無個性は個性をつくる   作:匿名希望

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第28話 ネビルレーザー

爆豪さんのガントレットを納品した翌週。

 

またパワーローダーから資料を渡された。

 

「次だ」

 

「はい」

 

最近、このやり取りが増えている。

 

葉隠さん。

 

爆豪さん。

 

そして。

 

今回。

 

氏名。

 

青山優雅。

 

ヒーロー科一年A組。

 

個性。

 

『ネビルレーザー』。

 

依頼内容を見る。

 

レーザーの集束。

 

照準補助。

 

射出方向の変更。

 

可能なら、現在の射出口以外からも利用できるようにしたい。

 

「光系ですね」

 

体育祭で見ている。

 

腹部。

 

正確には臍付近から高出力のレーザーを射出する個性。

 

私が体育祭で使った光操作ベルトとは違う。

 

あちらは光を生成し、ある程度自由に造形・制御する人工個性。

 

青山さんの個性は。

 

一方向へ強いレーザーを射出する。

 

自由度では低い。

 

出力は高い。

 

「受けるか?」

 

「はい」

 

比較対象としても分かりやすい。

 

それに。

 

体育祭予選で。

 

私は青山さんを一つ順位から押し出している。

 

だから何か責任を感じているわけではない。

 

ただ。

 

相手はこちらを覚えている可能性が高い。

 

「本人は?」

 

「もう来てる」

 

実習室の入口を見る。

 

青山さんが立っていた。

 

「Bonjour、空木くん」

 

腹部のベルト。

 

きらびやかな雰囲気。

 

体育祭の観客席から見た時と大きくは変わらない。

 

「こんにちは、青山さん」

 

「まさか君にボクの装備を頼む日が来るなんてね……」

 

「そうですね」

 

「もう少し何かないのかい?」

 

「体育祭では直接話していませんでしたから」

 

「そういう意味じゃないんだけどなぁ……」

 

よく分からない。

 

私は資料を置く。

 

「まず、現在の装備と個性を確認してもいいですか?」

 

青山さんの表情が。

 

ほんの少しだけ止まった。

 

すぐに笑う。

 

「もちろんさ!」

 

◇ ◇ ◇

 

学校内の試験設備。

 

パワーローダー監督。

 

青山さんには現在使用しているベルト型装備を着けてもらう。

 

ネビルレーザー。

 

腹部から出るレーザーを制御する装備。

 

本人の個性そのものを作り替えるわけではない。

 

今回は。

 

その外側。

 

射出された後のレーザーをどう扱うか。

 

そこを改善する。

 

「最初に通常射撃をお願いします」

 

「見るがいいよ!」

 

構える。

 

腹部。

 

発光。

 

レーザー。

 

試験標的へ直進。

 

測定。

 

光量。

 

収束。

 

拡散。

 

発動時間。

 

身体反応。

 

停止。

 

青山さんが少し腹を押さえる。

 

「負担がありますね」

 

「ボクの輝きは、少しお腹にくるのさ……」

 

体育祭でも似た様子はあった。

 

連続使用。

 

長時間使用。

 

身体側へ負担が出る。

 

「もう一度。今度は短くお願いします」

 

「Oui!」

 

射出。

 

停止。

 

次。

 

少し長く。

 

停止。

 

次。

 

出力を変えられる範囲。

 

照射中の姿勢変更。

 

射出口そのものは腹部から変わらない。

 

身体を向けなければ照準も大きく変えられない。

 

これが装備側で改善できる部分。

 

ただ。

 

私は別のところも見ていた。

 

個性因子。

 

今の私は。

 

発現を十分に観察すれば。

 

その機能を構造として把握できる。

 

映像だけでも可能。

 

だが。

 

本人が目の前にいる。

 

発動。

 

身体との接続。

 

負荷。

 

それらを同時に見られるなら、情報量は多い。

 

ネビルレーザー。

 

光生成。

 

集束。

 

射出。

 

腹部への固定。

 

身体側との接続。

 

そして。

 

違和感。

 

「……」

 

もう一度見る。

 

「どうしたんだい?」

 

「もう一回お願いします」

 

「もちろん!」

 

発動。

 

私は個性そのものより。

 

個性と身体の境界を見る。

 

やはり。

 

自然ではない。

 

◇ ◇ ◇

 

人間の個性は。

 

身体から独立した機械部品ではない。

 

生まれ。

 

成長する過程で。

 

身体と個性因子が一緒に形成される。

 

だから。

 

癖はあっても。

 

接続そのものには連続性がある。

 

葉隠さんの『透明化』もそうだった。

 

本人の身体全体と。

 

