無個性は個性をつくる 作:匿名希望
自宅の改築が終わってから、私はしばらく個性兵を作って遊んでいた。
遊ぶ、という表現が一番近い。明確な用途があるわけではない。必要なものを作る研究でもない。
既に観察している個性、自分で設計した人工個性。それらを組み合わせ、人工肉体へ載せ、どの程度動くのかを見る。ただそれだけ。
例えば、身体能力を大きく上げる。その上で、衝撃への耐性、姿勢制御、高速移動時の知覚補正。必要なものを一つの任務用人工個性へまとめる。
起動。走らせる。止める。方向を変える。壁へ衝突しないよう制御する。問題があれば直す。
別の個体では、飛行、空中での方向転換、複数物体の遠隔操作、周囲観測。それぞれ単独なら既に作れる。なら、一つの身体へまとめた時、どこまで自然に連携できるか確認する。
別の個体では防御。別の個体では拘束。別の個体では周囲へ作用する能力。
目的は特にない。作れるので、作っている。
「右へ移動してください」
個体が動く。
「停止」
停止。
「上の標的を処理してください」
視線。標的認識。行動。終了。
人工OSも、最初の試作品より少しずつ調整している。一度作ったものを、毎回同じ状態で使い続ける理由はない。
状況判断、命令理解、優先順位、対象識別。動かすたび、不足が見つかる。そのたび、次の個体で直す。
夏休みなので、朝からそれができた。学校へ行く時間もない。授業もない。追加の装備依頼もない。
家自体も、少し前までとは違う。工作区画、解析区画、個性因子区画、試作区画。必要な設備は、だいたい揃った。
かなり都合がいい。
◇ ◇ ◇
「終了してください」
試作個体へ命令する。
停止。測定記録保存。問題なし。
次。今回から、もう一つ。
「自己分解」
個体が反応する。任務用人工個性停止。人工OSが処理順を確認。残す必要のある実験情報だけ転送。個性因子無力化。内部構造分解。人工肉体分解。
前回、荷運び用個性兵を一つずつ自分で解体した。あれは手間だった。だから、それ以降の個体には最初から自己分解機能を入れている。
数分後、試作個体はなくなった。
残留物、なし。危険な個性因子、なし。
「こちらの方がいいですね」
作る。試す。不要なら分解。設計データだけ残す。その方が、試作品を置いておく場所も必要ない。
自宅を大きく改築した直後なのに、もう保管場所を節約する方法を考えている。広くても無限ではないので、合理的だった。
◇ ◇ ◇
ちなみに、夏休みへ入る前には期末試験もあった。
ヒーロー科では、教師との実戦試験があったらしい。私には関係ない。サポート科は、普通にサポート科の試験と課題を受けた。
筆記、設計、製作、その他。特に問題なし。
体育祭のように個性を集める機会でもなければ、新しい研究材料が大量に出るわけでもない。普通に終わった。
そして、休み。
今の方が、時間の使い方としては好きだった。
その日も、次の人工個性を考えていた。強度、出力、身体側との接続、人工OSがどこまで扱えるか。
頭の中で構造を組んでいると、端末が鳴った。
学校から。
夏休みに入ってから、学校側から直接連絡が来ることは多くない。開く。
登校依頼。用件、サポート科、パワーローダー。日時、今日。
「急ですね」
ただ、行けない時間ではない。試験も途中ではない。
私は準備する。外出中に、自宅研究設備を動かしておく必要もない。最低限だけ稼働。戸締まり。
それから、雄英へ向かった。
◇ ◇ ◇
夏休みの雄英は、普段より人が少ない。当然、授業はない。
部活動や何らかの用事がある生徒、教員。それくらい。
サポート科の実習棟へ向かう。指定された部屋へ入る。
「失礼します」
「来たか」
パワーローダー。そして、もう一人。
「空木さん!」
発目さん。先に来ていた。
「発目さんもですか」
「呼ばれました!」
それは見れば分かる。ただ、同じ用件らしい。
「二人とも座れ」
パワーローダーが言う。
机の上には、封筒が二つ。見慣れない意匠。英字。
私は座る。発目さんは、既に封筒へ視線が固定されている。
「何ですかこれ!」
「今から話す」
「開けちゃ駄目ですか!?」
「話を聞いてからにしろ」
「はい!」
返事だけは早い。
パワーローダーが一度ため息をつく。それから、こちらを見る。
「急な話で悪い」
「はい」
「先に言っとくが、無理なら断っていい」
それなら、学校行事ではないらしい。
「日程も近い。夏休みの予定があるなら、そっち優先でも構わん」
「分かりました」
発目さんが手を挙げる。
「予定ないです!」
「まだ中身言ってねえ」
「でも面白そうです!」
封筒を見ただけで、そこまで判断するのは早い。
パワーローダーは、もう一度ため息をついた。
「I・アイランドからだ」
発目さんが止まった。一秒。
「――I・アイランド!?」
今度は声が大きかった。
私も封筒を見る。
I・アイランド。知っている。
