無個性は個性をつくる 作:匿名希望
法律と販売方針は、これでほぼ片付いた。
残っているのは、実際に会社を動かすための準備だ。
土地はある。
この一年、研究の合間に買っておいたものだ。将来的に全国へ拠点を増やすつもりだったので、一か所にまとめず各地に分散させている。
建物についても問題はない。
土地と違って、買う必要がないからだ。
設計図さえ用意すれば作れる。
「まずは建築用を作りますか」
今までの個性兵でも建物を作ること自体はできる。
ただ、全国の土地へ送って同じ作業を繰り返させるなら、専用型を用意した方が効率がいい。
必要なのは戦闘能力ではない。
設計図を読み取り、その通りに建材を作り、組み立てる能力だ。
私は工廠型で使っている製造特化の『創造』を基礎に、用途を建築へ絞った。
設計図から必要な部材を判断する。
コンクリート、鉄骨、ガラス、配線、配管、断熱材など、指定された規格の建材を必要な量だけ生成する。
それを設計図通りの位置へ配置し、組み上げる。
家具や設備についても、設計データがあれば同じように作れる。
個性そのものに建物を考えさせる必要はない。
設計は先に済ませればいい。
私は完成した設計を登録し、建築型の個性兵を製造した。
人型である必要もあまりないので、移動と作業効率を優先した構造にする。
完成後、最初の個体へ設計データを渡した。
「この土地に、この設計で建築してください」
命令と一緒に所在地と権利情報も送る。
私有地で、権利者は私だ。
個性の使用についても、自分の土地の中で完結するなら問題はないはずだ。少なくとも公道や他人の敷地を勝手に使うわけではない。
建築型が動き始める。
なら、あとは待つだけだ。
◇ ◇ ◇
最初の拠点が完成した。
特別に目立つ建物ではない。
一般利用者が来ることを前提に、受付、待合、検査、施術などに必要な空間を用意している。
重要なのは外観ではなく中身だ。
私は完成した建物を確認しながら、必要な個性兵を配置していった。
まず受付型。
来訪者の要件を確認し、利用可能なサービスを案内する。
個性の取得や改造を希望する場合は、公的機関が発行した許可情報も確認する。
受付型自身が相手の人格や倫理性を判断する必要はない。
許可があるか。
希望するサービスが、その許可の範囲に入っているか。
販売禁止や制限の対象になっていないか。
見るのはそれだけだ。
次に施術型。
個性の詳細検査、除去、改造、人工個性の移植など、実際に人体へ触れる作業を担当させる。
もちろん、一体ですべてを行わせる必要はない。役割に応じて複数規格を用意しておけばいい。
警備型も置く。
出入口を中心に数体。
来訪者の案内や入退館管理を行い、通常のトラブルならその場で処理する。
過剰な戦力を表に並べる必要はない。
本当に問題が起きた場合は、別の仕組みで対応できる。
そのための指揮官型も建物内部へ配置した。
担当区域の個性兵を統括し、私から与えられた命令を具体的な行動へ落とし込む。
配置変更。
任務の割り振り。
優先順位の設定。
緊急時の判断。
通常営業で私が一件ずつ指示する必要はない。
さらに今回は、指揮官型へ『ワープゲート』を組み込んだ。
指定した二地点を接続し、人間、個性兵、物資を移動させるための人工個性だ。
一般販売はしないが、自分の会社で使う分には問題ない。
これで各拠点は距離に関係なく接続できる。
必要な物資を別拠点から送ることもできるし、特殊な施術用個性兵が必要になれば、その個体だけ移動させればいい。
何より、私が現地へ行く必要がない。
「これでいいですね」
ただ、まだ足りない。
工廠型も一体置く。
平時から大量の個性兵を並べておく必要はないので、通常は必要最低限の個体だけで営業する。
しかし、警備型が破壊されたり、重大な異常が発生したりすれば話は別だ。
その場合は指揮官型が状況を判断する。
必要な戦力を決め、工廠型へ製造を指示する。
工廠型内部には複数規格の九十九%完成済み素体を待機させてあるので、最初の増援ならほぼ即時に完成させられる。
それでも足りなければ通常製造へ移行する。
私の許可を待つ必要はない。
事前に設定した条件の範囲なら、指揮官型だけで防衛を完結できる。
戦争中は私が個性兵を直接運用する場面も多かった。
