無個性は個性をつくる   作:匿名希望

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第132話 青山の個性

十一月になった。

 

卒業までは、もうそれほど長くない。

 

GQSの国内拠点は完成しているので、そちらで急いでやることもなかった。営業開始まで各拠点を待機させておけばいい。

 

その分、私はいつも通り雄英で研究を続けていた。

 

そんなある日、研究室へ青山優雅が来た。

 

「空木くん、ついに……ついにだよ!」

 

入ってきた時点で、妙に嬉しそうだった。

 

手には書類を持っている。

 

「何かありましたか?」

 

「許可が下りたんだ!」

 

そう言って、書類を差し出してきた。

 

確認する。

 

個性の取得と、それに伴う施術についての正式な許可だった。

 

対象となる個性は『ネビルレーザー』。

 

「やっとですか」

 

「やっとだよ……!」

 

青山が大きく息を吐いた。

 

長かったらしい。

 

内通者だった青山は、事件後もヒーロー科に残っている。

 

学校だけを見ていれば、以前とあまり変わらない。

 

授業を受け、訓練をして、他の生徒と一緒にヒーローになるための勉強を続けている。

 

ただ、何もなかったことになったわけではない。

 

家族を人質に取られ、オール・フォー・ワンから脅迫されていたことについては、かなり大きな情状酌量が認められたらしい。

 

それでも、人が死ぬ可能性があると理解した上で、雄英の情報を意図的に漏らした。

 

その事実まで消えるわけではない。

 

結果として、青山は普通に有罪判決を受けている。

 

今もヒーロー科へ通えているのは、判決や学校側の判断を含めた正式な手続きの結果だ。

 

そして、その前科が今回の許可にも影響したらしい。

 

「一年以上かかりましたね」

 

「長かった……とても長かったよ。僕はずっと試験と勉強を繰り返していたんだ」

 

「そうだったんですか」

 

知らなかった。

 

青山が授業を受けているところは普通に見ていたが、それ以外の時間に何をしているかまでは気にしていなかった。

 

「最初は、もっと簡単だと思っていたんだよ」

 

「どうしてですか?」

 

「だって、僕は新しい力が欲しいわけじゃない。今のネビルレーザーを、僕の身体に合うようにしてほしいだけだからね」

 

それは以前から聞いている。

 

青山の要望は単純だった。

 

ネビルレーザーそのものを別の個性へ変えたいわけではない。

 

レーザーを放つという基本的な性質は残す。

 

問題なのは、ネビルレーザーが青山の身体に合っていないことだ。

 

元々、彼の身体から自然に形成された個性ではない。

 

無個性だった青山へ、オール・フォー・ワンが後から与えたものだ。

 

だから出力と身体構造が噛み合っていない。

 

長時間使えば腹部に不調が出る。

 

制御にも補助装備が必要になる。

 

私はかなり前から、その不適合自体は確認していた。

 

直すこともできる。

 

ただし、今は法律がある。

 

「扱いとしては、新しい個性を取得するのと同じだったんですね」

 

「そうなんだよ!」

 

青山が机へ両手をついた。

 

「一度僕からネビルレーザーを外して、空木くんが作り直して、もう一度僕に入れる。だから制度上は、無個性の人が高威力レーザーを放てる個性を新しく手に入れるのとほとんど同じだって」

 

「それはそうですね」

 

一度摘出する。

 

構造を変更する。

 

再移植する。

 

元になった個性が青山のものでも、改造後は別の設計になっている。

 

しかもネビルレーザーは、戦闘に十分使える出力を持つ。

 

無条件で許可できる種類ではない。

 

「分かっているよ。分かってはいるんだ。でも僕は三年間、この個性で訓練してきたんだよ?」

 

「それも審査には含まれたんじゃないですか?」

 

「もちろんさ。それでも厳しかったんだ」

 

前科があるかららしい。

 

過去に悪質な情報漏洩を行った人物へ、高出力の戦闘用個性を改めて与えていいのか。

 

そこをかなり慎重に見られた。

 

青山本人の適性。

 

現在の生活状況。

 

