無個性は個性をつくる 作:匿名希望
「まず、お前らから壊す」
死柄木が笑った直後、地面が爆ぜた。
危機感知が鳴るより早く、視界から死柄木の姿が消える。違う、消えたんじゃない。踏み込んだだけで、僕の目が追いつかない速度まで一気に加速したんだ。
「少年!」
オールマイトの声と同時に、正面から衝撃が来る。
僕を狙った死柄木の拳を、オールマイトが横から叩き落としていた。二人の腕がぶつかっただけで空気が爆発し、地面へ放射状の亀裂が走る。
そこへ僕も踏み込む。
ワン・フォー・オール。
出力を上げる。
右足へ力を集め、死柄木の脇腹へ蹴りを叩き込んだ。
「ぐっ!」
入った。
普通なら、それだけで何十メートルも吹き飛ぶ威力だ。
でも死柄木は数メートル滑ったところで片足を地面へ突き立て、強引に止まった。
「硬すぎる……!」
超再生は止まっている。
『崩壊』も使えない。
オール・フォー・ワン由来の個性だって、周囲の常時抹消型が全部封じている。
それなのに。
今の一撃で。
骨が折れた感触すらなかった。
◇ ◇ ◇
死柄木の身体は、個性を使って強いわけじゃない。
長い改造を受けた肉体そのものが、オールマイトに近い領域まで引き上げられている。
だから。
抹消されても。
強い。
分かっていた。
作戦会議でも。
何度も聞いていた。
でも。
実際に殴ると。
理解の意味が変わる。
「考えてる暇あるか?」
声。
近い。
危機感知。
頭の奥で警報が弾ける。
僕は反射的に身体を沈めた。
頭上を死柄木の拳が通過する。
風圧だけで。
髪が引っ張られる。
そのまま死柄木は腕を振り切らず、肘を落としてきた。
黒鞭。
腕へ巻きつける。
軌道をずらす。
地面へ。
肘が刺さる。
轟音。
直径数メートルの地面が沈んだ。
「チッ」
死柄木が黒鞭を掴む。
まずい。
解除。
ほんの一瞬遅ければ。
僕ごと引き寄せられていた。
◇ ◇ ◇
横から。
オールマイト。
「CAROLINA――!」
死柄木が振り向く。
「SMASH!」
両腕を交差させるような一撃が死柄木の上半身へ入る。
空気が捻じれる。
死柄木の身体が地面から浮いた。
僕は。
もう動いている。
浮遊。
足を地面から離す。
黒鞭を射出。
空中へ飛ばされた死柄木の足首へ巻きつける。
引く。
さらに。
発勁。
それまでの踏み込みで溜めていた力を解放する。
死柄木を。
オールマイトの正面へ。
戻す。
「オールマイト!」
「分かっている!」
拳。
腹。
鈍い音じゃない。
爆発みたいな音がした。
死柄木の身体が。
今度こそ。
遠くへ飛ぶ。
◇ ◇ ◇
僕は追う。
待たない。
あの身体には超再生がない。
なら。
今だけは。
与えたダメージが残る。
もし個性が使えたら――なんてものは知らない。
でも。
これまでの死柄木との戦闘では。
どれだけ傷つけても。
その場で治っていた。
今は違う。
一発ずつ。
積み上げられる。
それなら。
押し切れる。
「逃がさない!」
黒鞭を地面へ。
引く。
加速。
浮遊で抵抗を減らし。
さらに。
変速。
自分自身の速度を引き上げる。
景色が。
引き延ばされる。
死柄木がまだ着地していない。
追いつく。
拳。
「DETROIT――!」
死柄木の顔が。
こちらを向く。
「SMASH!」
殴った。
手応え。
頬が変形する。
血が飛ぶ。
それでも。
死柄木の目は。
閉じない。
「やっぱ」
殴られたまま。
笑った。
「近くに来るよな」
危機感知。
最大。
まずい。
◇ ◇ ◇
死柄木の左手が。
膨らんだ。
一瞬。
そう見えた。
次の瞬間。
腕そのものから。
大量の指が伸びた。
「なっ――!」
個性じゃない。
抹消は続いている。
なのに。
指。
手。
さらにその先から。
また指。
肉が。
枝分かれするように増殖していく。
黒鞭を出す。
間に合わない。
無数の指が。
視界を埋める。
「少年!」
オールマイトの声。
僕は腕で顔を守る。
衝撃。
全身を。
巨大な波に飲まれたみたいに叩かれた。
身体が地面へ落ちる。
一度。
二度。
三度。
転がる。
黒鞭を地面へ刺し。
強引に止まった。
「ぐ……!」
腕が。
痺れている。