会社では、その必要をなくす。
私が寝ていてもいい。
研究していてもいい。
国外にいてもいい。
連絡が取れなくても、通常営業から緊急防衛まで止まらない。
必要なのは、私が最初に正しい仕組みを作ることだけだ。
最後に、データベース型を接続した。
利用者の個性検査結果を蓄積し、既存データと比較する。
既知の個性や、その変異程度なら私へ報告する必要はない。
大量のデータを機械的に比較して、既存情報との類似性が低いものだけを抽出する。
私が欲しいのはそこだ。
会社に来た全員の個性を、一つずつ私が確認する必要はない。
珍しいものだけ教えてくれればいい。
これで、一つの拠点として必要な機能は揃った。
受付。
施術。
警備。
指揮。
製造。
情報整理。
そして拠点間移動。
研究施設だけは置かない。
各地に研究設備を分散させても管理が増えるだけだ。
私自身が研究する場所は本拠地だけでいい。
地方拠点で集めた情報はデータとして送れば済むし、必要な検体や個性兵があればワープゲートで運べる。
研究設備まで全国へ複製する理由はなかった。
◇ ◇ ◇
最初の拠点で問題がないことを確認した後は、同じことを各地で繰り返した。
といっても、私が現地を回ったわけではない。
建築型へ土地と設計図を指定する。
建物が完成したら、必要な個性兵を搬入する。
指揮官型を起動し、担当区域と命令系統を登録する。
動作確認が終われば待機状態へ戻す。
それだけだ。
建築型そのものを一般の建設業へ貸し出すつもりはない。
会社を作るために使っているだけで、建設会社を始めたいわけではないからだ。
全国の土地で同じ作業が進んでいく。
場所によって建物の規模や内部構造には多少差があるが、基本的な機能は共通化した。
どの拠点でも同じ検査ができる。
同じ施術ができる。
同じ許可情報を確認できる。
必要なら他拠点と接続できる。
そして、私が直接管理しなくても動く。
想定通りだった。
残る問題は会社名だった。
書類を作る以上、名前は必要になる。
何でもよかったが、何をする会社なのか分からない名前にする理由もない。
個性に関する問題を扱う。
解析する。
除去する。
改造する。
移植する。
必要なら新しい人工個性を提供する。
個性について困ったことがあれば、とりあえずここへ来ればいい。
それなら単純でいい。
「Global Quirk Solutions」
個性に関する問題へ、解決手段を提供する会社。
略称はGQS。
分かりやすい。
私はその名前で必要な登録を進め、各拠点の表示も統一した。
看板や案内表示についても設計データを送れば、現地で作れる。
数日後には、各地の建物に同じ名称が表示されていた。
Global Quirk Solutions。
GQS。
まだ営業はしていない。
受付型は待機。
施術型も待機。
警備型だけが最低限の施設管理を行い、指揮官型、工廠型、データベース型も営業開始命令が来るまでは必要な維持動作だけを続けている。
一度起動すれば、その後の運用に私が常駐する必要はない。
各拠点の指揮官型が現場を管理し、必要ならワープゲートで相互に接続する。
個性兵の損傷や不足があれば工廠型が補充する。
設備に問題があれば修理する。
緊急事態なら警備戦力も増産する。
利用者から得られた個性情報はデータベース型が整理し、研究価値が高いものだけ私へ送る。
私の手を離れた場所で、維持、運用、防衛まで完結する。
それが全国にある。
後は営業開始の命令を出すだけだった。
ただし、今すぐ始めるつもりはない。
私はまだ雄英の生徒だ。
会社の準備はできたが、卒業までは待つ。
逆に言えば、卒業した後に待つ理由はない。
私は各拠点の指揮官型へ、営業開始条件を登録した。
私からの一斉命令を受信した時点で、待機状態を解除。
受付開始。
各種システム起動。
必要な個性兵を通常配置へ移行。
全国同時に営業を始める。
遠隔命令なので、場所は関係ない。
卒業式が終わる。
学生ではなくなる。
その一秒後。
命令を出せば、日本各地のGQSが同時に動き始める。
それでいい。
私は全国の拠点がすべて待機状態へ入っていることを確認して、管理画面を閉じた。
会社はできた。
あとは卒業するだけだった。