無個性は個性をつくる   作:匿名希望

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第24話 個性をつくる

完全新規。

 

前日の最後に入力した文字が、画面に残っている。

 

私は椅子へ座り、その下へ新しい項目を追加した。

 

最初に決めるのは能力名ではない。

 

名前は後でいい。

 

必要なのは構造だった。

 

何を条件に発動するか。

 

何へ作用するか。

 

何を起こすか。

 

どの程度の出力にするか。

 

どこで止めるか。

 

失敗した時にどうなるか。

 

そこから決める。

 

今までとは違う。

 

これまでは、先に個性があった。

 

光。

 

浮遊。

 

推進。

 

精神干渉。

 

既存の個性因子を観察して。

 

元の構造を見て。

 

使える部分を残し。

 

不要な部分を変える。

 

人工個性と呼んでいても、出発点には必ず何かがあった。

 

今回は。

 

ない。

 

私は新しい設計欄だけを見る。

 

元個性。

 

空欄。

 

参照個性。

 

空欄。

 

採取試料。

 

なし。

 

それで作る。

 

その確認だった。

 

◇ ◇ ◇

 

最初の試験なので、能力は単純な方がいい。

 

強さも必要ない。

 

むしろ弱い方がいい。

 

失敗した時に危険が少ない。

 

発動したかどうかを外部から簡単に測定できる。

 

既存の試料と取り違えた可能性も排除しやすい。

 

私はしばらく考えて。

 

一つ決めた。

 

対象。

 

使用者が触れている無機物。

 

作用。

 

表面の温度を、ごく僅かに下げる。

 

発動条件。

 

意図的な起動中のみ。

 

対象範囲。

 

接触点の周囲だけ。

 

出力上限。

 

一度の発動では数度まで。

 

人体。

 

作用対象外。

 

生体物質。

 

作用対象外。

 

設定温度以下。

 

停止。

 

一定時間経過。

 

停止。

 

異常出力。

 

強制停止。

 

単純。

 

攻撃にはほとんど使えない。

 

役にも立たない。

 

だからいい。

 

必要なのは便利な個性ではない。

 

今まで存在していた因子を元にせず。

 

私が先に仕様を決め。

 

その仕様どおりの個性因子を作れるかどうか。

 

その確認。

 

名称欄には仮に、

 

『微冷却』

 

と入れた。

 

少しそのまますぎるが。

 

試験用なので問題ない。

 

◇ ◇ ◇

 

まず。

 

個性因子として成立させるための基礎構造を置く。

 

発動入力。

 

接触判定。

 

対象判定。

 

温度差検知。

 

エネルギー移動。

 

出力制御。

 

停止。

 

安全制御。

 

それぞれを接続する。

 

以前なら。

 

この時点で近い個性を探していた。

 

冷気。

 

温度操作。

 

熱移動。

 

どれか。

 

そこから一番近いものを選ぶ。

 

血液を採る。

 

培養する。

 

不要部分を削る。

 

必要な機能を付け足す。

 

一週間。

 

一か月。

 

変更量によってはもっと。

 

今回はしない。

 

画面の中だけで構造を組む。

 

もちろん。

 

画面に線を引けば個性が完成するわけではない。

 

この設計を実物の個性因子へ変換するために。

 

一週間かけて作った二つがある。

 

改造『コピー』。

 

改造『創造』。

 

私は保存容器を取り出した。

 

◇ ◇ ◇

 

先に『コピー』。

 

元は。

 

接触した相手の個性情報を取得し。

 

自分の因子状態を一時的に相手へ合わせる個性。

 

それを作り変えた。

 

もう人へ触れる必要はない。

 

相手の個性を読む必要もない。

 

入力するのは。

 

私が作った個性因子設計情報。

 

それを読んで。

 

指定された構造へ因子を変換する。

 

ただし。

 

変換するためには、変換対象になる因子が必要になる。

 

そこで『創造』。

 

元は使用者の身体資源を使い、理解した物質を作る個性。

 

今は違う。

 

外部の光。

 

熱。

 

そこからエネルギーを取得できる。

 

蓄積できる。

 

生体物質も対象にできる。

 

個性因子も生成できる。

 

二つを別々に使うだけでも意味はある。

 

『創造』で因子を作る。

 

『コピー』で設計状態へ変換する。

 