雄英での訓練記録。

 

事件後の行動。

 

ヒーローを目指し続けていること。

 

そうしたものを審査され、何度も試験を受けた。

 

不合格になれば対策をして、また受ける。

 

それを繰り返していたらしい。

 

「それで十一月までかかったと」

 

「そういうことだよ」

 

青山は許可証を見た。

 

「でも、やっと取れた」

 

嬉しそうだった。

 

なら、あとは私の作業だ。

 

「分かりました。今日やりますか?」

 

「えっ」

 

「許可は出ているんですよね?」

 

「出ているけど……今から?」

 

「何か予定がありますか?」

 

「いや、ないけど」

 

「なら問題ありませんね」

 

青山が一瞬固まった後、いつものように髪へ手を当てた。

 

「相変わらず空木くんは展開が早いね……」

 

許可がある。

 

本人も希望している。

 

技術的にも問題ない。

 

待つ理由がない。

 

◇ ◇ ◇

 

施術の準備をする。

 

ネビルレーザーについては、すでに十分なデータがある。

 

以前、青山がサポートアイテムの相談へ来た時点で、身体と個性の不適合には気付いていた。

 

その後、内通者だと発覚してからは別の意味でも調べている。

 

オール・フォー・ワンから与えられた個性だったからだ。

 

通信。

 

追跡。

 

遠隔操作。

 

その他の隠された機能。

 

そういったものが組み込まれていないか確認したが、特に見つからなかった。

 

ネビルレーザーは、単純に青山へ与えられた個性だった。

 

問題は、それが青山の身体に適合していないことだけだ。

 

「では、外します」

 

「お願いするよ」

 

青山を施術台へ寝かせ、ネビルレーザーの個性因子を確認する。

 

摘出そのものは難しくない。

 

今では何度も使っている技術だ。

 

身体側への損傷を起こさないよう接続を切り離し、個性因子だけを取り出す。

 

少しして、摘出が終わった。

 

「終わりました」

 

「もう?」

 

「はい」

 

青山が自分の腹部を見る。

 

当然だが、外見上はほとんど変わらない。

 

「今の僕は……」

 

「無個性ですね」

 

青山が黙った。

 

少し複雑そうな顔をしている。

 

彼は元々無個性だった。

 

両親がそれを心配し、オール・フォー・ワンから個性を与えてもらったことが、すべての始まりだった。

 

今は、そのネビルレーザーが身体から外れている。

 

「……不思議な感じだね」

 

「そうですか?」

 

「空木くんには分からないかもしれないけどね」

 

「私も元々無個性ですよ」

 

「そういう意味じゃないよ」

 

なら分からない。

 

私は摘出したネビルレーザーの解析へ戻った。

 

構造そのものは以前から把握している。

 

レーザーを生成し、臍から放射する。

 

高出力。

 

その基本部分には触れない。

 

青山も、そこを変えることは望んでいない。

 

直すのは接続部分だ。

 

個性因子が青山の身体へ要求している構造と、実際の身体側の構造が一致していない。

 

本来なら個性と身体は成長過程で一緒に形成される。

 

ネビルレーザーにはそれがない。

 

完成済みの個性だけを後から入れたので、身体側が無理に合わせている。

 

なら、個性側を青山へ合わせればいい。

 

私は現在の青山の身体情報を取得し、ネビルレーザーの設計へ反映する。

 

発動時の負荷。

 

エネルギーの流れ。

 

出力制御。

 

身体側との接続。

 

腹部へ集中していた負担を修正し、青山の生体構造と自然に連動するよう組み直す。

 

レーザーそのものの性質は変えない。

 

「出力は上げなくていいんですよね?」

 

確認する。

 

青山が少し驚いた顔をした。

 

「上げられるのかい?」

 

「できます」

 

「……どれくらい?」

 

「希望次第です」

 

青山が少し考えた。

 

以前なら、ここで目を輝かせていたかもしれない。

 

だが、今回は首を横に振った。

 

「今のままでいいよ」

 

「分かりました」

 

「僕が欲しいのは、別のすごい個性じゃない。ネビルレーザーでヒーローになることだからね」

 

