無個性は個性をつくる   作:匿名希望

143 / 148
第142話 研究網

海外の店舗が増えてから、送られてくる個性データの量は一気に増えた。

 

予想していたことではある。

 

むしろ、これが会社を作った一番の理由だった。

 

私は研究室の端末に表示された新着データを眺める。

 

もっとも、全部を自分で確認しているわけではない。

 

そんなことをする必要はなかった。

 

世界中のGQSで取得された個性情報は、データベース型へ集約される。

 

利用者が店舗へ来る。

 

相談内容を聞く。

 

個性兵がその人物を診察し、個性を解析する。

 

因子構造、発動条件、出力、身体との適合、副作用、潜在的な問題、既存個性との類似性。

 

必要に応じて実際に発動してもらい、外から見るだけでは分からない部分も調べる。

 

そこで得られた情報が、統一された形式でデータベースへ送られる。

 

あとはデータベース型が既存情報と比較する。

 

よくある個性なら、私に知らせる必要はない。

 

既に十分なデータがある系統も同じだ。

 

細かな差異は保存しておけばいいが、一件ずつ私が見るほどではない。

 

逆に、既存データとの類似性が低いもの。

 

今までの分類では説明しにくい構造。

 

既知の系統に見えて、内部機構だけが大きく違うもの。

 

そういう個性だけが私のところへ上がってくる。

 

会社を始める前から考えていた仕組みだった。

 

それが今、想定していた以上の規模で動いている。

 

◇ ◇ ◇

 

昔は、自分から個性を探していた。

 

子供の頃は、身近な人間を見るしかなかった。

 

学校へ行けば同年代の個性を見られる。

 

街へ出れば、知らない個性を持つ人間がいる。

 

テレビや映像も使った。

 

雄英へ入ってからは、ヒーロー科の生徒やプロヒーロー、ヴィランまで観察対象が増えた。

 

それでも限界はあった。

 

映像からでも個性を解析することはできる。

 

ただし、十分な発現情報が映っている場合に限る。

 

例えば炎を出す個性なら分かりやすい。

 

どこから発生して、どの程度の出力があり、どう制御しているのか。映像が十分なら、かなりのところまで推測できる。

 

でも、すべての個性がそうではない。

 

体内だけで作用するもの。

 

特定の条件でしか発動しないもの。

 

常時発動しているため、本人すら個性による現象と認識していないもの。

 

普段ほとんど使われない副機能があるもの。

 

外から見ても、何が起きているのか分かりにくいもの。

 

そういう個性は映像だけでは情報が足りない。

 

それに、そもそも映像へ残らない個性の方が圧倒的に多い。

 

世界中の人間が、自分の個性を動画にして公開しているわけではない。

 

だから以前は、知らない個性を見つけること自体が研究の一部だった。

 

今は違う。

 

向こうから来る。

 

個性に困った人間が、自分からGQSへやって来る。

 

もっと詳しく知りたい。

 

副作用をなくしたい。

 

出力を上げたい。

 

逆に弱くしたい。

 

身体に合うように調整したい。

 

摘出したい。

 

別の個性を追加したい。

 

理由は何でもいい。

 

GQSへ来れば、まず個性を調べる。

 

依頼を処理するために必要だからだ。

 

その過程で、私は個性のデータを得る。

 

利用者は自分の問題を解決できる。

 

会社は依頼を処理する。

 

私は研究材料を得る。

 

かなり効率がいい。

 

◇ ◇ ◇

 

端末に新しい通知が出た。

 

データベース型からだった。

 

『既存分類との類似性低』

 

私は作業中だった設計を一度止める。

 

「表示してください」

 

目の前に情報が展開された。

 

海外店舗から送られてきたものだった。

 

利用者本人は、自分の個性について相談するために来店しただけだ。

 

それを現地の診察用個性兵が解析した。

 

発動条件を確認し、いくつかの試験を行い、構造を記録した。

 

データベース型が既存情報と照合する。

 

似た現象を起こす個性はいくつかある。

 

ただ、構造が違う。

 

「こっちから作用しているのか」

 

少し面白い。

 

私は追加情報を開いた。

 

発動時の映像。

 

診察用個性兵が取得した因子情報。

 

本人への聞き取り。

 

出力変化。

 

条件を変えた場合の反応。

 

必要な情報はかなり揃っている。

 

昔なら、本人を直接見なければここまで分からなかった。

 

今は研究室から動く必要がない。

 

私は追加試験の内容を考える。

 

「この条件と、この条件を分けて確認してください。それから発動対象を変えた時の差も欲しいです」

 

指示を送る。

 

遠く離れた店舗へ届く。

 

現地の個性兵が、利用者の依頼内容から外れない範囲で追加確認を行う。

 

しばらくすると結果が返ってきた。

 

予想通りの部分と、違う部分がある。

 

「なるほど」

 

もう少し調べたい。

 

ただ、これだけでも新しい設計の参考にはなる。

 