ただ。

 

今日は。

 

その一連を一つの製造系として動かす。

 

私は装置の接続を確認する。

 

体育祭前まで使っていた培養装置とは、役割が違う。

 

培養しない。

 

元になる個性もない。

 

最初に『創造』へ、変換用の基礎個性因子を生成させる。

 

特殊な能力を持たない。

 

構造変換を受けるための土台。

 

生成。

 

個性因子知覚で確認する。

 

ある。

 

正常。

 

次。

 

改造『コピー』へ設計情報を入力。

 

『微冷却』。

 

変換開始。

 

◇ ◇ ◇

 

変化はすぐだった。

 

昨日までなら。

 

ここから待つ。

 

小さく変える。

 

培養。

 

安定するまで待つ。

 

また変える。

 

今日は違う。

 

設計情報を順番に処理する。

 

基礎構造。

 

発動部。

 

対象判定。

 

作用部。

 

出力制御。

 

安全系。

 

指定した順番で。

 

因子構造が変わっていく。

 

私は手を出さない。

 

見ているだけ。

 

途中で一度、処理が停止した。

 

接触判定と生体除外が競合している。

 

触れた対象を読む。

 

その直後に生体かどうか判定する設計だったが。

 

対象情報の取得範囲が広すぎた。

 

使用者側まで判定対象へ入っている。

 

「順序が悪いですね」

 

設計を修正する。

 

接触先と使用者を先に分離。

 

接触対象だけを分類。

 

生体なら終了。

 

無機物なら温度判定へ。

 

再入力。

 

今度は進む。

 

発動系。

 

完成。

 

作用系。

 

完成。

 

制限。

 

安全機構。

 

最後。

 

変換終了。

 

私は時計を見る。

 

考えていたより短い。

 

少なくとも。

 

一週間ではない。

 

目の前には。

 

さっきまで存在していなかった構造の個性因子がある。

 

「……できましたか」

 

まだ断定しない。

 

構造が設計図と一致しているだけだ。

 

個性は。

 

動いて初めて意味がある。

 

◇ ◇ ◇

 

人体へ入れる必要はない。

 

私は以前から使っている人工個性用の試験装置を用意した。

 

個性因子を保持。

 

起動信号を送る。

 

対象と接触させる。

 

出力を測定する。

 

体育祭用ウェアラブルの試験にも使ってきたもの。

 

そこへ。

 

新しく作った因子を搭載する。

 

対象。

 

小さな金属片。

 

初期温度を測る。

 

室温とほぼ同じ。

 

センサーを固定。

 

私は装置を起動した。

 

反応。

 

接触判定。

 

無機物。

 

温度判定。

 

作用開始。

 

数値が下がる。

 

ゆっくり。

 

一度。

 

二度。

 

設定上限。

 

停止。

 

私は画面を見る。

 

温度は下がっている。

 

それ以上は下がらない。

 

起動信号を一度切る。

 

再度。

 

今度は別の金属片。

 

同じ。

 

次。

 

樹脂。

 

下がる。

 

次。

 

水を入れた容器。

 

容器表面には作用する。

 

中の水へ直接は届かない。

 

指定通り。

 

次。

 

生体由来の試験材料。

 

起動。

 

接触。

 

判定。

 

停止。

 

作用なし。

 

「問題ありませんね」

 

設計した通り。

 

私は出力を少し上げる。

 

上限内。

 

動く。

 

下げる。

 

動く。

 

異常値を疑似入力。

 

強制停止。

 

復帰。

 

問題なし。

 

『微冷却』。

 

機能している。

 

◇ ◇ ◇

 

私は一度、既存の試料保管記録を開いた。

 

今まで集めた個性因子。

 

中学以前から保存しているもの。

 

研究協力で得たもの。

 

段階改造の途中個体。

 

完成済み人工個性。

 

比較。

 

今回作った構造。

 

一致するものはない。

 

当然だった。

 

一致するように設計していない。

 

ただし。

 

本当に重要なのはそこではない。

 

既存個性を元にしていないこと。

 

『創造』から出した変換用因子は、能力を持たない土台。

 

そこへ。

 

私が作った設計情報だけを使い。

 

『コピー』で構造を形成した。

 

冷却系の個性因子を採取していない。

 

誰かの個性を複製していない。

 

