無個性は個性をつくる   作:匿名希望

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第133話 卒業

十一月に青山の個性を直してから、数か月が過ぎた。

 

その間にも研究は続けていたが、雄英の生徒として新しく始めるような大きな研究は増やしていない。

 

必要な設備はすでに自分で用意できる。

 

個性兵もいる。

 

研究に必要な個性はGQSを通して集められるようになる。

 

国内各地の拠点も完成し、営業開始命令を待っている。

 

そして今日、雄英を卒業する。

 

入学した時とは、ずいぶん状況が変わった。

 

◇ ◇ ◇

 

卒業式自体は普通に進んだ。

 

校長の根津先生が壇上で話している。

 

三年間の学校生活や、これから社会へ出ていく卒業生についての話だった。

 

私はそれを聞きながら、少しだけ入学した頃のことを思い出した。

 

雄英を選んだ理由は、設備と研究環境だ。

 

ヒーローになりたかったわけではない。

 

サポート科なら、普通の高校より高度な工作設備を使える。ヒーロー科の生徒が近くにいれば、珍しい個性を見る機会も増える。

 

それくらいの理由だった。

 

実際、入学直後の私は学校では普通にサポート科の課題だけをこなし、個性因子の研究は自宅で続けていた。

 

その状態が大きく変わったのは体育祭だった。

 

大量の人工個性を装備として持ち込み、ヒーロー科の個性を観察した。

 

そこで『創造』や『コピー』を知った。

 

常闇の『黒影』から自律性について考え始めた。

 

その後、人工個性を自由に作れるようになり、個性兵を作り、オール・フォー・ワンと戦い、政府と契約し、最終的には卒業後に個性そのものを扱う会社まで作ることになった。

 

最初から予定していたわけではない。

 

研究を続けていたら、必要な技術が増えただけだ。

 

壇上では根津先生の話が続いている。

 

根津先生には、かなり早い段階から私が学校で見せている技術が全部ではないと気付かれていた。

 

神野の後は、さらに隠せなくなった。

 

それでも研究を禁止されることはなかった。

 

危険だからと止めるより、雄英に置いたまま最低限の情報を出させた方が安全だと判断していたらしい。

 

私にとっても、その方が都合がよかった。

 

道徳だけで研究を止めようとせず、利益と危険性で話ができる。

 

話しやすい相手だったと思う。

 

やがて卒業証書を受け取り、式が終わった。

 

これで私は雄英高校の生徒ではなくなった。

 

◇ ◇ ◇

 

式の後、サポート科の教室へ戻る。

 

三年間使った教室だ。

 

他の生徒たちは写真を撮ったり、連絡先を確認したりしている。

 

私は自分の荷物を確認した。

 

持ち帰るものは少ない。

 

学校で作った普通の課題品については必要な処理を済ませているし、重要な研究物を教室へ置いているわけでもない。

 

「空木くん!」

 

声をかけてきたのは発目だった。

 

「卒業ですね!」

 

「そうですね」

 

「これからは本格的に会社なんですよね?」

 

「明日から動かします」

 

「明日!?」

 

発目が目を輝かせた。

 

「もう会社できてるんですか!?」

 

「建物も設備も個性兵も配置済みです。営業開始命令を出せば動きます」

 

「見たいです!」

 

即答だった。

 

発目らしい。

 

三年間で、学校の人間と技術的な話をするなら一番多かった相手だと思う。

 

入試では発目が一位で、私が二位だった。

 

入学してからも発目は頻繁に妙なものを作っていた。

 

私とは研究分野が違う。

 

それでも、設計や機構について話せば意味のある意見が返ってくる。

 

私が改善案を出せば、発目も別の方向から案を返してくる。

 

他のクラスメイトとは明確に違った。

 

友人なのかと聞かれると、よく分からない。

 

ただ、技術について話す相手としては悪くなかった。

 

「一般向けの店舗部分なら、営業開始後に普通に入れますよ」

 

「研究所は!?」

 

「入れません」

 

「ええー!」

 

「研究施設は本拠地にしかありませんし、公開する予定もありません」

 