個性の作用対象。

 

自然につながっていた。

 

爆豪さんも。

 

汗腺。

 

手掌。

 

爆発。

 

身体機能と個性機能の境界が曖昧なくらい一体化している。

 

青山さんは違う。

 

レーザーの個性因子と。

 

青山さん自身の身体。

 

接続している。

 

発動もする。

 

でも。

 

馴染んでいない。

 

後から。

 

本来そこになかったものを。

 

接続したような。

 

「珍しいですね」

 

口に出た。

 

青山さんの笑顔が。

 

一瞬。

 

固まった。

 

「何がだい?」

 

「個性です」

 

「ボクの輝きが特別なのは当然さ!」

 

声は明るい。

 

ただ。

 

さっきより少し速い。

 

私は説明する。

 

「身体との適合が良くありません」

 

「……適合?」

 

「はい」

 

青山さんが腹部へ手を置く。

 

「だからお腹が痛くなるってことかい?」

 

「その可能性は高いです」

 

レーザー生成そのものの消費負荷もある。

 

しかし。

 

それだけではない。

 

因子と身体側の接続に。

 

継続的な無理がある。

 

出力を上げた時。

 

身体側が個性の要求についていけない。

 

「生まれつきこういう個性なら、もう少し身体側が発現へ合わせた構造になっていてもよさそうですが」

 

静かになった。

 

青山さんが。

 

何も言わない。

 

私は続ける。

 

「身体と一緒に自然形成された個性には、あまり見えませんね」

 

「……」

 

「後から追加された個性に近く見えます」

 

青山さんの顔から。

 

一瞬だけ。

 

普段の表情が消えた。

 

笑顔も。

 

きらびやかな仕草も。

 

ただ。

 

本当に一瞬。

 

次には。

 

いつものように髪を払う。

 

「ボクの個性は、生まれつき身体に収まりきらないほど眩しかったのかもしれないね!」

 

「そういう可能性も完全には否定できません」

 

私は答える。

 

実物の発生過程を見ていない。

 

出生時の検査記録もない。

 

誰が。

 

いつ。

 

どうした。

 

そこまでは分からない。

 

見えるのは。

 

今の状態。

 

身体。

 

個性因子。

 

接続。

 

その痕跡。

 

後付けに見える。

 

それだけ。

 

「誰かから移植されたものかもしれませんし、特殊な発現過程を経たのかもしれません」

 

「……移植」

 

青山さんが小さく繰り返す。

 

「ただ、今回の装備製作には大きく関係しません」

 

「え?」

 

「依頼はレーザー装備ですよね」

 

「……そう、だね」

 

なら。

 

そちらを進める。

 

本人が話していない事情を。

 

私から調べる理由はない。

 

珍しい症例ではある。

 

興味はある。

 

でも。

 

装備を作るのに必要な範囲はもう見えている。

 

追加で問い詰めれば。

 

依頼人との関係が悪くなる可能性もある。

 

研究環境としても得はない。

 

「続けましょう」

 

私は言った。

 

青山さんが。

 

少し遅れて笑う。

 

「Oui」

 

◇ ◇ ◇

 

装備設計。

 

最初。

 

集束。

 

現在のレーザーは。

 

本人側ですでにかなり収束している。

 

ただし。

 

射出後。

 

僅かに広がる。

 

それを外部光学系で絞る。

 

単純なレンズだけでは。

 

高出力に耐えにくい。

 

熱。

 

損傷。

 

さらに。

 

本人が動く。

 

固定された精密光学機器だけでは扱いづらい。

 

だから。

 

人工個性を使う。

 

光操作。

 

ただし。

 

体育祭のベルトほど多機能にはしない。

 

生成しない。

 

壁も作らない。

 

光弾も不要。

 

既に出ているレーザーだけへ作用。

 

収束。

 

偏向。

 

経路変更。

 

用途限定。

 

それなら小さくできる。

 

「君の体育祭の光みたいにするのかい?」

 

青山さんが聞く。

 

「一部だけです」

 

「ボクのレーザーも、あんな風に曲がる?」

 

「ある程度なら」

 

「ある程度?」

 

「曲げすぎると装備側の処理負荷が増えます。直角近くまで一気に変えるより、複数段階で変えた方が安定します」

 

「じゃあ曲げよう」

 

即答。

 

「必要なんですか?」

 

「レーザーが曲がれば、もっと華麗だろう?」

 

理由が技術的ではなかった。

 

ただ。

 

戦術的な意味はある。

 

腹部を相手へ正面から向けずに撃てる。

 

遮蔽物の横。

 

身体の向きとは別方向。

 

