無個性は個性をつくる   作:匿名希望

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第22話 コピーを作り変える

翌朝。

 

起きて最初に確認したのは、『創造』の培養槽だった。

 

昨夜入れた最初の小改変。

 

状態は安定。

 

増殖にも大きな異常なし。

 

ただし、まだ元の機能からほとんど変わっていない。

 

外部エネルギーを利用できるわけでもない。

 

生体物質を作れるわけでもない。

 

入口を少し変えただけだ。

 

予定通り。

 

私は測定値を保存し、培養を継続させる。

 

次の変更は、十分増えてから。

 

急ぐ必要はない。

 

そこで隣を見る。

 

物間寧人。

 

昨日は手を付けなかった試料。

 

『コピー』。

 

「今日は、こちらですね」

 

◇ ◇ ◇

 

物間さんの血液も、『創造』と同じように分ける。

 

保存。

 

培養。

 

解析。

 

元試料は可能な限り残す。

 

失敗しても戻れるようにするためだ。

 

因子を分離。

 

機器で測定。

 

個性因子知覚を重ねる。

 

最初に分かったのは、構造の変化がかなり大きいことだった。

 

普通の個性なら。

 

炎を出す。

 

身体を硬くする。

 

浮く。

 

光を作る。

 

個性因子の中に、それを行うための基本構造が存在する。

 

当然、実際にはもっと複雑だが。

 

出力される現象と、因子の機能にはある程度の対応がある。

 

『コピー』は違う。

 

この因子自体には。

 

炎を出す構造も。

 

硬化する構造も。

 

他人の具体的な個性機能も。

 

固定された形では入っていない。

 

代わりに。

 

外から情報を取る部分。

 

取り込んだ情報を保持する部分。

 

そして。

 

自分側の状態を変える部分。

 

その三つが目立つ。

 

「やはり、こちらが本体ですか」

 

障害物競走で見た時から考えていた。

 

物間さんは接触した相手の個性を再現していた。

 

なら。

 

『コピー』という個性の本質は、他人の能力を大量に内蔵していることではない。

 

接触した相手を見本にして。

 

自分の個性因子の状態を。

 

相手と同じ機能を発現できる形へ一時的に変えること。

 

そう考える方が自然だった。

 

今。

 

実物を見て、その可能性がかなり高くなった。

 

◇ ◇ ◇

 

私は培養した因子へ刺激を入れる。

 

本来の発動条件を完全に再現するのは難しい。

 

生体内では、接触情報。

 

相手側の個性因子。

 

神経系。

 

その他の条件が連動する。

 

だから一つずつ見る。

 

まず。

 

接触に反応する部分。

 

次。

 

対象側の個性因子情報を読み取る部分。

 

そこから後。

 

内部の状態変化。

 

測定値が動く。

 

自分自身の因子構造を壊しているわけではない。

 

もっと一時的。

 

基礎構造を残したまま。

 

発現側の状態を、読み取った相手へ合わせる。

 

そして一定条件の後。

 

元へ戻る方向の機構が動く。

 

「変換と復元」

 

記録する。

 

接触。

 

読取。

 

変換。

 

維持。

 

復元。

 

大まかにはこの順番。

 

『コピー』という名前は、結果だけを見れば正しい。

 

ただ。

 

研究に使いたいのはコピーそのものではなかった。

 

重要なのは。

 

他者の個性構造を読み取り。

 

それに合わせて。

 

個性因子の状態を変えられること。

 

変換機構。

 

こちらだった。

 

◇ ◇ ◇

 

私は既存の人工個性を一つ取り出した。

 

体育祭で使ったものではない。

 

以前から研究用に保管している単純な因子。

 

構造は全部分かっている。

 

出力。

 

条件。

 

制約。

 

既知。

 

これを比較対象にする。

 

『コピー』側。

 

既知因子側。

 

二つを並べる。

 

物間さんの個性なら、本来は人間へ接触し。

 

その人間の個性情報を取る。

 

でも。

 

欲しいのはそこではない。

 

「相手は必要ありませんね」

 

私は接触検知部分を見る。

 

不要。

 

対象個性の自動読取。

 

これも、そのままでは不要。

 

欲しいのは。

 

読み取った後。

 

得られた構造へ、自分を合わせる部分。

 

なら。

 

入力を変える。

 

他人の身体から読むのではなく。

 

私が指定する。

 

◇ ◇ ◇

 

個性因子を研究する時。

 

私は構造を記録している。

 

どこが発動条件か。

 

どこが出力か。

 

どこが対象指定か。

 

どこが制約か。

 

どこが安全装置か。

 

完全な個性なら、それぞれの関係まで。

 

今までは、それを見ながら実際の因子へ少しずつ手を加えてきた。

 

