無個性は個性をつくる   作:匿名希望

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第21話 創造を作り変える

玄関を開けて、最初にしたことは銅メダルを置くことだった。

 

靴を脱ぐ。

 

鞄を下ろす。

 

メダルは机の端。

 

壊れた光操作ベルトは別のケースへ。

 

そして。

 

体育祭で回収した三つの試料を取り出す。

 

八百万百。

 

常闇踏陰。

 

物間寧人。

 

保護用の個性は正常に維持されていた。

 

保存状態も問題ない。

 

私は時計を見る。

 

夕食を先に済ませるか少し考えた。

 

培養だけ開始してからでいい。

 

試料は微量だ。

 

解析に使い続けるなら、まず量を増やす必要がある。

 

これまでと同じだった。

 

採取。

 

培養。

 

観察。

 

小さく変更。

 

また培養。

 

安定したものだけ次へ進める。

 

まだ、好きな構造の個性因子をその場で作ることはできない。

 

だから今も、研究は物理的な工程から始まる。

 

ケースを持って、研究機材を置いている部屋へ向かった。

 

家そのものは、入学した時からほとんど変えていない。

 

空いている部屋も多い。

 

大掛かりな加工設備を入れたわけでもない。

 

雄英へ進学した理由の一つが学校設備なのだから、今の段階で家を研究施設へ作り変える意味は薄かった。

 

ただ。

 

中学生の頃から使っている培養設備。

 

測定機器。

 

保存機器。

 

個性因子を扱うために自分で改造した小型装置。

 

それらはある。

 

今回の最初の解析には十分だった。

 

私は三つの試料を並べる。

 

「まずは創造から確認しましょう」

 

体育祭が終わった日の夜。

 

研究を始める。

 

◇ ◇ ◇

 

八百万さんの血液から個性因子を分離する。

 

培養用に一部。

 

直接観察用に一部。

 

予備保存。

 

三系統。

 

操作自体は慣れている。

 

採ったばかりの試料なので状態もいい。

 

培養槽へ入れる。

 

温度。

 

栄養条件。

 

酸素。

 

因子活性。

 

調整。

 

私自身へ搭載している研究補助用の個性因子知覚も併用する。

 

機械の数値と、直接見える構造を照合する。

 

『創造』。

 

体育祭で見た現象は単純だった。

 

身体から物体を生成する。

 

しかも一種類ではない。

 

形状も材質も変えられる。

 

それだけでも、今まで扱ってきた個性とはかなり違う。

 

私は既存の人工個性を作る時、元になる個性因子を必要とする。

 

光なら光。

 

浮遊なら浮遊。

 

ジェットならジェット。

 

そこから構造を少しずつ変更する。

 

出力。

 

発動条件。

 

対象。

 

制約。

 

安全性。

 

一つずつ。

 

だが『創造』は。

 

生成する対象そのものを変えられる。

 

私は拡大された構造を追う。

 

発動系。

 

変換系。

 

出力系。

 

身体側との接続。

 

そして。

 

消費。

 

「やはり脂肪ですか」

 

体育祭で見た身体反応とも一致する。

 

生成時に、使用者側の物質とエネルギーを消費している。

 

八百万さんの能力について、本人から詳細な説明を受けたわけではない。

 

だが構造と発現時の変化を合わせれば、大まかには分かる。

 

身体内部の脂質。

 

それを生成物へ変換する。

 

単純に脂肪を別物質へ化学変換しているわけではない。

 

それでは元素組成が合わないものを作れない。

 

もっと根本的な変換が起きている。

 

物質構築。

 

情報に基づいた再配列。

 

必要な構造を指定し。

 

使用者側の資源を消費して。

 

別の物質として出力する。

 

「かなり良いですね」

 

思っていたより良い。

 

問題も分かりやすい。

 

第一。

 

使用者の身体資源へ依存している。

 

大量生成すれば、それだけ使用者が消耗する。

 

研究設備として使うなら不便だ。

 

身体の脂肪量が生産能力の上限になる。

 

第二。

 

生成対象に制限がある。

 

私は培養した個性因子へ刺激を入れる。

 

既存の発動情報を模倣する。

 

反応。

 

出力。

 

生成対象を変えるための部分。

 

そこへ、生体由来物質の情報を与える。

 

細胞。

 

反応しない。

 

別条件。

 

血液。

 

やはり拒否。

 

個性因子。

 

さらに強く止まる。

 

「生物生成不可」

 

制約が構造として入っている。

 

能力不足ではない。

 

作れないのではなく、作らないように止められている。

 

興味深い。

 

生体物質を生成対象へ指定した時点で、途中の処理が遮断される。

 

何らかの安全装置なのか。

 

個性の自然形成過程で生じた制約なのか。

 

