無個性は個性をつくる   作:匿名希望

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第21話 体育祭後の職員会議

体育祭が終わった日の職員会議は、普段より少し長くなった。

 

理由はいくつもある。ヒーロー科の生徒の評価、外部から来ていたプロヒーローの反応、負傷状況、競技運営、表彰式で暴れかけた一位。

 

そして、サポート科一年H組、空木零司。

 

「で」

 

相澤が机に肘を置いたまま言った。

 

「結局、あれは何なんです?」

 

視線が俺に集まった。俺は一度黙った。その聞き方になるのも分かる。

 

「……どれだ」

 

「多すぎるから聞いてるんですが」

 

その通りだった。

 

浮いていた装備。空中を動く装備。遠くを見る装備。血液を採取する指輪。その他、ほとんど使わなかった装備も含めて約二十五個。

 

そして一番目立った、光。

 

「まず言っとくが、全部検査は通してる」

 

「それは分かってる」

 

ミッドナイトが資料を見ながら言う。

 

「だから失格にもしてないし、競技中にも止めてないでしょう?」

 

「そういうことだ」

 

体育祭前、空木が持ってきたケースを見た時点では、数が多いと思った。二十五個。

 

サポート科の生徒が自作品を持ち込むこと自体は珍しくない。体育祭はそういう場所でもある。

 

企業、ヒーロー事務所、サポートメーカー。外部へ自分の技術を見せる機会。発目なんかは、最初からそれが目的だ。

 

だから数だけなら、まだいい。問題は中身だった。

 

俺は机の上の資料をめくる。

 

「光のベルトについては、普通の光学装置だと思わない方がいい」

 

プレゼント・マイクが首を傾げる。

 

「レーザー装置じゃねえの?」

 

「違う」

 

「でも光出してただろ?」

 

「だから面倒なんだよ」

 

言いながら、自分でも妙な説明だと思う。

 

「機械でレーザーを出してるんじゃない。個性因子を組み込んでる」

 

一瞬、会議室が静かになった。

 

検査時には必要な範囲で報告を上げている。ただ、体育祭当日に動いているところを直接見た教師の方が多い。

 

「つまり……」

 

オールマイトが口を開く。

 

「空木少年本人の個性ではないが、ベルトに個性が入っている?」

 

「本人の説明ではそうだ」

 

「人工的な個性を、サポートアイテムへ?」

 

「そうなる」

 

俺は映像を止める。芦戸との試合、光の壁が出ている場面。

 

「こいつをサポートアイテムと呼んでいいかは、ちょっと怪しい」

 

「学校への申請上はサポートアイテムでしょう?」

 

根津校長が言った。

 

「そうなんだがな」

 

俺は映像を少し進める。

 

壁。足場。光弾。閃光。細いレーザー。鞭状の光。

 

形状が変化していく。

 

「外側から見た性能だけなら、ほとんど個性そのものだ」

 

誰もすぐには否定しなかった。

 

俺も、検査前はもう少し機械寄りだと思っていた。個性因子を使う。その説明自体は聞いた。

 

だが実物を見るまでは、個性因子をセンサーに使う、出力補助に使う、既存のサポート技術と組み合わせる。そのくらいだと思っていた。

 

違った。

 

光を出す機能の本体そのものが個性だった。ベルトはそれを維持し、制御し、人間が使えるようにするための器に近い。

 

「本人が無個性なんだよな?」

 

プレゼント・マイクが聞く。

 

「生来はな」

 

「それで個性入りベルト自作して三位?」

 

「結果だけ言えばそうなる」

 

「サポート科って何だっけな!」

 

「サポート科だ」

 

「今日見た感じ、ヒーロー科よりヒーロー科してた瞬間あったぞ!」

 

「本人に言うなよ。面倒になる」

 

ヒーロー科へ移りたいなどと言い出す心配はしていない。むしろ逆だ。

 

空木は設備が良いから雄英を受けた。サポート科を選んだ理由もそこ。ヒーローになりたいとは、一度も聞いていない。

 

体育祭三位になっても、本人が一番気にしていたのは壊れた装備だった。いや、壊れた装備より、別の何かを気にしていたようにも見えた。

 

そこはよく分からない。

 

◇ ◇ ◇

 

「騎馬戦の方は?」

 

相澤が聞いた。

 

映像が変わる。

 

空木、心操、尾白、庄田。四人の騎馬。

 

これはこれで妙だった。

 

「尾白と庄田がおかしかった理由は、心操だろ」

 

俺が言う。相澤も頷く。

 

