無個性は個性をつくる   作:匿名希望

24 / 147
第24話 一週間

一週間もあれば。

 

前日の私は、そう考えていた。

 

実際、一週間かかった。

 

◇ ◇ ◇

 

一日目。

 

学校へ行く前に、『創造』と『コピー』の培養槽を確認する。

 

どちらも前日に入れた小改変は維持されていた。崩壊なし、異常増殖なし。主要構造も残っている。

 

だから次へ進める。ただし、すぐには触らない。培養量が足りない。

 

変更した因子を一つしか持っていない状態で次の改変を重ねれば、失敗した時に比較対象がなくなる。

 

増やす。分ける。一部を保存し、一部へ次の変更。

 

それが基本だった。

 

培養槽の条件を設定する。私は制服へ着替えた。

 

家を出る。学校へ行く。授業を受ける。課題を終える。帰宅する。

 

その間に因子が増える。帰ってから測定し、安定していれば次の変更。

 

この工程は、私がどれだけ速く考えられても短縮できない。細胞や個性因子が増える時間は、考える速度とは別だった。

 

◇ ◇ ◇

 

帰宅。

 

まず『創造』。

 

外部エネルギー入力側。昨日は入力経路の一部を変えただけ。

 

今日は光吸収系の既存因子構造を小さく接続する。そのまま付けるわけではない。『創造』側が外部入力として認識できる形へ調整する。

 

一度目。

 

過剰反応。生成機構まで信号が届かず、途中で因子の一部が不安定化。

 

失敗。

 

保存していた系列からやり直す。接続箇所を一つずらし、入力強度を落とす。

 

二度目。

 

光への反応は微弱。生成には足りない。

 

ただし、脂肪消費側とは別の経路で、外部からエネルギーが入った。

 

成功。

 

私は記録する。ここで止める。

 

もう一段変えたい。だが今やれば、今の成功個体まで失う可能性がある。

 

培養して増やす。続きは明日。

 

次、『コピー』。

 

接触した人間から情報を読む部分を、外部から与えた設計情報へ置き換える。昨日、ごく一部だけ反応した。

 

今日はその入力範囲を広げる。

 

既知の単純な因子構造を使う。全体ではない。発動に関係しない一部分。

 

情報入力。変換。反応。一部一致。

 

その後、元へ戻る。復元機構が動いた。

 

想定通り。

 

今日はここまで。復元機構を完全に壊す前に、どこまで変換側と独立しているか確認する必要がある。

 

培養して保存。次へ進む。

 

夕食。入浴。睡眠。

 

研究を続けてもいいが、翌日の判断速度が落ちる。一晩で終わる研究ではない。

 

なら、寝た方がいい。

 

◇ ◇ ◇

 

二日目。

 

朝。

 

『創造』の改変個体は増えていた。『コピー』も同じ。

 

学校へ行く前に一部を分ける。保存し、培養継続。

 

学校へ行き、帰宅して再開する。

 

『創造』へ今度は熱入力系を追加する。

 

光だけに限定すると、暗い場所で効率が落ちる。熱、光。将来的には電気でも構わない。

 

ただ、最初から入力形式を増やしすぎると原因を追えない。まず二つ。

 

光と熱。それぞれを取り込み、共通の蓄積側へ送る。

 

問題は蓄積だった。

 

入力してすぐ使うだけなら簡単。だが、研究設備として使うなら、余っている時に溜めておいた方がいい。

 

私は既存の蓄積系因子を比較する。そのまま移植すると干渉が大きい。必要部分だけ残す。

 

改変。失敗。

 

次。不安定。

 

次。維持。

 

ただし漏れる。蓄積したエネルギーが少しずつ逃げる。実用にはならない。

 

「ここですね」

 

漏出部分を確認する。変更候補を記録。

 

今日は触らない。培養待ち。

 

一方、『コピー』。

 

自動復元。

 

完全に削除する案はやめた。変換途中で異常が出た場合に、戻せる機構は残した方がいい。

 

だから、時間経過による自動復元を外す。外部命令がある時だけ戻す。

 

そう変える。

 

最初の改変。復元しない。

 

成功。

 

しかし、変換状態の維持が不安定。元へ戻らない代わりに、少しずつ崩れていく。

 

失敗。

 

復元と安定化が同じ経路を一部共有していた。切ればいいというものではない。

 

また設計を修正する。

 

培養。待つ。

 

◇ ◇ ◇

 

三日目。

 

研究だけをしているわけではない。学校は普通にある。

 

サポート科の課題もある。体育祭が終わったからといって授業が止まるわけではない。

 

加工、設計、材料、課題。

 

私はいつも通り終わらせる。

 

