罠じゃねえのか?」

 

荼毘が言った。

 

あり得る。

 

むしろ。

 

考えない方がおかしい。

 

今まで大して有用な情報を持ってこなかった青山から。

 

突然。

 

こちらが欲しい条件に近い情報が届いた。

 

疑う理由はある。

 

僕は情報を一つずつ整理する。

 

青山が。

 

こちらを裏切った可能性。

 

ヒーロー側が。

 

青山を見つけた可能性。

 

僕たちを誘い出すため。

 

空木零司を餌にしている可能性。

 

全部。

 

ある。

 

◇ ◇ ◇

 

「だから行かない?」

 

トガが首を傾げる。

 

「それなら、それでもいい」

 

僕は答えた。

 

行かない。

 

そういう選択もできる。

 

安全だけを考えるなら。

 

むしろ。

 

その方がいいかもしれない。

 

だが。

 

その場合。

 

空木零司は生き続ける。

 

それが。

 

もっとも危険だ。

 

◇ ◇ ◇

 

彼は。

 

時間を与えるほど強くなる。

 

本人が鍛える。

 

そういう意味ではない。

 

空木零司自身は。

 

前へ出て殴り合う人間ではない。

 

だから。

 

個人として殺すだけなら。

 

本来。

 

それほど難しい相手ではないはずだ。

 

問題は。

 

彼の周囲にある。

 

護衛。

 

人工兵。

 

工廠。

 

ワープ。

 

政府。

 

ヒーロー。

 

そして。

 

新しく追加され続ける未知の技術。

 

一度の失敗。

 

それが。

 

次には対策済みになる。

 

◇ ◇ ◇

 

通常の観測兵を破壊して。

 

死柄木は一度追跡を切った。

 

次に。

 

同じ方法で追跡を切れる保証はない。

 

ギガントマキアが。

 

ヒーローの阻止線を突破した。

 

すると。

 

その場で内部から止める兵器が作られた。

 

タルタロスで。

 

距離が安全だと思った。

 

次には。

 

距離そのものが意味を失った。

 

この繰り返しだ。

 

放置すれば。

 

まだ増える。

 

◇ ◇ ◇

 

「僕はね」

 

僕は笑う。

 

「ワン・フォー・オールより先に、空木零司を片付けた方がいいと思っている」

 

スピナーがこちらを見る。

 

荼毘は。

 

特に興味がなさそうだった。

 

トガは。

 

僕の話を聞きながら、自分の刃物を眺めている。

 

「OFAはいいのか?」

 

「欲しいよ」

 

もちろん。

 

ワン・フォー・オールは欲しい。

 

長い間。

 

ずっと。

 

僕へ逆らい続けてきた力。

 

弟から始まった。

 

あの力を。

 

終わらせたい。

 

ただ。

 

優先順位は。

 

状況で変わる。

 

◇ ◇ ◇

 

緑谷出久は。

 

強い。

 

それでも。

 

今いる一人の少年だ。

 

空木零司は違う。

 

彼本人を放っておけば。

 

次の戦いでは。

 

オールマイトが増えるかもしれない。

 

こちらの個性だけを狙って止める兵器ができるかもしれない。

 

知らない治療。

 

知らない移動。

 

知らない兵士。

 

何を持ってくるか。

 

予測できない。

 

戦うたびに。

 

こちらが持っている優位を。

 

一つずつ消してくる。

 

◇ ◇ ◇

 

「じゃあ殺しに行くのか」

 

スピナーが言う。

 

「そう単純でもない」

 

もし。

 

青山の情報が本物なら。

 

空木零司は一時的に。

 

大規模戦力から離れる。

 

工廠型。

 

大量の個性兵。

 

ヒーロー。

 

それらが周囲にいない。

 

その瞬間を狙えばいい。

 

ただし。

 

一つ。

 

既に知っていることがある。

 

ワープ。

 

◇ ◇ ◇

 

「少人数で近づいても意味がない」

 

僕は言った。

 

例えば。

 

数人のヴィランだけを送る。

 

空木零司を見つける。

 

攻撃する。

 

だが。

 

一撃で殺せなかったら。

 

その瞬間。

 

黒いゲートが開く。

 

向こう側から。

 

オールマイトが来る。

 

エンデヴァー。

 

警察。

 

個性兵。

 

何でもいい。

 

タルタロスで。

 

それを見た。

 

なら。

 

こちらが少しずつ戦力を出すのは。

 

最悪のやり方だ。

 

◇ ◇ ◇

 

「殺すなら」

 

時間を与えない。

 

空木零司が。

 

状況を見て。

 

対応を決め。

 

ゲートを開き。

 

大量の増援を呼ぶ。

 

その前に。

 

押し潰す。

 

「最初から最大戦力をぶつける」

 

それが。

 

一番合理的だ。

 

僕は。

 

残っている戦力を考える。

 

死柄木弔。

 

荼毘。

 

トガヒミコ。

 

スピナー。

 

スケプティック。

 

生き残ったニア・ハイエンド。

 

その他。

 

まだ動かせる者たち。

 

以前より少ない。

 

だが。

 

空木零司一人を。

 

孤立した状態で殺すなら。

 

多すぎるほどに見える。

 

◇ ◇ ◇

 

もちろん。

 

彼にも護衛はいるだろう。

 

青山の情報でも。

 