「個性は洗脳。返答させるのが発動条件だ。二人はそれを受けていたと考えれば動きは説明できる」

 

「心操君が空木君の指示を受けて、二人へ中継していたように見えたね」

 

根津校長が映像を見る。

 

「役割分担としては合理的だ」

 

「少なくとも空木の持ち込み品に、洗脳する装備はない」

 

俺は資料を指で叩く。

 

二十五個。全部、検査している。機能説明も受けた。

 

もちろん、俺が個性因子技術そのものを完全に理解しているわけじゃない。だが、申請された機能の中に他人を洗脳する装備はなかった。

 

だから、尾白と庄田、それに心操の動きまで含めて、空木が精神操作していたとは誰も考えていなかった。

 

心操自身が自分の個性で二人を支配する。全体の判断は空木。心操が命令を中継。

 

映像だけなら、それで十分説明できる。

 

むしろ。

 

「こっちの方が気になるな」

 

相澤が映像を止めた。

 

八百万の手へ空木が触れる。すぐ離れる。

 

次。常闇。首元へ接触。離れる。

 

次。物間。手首へ触れる。離れる。

 

鉢巻には行かない。三回とも。

 

「何だ、これ」

 

プレゼント・マイクが言った。

 

「俺も当日見てて思った」

 

俺は答える。

 

「騎馬戦なのに、鉢巻を取れる距離まで行って本人に触って帰ってくる」

 

「三人とも?」

 

「そうだ」

 

「狙いがあるようにしか見えないわね」

 

ミッドナイトが言う。

 

「まあ、あるだろうな」

 

ただし、俺たちの知っている範囲で考えるなら、答えはそこまで変なものにはならない。

 

俺は別の資料を出した。

 

「採血用の指輪」

 

検査済み。

 

「接触した対象から微量の血液を取得する人工個性が入ってる」

 

「競技中に使ってたの、それ?」

 

「ああ」

 

「目的は?」

 

オールマイトが聞く。

 

「申請上は防御研究」

 

俺は読み上げる。

 

「微量血液から個性因子を解析して、一時的な耐性を得る」

 

「なるほど」

 

ミッドナイトが映像を見る。

 

「じゃあ八百万、常闇、物間に触っていたのも?」

 

「試作品の機能確認じゃないかとは思ってる」

 

それ以上は分からない。

 

三人に何か共通点があるのか。違う系統の個性で耐性装置を試したかったのか。採血機能そのものの動作確認なのか。別の装備と組み合わせていたのか。

 

空木なら、そのくらいはやる。

 

体育祭を実地試験として使っていたのは、決勝トーナメントを見ても明らかだった。

 

芦戸相手には光壁。酸が乗った時の足場。爆豪相手には壁の耐久、展開速度。

 

本人は試合中でも普通にデータを取っていた。騎馬戦で試作品の機能を確かめていても、不思議ではない。

 

「血を取る装備を体育祭へ持ってきてる時点で十分変だけどね」

 

ミッドナイトが言う。

 

「そこは検査で散々言った」

 

俺は答える。

 

「取得量に上限。競技外使用禁止。危険な接触は禁止。異常があれば即停止。その条件で許可した」

 

「で、その血は?」

 

相澤。

 

「本人の説明では、その場で因子を解析して耐性用の装置へ使う」

 

「保存は?」

 

「そこまでは申請されてない」

 

俺は答えた。

 

だから、俺たちは知らない。採った血液を長期保存できることも、培養できることも、そこから個性因子を複製できることも。

 

当然、この場でそんな話は出ない。

 

学校側が把握しているのは、採る、解析する、一時的な防御へ使う。そこまでだった。

 

「心操にも使っていたな」

 

相澤が言う。

 

「チームを組む前に」

 

「ああ。あれは分かりやすい」

 

俺は頷く。

 

「精神干渉への一時耐性を取ったんだろう。心操の個性を推測してたみたいだからな」

 

「実際、心操の洗脳は空木には効かなかったように見えた」

 

「なら申請用途どおりだ」

 

少なくとも、教師側からはそう見える。

 

その後に心操が妙に素直に空木の指示へ従っていたとしても、騎馬戦という団体競技なら、指揮役を一人に絞ること自体はおかしくない。

 

それに、心操は尾白と庄田を自分の個性で動かしている。心操が指示を出し、空木が方向を決める。

 

それだけなら、単なる作戦だった。

 

◇ ◇ ◇

 

「問題行動は?」

 

根津校長が聞く。

 

俺は資料を見る。

 