射線を読まれにくくなる。

 

「偏向機能は入れます」

 

「Magnifique!」

 

◇ ◇ ◇

 

次。

 

射出口。

 

青山さんの希望には。

 

腰以外からも利用したい。

 

とある。

 

個性そのものの射出口を変えるわけではない。

 

それなら身体改造になる。

 

今はやらない。

 

だから。

 

腹部から出たレーザーを。

 

装備内部で受ける。

 

光路を移す。

 

別の位置から外へ出す。

 

「どこから撃ちたいですか?」

 

「全部」

 

「全部ですか」

 

「肩も、膝も、手も!」

 

かなり多い。

 

「最初は腕がいいと思います」

 

「なぜ?」

 

「照準しやすいので」

 

手を向ける。

 

撃つ。

 

人間にとって分かりやすい。

 

肩。

 

膝。

 

背中。

 

そういう位置は。

 

姿勢制御が増える。

 

「それに、最初から射出口を増やしすぎると装備も大きくなります」

 

「スマートじゃないね」

 

「そうですね」

 

その点は同意できるらしい。

 

まず。

 

腹部。

 

既存。

 

追加。

 

両腕。

 

レーザーを腹部で受け。

 

左右へ分配できる。

 

全量を片側。

 

一部を左右。

 

ただし。

 

分ければ一射あたりの出力は落ちる。

 

元の総出力が増えるわけではない。

 

「三方向同時に撃ったら三倍?」

 

「なりません」

 

「ならないのかい!?」

 

「同じレーザーを分けるだけですから」

 

「そこは三倍にしてほしいな!」

 

「個性そのものの出力を増やす必要があります」

 

今の装備技術では。

 

外部からネビルレーザー自体の出力を。

 

単純に三倍へ増幅することはできない。

 

人体の個性因子を直接改造すれば。

 

別。

 

でも。

 

今はそういう依頼ではない。

 

「今後、別方式が見つかれば変わるかもしれませんが」

 

「本当かい?」

 

「可能性の話です」

 

「じゃあ期待しておくよ!」

 

期待されても保証はしない。

 

◇ ◇ ◇

 

試作機。

 

腹部受光部。

 

光路分岐。

 

腕部射出ユニット。

 

集束制御。

 

偏向制御。

 

最初からコスチューム全体を新しく作る必要はない。

 

追加装備。

 

ベルト側と。

 

腕部ユニット。

 

接続部分。

 

学校側の改修範囲で済む。

 

「試します」

 

訓練設備。

 

青山さんが立つ。

 

追加ユニット。

 

腹部のネビルレーザーを受ける。

 

まず。

 

通常。

 

前方射出。

 

「いくよ!」

 

レーザー。

 

直進。

 

集束機能だけ起動。

 

標的。

 

命中点が小さくなる。

 

同じ出力。

 

より狭い面積へ。

 

「強くなった?」

 

「密度は上がっています。個性出力自体は同じです」

 

「十分さ!」

 

次。

 

偏向。

 

レーザー射出。

 

装備側が曲げる。

 

正面ではなく。

 

斜め。

 

標的へ。

 

命中。

 

青山さんが声を上げる。

 

「曲がった!」

 

「曲げましたから」

 

「もっと喜んでいいところだよ!」

 

「想定通りです」

 

次。

 

右腕。

 

腹部。

 

レーザー発生。

 

内部経路。

 

右腕へ。

 

射出。

 

青山さんが右腕を伸ばす。

 

腕の向いている先へ。

 

レーザー。

 

命中。

 

「……おお」

 

今度は。

 

青山さんの反応が少し違った。

 

腹部を見る。

 

腕を見る。

 

また構える。

 

「もう一回いいかい?」

 

「どうぞ」

 

発動。

 

右腕。

 

射出。

 

次。

 

左。

 

成功。

 

左右同時。

 

分岐。

 

出力低下。

 

二本。

 

成功。

 

「ボクのレーザーが……」

 

青山さんが。

 

両腕を見る。

 

「お腹以外から出てる」

 

「光路を移しているだけです」

 

「分かってるよ!」

 

少し強い。

 

私は測定を見る。

 

身体負荷。

 

ここは重要。

 

射出口を変えても。

 

レーザー自体は青山さんが腹部で生成している。

 

だから。

 

腹痛は消えない。

 

「身体側の負担は減っていません」

 

「……やっぱり?」

 

「はい」

 

装備が変えたのは。

 

レーザーが身体を出た後。

 

集束。

 

偏向。

 

分岐。

 

輸送。

 

そこだけ。

 

個性と身体の不適合そのものは。

 