そこまでは今は分からない。

 

ただ。

 

研究に使うなら不要だった。

 

私は記録する。

 

脂肪依存。

 

生物生成不可。

 

この二つ。

 

最初に変える。

 

◇ ◇ ◇

 

脂肪依存の方から考える。

 

必要なのは、物質とエネルギー。

 

生成物の構成そのものは『創造』側が行う。

 

なら、入力を使用者の脂肪だけへ固定する理由はない。

 

少なくとも研究用に改造するなら。

 

光。

 

熱。

 

電気。

 

周囲には利用できるエネルギーがいくらでもある。

 

まず外部エネルギーを取り込む。

 

変換。

 

一時蓄積。

 

生成機構へ渡す。

 

ただしエネルギーだけでは物質量の問題が残る。

 

元の『創造』が、脂肪そのものをどの程度物質資源として使い、どの程度エネルギー源として使っているかを分けて確認する必要がある。

 

測定。

 

刺激。

 

生成。

 

質量変化。

 

再測定。

 

一度では足りない。

 

条件を変える。

 

生成物の種類を変える。

 

単純な物質。

 

複雑な構造。

 

同じ質量でも必要量が違うか。

 

結果を見る。

 

「情報量ではなく、主に生成量ですね」

 

複雑な構造を作るほど消費が極端に増えるわけではない。

 

少なくとも今回の範囲では。

 

重要なのは質量と変換時の負荷。

 

なら。

 

外部からエネルギーを取る仕組みは組める。

 

光を吸収する個性因子。

 

熱を吸収する個性因子。

 

既存のものがある。

 

それをそのまま混ぜるわけではない。

 

『創造』側の入力経路へ接続できるように段階的に調整する。

 

今日は設計。

 

明日以降、小改変。

 

培養。

 

安定化。

 

それを繰り返す。

 

一度で大きく変えれば、どこが壊れたか分からなくなる。

 

これまで何度もやってきた方法だった。

 

ただ。

 

完成した場合の影響は、今までより大きい。

 

使用者の脂肪だけに依存しない。

 

外部の光や熱を取れる。

 

蓄積しておける。

 

必要な時に物質生成へ使える。

 

そこまで行けば。

 

生成量の制限はかなり変わる。

 

「家の設備も増やせますね」

 

口にしてから、私は部屋を見る。

 

今は既存の研究機材だけ。

 

必要な装置を買う。

 

運ぶ。

 

設置する。

 

調整する。

 

それが普通だ。

 

でも。

 

『創造』が十分な物質生成能力を持つなら。

 

必要な材料そのものを作れる。

 

部品も。

 

構造材も。

 

研究設備も。

 

もちろん設計図は必要だ。

 

知らない機械が勝手に生えるわけではない。

 

精度も確認する必要がある。

 

だが。

 

可能性はある。

 

今すぐ家を改造するつもりはない。

 

能力そのものがまだ完成していない。

 

先に個性を作る。

 

設備の話はその後だった。

 

◇ ◇ ◇

 

次。

 

生物生成不可。

 

こちらはもっと直接的だった。

 

制限機構がある。

 

なら、その部分を外す。

 

簡単に言えばそれだけ。

 

実際には、それで終わらない。

 

制限を外しても、生体物質の構造情報を正しく処理できなければ意味がない。

 

細胞一個でも複雑だ。

 

血液。

 

タンパク質。

 

細胞膜。

 

核。

 

DNA。

 

さらに個性因子。

 

私が欲しいのは特に最後だった。

 

個性因子を生成できるなら。

 

培養によって増やす必要がなくなる可能性がある。

 

今は、試料を採る。

 

培養する。

 

量を増やす。

 

安定化する。

 

時間がかかる。

 

もし。

 

構造さえ指定できれば『創造』で個性因子を直接生成できるなら。

 

工程を一つ飛ばせる。

 

私は少し手を止めた。

 

それだけではない。

 

今は血液から因子を取っている。

 

元になるものが必要。

 

しかし個性因子そのものを生成できるなら。

 

理論上は。

 

設計した構造を、そのまま物質として出せる。

 

ただし。

 

まだそこへは行けない。

 

私は記録に線を引く。

 

『創造』には物質を作る能力がある。

 

でも。

 

存在しない個性因子の設計図を、どう能力側へ渡すか。

 

そこが別問題だ。

 

今の『創造』は、使用者が理解した物質を生成する。

 

だが、私が人工個性として設計した複雑な因子構造を、そのまま出力対象へ指定できる保証はない。

 

生成能力。

 

設計情報。

 

二つは別。

 

だから。

 

『コピー』。

 

私は隣に保存してある物間さんの試料を見る。

 

あちらも調べる必要がある。

 

接触した他人の個性へ、自分の因子状態を合わせる。

 