完全に一人とは言っていない。

 

ただ。

 

問題になるほどではない。

 

空木零司は。

 

ヒーローではない。

 

体育祭で。

 

装備を使い。

 

ヒーロー科と戦ったことはある。

 

だが。

 

あれは。

 

本人の身体能力で戦っていたわけではない。

 

彼の強さは。

 

持っている道具と。

 

兵士。

 

周囲の仕組み。

 

そこにある。

 

なら。

 

そこから切り離せば。

 

いい。

 

◇ ◇ ◇

 

僕が知らないことはある。

 

当然だ。

 

空木零司は。

 

自分の技術を。

 

何もかも公開する人間ではない。

 

だが。

 

本人まで。

 

個性兵と同じような防御を持っていると考える理由はない。

 

彼が。

 

重傷を負った記録はない。

 

だから。

 

何が起きるか観測する機会もなかった。

 

毒。

 

精神干渉。

 

個性そのものへの攻撃。

 

そういうものへの耐性があるかも。

 

分からない。

 

分からないなら。

 

まとめて試せばいい。

 

◇ ◇ ◇

 

「残ってる奴を全部出すって?」

 

荼毘が面倒そうに聞く。

 

「必要な範囲でね」

 

「俺はあいつに興味ねえぞ」

 

「君が誰に興味を持っているかは知っているよ」

 

轟炎司。

 

荼毘が欲しいのは。

 

そちら。

 

トガにも。

 

自分の関心がある。

 

スピナーも。

 

死柄木への執着が強い。

 

僕と目的が完全に一致しているわけではない。

 

それでも。

 

今。

 

ヒーロー側とぶつからずに。

 

それぞれの望むところへ辿り着けるわけでもない。

 

◇ ◇ ◇

 

「空木零司を消せば」

 

僕は言う。

 

「次の戦いはずっと楽になる」

 

少なくとも。

 

未知の技術が。

 

次々に増えることはなくなる。

 

人工兵も。

 

現在ある分を壊せばいい。

 

工廠型も。

 

作った人間がいなければ。

 

新しい対策を即座に追加することはできない。

 

オールマイトの復活を。

 

元に戻すことはできない。

 

それでも。

 

今後。

 

二人目を作られることはなくなる。

 

それだけでも。

 

価値はある。

 

◇ ◇ ◇

 

「で、青山の情報を信用するのか?」

 

スケプティックが聞く。

 

「信用はしない」

 

僕は答える。

 

信用。

 

そんなものは。

 

必要ない。

 

「本物だった場合の価値が高すぎるんだ」

 

罠である可能性はある。

 

だが。

 

罠だから。

 

行かない。

 

それを繰り返せば。

 

空木零司に永遠に時間を与えることになる。

 

その方が。

 

僕には嫌だった。

 

◇ ◇ ◇

 

それに。

 

罠なら。

 

こちらも。

 

最大戦力で踏み潰せばいい。

 

中途半端な戦力で入るから。

 

罠が機能する。

 

ヒーロー側が。

 

少数のヴィランを捕らえるつもりで待っているなら。

 

想定を超える数を。

 

一度に出せばいい。

 

空木零司のワープが。

 

どれほど速くても。

 

ゲートを開く前に。

 

本人を殺せれば終わる。

 

そして。

 

ゲートを開かれたとしても。

 

出てきたヒーローごと。

 

戦えばいい。

 

◇ ◇ ◇

 

死柄木の身体は。

 

以前より完成へ近づいている。

 

余計な負傷もない。

 

全面戦争直後より。

 

条件はいい。

 

こちらの人数は減った。

 

それでも。

 

主力は残っている。

 

なら。

 

使うべき時は。

 

今だ。

 

◇ ◇ ◇

 

僕は。

 

もう一度。

 

青山から届いた情報を見る。

 

日時。

 

空木零司が。

 

大規模戦力と切り離される時間。

 

護衛が薄くなる。

 

次はない。

 

「一度きりの機会」

 

声に出すと。

 

とても。

 

魅力的に聞こえる。

 

都合が良すぎる。

 

だから。

 

罠かもしれない。

 

それでも。

 

僕は。

 

笑った。

 

◇ ◇ ◇

 

「準備しよう」

 

スピナーが。

 

死柄木を見る。

 

「行くのか?」

 

「行くよ」

 

僕は答える。

 

「少人数では行かない」

 

空木零司へ。

 

考える時間を与えない。

 

対応する時間を与えない。

 

新しい兵士を作る時間も。

 

オールマイトを呼ぶ時間も。

 

与えない。

 

「残っている戦力を、可能な限り一度に出す」

 

殺すなら。

 

最初の一撃で。

 

◇ ◇ ◇

 

タルタロスでは。

 

僕が一つ。

 

勘違いをした。

 

空木零司に。

 

できないことと。

 

やらなかったことを。

 

取り違えた。

 

同じ失敗はしない。

 

彼は。

 

まだ。

 

何かを隠しているかもしれない。

 

それでも。

 

隠しているものまで含めて。

 

処理できるだけの戦力を持っていけばいい。

 

「空木零司」

 

オールマイトでも。

 

緑谷出久でもない。

 

今。

 

最初に消すべきなのは。

 

彼だ。

 

次に会った時。

 

もう。

 

研究を続ける時間は与えない。

 

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