残っている。

 

◇ ◇ ◇

 

休憩。

 

青山さんが椅子へ座る。

 

腹を押さえている。

 

私は試験結果を整理する。

 

「空木くん」

 

「はい」

 

「君は……」

 

少し止まる。

 

珍しい。

 

普段の青山さんは。

 

言葉を止めるより先に話す印象がある。

 

「個性を見れば、何でも分かるのかい?」

 

「何でもではありません」

 

私は答える。

 

「観察できた範囲だけです」

 

「でもボクの個性が、その……身体と合ってないのは分かった」

 

「はい」

 

「後から入れたみたいだとも」

 

「そう見えます」

 

青山さんがこちらを見る。

 

「じゃあ」

 

また止まる。

 

「後から入れられた個性でも、分かる?」

 

質問の意味が少し重複している。

 

「痕跡が残っていれば分かる場合があります」

 

「場合が?」

 

「綺麗に適合していれば、外からだけでは難しいかもしれません。青山さんの場合は不適合がかなり分かりやすいので」

 

「……そう」

 

静かだった。

 

何か気にしている。

 

ただ。

 

何を気にしているのかまでは分からない。

 

自分の個性が特殊だと指摘された。

 

普通なら。

 

気になるだろう。

 

それ以上の意味を置く材料はない。

 

「問題がありますか?」

 

「Non!」

 

青山さんが立ち上がった。

 

「ボクが特別だと確認できただけさ!」

 

「そうですか」

 

なら。

 

問題なし。

 

◇ ◇ ◇

 

調整を続ける。

 

腕部射出の遅延。

 

減らす。

 

偏向角度。

 

上げる。

 

ただし。

 

曲率を大きくしすぎると光が不安定。

 

そこは制限。

 

集束。

 

高密度化。

 

ただし。

 

一点へのエネルギー集中が大きくなりすぎるので。

 

学校側の安全上限を設定。

 

分岐。

 

右。

 

左。

 

両側。

 

切り替え。

 

青山さん自身が操作できる。

 

完全自動照準は入れない。

 

本人が狙う。

 

装備は。

 

レーザーを指定経路へ通す。

 

それだけ。

 

最終試験。

 

「右!」

 

青山さん自身が宣言する必要はないが。

 

宣言している。

 

右腕。

 

レーザー。

 

標的。

 

「左!」

 

左。

 

「両方!」

 

二本。

 

「曲がれ!」

 

右腕から出たレーザーが途中で偏向。

 

別標的。

 

命中。

 

「Très bien!」

 

本人はかなり満足している。

 

私は計測する。

 

装備温度。

 

許容。

 

光路。

 

正常。

 

身体負荷。

 

元とほぼ同じ。

 

そこは改善していない。

 

「連続使用は今まで通り控えてください」

 

「せっかく撃ち方が増えたのに?」

 

「身体側は変えていませんので」

 

「むぅ……」

 

「腹痛が出る条件も基本的には同じです」

 

青山さんが腹を押さえる。

 

「そこも直せない?」

 

「今回の装備だけでは難しいですね」

 

原因は。

 

単なる反動や熱ではない。

 

身体と個性の不適合。

 

そこへ手を出すなら。

 

外部装備の話ではなくなる。

 

「個性そのものへ手を入れる必要がある可能性が高いです」

 

青山さんの目が。

 

また変わった。

 

「……できるのかい?」

 

「構造変更自体はできます」

 

「じゃあ」

 

「ただし」

 

止める。

 

「今の私は、他人の個性を安全に身体から外して、調整して、戻すところまでの技術を確立していません」

 

これは事実。

 

個性因子を作る。

 

設計する。

 

人工個性を自分へ搭載する。

 

それはできる。

 

でも。

 

他人の身体にすでに組み込まれている個性因子を。

 

安全に摘出。

 

保存。

 

再調整。

 

再移植。

 

そこまでは。

 

まだできない。

 

「ですから、今は装備側で解決できる部分だけです」

 

「……今は」

 

青山さんが繰り返す。

 

「はい」

 

将来できるか。

 

可能性はある。

 

ただ。

 

断定はしない。

 

青山さんは。

 

少し考えた後。

 

いつものように笑った。

 

「じゃあ今は、この新しい輝きで我慢しておくよ!」

 

「それでお願いします」

 

◇ ◇ ◇

 

納品。

 

パワーローダーへ資料。

 

改修内容。

 

集束。

 

偏向。

 

光路変更。

 

腹部から腕部への導光。

 

左右分岐。

 

出力そのもの。

 

変更なし。

 

青山さん本人の個性。

 

変更なし。

 