世界でも最大級の、個性、ヒーロー、サポート技術、それらを研究するための人工島。多数の研究者、企業、研究施設、開発設備。個性社会に関係する、かなり大規模な研究拠点。
「招待状が来てる」
パワーローダーが言った。
◇ ◇ ◇
発目さんが、封筒とパワーローダーを交互に見る。
「誰にですか!?」
「お前らだよ」
「私に!?」
「そう言ってる」
「何でですか!?」
「そっちも書いてある」
発目さんが今すぐ開封しそうになる。パワーローダーが止める。
「待て」
「待てません!」
「待て」
「はい!」
私は聞く。
「学校宛てに来たんですか?」
「ああ。正確には学校を通して、お前ら二人へ話が来た」
「それぞれですか?」
「理由は別だ」
なるほど。
私と発目さんを一組として招待したわけではない。同じ雄英サポート科だから、学校でまとめて説明している。そういうことらしい。
「急に決まった話だからな。向こうも、絶対来いって招待じゃない」
パワーローダーが続ける。
「日程が合うなら来ないか、程度だ。だから今日呼んだ」
「断っても問題なし」
「そういうことだ」
なら、検討。
発目さんを見る。検討する顔ではない。
「行きます!」
「まだ説明終わってねえ!」
やはり。
◇ ◇ ◇
パワーローダーは、まず発目さん側の書類を置いた。
「発目は、サポート科の発明系の学生として」
「ベイビーを見せられるんですね!」
「展示するとは言ってない」
「持っていけば見せられます!」
「持ち込み規定を先に読め」
「はい!」
パワーローダーが、次に私の方へ。
「空木」
「はい」
「お前は体育祭だ」
想定できる。
「サポート科なのに本戦上位。しかも独自装備を大量に持ち込んでた」
「そうですね」
「光のやつは特に目立ってた」
壊れたベルトを思い出す。もう、同じものならいつでも作れる。
「体育祭は外からも注目される。技術関係者も見る」
「はい」
「その関係で名前が上がったらしい」
なるほど。
サポート科生徒。体育祭三位。人工個性搭載装備。外部から見える情報だけでも珍しい。
興味を持つ研究者がいても、不自然ではない。
「ただし」
パワーローダーが言う。
「お前の研究内容全部が向こうへ伝わってるわけじゃない」
「分かっています」
学校自体、全部知らない。
「招待理由は、あくまで体育祭で見せた装備と実績だと思っとけ」
「それなら問題ありません」
むしろ、その方がいい。
◇ ◇ ◇
もう一つ、パワーローダーが資料を見る。
「ヒーロー科側にも話が来てる」
「誰ですか?」
発目さんが聞く。
「爆豪」
分かりやすい。
「体育祭優勝者だからだ」
「爆豪さんも行くんですね」
「行くならな」
まだ、参加確定とは言っていない。理由も、私たちとは違う。
爆豪さんは体育祭優勝。発目さんは発明家。私は体育祭上位と独自装備。
同じ場所へ行く。ただ、経路が別。
「他にも招待客はいる。別に雄英の研修旅行じゃない」
「分かりました」
「向こうへ行っても、全員で固まって行動する必要もない」
その方が助かる。
I・アイランドへ行って、一日中、雄英の生徒だけで行動する理由はない。
見るべきものは、研究設備、技術、研究者、製造環境。そちら。
◇ ◇ ◇
「で」
パワーローダーが、二つの封筒を前へ押す。
「改めて聞くぞ」
発目さんは、受け取る前から答えが決まっている。
「行きます!」
「お前はそうだろうな」
私も封筒を取る。
中を見る。
I・アイランド。滞在。見学可能区画。イベント。研究展示。技術関係者。詳しい内容を一つずつ確認する。
かなり大きい。
自宅を研究所へ作り替えたばかり。雄英の設備も見ている。それでも、I・アイランドは規模が違う。
一人で作った設備ではない。学校でもない。研究都市。
多数の研究機関、企業、技術者、サポートアイテム、個性研究。そのために、一つの島全体が使われている。
見に行く価値はある。かなり。
「私も行きます」
「即決か」
「研究施設を見られるなら」
他に、断る理由がない。
夏休み。時間もある。今進めている試作は、途中で止めても困らない。自宅の設備も、無人で管理できる範囲にしておけばいい。
「そう言うと思った」
パワーローダーが言う。
発目さんが、こちらを見る。
「空木さん!」
「はい」
「I・アイランドですよ!」
「そうですね」
「世界中のサポートアイテムがありますよ!」
「研究設備もありますね」
「工房も!」
「製造設備も気になります」
発目さんの目が、明らかに輝いている。
話題として、私にも分かる。I・アイランドについては、技術の話をする意味がある。
「何持っていきます?」
「まだ決めていません」
「私はベイビーを――」
「持ち込み規定読めっつっただろ!」
パワーローダーの声。
発目さんが封筒を開く。私は自分の案内を見る。
渡航、施設、規則、持ち込み。確認することは多い。
ただ、予定そのものは決まった。
少し前まで、自宅を十分大きな研究施設にしたつもりだった。その直後に、世界最大級の研究都市を見る機会が来た。
比較するには、ちょうどよかった。