骨は。
大丈夫。
ワン・フォー・オールで強化していても。
それでも。
重い。
◇ ◇ ◇
「緑谷!」
オールマイトが。
僕と死柄木の間へ入る。
伸びた無数の手を。
拳で薙ぎ払う。
千切れる。
潰れる。
だが。
止まらない。
「これ……個性じゃないのか!」
「違う!」
僕は起き上がる。
事前に聞いていた。
死柄木の身体は。
大量の個性を内包し続けた結果。
個性特異点へ近づき。
肉体そのものが。
その負荷へ適応し始めている。
個性を発動しているわけじゃない。
身体が。
変わっている。
だから。
抹消では止まらない。
「気持ち悪いだろ」
手の塊の向こうで。
死柄木が笑う。
「俺もそう思う」
◇ ◇ ◇
無数の指が地面を這う。
速い。
一本一本が。
ただの指じゃない。
人間の腕に近い太さのものもある。
絡みつけば。
終わる。
僕は煙幕を広げた。
視界を。
奪う。
死柄木が。
鼻で笑う。
「それで隠れたつもりか?」
返事はしない。
危機感知。
黒鞭。
振動。
音。
全部。
使う。
煙の中で。
僕は上へ。
浮遊。
そのまま。
変速。
移動速度を落とす。
煙の動きに。
自分の気配を紛らわせる。
死柄木の手が。
別方向を薙ぐ。
今。
◇ ◇ ◇
黒鞭。
四本。
違う角度から。
死柄木の本体へ。
一本は。
手の群れに弾かれる。
二本目。
腕。
三本目。
腰。
四本目。
首の近く。
「捕まえた!」
引く。
でも。
逆。
死柄木が。
僕を引いた。
「っ!」
力が違う。
空中から。
一気に引き寄せられる。
途中。
無数の手。
口を開けた罠みたいに。
待っている。
黒鞭を解除。
浮遊。
変速。
速度を。
横へ。
変更。
身体が。
慣性を無視するように。
軌道を折る。
指の隙間。
抜ける。
一瞬遅れて。
背後で。
無数の手が閉じた。
◇ ◇ ◇
「今だ!」
オールマイト。
煙幕の外から。
一直線。
死柄木の側面へ。
拳。
死柄木は。
手の塊を。
壁にする。
衝突。
空気が割れる。
指が。
何十本も吹き飛ぶ。
その奥へ。
オールマイトが。
さらに踏み込む。
「TEXAS――!」
死柄木の本体。
肩。
「SMASH!」
直撃。
身体が。
横へ飛ぶ。
僕は。
その先へ先回りする。
発勁。
蓄積。
変速。
加速。
ワン・フォー・オール。
全身。
「うおおおおおっ!」
拳を。
振り抜く。
死柄木が。
腕を交差。
受ける。
衝撃。
地面。
沈む。
でも。
倒れない。
「二人で」
死柄木が。
歯を見せる。
「これかよ!」
反撃。
肘。
僕の頬。
危機感知で分かっていた。
分かっていて。
完全には避けられない。
顔をずらす。
直撃を外す。
それでも。
視界が白くなる。
身体が回る。
◇ ◇ ◇
死柄木は。
そこへ追撃しようとした。
だが。
オールマイトが。
止める。
拳。
拳。
膝。
肩。
二人の肉弾戦が。
目で追うのも難しい速度で続く。
オールマイトは。
全盛期に近い。
でも。
完全な若者じゃない。
空木君が作った人工個性で。
筋力。
速度。
耐久。
反応。
循環器。
代謝。
昔の傷。
全部。
補っている。
だから。
戦える。
目の前で。
昔の映像でしか知らなかったオールマイトみたいに。
いや。
今の。
僕の先生として。
戦っている。
「少年!」
呼ばれる。
意識が。
戻る。
「はい!」
僕も。
入る。
◇ ◇ ◇
死柄木の右。
オールマイト。
左。
僕。
同時。
挟む。
死柄木が。
身体を沈める。
無数の手が。
地面から。
壁みたいに持ち上がる。
オールマイト。
正面から。
破る。
僕は。
上。
浮遊。
黒鞭で。
さらに加速。
危機感知。
右から。
指の束。
変速。
減速。
止まる。
目の前を。
指が通る。
再加速。
その上を。
踏む。
発勁。
解放。
死柄木の肩へ。
蹴り。
「ぐっ!」
初めて。
明確に。
体勢が崩れた。
◇ ◇ ◇
オールマイトが。
逃さない。
腕を掴む。
「少年!」
黒鞭。
腰。
脚。
巻きつける。
死柄木を。
その場に固定。
一瞬。
だけ。
「離せ!」
無数の手が。
僕へ。
オールマイトへ。
同時に伸びる。
危機感知が。
頭を焼く。