発目さんは体育祭で見せた装備について何か話していた。新しいベイビー、改良案、企業への見せ方。

 

私は聞かれた部分だけ答える。自分の研究について細かく話す必要はない。

 

帰宅。

 

培養槽。こちらの方が重要だった。

 

『創造』。

 

エネルギー蓄積部を修正し、再測定。

 

光を当てる。蓄積。照射停止。保持。時間経過。

 

まだ残っている。

 

熱入力。蓄積。同じ領域へ入る。

 

「これなら使えますね」

 

まだ完成ではない。入力経路ができただけ。

 

生成機構へ接続する。

 

元々は脂肪由来の資源を使っていた部分。そこへ外部エネルギーを渡す。

 

発動刺激。生成。

 

小さな無機物。ほんの僅かだが、生成できた。

 

使用者の脂肪に相当する供給は入れていない。外部光から蓄えたエネルギーを使っている。

 

一つ目。通った。

 

ただし効率が悪い。入力した量に対して生成量が少ない。変換途中で損失が大きい。

 

後で直す。

 

今は、動く構造を保存する。培養。

 

『コピー』。

 

変換維持部分を修正。

 

設計情報入力。既知構造へ変換。維持。

 

五分。十分。

 

元へ戻らない。崩れない。

 

外部から復元命令。

 

元構造へ復帰。

 

「こちらも通りましたね」

 

保存。培養。

 

まだ全体ではない。一部分の変換。

 

次は対象範囲を広げる。

 

◇ ◇ ◇

 

四日目。

 

『創造』側では、生体物質生成の制限へ入る。

 

元の個性は、生物に関係する対象を指定した時点で止まる。

 

それも一か所ではない。入力時、構造処理時、出力時。複数の制限。

 

昨日までに、一番外側の判定は緩めてある。

 

今日は次。

 

最初から個性因子を作ろうとはしない。

 

単純な生体由来物質。構造が分かっているもの。生体由来だから拒否されるだけで、生成そのものは難しくない対象。

 

指定。停止。

 

二つ目の制限。

 

変更。再試行。

 

生成途中で停止。

 

三つ目。

 

変更。

 

今度は出た。

 

量は少ない。構造も一部不完全。

 

ただ、生体由来という理由だけでは止まらなくなった。

 

次。より複雑なもの。

 

失敗。

 

また変更。培養。

 

私は時計を見る。午前一時を過ぎている。

 

明日も学校。

 

続きは明日。

 

装置を設定して、寝る。

 

◇ ◇ ◇

 

五日目。

 

朝。

 

不安定化した系列が一つ死んでいた。別の二系列は生存。

 

失敗個体を捨て、原因を記録する。

 

学校。

 

帰宅。

 

『コピー』側を優先する。

 

これまでは構造の一部だけ。今日は一つの既知人工個性因子を、対象として使う。

 

もちろん、危険な能力ではない。発現させなくても構造一致を確認できるもの。

 

元になる因子。設計図。

 

変換開始。

 

途中、停止。

 

構造不整合。失敗。

 

原因は変換順序。

 

元の『コピー』は相手の完成した個性を読みながら、自分を合わせている。全体情報を持っていても、全部を同時に書き換えているわけではない。

 

内部に順序がある。

 

土台、接続、発動、出力、制約。

 

順番を無視して一気に変えれば、途中状態が成立しない。

 

私は設計情報側に変換順序を追加する。

 

再試行。

 

今度は最後まで進む。

 

測定。比較。一致率。

 

まだ足りない。一部に元構造が残る。

 

そこを指定。再変換。

 

一致。

 

「かなり近いですね」

 

発現させる必要はない。因子構造として一致すればいい。

 

ただ、一回成功しただけでは使えない。

 

もう一系列。同じ条件。

 

変換。一致。

 

三回目。

 

不安定。

 

原因確認。調整。

 

また培養。

 

再現性が必要だった。

 

◇ ◇ ◇

 

六日目。

 

『創造』。

 

細胞。

 

最初の試験。

 

既知の細胞構造を入力する。

 

生成開始。途中で崩れる。

 

細胞膜。内部構造。

 

物質として部品を作ることはできる。ただ、一つの生きた細胞として成立する配置が維持されない。

 

修正。

 

順序。同時生成ではなく、外側と内側。成立条件。環境。

 

一つずつ。

 

二度目。

 

形にはなる。機能しない。

 

三度目。

 

短時間維持。

 

四度目。

 

生存。

 

私は生成された微量の細胞を別容器へ移す。

 

観察。時間経過。

 

異常なし。

 

増殖能力までは確認しない。今必要なのは、『創造』が生体物質を生成できること。

 

次。

 

血液。

 