既存の人工個性を改造していない。

 

最初にあったのは。

 

仕様だけ。

 

そこから。

 

個性ができた。

 

「完全新規ですね」

 

言葉にして確認する。

 

別に何かが光るわけではない。

 

警報も鳴らない。

 

ただ。

 

できた。

 

◇ ◇ ◇

 

ただし。

 

一個だけなら不足だった。

 

偶然。

 

生成時の揺らぎ。

 

別試料の混入。

 

何かの誤認。

 

可能性を消す必要がある。

 

だから。

 

二つ目を作る。

 

重要なのは。

 

最初に作った個性因子を使わないこと。

 

増殖もしない。

 

培養もしない。

 

コピーもしない。

 

同じ設計図だけを使う。

 

私は一個目を隔離した。

 

装置内も確認。

 

残留因子なし。

 

洗浄。

 

再確認。

 

新しい製造開始。

 

改造『創造』。

 

外部エネルギー入力。

 

新しい基礎個性因子。

 

生成。

 

一個目とは別。

 

そこへ改造『コピー』。

 

同じ『微冷却』設計図。

 

変更なし。

 

入力。

 

変換。

 

今回は途中停止しない。

 

一個目で修正した設計が、そのまま通る。

 

完成。

 

私は二つを並べた。

 

第一個体。

 

第二個体。

 

個性因子知覚。

 

構造を見る。

 

同じ。

 

機器測定。

 

同じ。

 

細部比較。

 

同じ。

 

試験装置へ二個目を搭載。

 

同じ材質。

 

同じ初期温度。

 

同じ接触条件。

 

起動。

 

温度低下。

 

停止温度。

 

時間。

 

出力曲線。

 

記録。

 

一個目の結果を重ねる。

 

ほぼ重なる。

 

測定誤差の範囲。

 

私は条件を変える。

 

対象材質。

 

初期温度。

 

連続起動回数。

 

安全停止。

 

全て。

 

同じ。

 

「再現できますね」

 

一個目を作った後。

 

その一個目を元にして二個目を複製したわけではない。

 

同じ設計から。

 

別々に。

 

同じ個性ができた。

 

それが重要だった。

 

◇ ◇ ◇

 

私は椅子へ座る。

 

画面には二つの測定結果。

 

重なった線。

 

机の上には二つの人工個性因子。

 

同じ構造。

 

同じ機能。

 

同じ制約。

 

今までなら。

 

人工個性は。

 

生き物に近かった。

 

元になる個性がある。

 

そこから少しずつ育てる。

 

変更する。

 

安定するまで待つ。

 

個体差も確認する。

 

失敗すれば戻る。

 

今回。

 

設計図が先にある。

 

その通りに作る。

 

もう一度同じものが必要なら。

 

また同じ設計を使う。

 

製造する。

 

工業製品に近い。

 

もちろん。

 

個性因子そのものは生体的な構造を持つ。

 

扱いに注意も必要。

 

複雑な個性を作るなら、設計も検証も今より遥かに難しくなる。

 

『強い個性』と入力すれば強い個性が出てくるわけでもない。

 

欲しい現象があるなら。

 

それを実現する構造を私が考える必要がある。

 

例えば。

 

発動条件を間違えれば動かない。

 

出力系を過剰にすれば壊れる。

 

対象指定が曖昧なら意図しないものへ作用する。

 

安全機構を書かなければ、勝手には生えない。

 

副作用が出る構造なら、副作用もそのまま発生する。

 

設計できるものだけ。

 

作れる。

 

それでも。

 

昨日までとは違った。

 

◇ ◇ ◇

 

私は研究記録を開く。

 

人工個性製造。

 

従来方式。

 

既存因子取得。

 

培養。

 

解析。

 

段階改造。

 

培養。

 

安定化。

 

再改造。

 

繰り返し。

 

新方式。

 

設計。

 

生成。

 

変換。

 

完成。

 

その差を見る。

 

一週間。

 

今回の改造『創造』と改造『コピー』を作るのに必要だった時間。

 

その一週間さえ。

 

この二つを作るための最後の旧方式だった。

 

これから。

 

例えば別の単純な人工個性を一つ作るとして。

 

近い個性の持ち主を探す必要はない。

 

血液を採る必要もない。

 

培養して量を増やす必要もない。

 