「今のところ、体育祭中の規定違反はない」

 

「装備は?」

 

「全部検査済み」

 

「出力制限は?」

 

「守ってる」

 

「採血量?」

 

「規定値以内」

 

「爆豪戦の降参?」

 

「自由だ」

 

「なら競技面では問題なしだね」

 

そうなる。

 

実際、厄介なのは空木が規則を破っていないことだった。

 

問題児なら注意すればいい。危険な装備を無断で持ち込んだなら没収できる。人を怪我させたなら指導する。

 

だが、申請する。検査を受ける。条件を守る。競技中も安全出力。必要がなくなれば降参。

 

本人なりにはかなり真面目だった。

 

「サポート科の課題ではどうなんだ?」

 

相澤が俺に聞く。

 

「普通」

 

「普通?」

 

「ものすごく出来がいいという意味で普通だ」

 

自分でも変な説明だと思う。

 

「要求仕様を守る。期限を守る。安全設計もやる。整備性も考える。余計な事故も起こさない」

 

一瞬、発目の顔が頭に浮かぶ。比較対象が悪い気もする。

 

「少なくとも、手のかからない生徒だった」

 

「だった?」

 

ミッドナイトが拾った。

 

「今も授業ではそうだ」

 

俺は言い直す。

 

「ただ」

 

体育祭の装備検査。そして今日。

 

「授業で見せてたものが、あいつの専門じゃなかった」

 

これが一番大きい。

 

学校課題で空木が出していたのは機械だった。回路、構造、材料、制御。普通のサポート工学。

 

かなり高水準だが、理解できる。

 

今日見せたものは違う。

 

個性因子。人工個性。それを装備へ搭載。

 

外側のケースや制御は機械だが、その中心には個性そのものがある。

 

「隠してたってこと?」

 

プレゼント・マイクが聞く。

 

「本人にそのつもりがあるかは怪しい」

 

俺は答えた。

 

装備検査の時に聞いた。どうして普段の課題で出していなかった。

 

答えは、必要がなかったから、だった。

 

あいつなら本当にそれだけだろう。

 

「授業で人工個性を使う必要がなかったから使わなかった」

 

「普通は使えるなら言いたくならない?」

 

「空木にその普通を期待するな」

 

「ひどくない!?」

 

「教えてる俺が言ってるんだ」

 

◇ ◇ ◇

 

オールマイトが映像を見る。

 

光壁。芦戸の酸を受け流す。

 

次。常闇の黒影を強い照明で弱らせる。

 

次。爆豪に壁を破壊される。

 

「しかし、本当に不思議な技術だね」

 

「何がだ?」

 

「これはもう、サポートという言葉で括るには……」

 

オールマイトが少し考える。

 

「使用者へ別の個性を一つ渡しているのに近い」

 

その表現が一番近い。

 

「俺もそう思う」

 

だから検査中、途中から見るところが変わった。

 

最初は部品、安全率、重量、固定方法。普通のサポートアイテムを見る感覚だった。

 

光ベルトに関しては違った。

 

ベルトの性能を見るというより、そこに入っている『光を生成し操作する個性』そのものの挙動を見ていた。

 

「本人は無個性なんだろ?」

 

相澤がもう一度確認する。

 

「ああ」

 

「じゃあ、実質的には自分で個性を用意したわけか」

 

「装備だから本人の生来の個性になったわけじゃないがな」

 

「戦闘で使う側からすれば、違いは小さい」

 

それもそうだった。

 

ベルトを装着する。起動する。光が出る。本人の意思で操る。

 

壁、足場、光弾、レーザー。

 

競技中の相手から見れば、個性持ちと戦っているのとほぼ変わらない。

 

違いが出たのは爆豪戦だ。

 

装備だから、壊せる。

 

爆豪はそこを見抜いた。

 

「だから爆豪はベルトを潰した」

 

相澤が言う。

 

「正解だな」

 

俺も頷く。

 

「身体に個性があるなら本人をどうにかするしかない。外付けなら機器を壊せばいい」

 

「サポートアイテムとしての弱点は残っていると」

 

根津校長が言う。

 

「今のところはな」

 

今のところ。

 

自分で言ってから、少し嫌な感じがした。

 

空木なら、その弱点を認識している。認識していて放置するタイプではない。

 

今日の試合で爆豪に破壊された。なら、次は何か変えるだろう。

 

ただ、何を変えるのかまでは分からない。

 

◇ ◇ ◇

 

「今後の扱いは?」

 

ミッドナイトが聞いた。

 

根津校長は少し考える。

 