単純ではないが、細胞より評価しやすい部分もある。

 

生成。測定。既知試料と比較。

 

問題なし。

 

最後。

 

個性因子。

 

ここが目的。

 

いきなり『創造』そのものを作らせない。

 

既に構造を熟知している単純な因子。長年扱ってきた研究用人工個性。

 

設計情報。

 

外部光をエネルギーとして供給。

 

生成。

 

反応。

 

極微量。

 

私は個性因子知覚で見る。

 

ある。

 

人工個性因子。

 

元試料を材料にはしていない。培養でもない。

 

外部エネルギーを使い、指定した構造に従って、新しく生成された。

 

「成功ですね」

 

ただし、これは既知の因子。完全新規ではない。

 

それでも大きい。

 

今までなら、因子を増やすには培養するしかなかった。

 

今は、構造情報があれば、『創造』で物質として出せる。

 

少なくとも既知構造なら。

 

私は生成した因子を保存する。

 

同じ操作をもう一度。

 

二つ目。

 

比較。一致。

 

完全ではない。ごく僅かな差。

 

生成条件を調整。

 

三つ目。

 

差が減る。

 

まだ改善できる。

 

でも、機能の中核は完成していた。

 

次。

 

『コピー』。

 

指定設計情報による全体変換。

 

昨日の調整を反映。

 

変換。安定。再測定。

 

既知因子との比較。

 

一致。

 

別系列。

 

一致。

 

外部復元命令。

 

元へ戻る。

 

問題なし。

 

今度は復元しない設定。

 

維持。

 

問題なし。

 

こちらも使える。

 

◇ ◇ ◇

 

七日目。

 

私は朝から二つを並べていた。

 

改造『創造』。

 

改造『コピー』。

 

体育祭で手に入れた時とは、かなり違う。

 

『創造』。

 

使用者の脂肪だけに依存しない。外部の光や熱からエネルギーを取れる。蓄積できる。

 

生体物質を拒否する制限も外した。

 

細胞、血液、個性因子。

 

生成できる。

 

『コピー』。

 

他人へ接触する必要はない。相手の個性を自動で読み取る必要もない。

 

私が構造情報を与える。その情報に従って、対象となる個性因子を指定状態へ変換する。

 

一時的に似せるだけではない。その状態で維持できる。必要なら戻せる。

 

二つ。別々なら、もう動く。

 

私は一週間分の記録を見返す。

 

失敗した培養皿。廃棄した系列。不安定化。変換不足。生成不良。経路干渉。復元暴走。出力不足。

 

一つずつ変更して、増えるまで待って、測って、駄目なら戻して、また変えた。

 

これが、今までの人工個性研究だった。

 

私は自分が作ってきた体育祭用装備を思い出す。

 

光、浮遊、ジェット、精神干渉耐性、報復、ループ、その他。

 

どれも、思いついた日に完成したわけではない。

 

元になる個性因子を用意する。少し変える。培養する。壊れていないか見る。また変える。

 

一つの改変が成功しても、十分な量になるまで待つ。次の変更を加えれば、また待つ。

 

頭の中では完成形が見えていても、実物がそこまで進むには時間が要る。

 

今回は、それを一週間続けた。

 

そして、おそらく、大規模な人工個性改造をこの方法で行うのは、これが最後になる。

 

◇ ◇ ◇

 

机の上。

 

二つの因子。

 

改造『創造』。

 

改造『コピー』。

 

ここから先は、今までと同じ方法で新しい個性を作る必要がない。

 

少なくとも理屈の上では。

 

私が個性を設計する。構造を決める。

 

『コピー』で、その設計図の状態を因子へ反映する。

 

『創造』で、必要な個性因子そのものを作る。

 

問題は、本当に存在したことのない個性でも作れるか。

 

既知因子の再現だけでは確認にならない。

 

二つを組み合わせた時、完全新規の設計が実物になるのか。

 

試せばいい。

 

そのためには、まず簡単な個性を一つ設計する。

 

既存の個性を改造するのではなく、最初から。

 

発動条件、作用、対象、出力、制約、安全装置。

 

全部、私が決める。

 

私は新しい記録ファイルを開いた。

 

これまでなら、そこから先に試料を探す工程があった。

 

近い個性を探す。血液を得る。培養する。少しずつ作り変える。

 

今回は、それがない。

 

必要なのは、設計だけ。

 

まだ確認はしていない。だから、できるとは断定しない。

 

明日、実際に作ってみれば分かる。

 

一週間動き続けた培養装置を見ながら、私は新しい設計欄の最初の一行へ入力した。

 

完全新規。

 

その文字を見ても、特別な感慨はなかった。

 

作れるかどうか。

 

確認すればいいだけだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。