元個性の制約に引っ張られる必要もない。

 

私が構造を設計できれば。

 

作れる。

 

そして。

 

同じ設計なら。

 

二つでも。

 

三つでも。

 

必要な数だけ。

 

同じものを作れる。

 

私は二つの『微冷却』を見た。

 

大した能力ではない。

 

手で触れた無機物を少し冷やす。

 

それだけ。

 

体育祭なら、ほとんど役に立たないだろう。

 

ヒーロー活動にも大した価値はない。

 

販売しても需要は小さい。

 

でも。

 

今まで作ったどの人工個性より。

 

研究上の意味は大きかった。

 

なぜなら。

 

これは。

 

誰かから取った個性ではない。

 

誰かの個性を強くしたものでもない。

 

誰かの個性を弱くしたものでもない。

 

複数の個性を混ぜたものでもない。

 

私が最初に決めた仕様から。

 

個性因子そのものを作った。

 

◇ ◇ ◇

 

私は少し考える。

 

子供の頃。

 

無個性だと言われた。

 

個性がない。

 

それだけで。

 

周囲の期待が変わった。

 

当時はそれが合理的ではないと思った。

 

だから調べ始めた。

 

個性とは何か。

 

なぜ持つ人間と持たない人間がいるのか。

 

どんな構造なのか。

 

どう発現するのか。

 

最初は。

 

知りたかっただけだった。

 

それから。

 

測れるようになった。

 

培養できるようになった。

 

保存できるようになった。

 

少し変えられるようになった。

 

装備に入れられるようになった。

 

自分が持っていない個性を、道具として使えるようになった。

 

体育祭では。

 

それで戦った。

 

そして。

 

今。

 

私は個性を作った。

 

特別な感動があるかと考える。

 

少し違う。

 

嬉しい。

 

というより。

 

面白い。

 

予想した理論が成立した。

 

今まで必要だった制約が消えた。

 

次に試せるものが一気に増えた。

 

そちらの方が大きい。

 

私は新しい設計ファイルを開いた。

 

今度は能力を入力しない。

 

空欄のまま。

 

何を作るか。

 

考えられる。

 

今までは。

 

何があるかを探してから始めていた。

 

これからは。

 

何が必要かを決めてから始められる。

 

順番が逆になる。

 

「便利ですね」

 

それが一番近い感想だった。

 

◇ ◇ ◇

 

ただ。

 

まだ一つ足りない。

 

今の製造系は外部装置にある。

 

改造『創造』。

 

改造『コピー』。

 

それぞれ保存し。

 

装置を通して動かしている。

 

設備がなければ使いにくい。

 

それに。

 

個性を設計するための情報取得も。

 

今までの方式に依存している。

 

既存の個性を詳しく調べるなら。

 

血液を採る。

 

因子を分離。

 

培養。

 

直接構造を見る。

 

この工程はまだ残っている。

 

今日。

 

個性を作れるようになった。

 

だからこそ。

 

次に変えられる部分も分かる。

 

製造能力そのものを。

 

私へ持たせる。

 

個性因子知覚と直接繋ぐ。

 

そうすれば。

 

研究設備への依存を減らせる。

 

さらに。

 

発現している個性を見た時に。

 

観測情報から構造を組み立てられるようになれば。

 

血液そのものも。

 

毎回は要らなくなる可能性がある。

 

私は机の上に残った採血用の指輪を見る。

 

体育祭では。

 

あれを使うために。

 

八百万さん。

 

常闇さん。

 

物間さん。

 

三人へわざわざ近づいた。

 

騎馬戦なのに。

 

鉢巻を取らず。

 

本人へ触れた。

 

必要だったから。

 

でも。

 

同じことを今後も繰り返す必要があるかは別だった。

 

私は二つの新規人工個性を保存容器へ入れる。

 

『微冷却』第一個体。

 

第二個体。

 

保存。

 

記録完了。

 

完全新規個性。

 

製造成功。

 

同一設計からの再製造。

 

再現性確認。

 

私は画面の最後へ入力する。

 

任意人工個性製造。

 

成立。

 

そこで手を止めた。

 

無個性だった私が。

 

個性を持ったわけではない。

 

まだ。

 

そうではなく。

 

もっと単純だった。

 

個性がないなら。

 

必要な個性を。

 

作ればよかった。

 

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