なら、その通りにする。

 

余計な機能は付けない。

 

レーザーの基本出力も大きく変えない。

 

不適合だけを消す。

 

設計を確定し、摘出した個性因子を再構成した。

 

「できました」

 

「早いね……」

 

「元の構造は分かっていましたから」

 

完全な新規設計ではない。

 

直す場所も最初から分かっている。

 

時間をかける理由がなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

再移植を行う。

 

今度は、以前とは違う。

 

青山の身体へ無理にネビルレーザーを押し込むのではない。

 

最初から青山へ適合するよう設計した個性因子を、正しい位置へ接続する。

 

身体側との反応を確認する。

 

拒絶はない。

 

個性因子の定着も正常。

 

神経系との接続も問題ない。

 

出力経路にも異常は見られない。

 

「終わりました」

 

青山が身体を起こした。

 

「これで?」

 

「はい。ネビルレーザーは戻っています」

 

「本当に?」

 

「試しますか?」

 

研究室内で高出力レーザーを撃つ必要はないので、試験用の出力制限をかける。

 

青山が立ち上がり、指定した標的へ向く。

 

「じゃあ……いくよ」

 

腹部から光が放たれた。

 

細いレーザーが標的へ当たる。

 

出力は低くしているが、発動そのものは正常だ。

 

青山はすぐに止めなかった。

 

数秒。

 

さらに数秒。

 

私は身体反応を観測する。

 

以前なら使用時間に応じて腹部への負担が増えていた。

 

今はない。

 

個性因子と身体が正常に連動している。

 

「どうですか?」

 

青山がレーザーを止めた。

 

しばらく黙っている。

 

「……痛くない」

 

「そうなるように直したので」

 

「お腹も痛くない」

 

「はい」

 

「本当に?」

 

「数値上も問題ありません」

 

青山が腹部を押さえる。

 

長い間、ネビルレーザーを使えば腹を壊すことが当たり前だった。

 

それがなくなっただけだ。

 

私からすると予定通りの結果だが、青山にとっては違うらしい。

 

「ベルトは?」

 

「出力制御のためだけなら、なくても問題ありません」

 

「……そうか」

 

青山が小さく笑った。

 

派手な笑い方ではなかった。

 

いつものように輝いて見せるわけでもない。

 

ただ、少し安心したように見えた。

 

「これで、やっと僕自身の個性になった気がするよ」

 

厳密には違う。

 

人工的に再設計して再移植した個性なので、生まれ持った個性になったわけではない。

 

ただ、身体との不適合はなくなった。

 

今のネビルレーザーは、少なくとも青山の身体にとって異物ではない。

 

「使用感が変わっている可能性があるので、いきなり最大出力では使わないでください。しばらく訓練して感覚を確認した方がいいです」

 

「もちろんさ。ここまで待ったんだからね」

 

一年以上、許可を取るために試験を受け続けたらしい。

 

なら、数週間程度の再訓練を嫌がる理由もないだろう。

 

「卒業までには慣れたいな」

 

「まだ時間はあります」

 

「そうだね」

 

青山は自分の腹部へ手を当てたまま、少しだけ姿勢を正した。

 

「僕はヒーローになるよ」

 

「そうですか」

 

「反応が薄いね?」

 

「以前からそう言っていたので」

 

新しく聞いた話ではない。

 

内通者だったことが発覚しても。

 

有罪になっても。

 

個性の改造許可がなかなか下りなくても。

 

青山はヒーロー科に残り、訓練を続けていた。

 

今さら確認するまでもない。

 

「問題がなければ、なれるんじゃないですか?」

 

「フフ……それで十分さ」

 

青山はそう言って笑った。

 

私は最後にネビルレーザーの状態を確認する。

 

能力の本質は変わっていない。

 

身体との不適合だけが消えている。

 

予定通りだ。

 

青山の許可情報と施術記録を保存する。

 

これで、卒業前に残っていた案件が一つ片付いた。

 

外を見る。

 

十一月。

 

雄英にいる時間も、残り数か月になっていた。

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