変更する。

 

培養。

 

確認。

 

また変更。

 

設計情報はある。

 

ただし。

 

その情報から、個性因子を直接作る方法がない。

 

だから物理的な試料へ、一つずつ変更を加えている。

 

昨日の『創造』は。

 

物質を作る能力だった。

 

生物生成の制約を外せば、個性因子そのものを作れる可能性がある。

 

でも。

 

作る能力があっても。

 

何を作るか指定できなければ意味がない。

 

そこに。

 

『コピー』。

 

私は二つの構造を並べて表示する。

 

元の『コピー』は。

 

接触した人間を設計図として使う。

 

相手の個性因子を読む。

 

その状態を見本にする。

 

そして自分を合わせる。

 

なら。

 

人間を見本にする必要をなくせばいい。

 

代わりに。

 

私が作った設計図を見本にする。

 

◇ ◇ ◇

 

設計図。

 

と言っても、紙に線を描けば個性になるわけではない。

 

個性因子の状態そのものを記述した情報。

 

発動条件。

 

作用。

 

対象。

 

出力。

 

制約。

 

維持。

 

停止。

 

副作用。

 

それぞれを。

 

どの構造が担当するか。

 

どう接続するか。

 

私は既存因子を解析する時、すでに似たことをしている。

 

違うのは。

 

今までは、その記録を私が見て。

 

私が因子へ変更を加えていた。

 

それを。

 

『コピー』自身にやらせる。

 

「こちらの方がいいですね」

 

接触対象。

 

不要。

 

生体からの自動読取。

 

不要。

 

一時的な他者模倣。

 

目的ではない。

 

残すもの。

 

因子状態の読み込み。

 

構造対応。

 

変換。

 

これを中心にする。

 

入力は。

 

指定した因子設計図。

 

出力は。

 

その設計図と同じ状態へ変換された個性因子。

 

かなり形が変わる。

 

元の能力をそのまま強くする改造ではない。

 

機能を抜き出し。

 

用途を変える。

 

◇ ◇ ◇

 

問題は三つあった。

 

一つ目。

 

元の『コピー』は、実物の個性因子を見本にする。

 

実物なら情報が足りないということはない。

 

目の前に完成品があるからだ。

 

私の設計図は違う。

 

私が間違えれば、その間違った構造へ変換しようとする。

 

「それは問題ありませんね」

 

自分で確認すればいい。

 

むしろ。

 

必要な機能だった。

 

勝手に補完される方が困る。

 

私が指定した構造を。

 

指定したまま作る。

 

安全装置を書かなければ安全装置なし。

 

制約を入れれば制約あり。

 

その方が設計技術として扱いやすい。

 

二つ目。

 

元へ戻る機構。

 

物間さんの『コピー』は一時的。

 

だから本来の状態を保持しておき、後で戻る必要がある。

 

今回の用途では邪魔だった。

 

個性因子を設計状態へ変えた後。

 

時間が来たから元に戻られては困る。

 

ただし。

 

完全に復元機構を消していいかは別。

 

変換に失敗した時。

 

不安定化した時。

 

途中状態を破棄できる方が安全。

 

自動復元ではなく。

 

制御された中断機構として使える。

 

三つ目。

 

変換対象。

 

元の能力では。

 

物間さん本人の個性因子状態を変える。

 

私が欲しいのは。

 

培養中の因子。

 

装備へ搭載する因子。

 

将来的には『創造』で新しく生成する因子。

 

つまり。

 

自分自身だけではなく。

 

指定した個性因子を変換対象にする必要がある。

 

ここは大きな変更になる。

 

すぐにはできない。

 

◇ ◇ ◇

 

私は一つずつ実験する。

 

まず接触条件。

 

完全に外さない。

 

閾値を緩める。

 

通常なら、生体への接触から始まる部分へ。

 

機器から疑似入力。

 

反応。

 

失敗。

 

因子の一部が不安定化。

 

保存していた予備には影響なし。

 

廃棄。

 

二つ目。

 

入力経路を変える。

 

今度は反応する。

 

ただ。

 

変換側まで届かない。

 

「ここで本人確認もしていますね」

 

接触した何かなら何でもコピーするわけではない。

 

相手側の因子情報を取得した後、それが変換可能な形か判定している。

 

なら。

 

設計図入力も、同じ判定形式へ変換する必要がある。

 

機械側から渡す情報形式を合わせる。

 

もう一度。

 

反応。

 

今度は変換機構が動いた。

 

ほんの一部。

 

因子構造が変わる。

 

すぐ元へ戻る。

 

「成功ですね」

 

完成ではない。

 

狙った個性になったわけでもない。

 

構造の一部を。

 

外部から指定した状態へ動かせただけ。

 