僕は。
避けない。
黒鞭を。
さらに増やす。
「今です!」
オールマイトの拳。
死柄木の胸。
僕の蹴り。
腹。
同時。
轟音。
死柄木の身体が。
黒鞭ごと。
吹き飛ぶ。
僕も。
引かれる。
解除。
着地。
◇ ◇ ◇
死柄木は。
今度はすぐに起きなかった。
数秒。
地面へ手をつく。
血を吐く。
やっと。
効いている。
超再生は。
ない。
積み重なっている。
そう思った。
次の瞬間。
死柄木の身体が。
さらに変わった。
「……何だ」
オールマイトの声。
死柄木の胴。
肩。
脚。
そこから。
大量の手が。
覆うように生えていく。
さっきの。
攻撃するための指とは違う。
身体そのものを。
包む。
守る。
外殻。
みたいに。
筋肉も。
大きくなる。
左腕。
特に。
異常に膨らむ。
人の身体が。
個性なしで。
ここまで変わる。
「個性特異点……」
僕の口から。
言葉が漏れる。
身体が。
大量の個性を抱えた結果。
一つの生命として。
耐えるために。
変化している。
個性を使えないなら。
身体だけで。
最適化する。
そんな。
滅茶苦茶な適応。
◇ ◇ ◇
死柄木が立ち上がった。
さっきより。
大きい。
重い。
なのに。
遅くなっていない。
地面を蹴る。
危機感知。
来る。
「オールマイト!」
二人。
左右へ。
別れる。
死柄木の拳が。
二人の間。
地面へ。
落ちる。
爆発。
じゃない。
ただの。
打撃。
それだけで。
地面が。
大きく陥没する。
瓦礫。
飛ぶ。
僕は黒鞭で。
弾く。
オールマイトは。
拳の風圧で。
逸らす。
死柄木は。
もう次へ。
◇ ◇ ◇
速い。
さっきより。
さらに。
危機感知が。
ほとんど鳴りっぱなし。
右。
避ける。
左。
黒鞭で身体を引く。
上。
浮遊。
無数の手。
空まで。
追ってくる。
煙幕。
意味は。
少しある。
視線は遮れる。
でも。
手が多すぎる。
範囲そのものを。
潰してくる。
なら。
正面。
僕は。
煙から出る。
死柄木の目。
合う。
「来たな」
「行く!」
◇ ◇ ◇
変速。
一段。
二段。
三段。
身体が。
前へ。
飛ぶ。
死柄木の拳。
危機感知。
軌道。
読める。
身体を。
低く。
滑らせる。
拳の下。
懐。
黒鞭。
死柄木の腕へ。
固定。
発勁。
脚。
解放。
「SMASH!」
顎。
蹴り上げる。
死柄木の頭が。
跳ねる。
でも。
手の外殻が。
衝撃を分散した。
効いてる。
ただ。
足りない。
◇ ◇ ◇
「緑谷!」
背後から。
オールマイト。
分かっている。
僕は。
黒鞭を引く。
死柄木の身体を。
ほんの少し。
後ろへ。
重心。
ずらす。
オールマイトの拳。
そこへ。
入る。
「DETROIT――SMASH!」
死柄木の背中。
外殻。
砕ける。
血。
散る。
死柄木が。
振り向きざま。
オールマイトを殴る。
「オールマイト!」
腕で。
受ける。
でも。
身体が飛ぶ。
遠く。
地面を。
何度も。
跳ねる。
「先生!」
追おうとする。
危機感知。
前。
死柄木。
僕へ。
「余所見すんな」
拳。
間に合わない。
黒鞭。
腕へ。
引く。
軌道を。
ずらす。
でも。
肩。
入った。
◇ ◇ ◇
世界が。
回った。
地面。
空。
地面。
息が。
抜ける。
身体が止まる前に。
危機感知。
また。
立て。
動け。
僕は。
黒鞭を地面へ。
身体を。
強引に引き起こす。
死柄木が。
もう。
目の前。
「捕まえた」
巨大な左手。
僕の頭へ。
伸びる。
ワン・フォー・オール。
狙い。
それ。
◇ ◇ ◇
触れさせない。
浮遊。
上。
死柄木も。
跳ぶ。
追ってくる。
煙幕。
全開。
視界。
紫の煙。
危機感知。
後ろ。
僕は。
変速。
急停止。
死柄木が。
前へ。
通る。
その背中へ。
黒鞭。
十本。
絡める。
発勁。
全部。
解放。
「下だ!」
黒鞭を。
地面へ。
叩きつける。
死柄木の巨体が。
空から。
落ちる。
着弾。
地面が。
大きく割れる。
◇ ◇ ◇
「少年!」
声。
オールマイト。
立っている。
腕。
少し。
下がっている。
さっきの一撃。
効いている。
でも。
動ける。
