無個性は個性をつくる 作:匿名希望
一週間もあれば。
前日の私は、そう考えていた。
実際。
一週間かかった。
◇ ◇ ◇
一日目。
学校へ行く前に、『創造』と『コピー』の培養槽を確認する。
どちらも前日に入れた小改変は維持されていた。
崩壊なし。
異常増殖なし。
主要構造も残っている。
だから次へ進める。
ただし、すぐには触らない。
培養量が足りない。
変更した因子を一つしか持っていない状態で次の改変を重ねれば、失敗した時に比較対象がなくなる。
増やす。
分ける。
一部を保存。
一部へ次の変更。
それが基本だった。
培養槽の条件を設定する。
私は制服へ着替えた。
家を出る。
学校へ行く。
授業を受ける。
課題を終える。
帰宅する。
その間に因子が増える。
帰ってから測定。
安定していれば次の変更。
この工程は、私がどれだけ速く考えられても短縮できない。
細胞や個性因子が増える時間は、考える速度とは別だった。
◇ ◇ ◇
帰宅。
まず『創造』。
外部エネルギー入力側。
昨日は入力経路の一部を変えただけ。
今日は光吸収系の既存因子構造を小さく接続する。
そのまま付けるわけではない。
『創造』側が外部入力として認識できる形へ調整する。
一度目。
過剰反応。
生成機構まで信号が届かず、途中で因子の一部が不安定化。
失敗。
保存していた系列からやり直す。
接続箇所を一つずらす。
入力強度を落とす。
二度目。
光への反応。
微弱。
生成には足りない。
ただし。
脂肪消費側とは別の経路で、外部からエネルギーが入った。
成功。
私は記録する。
ここで止める。
もう一段変えたい。
だが今やれば、今の成功個体まで失う可能性がある。
培養。
増やす。
明日。
次。
『コピー』。
接触した人間から情報を読む部分を、外部から与えた設計情報へ置き換える。
昨日、ごく一部だけ反応した。
今日はその入力範囲を広げる。
既知の単純な因子構造を使う。
全体ではない。
発動に関係しない一部分。
情報入力。
変換。
反応。
一部一致。
その後。
元へ戻る。
復元機構が動いた。
想定通り。
今日はここまで。
復元機構を完全に壊す前に、どこまで変換側と独立しているか確認する必要がある。
培養。
保存。
次。
夕食。
入浴。
睡眠。
研究を続けてもいいが、翌日の判断速度が落ちる。
一晩で終わる研究ではない。
なら、寝た方がいい。
◇ ◇ ◇
二日目。
朝。
『創造』の改変個体は増えていた。
『コピー』も同じ。
学校へ行く前に一部を分ける。
保存。
培養継続。
学校。
帰宅。
再開。
『創造』へ今度は熱入力系を追加する。
光だけに限定すると、暗い場所で効率が落ちる。
熱。
光。
将来的には電気でも構わない。
ただ、最初から入力形式を増やしすぎると原因を追えない。
まず二つ。
光。
熱。
それぞれを取り込み。
共通の蓄積側へ送る。
問題は蓄積だった。
入力してすぐ使うだけなら簡単。
だが。
研究設備として使うなら、余っている時に溜めておいた方がいい。
私は既存の蓄積系因子を比較する。
そのまま移植すると干渉が大きい。
必要部分だけ残す。
改変。
失敗。
次。
不安定。
次。
維持。
ただし漏れる。
蓄積したエネルギーが少しずつ逃げる。
実用にはならない。
「ここですね」
漏出部分を確認する。
変更候補を記録。
今日は触らない。
培養待ち。
一方。
『コピー』。
自動復元。
完全に削除する案はやめた。
変換途中で異常が出た場合に、戻せる機構は残した方がいい。
だから。
時間経過による自動復元を外す。
外部命令がある時だけ戻す。
そう変える。
最初の改変。
復元しない。
成功。
しかし。
変換状態の維持が不安定。
元へ戻らない代わりに、少しずつ崩れていく。
失敗。
復元と安定化が同じ経路を一部共有していた。
切ればいいというものではない。
また設計を修正する。
培養。
待つ。
◇ ◇ ◇
三日目。
研究だけをしているわけではない。
学校は普通にある。
サポート科の課題もある。
体育祭が終わったからといって授業が止まるわけではない。
加工。
設計。
材料。
課題。
私はいつも通り終わらせる。