既存の個性構造へ組み込めるかもしれない。

 

私はデータを研究対象として登録し、途中だった作業とは別に考察を始めた。

 

その間にも、新しい情報は入り続けている。

 

◇ ◇ ◇

 

世界中では、今この瞬間にも子供が生まれている。

 

そして個性が発現する。

 

親と似た個性。

 

両親の特徴が混ざった個性。

 

どちらとも少し違う個性。

 

突然変異に近いもの。

 

既存分類へ簡単に収まるものもあれば、今まで見たことのない構造になることもある。

 

個性は止まらない。

 

世代が変わるたびに組み合わさり、変化する。

 

昔の私なら、その中から珍しいものを見つける方法はほとんどなかった。

 

世界のどこかで誰かが新しい個性を発現しても、私がそれを知る理由がない。

 

本人が普通に生活していれば、そのまま一生知らない可能性の方が高かった。

 

でも、GQSが広がれば状況は変わる。

 

子供の個性について詳しく調べたい親が来る。

 

発現した能力の扱い方が分からず相談に来る。

 

身体に異常があれば来る。

 

ヒーローを目指して改造を希望する人間も来る。

 

仕事に合わせた調整を求める人間も来る。

 

年齢を重ねて個性と身体の適合が変われば、その相談にも来る。

 

全員が来るわけではない。

 

それでも母数が大きい。

 

日本だけでもかなりの量だった。

 

今は海外にも店舗がある。

 

さらに店舗は増えている。

 

私一人で世界中を歩き回って個性を探すより、比較にならないほど効率がいい。

 

私は研究室にいるだけでいい。

 

世界中の人間が、自分から個性を見せに来てくれる。

 

当初考えていた通りだった。

 

いや、想定以上だった。

 

◇ ◇ ◇

 

最初に会社を考えた時、欲しかったのは金ではない。

 

研究費に困っていたならともかく、今は金があっても使い道があまりない。

 

建物は作れる。

 

設備も作れる。

 

個性兵も作れる。

 

材料もほとんど自前で用意できる。

 

会社を大きくしたいということ自体にも興味はない。

 

有名になりたいわけでもない。

 

社会を変えたかったわけでもなかった。

 

ただ、研究対象が欲しかった。

 

個性をもっと見たい。

 

知らない構造を知りたい。

 

今まで見たことのない機能を理解したい。

 

それだけだった。

 

そのためには、自分で探すより、向こうから来てもらう方がいい。

 

だから個性に関する依頼を受ける会社を作った。

 

相談に来た人間を調べる。

 

データを蓄積する。

 

比較する。

 

珍しいものだけを見る。

 

単純な仕組みだ。

 

その単純な仕組みが、今では世界規模になっている。

 

研究室の壁面に表示されている情報量を見る。

 

各国の店舗。

 

現在の利用者数。

 

解析中の個性。

 

新規登録された構造。

 

既存データへの統合。

 

データベース型が処理している比較件数。

 

数字は増え続けていた。

 

それでも私のところへ来る情報は多すぎない。

 

データベース型が選別しているからだ。

 

大量の情報を全部見る必要はない。

 

既知のものは蓄積する。

 

細かな変異も分類する。

 

そして、本当に違うものだけを私へ送る。

 

研究網としては、かなり理想に近い。

 

「また来ました」

 

研究補助用の個性兵が告げた。

 

別の地域から、新しい報告が上がったらしい。

 

私はそちらを開く。

 

さっきとはまったく違う系統だった。

 

「これは……」

 

少し考える。

 

既知の個性を組み合わせれば似た現象は作れる。

 

でも、この人の個性は一つの因子構造だけで成立している。

 

なら、その違いを調べる価値がある。

 

私は椅子へ座り直した。

 

「詳細を出してください」

 

情報が展開される。

 

また考える。

 

仮説を立てる。

 

既存データと比較する。

 

必要なら追加検査を指示する。

 

終われば次を見る。

 

私が眠る必要はない。

 

食事も休憩も必要ない。

 

研究施設の維持は個性兵がやる。

 

世界のどこかでは常にGQSが営業している。

 

時差がある以上、どこかの国では昼で、どこかの国では夜だ。

 

もっとも、店舗自体が二十四時間営業なので、あまり関係はない。

 

研究網も止まらない。

 

今この瞬間にも、世界のどこかで誰かが自分の個性をGQSに見せている。

 

その情報が集まり、比較され、必要なものだけがここへ来る。

 

そして、その間にも新しい子供が生まれている。

 

新しい個性が発現している。

 

まだ誰も詳しく調べたことのない構造が生まれているかもしれない。

 

それがいつか、本人の意思でGQSへやって来る。

 

私はそこへ行かなくていい。

 

待っていればいい。

 

世界中に広げた会社そのものが、私の代わりに個性を探してくれる。

 

ようやく、欲しかった研究環境が完成した。

 

端末に、また新しい通知が表示された。

 

私はすぐにそれを開いた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。