「じゃあGQSで使ってる機械を見ます! 個性兵も分解していいですか!?」

 

「駄目です」

 

「一体くらい!」

 

「駄目です」

 

三年間で何度も似たような会話をした気がする。

 

発目は不満そうだったが、すぐに別のことを思いついたらしい。

 

「じゃあ私のベイビーが完成したら見せに行きますね!」

 

「技術的に面白そうなら見ます」

 

「約束ですよ!」

 

「内容次第です」

 

卒業後も発目はサポートアイテムを作り続けるのだろう。

 

それは容易に想像できた。

 

私から用事もなく連絡することはないと思うが、何か変なものを作って持ってきたら、その時は見るかもしれない。

 

「空木」

 

今度はパワーローダー先生だった。

 

「卒業おめでとう」

 

「ありがとうございます」

 

「お前は最後まで、サポート科の生徒なのか研究者なのか分からなかったな」

 

「サポート科の生徒ではありましたよ」

 

「今日までな」

 

確かにそうだ。

 

パワーローダー先生には、普通のサポート科生徒としてかなり長く教わった。

 

入学当初の私は、学校の課題へ個性因子技術を一切持ち込んでいなかった。

 

先生からすれば、課題を正確にこなす、手のかからない生徒だったはずだ。

 

体育祭で人工個性装備を大量に持ち込んだことで、それまで見せていたものが私の専門ではないと知られた。

 

その後は個性兵まで作った。

 

「学校の設備を壊すような実験を勝手にしなかったことだけは評価してる」

 

「壊す可能性があるなら自宅でやっていましたから」

 

「それはそれで教師としてどうなんだって話なんだがな」

 

パワーローダー先生がため息をついた。

 

「まあいい。卒業したら俺の管轄じゃない。事故だけは起こすなよ」

 

「可能な範囲で対策します」

 

「絶対起こさないとは言わないんだな」

 

研究である以上、未知の問題が発生する可能性をゼロにはできない。

 

ただ、以前より安全対策はかなり増えた。

 

それで十分だと思う。

 

「三年間、ありがとうございました」

 

「……おう」

 

私が頭を下げると、パワーローダー先生は少し意外そうな顔をした。

 

別に嫌っていたわけではない。

 

教わったこともある。

 

なら、礼を言うのは普通だ。

 

◇ ◇ ◇

 

校舎を出ようとすると、途中で相澤先生に会った。

 

近くにはヒーロー科の生徒たちもいる。

 

「空木」

 

「はい」

 

「卒業後は例の会社か」

 

「はい。明日から営業します」

 

「そうか」

 

相澤先生との会話は、いつも短い。

 

私も雑談をする方ではないので、それで困ったことはなかった。

 

神野以降、相澤先生が私を警戒していたことは知っている。

 

人工個性を作る。

 

個性兵を作る。

 

必要なら人間から個性を外す。

 

教師として警戒するのは当然だと思う。

 

一方で、エリの『巻き戻し』対策を考えた時には『抹消』の研究データを正式に提供してもらった。

 

その後、最終決戦では許可を取った上で『抹消』を戦闘用個性兵へ組み込んでいる。

 

研究対象としてもかなり役に立った個性だった。

 

「学校の外でも、法律は守れよ」

 

「そのために法律まで作ってもらったので、守ります」

 

「お前の場合、その返事が冗談にならないんだよ」

 

相澤先生が目元を押さえた。

 

「まあ、卒業おめでとう」

 

「ありがとうございます」

 

それで会話は終わった。

 

相澤先生らしい。

 

少し先では、ヒーロー科の卒業生が集まっている。

 

緑谷もいた。

 

私と緑谷の接点は、最初から多かったわけではない。

 

本格的に調べたのは、合同戦闘訓練で黒鞭が暴走した後だ。

 

強力な身体強化だけだと思っていた個性の中に、複数の個性が存在していた。

 

かなり面白い構造だった。

 

その後は内部の六個性を早期に使えるようにする装置も作った。

 

最終決戦では、その力で死柄木と戦っている。

 

「空木くん!」

 

こちらに気付いた緑谷が近づいてきた。

 