もし構造変換機能を利用できるなら。

 

設計情報の側を処理できる可能性がある。

 

ただし、それは明日以降。

 

今日は『創造』。

 

順番にやる。

 

◇ ◇ ◇

 

生体物質の制約部分をさらに追う。

 

発動時。

 

対象情報の判定。

 

禁止条件。

 

停止。

 

私は一部だけを複製し、培養皿を分ける。

 

元の試料は残す。

 

改変用。

 

比較用。

 

対照。

 

三つ。

 

制限機構を直接壊すのではなく。

 

まず判定閾値を変える。

 

生体由来でも単純な物質なら通す。

 

いきなり細胞ではない。

 

既存の構造に近いものから。

 

小改変。

 

因子へ処理。

 

反応。

 

一部不安定化。

 

失敗。

 

廃棄。

 

次。

 

変更量を減らす。

 

培養。

 

安定。

 

刺激。

 

反応。

 

今度は維持。

 

ただし生成までは行かない。

 

まだ制限が残っている。

 

「こちらですね」

 

位置を絞る。

 

一つの機能に見えても、制限は一か所ではない。

 

入力段階。

 

生成情報処理。

 

出力直前。

 

複数。

 

自然発生した個性は、私が設計した装置のように分かりやすく整理されていない。

 

不要な迂回。

 

重複。

 

発生過程の名残。

 

それらがある。

 

だから面白い。

 

私は時間を見る。

 

日付が変わりかけていた。

 

夕食をまだ食べていない。

 

研究を続けることはできる。

 

ただ、空腹で効率が落ちる。

 

培養待ちもある。

 

私は装置へ次の条件を設定してから席を立った。

 

冷蔵庫。

 

簡単に食べられるもの。

 

加熱。

 

食事。

 

その間も頭の中では構造を整理する。

 

脂肪。

 

外部エネルギー。

 

蓄積。

 

生成。

 

生体制限。

 

解除。

 

個性因子。

 

戻った頃には、培養槽の一つが次の測定へ進める状態になっていた。

 

◇ ◇ ◇

 

体育祭前まで。

 

私は人工個性を一つ作るために、元の個性を少しずつ変更してきた。

 

一度変える。

 

培養する。

 

安定するか見る。

 

次へ。

 

その繰り返し。

 

光操作ベルトもそうだった。

 

最初から、照明、閃光、レーザー、光弾、壁、足場、鞭、刃を自由に使える個性が存在したわけではない。

 

元になる光系因子を調整した。

 

何度も。

 

それでも。

 

元の性質から大きく離れるほど、時間がかかる。

 

『創造』の改造も同じだ。

 

むしろ今回の変更は大きい。

 

エネルギー源を変える。

 

生成可能対象を変える。

 

個性の根幹へ触れる。

 

一晩で完成させるのは無理だった。

 

だから今日は。

 

構造を把握する。

 

変更箇所を決める。

 

最初の小改変を入れる。

 

それで十分。

 

私は新しい培養皿を確認した。

 

改変した因子は生きている。

 

崩壊していない。

 

元の『創造』の主要構造も維持。

 

ただし。

 

まだ外部エネルギーは使えない。

 

生体物質も作れない。

 

入口を一つ変えただけ。

 

ここから。

 

次の変更。

 

培養。

 

また次。

 

時間がかかる。

 

今までと同じ。

 

「しばらくは仕方ありませんね」

 

それでも。

 

今回は終点が見えている。

 

外部エネルギーを使う『創造』。

 

生体物質を作れる『創造』。

 

血液。

 

細胞。

 

そして個性因子。

 

そこまで通す。

 

完成すれば。

 

研究に必要な物質を、自分で作れる。

 

今までより桁違いに便利になる。

 

私は記録を保存する。

 

その横に。

 

新しい欄を作った。

 

『コピー』

 

明日は、こちらを見る。

 

『創造』だけでは足りない。

 

物質を作れても。

 

作るべき個性因子の構造を自由に指定できなければ、まだ任意の人工個性は作れない。

 

だから次は。

 

他者の個性へ合わせて自分の因子を変える能力。

 

物間寧人の『コピー』。

 

私は保存容器の中にある二つ目の試料を見る。

 

体育祭で三つ採った。

 

一つ目だけでも、すでに今までの研究方法を変えられる可能性がある。

 

残りも調べる価値がある。

 

時刻は遅い。

 

培養には時間が必要。

 

今日はここまででも進行は止まらない。

 

装置は動き続ける。

 

私は最後に『創造』の培養状態を確認した。

 

問題なし。

 

まだ完成していない。

 

まだ何も自由には作れない。

 

ただ。

 

どこを変えればいいかは分かった。

 

それなら、後は一つずつ変えていけばよかった。

 

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