身体への処置。

 

なし。

 

「腹以外から撃てるようにしたのか」

 

パワーローダーが試験動画を見る。

 

「正確には腹部から出たレーザーを別位置へ運んでいます」

 

「本人の射出口を変えたわけじゃない」

 

「はい」

 

「この辺は葉隠と同じだな」

 

「そうですね」

 

本人の個性へ手を入れず。

 

外部装備で問題を解く。

 

学校向けには。

 

その方が扱いやすい。

 

「で」

 

パワーローダーが資料から顔を上げる。

 

「何か変な顔してたが、青山の個性に何かあったか?」

 

本人の身体情報。

 

学校側へどこまで共有するべきか。

 

少し考える。

 

今回の装備安全に関係する部分は必要。

 

「身体への負荷が大きいです」

 

「それは前から聞いてる」

 

「個性因子と身体の適合が、かなり悪いように見えます」

 

パワーローダーの表情が変わる。

 

「病気か?」

 

「そういう意味ではありません」

 

断定できないことは断定しない。

 

「身体と同時に自然形成された個性ではなく、後から追加されたような痕跡があります」

 

「……何?」

 

「ただし、原因は分かりません」

 

特殊な個性発現。

 

後天的移植。

 

何らかの医療処置。

 

未知の事例。

 

可能性はいくつもある。

 

「本人から聞いたのか?」

 

「いいえ」

 

「なら推測か」

 

「観察結果からの推定です」

 

パワーローダーが少し考える。

 

「保健室案件か?」

 

「現時点で急性の異常は見ていません。連続使用時の腹痛も既知の症状です」

 

「じゃあ今まで通り?」

 

「装備運用上は」

 

それ以上は。

 

私の担当ではない。

 

パワーローダーも。

 

すぐ何かを決める様子はなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

作業台を片付ける。

 

青山さんのネビルレーザー。

 

構造はかなり把握した。

 

光生成。

 

集束。

 

腹部射出。

 

身体負荷。

 

適合不良。

 

後天的な接続痕。

 

珍しい。

 

興味深い。

 

もし。

 

同じ機能が欲しいだけなら。

 

今の私なら人工個性として作れる。

 

身体に合う形へ。

 

最初から設計することもできる。

 

しかし。

 

青山さんの個性が。

 

どこから来たのか。

 

誰が与えたのか。

 

なぜ与えられたのか。

 

そこは分からない。

 

そして。

 

今回の依頼には必要ない。

 

なら。

 

調べる理由もなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

実習室を出ようとしたところで。

 

後ろから声がした。

 

「空木くん」

 

青山さんだった。

 

納品は終わっている。

 

「はい」

 

「一つだけいいかい?」

 

「どうぞ」

 

少し間。

 

「君は無個性だったんだよね」

 

「はい」

 

体育祭でも。

 

サポート科でも。

 

隠していない。

 

「それなのに、今は個性を作れる」

 

「そうですね」

 

青山さんが。

 

笑っている。

 

ただ。

 

体育祭の観客席で見た時から。

 

この人は私を見る時だけ。

 

時々。

 

表情と声が一致しない。

 

「……自分に合わない個性だったら」

 

青山さんが言う。

 

「君なら、どうする?」

 

質問としては広い。

 

「用途次第ですね」

 

「用途?」

 

「必要なら適合するよう再設計します。不要なら使いません」

 

「簡単に言うね」

 

「技術的に可能になれば、ですが」

 

今は。

 

他人の個性を安全に外して戻すところまでできない。

 

だから。

 

仮定。

 

「生まれつき持っていた個性でも?」

 

「由来は設計上あまり重要ではありません」

 

青山さんが黙る。

 

「生まれつきでも、後から得たものでも、構造上の問題は問題です。直せるなら直した方が効率的でしょう」

 

私には。

 

そこに大きな違いはない。

 

個性が。

 

生まれた時からあったか。

 

途中から入ったか。

 

研究対象としては。

 

構造が違うだけ。

 

青山さんは。

 

少しだけ目を伏せた。

 

それから。

 

いつものように顔を上げる。

 

「やっぱり君は、不思議な人だね」

 

「そうですか?」

 

「Oui」

 

理由は分からない。

 

「では、調整が必要ならまた連絡してください」

 

「……うん」

 

私は実習室を出た。

 

後ろで。

 

青山さんが何を考えていたのかは。

 

知らない。

 

私に分かっているのは。

 

ネビルレーザーが。

 

身体と一緒に自然形成された個性には見えなかったこと。

 

そして。

 

現在の私には。

 

その理由を確定する情報がないこと。

 

それだけだった。

 

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