「卒業おめでとう!」

 

「緑谷さんも、おめでとうございます」

 

「明日から会社なんだよね?」

 

「はい」

 

「すごいな……高校を卒業した次の日から全国で営業開始って」

 

「準備は終わっているので、待つ意味がありませんから」

 

「空木くんらしいというか……」

 

緑谷が苦笑する。

 

「僕も、これからもっと頑張らないと」

 

「ヒーローになるんですよね」

 

「うん」

 

緑谷は迷わず答えた。

 

彼の場合、進路について確認する必要もないだろう。

 

強力な個性を持ち、三年間訓練し、最終決戦まで経験した。

 

今後もヒーローとして活動するはずだ。

 

「個性に問題が出たら、GQSへ来てください」

 

「営業みたいだね」

 

「会社なので」

 

「はは……そうだね」

 

緑谷が笑った。

 

その横から、爆豪がこちらを見る。

 

「テメェ、卒業したら装備作んねぇんだってな」

 

「はい。サポートアイテム製作を事業にする予定はありません」

 

「チッ」

 

爆豪には、在学中かなりの数の装備を作った。

 

最初にまともに戦ったのは体育祭だった。

 

私の光操作ベルトを破壊したので、その時点で目的を達成していた私は降参した。

 

その後は依頼人として何度も装備を作っている。

 

個性の制御能力が高いので、出力を増幅しても扱える。

 

装備を作る側からすれば、性能を上げやすい相手だった。

 

「今使っている装備のデータは渡してあります。別のサポート会社でも整備できるはずです」

 

「同じモン作れんのか」

 

「同じ設計なら近いものは作れると思います。ただ、私が今後改良することはありません」

 

「……気に入らねぇ」

 

「そうですか」

 

「もっとマシな奴に作らせる」

 

「それがいいと思います」

 

爆豪なら、性能が悪ければすぐに文句を言うだろう。

 

その方が作る側も改善しやすい。

 

「勝己、卒業の日くらい普通に話せないの?」

 

「うるせぇクソナード!」

 

「なんで僕が怒鳴られるの!?」

 

いつも通りだった。

 

卒業しても、この二人はしばらく変わらないのだと思う。

 

「空木少年!」

 

さらに声がした。

 

オールマイトだった。

 

今は以前の痩せた姿ではない。

 

私が作った専用人工個性によって、全盛期に近い戦闘能力を取り戻している。

 

オール・フォー・ワンとの長い戦いも終わった。

 

それでも雄英の教師として、ここにいる。

 

「卒業、おめでとう!」

 

「ありがとうございます」

 

「君には……ずいぶん驚かされた三年間だったよ」

 

「そうですか?」

 

「そうとも!」

 

オールマイトが笑う。

 

体育祭の表彰台で、三位のメダルを渡されたことがあった。

 

あの時の私は、順位よりも新しく得た個性の情報を考えていた。

 

その後、オールマイト本人の身体やOFAを調べることになるとは思っていなかった。

 

力を失っていたオールマイトから相談され、OFAそのものを再現するのではなく、本人用の人工個性を作った。

 

結果として、最終決戦でも大きな戦力になった。

 

「これから君が何を作るのか、私には想像もつかない」

 

「私にも分かりません」

 

まだ見つけていない個性を、事前に想像することはできない。

 

新しい構造が見つかれば、その時に考える。

 

「ですが、研究は続けます」

 

「うむ。それが君らしい答えだ」

 

オールマイトはそう言って、大きく頷いた。

 

◇ ◇ ◇

 

最後に校長室へ寄った。

 

根津先生から呼ばれていたからだ。

 

「卒業おめでとう、空木くん」

 

「ありがとうございます」

 

「明日からGQSが営業開始だったね」

 

「はい」

 

「準備は万全かな?」

 

「国内拠点については問題ありません。起動命令を出せば営業できます」

 

「そうかい」

 

根津先生は紅茶を飲みながら、いつものようにこちらを見ている。

 

「三年前、君が入学してきた時には、ここまでになるとは思っていなかったよ」

 

「私もです」

 