「大丈夫ですか!」
「問題ない!」
嘘。
多分。
完全には。
大丈夫じゃない。
それでも。
戦える。
僕も。
肩が痛い。
息も。
速い。
変速の負荷も。
少しずつ。
来ている。
それでも。
死柄木より。
条件はいい。
あいつは。
治らない。
こっちは。
二人。
個性も。
使える。
勝てる。
そう。
思う。
でも。
死柄木は。
立つ。
◇ ◇ ◇
地面の穴から。
手。
一つ。
二つ。
何十。
何百。
指が。
土を掴む。
その中心から。
死柄木が。
身体を起こす。
血だらけ。
外殻も。
壊れている。
でも。
目。
まだ。
死んでいない。
「いいな」
笑っている。
「やっとゲームっぽくなってきた」
オールマイトが。
僕の横へ来る。
「少年」
「はい」
「次で大きく削る」
「分かりました」
師弟。
並ぶ。
死柄木。
正面。
常時抹消型は。
まだ。
一度も視線を切っていない。
空木君の個性兵が。
周囲を。
完全に封鎖している。
逃げ道も。
ない。
増援も。
必要なら。
来る。
でも。
これは。
僕たちが。
やる。
◇ ◇ ◇
僕は呼吸を整える。
ワン・フォー・オール。
身体強化。
変速。
発勁。
危機感知。
黒鞭。
煙幕。
浮遊。
全部。
使える。
ずっと。
練習してきた。
一つずつ。
暴れた個性を。
自分のものにしてきた。
最初は。
腕一本。
壊さないと。
殴れなかった。
今は。
違う。
「オールマイト」
「何だい」
「合わせられます」
一瞬。
先生が。
笑った。
「ああ」
拳を。
握る。
「私もだ」
◇ ◇ ◇
死柄木が。
再び。
地面を蹴る。
同時。
僕も。
オールマイトも。
前へ。
三人。
中央。
衝突。
死柄木の右拳。
オールマイト。
受ける。
左。
僕。
黒鞭で。
外へ。
逸らす。
死柄木の膝。
僕の腹。
危機感知。
足を。
浮遊で。
抜く。
身体。
上。
死柄木の頭上。
発勁。
蹴り。
肩。
オールマイト。
腹。
拳。
連続。
死柄木。
それでも。
倒れない。
◇ ◇ ◇
手の外殻が。
弾ける。
指。
伸びる。
僕の脚へ。
黒鞭。
先に。
絡める。
引く。
逆に。
指束を。
固定。
オールマイトが。
根元へ。
拳。
破壊。
死柄木の腕。
開く。
胸。
無防備。
「今です!」
二人。
同時。
僕は。
変速。
最大。
発勁。
全解放。
オールマイト。
全身。
沈み込む。
死柄木の目が。
見開かれる。
拳。
二つ。
左右から。
胸部へ。
叩き込む。
轟音。
今までで。
一番。
大きい。
衝撃が。
戦場全体を。
走った。
◇ ◇ ◇
死柄木の身体が。
地面から消える。
遠く。
飛ぶ。
何百メートル。
地面を。
削る。
その先。
停止。
砂煙。
僕は。
息を吐く。
膝が。
少し。
震える。
変速。
使いすぎた。
でも。
まだ。
動ける。
「効いた……」
「油断するな、少年」
オールマイト。
すぐ。
構える。
僕も。
危機感知へ。
意識。
向ける。
砂煙の向こう。
反応。
ある。
◇ ◇ ◇
人影が。
出る。
死柄木。
立っている。
片腕。
下がっている。
胸。
大きく。
凹んでいる。
血。
口から。
流れる。
超再生が。
あれば。
一瞬で。
戻る。
今は。
戻らない。
それでも。
歩く。
一歩。
もう一歩。
「……しつこい」
僕が呟く。
死柄木が。
聞こえたみたいに。
笑った。
「お互い様だろ」
その身体の周囲で。
また。
手が。
蠢く。
変異。
まだ。
止まらない。
◇ ◇ ◇
危機感知が。
鳴る。
さっきまでとは。
違う。
強い。
一つの攻撃じゃない。
死柄木の身体全体から。
嫌な感じがする。
オールマイトも。
気づいた。
「来るぞ!」
「はい!」
死柄木が。
姿勢を低くする。
肉体の変異。
オールマイト級の身体能力。
それだけ。
それだけなのに。
圧力が。
凄い。
僕は。
拳を握る。
決着は。
まだ。
ついていない。
でも。
次。
次のぶつかり合いで。
大きく。
動く。
そう。
分かった。
「死柄木!」
呼ぶ。
死柄木が。
顔を上げる。
「何だよ」
「ここで終わらせる!」
「やってみろ」
三度目。
地面が。
爆ぜた。