だが。

 

重要なのは。

 

他人へ触れていない。

 

実物の別個性も読み取っていない。

 

私が指定した情報だけで。

 

『コピー』の変換機構が動いた。

 

入口は作れる。

 

◇ ◇ ◇

 

次に。

 

既知の因子構造から、ごく小さな部分だけを設計情報として渡す。

 

発動機能そのものではない。

 

識別しやすい構造。

 

失敗しても危険が少ない部分。

 

変換。

 

一部一致。

 

復元。

 

もう一度。

 

指定量を少し増やす。

 

不安定化。

 

中止。

 

記録。

 

条件変更。

 

再試行。

 

全体を一度に変える気はない。

 

それをすれば壊れる。

 

今までと同じだ。

 

小さく。

 

確認。

 

培養。

 

次。

 

ただ。

 

以前との違いが一つある。

 

最終的に。

 

この機構が完成すれば。

 

一つ一つを私が手作業で変更する必要がなくなる可能性がある。

 

設計図を作る。

 

『コピー』へ与える。

 

因子が指定状態へ変わる。

 

昨日の改造『創造』が完成すれば。

 

個性因子そのものを必要量作る。

 

その因子を。

 

改造『コピー』で設計状態へ変える。

 

私は一度、手を止めた。

 

順番を考える。

 

設計。

 

変換。

 

生成。

 

あるいは。

 

生成しながら変換。

 

組み合わせ方はいくつかある。

 

まだ決めなくていい。

 

二つとも完成していない。

 

ただ。

 

必要な部品は見えた。

 

◇ ◇ ◇

 

今まで。

 

人工個性を作るには。

 

元になる個性が必要だった。

 

光を変えるなら、光系因子。

 

浮遊を変えるなら、浮遊系因子。

 

精神干渉耐性を作るにも、元になる精神系因子。

 

そこから段階改造。

 

私はかなり自由に変えられる。

 

しかし。

 

ゼロから何でも作れるわけではなかった。

 

元の構造に引っ張られる。

 

変更量が大きいほど時間もかかる。

 

不安定化も増える。

 

それが今までの方法。

 

『創造』と『コピー』を作り変えれば。

 

その制約を外せるかもしれない。

 

物質としての個性因子は『創造』。

 

構造を指定状態へ変えるのは『コピー』。

 

なら。

 

元になる個性が存在する必要がない。

 

必要なのは。

 

私が構造を設計できること。

 

それだけ。

 

「……かなり変わりますね」

 

研究方法そのものが。

 

血液を集める意味。

 

培養する時間。

 

既存因子を少しずつ改造する必要。

 

全部。

 

今とは違う形になる可能性がある。

 

まだ可能性。

 

ここで完成したことにしてはいけない。

 

今できたのは。

 

『コピー』へ外部設計情報を入力できそうだと確認したこと。

 

それだけ。

 

でも。

 

それで十分だった。

 

◇ ◇ ◇

 

昼前。

 

私は一度研究を止めた。

 

学校がある。

 

雄英へ遅刻してまで続ける必要はない。

 

培養は自動で進む。

 

帰ってから続きをやればいい。

 

『創造』。

 

一系統。

 

『コピー』。

 

一系統。

 

両方とも改変途中。

 

別々の培養槽。

 

比較用の元因子も保存。

 

私は装置の状態を確認する。

 

問題なし。

 

朝食の片付け。

 

制服。

 

鞄。

 

体育祭の銅メダルは机の端に置いたままだった。

 

持っていく理由はない。

 

家を出る前に、研究記録をもう一度見る。

 

『創造』

 

使用者脂肪への依存を外す。

 

外部の光、熱等からエネルギー取得。

 

蓄積。

 

生体物質生成制限解除。

 

細胞。

 

血液。

 

個性因子。

 

『コピー』

 

接触対象依存を外す。

 

他者個性の自動読取を、指定設計情報入力へ変更。

 

一時複製ではなく、指定因子構造への変換。

 

自動復元は安全用の中断機構へ再設計。

 

変換対象を本人だけに固定しない。

 

変更点は多い。

 

一日では終わらない。

 

それでも。

 

昨日までとは違う。

 

何を作るか。

 

どこを変えるか。

 

その先に何ができるか。

 

かなりはっきりしている。

 

あとは。

 

小さく変える。

 

培養する。

 

安定を確認する。

 

また変える。

 

これまで何度もやってきた方法を。

 

もう一度続ければいい。

 

ただし。

 

おそらく。

 

この方式で大規模な人工個性改造をするのは。

 

これが最後になる。

 

私は研究室の照明を落とした。

 

培養装置だけが動き続ける。

 

一週間もあれば。

 

かなり進められるはずだった。

 

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