発目さんは体育祭で見せた装備について何か話していた。
新しいベイビー。
改良案。
企業への見せ方。
私は聞かれた部分だけ答える。
自分の研究について細かく話す必要はない。
帰宅。
培養槽。
こちらの方が重要だった。
『創造』。
エネルギー蓄積部を修正。
再測定。
光を当てる。
蓄積。
照射停止。
保持。
時間経過。
まだ残っている。
熱入力。
蓄積。
同じ領域へ入る。
「これなら使えますね」
まだ完成ではない。
入力経路ができただけ。
生成機構へ接続する。
元々は脂肪由来の資源を使っていた部分。
そこへ外部エネルギーを渡す。
発動刺激。
生成。
小さな無機物。
ほんの僅か。
生成できた。
使用者の脂肪に相当する供給は入れていない。
外部光から蓄えたエネルギーを使っている。
一つ目。
通った。
ただし効率が悪い。
入力した量に対して生成量が少ない。
変換途中で損失が大きい。
後で直す。
今は。
動く構造を保存する。
培養。
『コピー』。
変換維持部分を修正。
設計情報入力。
既知構造へ変換。
維持。
五分。
十分。
元へ戻らない。
崩れない。
外部から復元命令。
元構造へ復帰。
「こちらも通りましたね」
保存。
培養。
まだ全体ではない。
一部分の変換。
次は対象範囲を広げる。
◇ ◇ ◇
四日目。
『創造』側では、生体物質生成の制限へ入る。
元の個性は。
生物に関係する対象を指定した時点で止まる。
それも一か所ではない。
入力時。
構造処理時。
出力時。
複数の制限。
昨日までに、一番外側の判定は緩めてある。
今日は次。
最初から個性因子を作ろうとはしない。
単純な生体由来物質。
構造が分かっているもの。
生体由来だから拒否されるだけで、生成そのものは難しくない対象。
指定。
停止。
二つ目の制限。
変更。
再試行。
生成途中で停止。
三つ目。
変更。
今度は出た。
量は少ない。
構造も一部不完全。
ただ。
生体由来という理由だけでは止まらなくなった。
次。
より複雑なもの。
失敗。
また変更。
培養。
私は時計を見る。
午前一時を過ぎている。
明日も学校。
続きは明日。
装置を設定。
寝る。
◇ ◇ ◇
五日目。
朝。
不安定化した系列が一つ死んでいた。
別の二系列は生存。
失敗個体を捨てる。
原因を記録。
学校。
帰宅。
『コピー』側を優先する。
これまでは構造の一部だけ。
今日は一つの既知人工個性因子を、対象として使う。
もちろん。
危険な能力ではない。
発現させなくても構造一致を確認できるもの。
元になる因子。
設計図。
変換開始。
途中。
停止。
構造不整合。
失敗。
原因。
変換順序。
元の『コピー』は相手の完成した個性を読みながら、自分を合わせている。
全体情報を持っていても、全部を同時に書き換えているわけではない。
内部に順序がある。
土台。
接続。
発動。
出力。
制約。
順番を無視して一気に変えれば、途中状態が成立しない。
私は設計情報側に変換順序を追加する。
再試行。
今度は最後まで進む。
測定。
比較。
一致率。
まだ足りない。
一部に元構造が残る。
そこを指定。
再変換。
一致。
「かなり近いですね」
発現させる必要はない。
因子構造として一致すればいい。
ただ。
一回成功しただけでは使えない。
もう一系列。
同じ条件。
変換。
一致。
三回目。
不安定。
原因確認。
調整。
また培養。
再現性が必要だった。
◇ ◇ ◇
六日目。
『創造』。
細胞。
最初の試験。
既知の細胞構造を入力する。
生成開始。
途中で崩れる。
細胞膜。
内部構造。
物質として部品を作ることはできる。
ただ。
一つの生きた細胞として成立する配置が維持されない。
修正。
順序。
同時生成ではなく。
外側と内側。
成立条件。
環境。
一つずつ。
二度目。
形にはなる。
機能しない。
三度目。
短時間維持。
四度目。
生存。
私は生成された微量の細胞を別容器へ移す。
観察。
時間経過。
異常なし。
増殖能力までは確認しない。
今必要なのは。
『創造』が生体物質を生成できること。
次。
血液。
単純ではないが、細胞より評価しやすい部分もある。
生成。
測定。
既知試料と比較。
問題なし。
最後。