これは本当だ。

 

当時は自分の研究設備を増やせればよかった。

 

会社を作る予定もなかった。

 

政府と契約する予定もなかった。

 

個性兵を大量運用する予定もなかった。

 

研究を続けるうちに必要になっただけだ。

 

「雄英は役に立ったかな?」

 

「かなり役に立ちました」

 

設備だけではない。

 

多数の個性を観察できた。

 

『創造』。

 

『コピー』。

 

『黒影』。

 

『抹消』。

 

OFA。

 

他にも多くの個性を研究した。

 

雄英に来なければ、今の技術体系へ到達するまでにはもっと時間がかかったはずだ。

 

「それなら、学校としては何よりだ」

 

根津先生が笑った。

 

「卒業すれば、君はもう雄英の管理下にはいない。私が研究計画の提出を求めることもなくなる」

 

「そうですね」

 

「寂しくはないかい?」

 

少し考える。

 

「特には」

 

根津先生は声を出して笑った。

 

「君ならそう答えると思ったよ」

 

雄英が嫌いなわけではない。

 

三年間、研究環境として役に立った。

 

教師にも世話になった。

 

発目とは技術の話をした。

 

ヒーロー科にも研究対象になった生徒が何人もいる。

 

ただ、卒業後もその関係を維持しなければならない理由はない。

 

用事があれば連絡する。

 

向こうから連絡が来れば、必要なら応じる。

 

それで十分だ。

 

「では、空木くん。これまで学校へ提出されていた緊急連絡先なども、今後は君自身のものへ切り替わる。ご両親との手続きは済んでいるのかな?」

 

「はい」

 

卒業をもって、両親からも正式に独立する。

 

もともと高校進学と同時に地元を離れ、一人暮らしをしていた。

 

生活へ細かく口を出されることもなかった。

 

初期の住居費や研究費は出してもらっていたが、今ではそれも必要ない。

 

金はある。

 

住居も研究所も自分で用意できる。

 

会社もある。

 

生活面も個性兵でほぼ自動化できる。

 

親に頼る理由はなくなった。

 

だからといって、絶縁する理由もない。

 

連絡先は残っている。

 

何か必要があれば連絡できる。

 

両親からも、必要があれば連絡が来るだろう。

 

それくらいでいい。

 

「分かりました。では、これで雄英側の手続きも終了だ」

 

「三年間、お世話になりました」

 

「こちらこそ。君を見ているのは、なかなか興味深かったよ」

 

根津先生と最後に軽く話して、校長室を出た。

 

◇ ◇ ◇

 

校門を出る前に、一度だけ振り返った。

 

雄英高校。

 

三年間通った学校だ。

 

ここへ入学した時、私が欲しかったのは研究環境だった。

 

それは十分に得られた。

 

それ以上のものも、結果としてかなり得たと思う。

 

珍しい個性。

 

新しい技術。

 

研究材料。

 

設備を使った経験。

 

政府や公安との接点。

 

そして、研究のために利用できる人間関係。

 

必要なものは全部持ち出した。

 

学校に残している重要な研究資料もない。

 

戻らなければならない理由もない。

 

「空木くーん! またベイビー見せに行きますからねー!」

 

後ろから発目の声が聞こえた。

 

振り返ると、遠くで手を振っている。

 

私は軽く手を上げて返した。

 

会うことがなくなると決まったわけではない。

 

ただ、明日から私は学生ではない。

 

研究する場所も、設備も、金も、人手も、自分で用意できる。

 

雄英へ通う必要はなくなった。

 

私はそのまま校門を出た。

 

これで卒業だ。

 

明日、GQSを起動する。

 

全国の指揮官型へ一度命令を送れば、待機している個性兵が動き始める。

 

受付も、検査も、施術も、会計も、警備も、すべて自動で始まる。

 

私は店頭へ出る必要がない。

 

利用者の個性情報はデータベース型が整理し、既存データから大きく外れたものだけが私のところへ送られてくる。

 

そのために会社を作った。

 

雄英で個性を探す必要も、もうない。

 

明日からは、日本中の個性が向こうから集まってくる。

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