「現時点では、通常どおりでいいだろうね」

 

「通常?」

 

「彼は規則を守っている。装備も事前提出した。危険性のあるものには使用条件を付け、それも守った」

 

その通り。

 

「専門分野が一般的でないこと自体は、指導対象ではない」

 

「まあ、サポート科だしな」

 

俺が言う。

 

変わった技術を作るなと言う学校ではない。むしろ逆だ。

 

「ただし」

 

根津校長が続ける。

 

「パワーローダー」

 

「何だ」

 

「彼が個性因子を使う装備を学校へ持ち込む場合、今までどおり安全情報は提出させてほしい」

 

「それはやる」

 

「製法そのものまで提出させる必要はないよ」

 

少し意外だった。

 

「いいのか?」

 

「今の段階では、ね」

 

根津校長は笑っている。

 

「彼が何をどこまでできるのか、僕たちもまだ把握していない」

 

その言葉で会議室が少し静かになる。

 

事実だった。

 

体育祭前まで、俺が空木へ持っていた印象は、非常に優秀、大人しい、課題を正確にこなす、手がかからない。それだけだった。

 

今日、人工個性、二十五個の装備、光、採血、精神干渉への耐性、浮遊、推進、サポート科から体育祭三位。

 

増えた。

 

しかし、それでも、これで全部だとは思えない。

 

根津校長も同じらしい。

 

「空木君は、自分から必要のない能力を見せるタイプではないようだからね」

 

「隠してるって意味か?」

 

オールマイトが聞く。

 

「少し違うかな」

 

根津校長は答える。

 

「本人にとって必要がないから、出していない。おそらくその方が近い」

 

俺は装備検査の時を思い出す。

 

授業の課題では個性因子技術を使う必要がなかったので。

 

本人はそう言った。

 

本当に、それだけだったのだろう。

 

「だからこそ」

 

根津校長が続ける。

 

「こちらも、見えていないものを勝手に決めつけない方がいい」

 

危険人物だと決めつける理由もない。安全だと決めつける理由もない。

 

今分かっているものを見る。必要な安全確認をする。それだけ。

 

妥当だった。

 

◇ ◇ ◇

 

会議が終わりかけたところで、プレゼント・マイクがまた映像を戻した。

 

「でもよー」

 

「まだ何かあるのか」

 

「コレ」

 

八百万へ触れる。逃げる。

 

常闇へ触れる。逃げる。

 

物間へ触れる。逃げる。

 

三回。

 

「やっぱ変じゃね?」

 

「変ではある」

 

俺は認めた。

 

「だろ!?」

 

「でも試作品を二十五個も持ち込んだ奴だぞ」

 

「あー」

 

「競技中に何か試してても、別に驚かん」

 

「納得させられるのが悔しい!」

 

実際、俺も気にはなっている。

 

なぜあの三人だったのか。なぜ鉢巻を取らずに触ることを優先したのか。採血装置を使ったなら、何の耐性を試したかったのか。

 

知っている範囲で考えれば、体育祭用に持ち込んだ試作品を、実戦環境で試した。

 

それで終わる。

 

「後で使用報告だけ出させる」

 

「それでいいんですか?」

 

相澤。

 

「検査条件の範囲で使ってるならな」

 

「そうですね」

 

相澤もそれ以上追及しなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

会議終了。

 

資料をまとめる。

 

空木零司。サポート科一年H組。生来無個性。学校課題は非常に優秀。体育祭三位。個性因子研究。人工個性搭載サポートアイテム。光操作。血液からの一時耐性。約二十五個。

 

分かっていることだけでも、十分多い。

 

なのに、俺の中では、体育祭前より分からない生徒になっていた。

 

前は簡単だった。非常に優秀で、大人しい生徒。

 

今は、非常に優秀で、大人しくて、言われた規則は守る。

 

その上で、授業ではまったく見せていなかった分野を一つ持っている。

 

しかも、その技術で作ったものは、もうサポートアイテムというより、ほとんど個性そのものだった。

 

「……何やってたんだ、あいつ」

 

小さい頃から研究していた、と言っていた。

 

どこで、どうやって、どこまで。

 

分からない。

 

ただし、今の段階で問題を起こしているわけではない。なら、教師としてやることは変わらない。

 

安全確認。設備管理。課題。必要なら指導。

 

分からない部分は、分かったふりをしない。

 

俺は最後に体育祭の記録映像を閉じた。

 

少なくとも、もう空木零司を、ただの「手のかからない優等生」だと思うことはなかった。

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