個性因子。
ここが目的。
いきなり『創造』そのものを作らせない。
既に構造を熟知している単純な因子。
長年扱ってきた研究用人工個性。
設計情報。
外部光をエネルギーとして供給。
生成。
反応。
極微量。
私は個性因子知覚で見る。
ある。
人工個性因子。
元試料を材料にはしていない。
培養でもない。
外部エネルギーを使い。
指定した構造に従って。
新しく生成された。
「成功ですね」
ただし。
これは既知の因子。
完全新規ではない。
それでも大きい。
今までなら。
因子を増やすには培養するしかなかった。
今は。
構造情報があれば。
『創造』で物質として出せる。
少なくとも既知構造なら。
私は生成した因子を保存。
同じ操作をもう一度。
二つ目。
比較。
一致。
完全ではない。
ごく僅かな差。
生成条件を調整。
三つ目。
差が減る。
まだ改善できる。
でも。
機能の中核は完成していた。
次。
『コピー』。
指定設計情報による全体変換。
昨日の調整を反映。
変換。
安定。
再測定。
既知因子との比較。
一致。
別系列。
一致。
外部復元命令。
元へ戻る。
問題なし。
今度は復元しない設定。
維持。
問題なし。
こちらも。
使える。
◇ ◇ ◇
七日目。
私は朝から二つを並べていた。
改造『創造』。
改造『コピー』。
体育祭で手に入れた時とは、かなり違う。
『創造』。
使用者の脂肪だけに依存しない。
外部の光。
熱。
そこからエネルギーを取れる。
蓄積できる。
生体物質を拒否する制限も外した。
細胞。
血液。
個性因子。
生成できる。
『コピー』。
他人へ接触する必要はない。
相手の個性を自動で読み取る必要もない。
私が構造情報を与える。
その情報に従って、対象となる個性因子を指定状態へ変換する。
一時的に似せるだけではない。
その状態で維持できる。
必要なら戻せる。
二つ。
別々なら、もう動く。
私は一週間分の記録を見返す。
失敗した培養皿。
廃棄した系列。
不安定化。
変換不足。
生成不良。
経路干渉。
復元暴走。
出力不足。
一つずつ。
変更して。
増えるまで待って。
測って。
駄目なら戻して。
また変えた。
これが。
今までの人工個性研究だった。
私は自分が作ってきた体育祭用装備を思い出す。
光。
浮遊。
ジェット。
精神干渉耐性。
報復。
ループ。
その他。
どれも。
思いついた日に完成したわけではない。
元になる個性因子を用意する。
少し変える。
培養する。
壊れていないか見る。
また変える。
一つの改変が成功しても。
十分な量になるまで待つ。
次の変更を加えれば。
また待つ。
頭の中では完成形が見えていても。
実物がそこまで進むには時間が要る。
今回は。
それを一週間続けた。
そして。
おそらく。
大規模な人工個性改造をこの方法で行うのは。
これが最後になる。
◇ ◇ ◇
机の上。
二つの因子。
改造『創造』。
改造『コピー』。
ここから先は。
今までと同じ方法で新しい個性を作る必要がない。
少なくとも理屈の上では。
私が個性を設計する。
構造を決める。
『コピー』で、その設計図の状態を因子へ反映する。
『創造』で、必要な個性因子そのものを作る。
問題は。
本当に。
存在したことのない個性でも作れるか。
既知因子の再現だけでは確認にならない。
二つを組み合わせた時。
完全新規の設計が。
実物になるのか。
試せばいい。
そのためには。
まず、簡単な個性を一つ設計する。
既存の個性を改造するのではなく。
最初から。
発動条件。
作用。
対象。
出力。
制約。
安全装置。
全部。
私が決める。
私は新しい記録ファイルを開いた。
これまでなら。
そこから先に。
試料を探す工程があった。
近い個性を探す。
血液を得る。
培養する。
少しずつ作り変える。
今回は。
それがない。
必要なのは。
設計だけ。
まだ確認はしていない。
だから。
できるとは断定しない。
明日。
実際に作ってみれば分かる。
一週間動き続けた培養装置を見ながら、私は新しい設計欄の最初の一行へ入力した。
完全新規。
その文字を見ても、特別な感慨はなかった。
作れるかどうか。
確認すればいいだけだった。