無個性は個性をつくる   作:匿名希望

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第32話 島への招待

自宅の改築が終わってから、私はしばらく個性兵を作って遊んでいた。

 

遊ぶ、という表現が一番近い。明確な用途があるわけではない。必要なものを作る研究でもない。

 

既に観察している個性、自分で設計した人工個性。それらを組み合わせ、人工肉体へ載せ、どの程度動くのかを見る。ただそれだけ。

 

例えば、身体能力を大きく上げる。その上で、衝撃への耐性、姿勢制御、高速移動時の知覚補正。必要なものを一つの任務用人工個性へまとめる。

 

起動。走らせる。止める。方向を変える。壁へ衝突しないよう制御する。問題があれば直す。

 

別の個体では、飛行、空中での方向転換、複数物体の遠隔操作、周囲観測。それぞれ単独なら既に作れる。なら、一つの身体へまとめた時、どこまで自然に連携できるか確認する。

 

別の個体では防御。別の個体では拘束。別の個体では周囲へ作用する能力。

 

目的は特にない。作れるので、作っている。

 

「右へ移動してください」

 

個体が動く。

 

「停止」

 

停止。

 

「上の標的を処理してください」

 

視線。標的認識。行動。終了。

 

人工OSも、最初の試作品より少しずつ調整している。一度作ったものを、毎回同じ状態で使い続ける理由はない。

 

状況判断、命令理解、優先順位、対象識別。動かすたび、不足が見つかる。そのたび、次の個体で直す。

 

夏休みなので、朝からそれができた。学校へ行く時間もない。授業もない。追加の装備依頼もない。

 

家自体も、少し前までとは違う。工作区画、解析区画、個性因子区画、試作区画。必要な設備は、だいたい揃った。

 

かなり都合がいい。

 

◇ ◇ ◇

 

「終了してください」

 

試作個体へ命令する。

 

停止。測定記録保存。問題なし。

 

次。今回から、もう一つ。

 

「自己分解」

 

個体が反応する。任務用人工個性停止。人工OSが処理順を確認。残す必要のある実験情報だけ転送。個性因子無力化。内部構造分解。人工肉体分解。

 

前回、荷運び用個性兵を一つずつ自分で解体した。あれは手間だった。だから、それ以降の個体には最初から自己分解機能を入れている。

 

数分後、試作個体はなくなった。

 

残留物、なし。危険な個性因子、なし。

 

「こちらの方がいいですね」

 

作る。試す。不要なら分解。設計データだけ残す。その方が、試作品を置いておく場所も必要ない。

 

自宅を大きく改築した直後なのに、もう保管場所を節約する方法を考えている。広くても無限ではないので、合理的だった。

 

◇ ◇ ◇

 

ちなみに、夏休みへ入る前には期末試験もあった。

 

ヒーロー科では、教師との実戦試験があったらしい。私には関係ない。サポート科は、普通にサポート科の試験と課題を受けた。

 

筆記、設計、製作、その他。特に問題なし。

 

体育祭のように個性を集める機会でもなければ、新しい研究材料が大量に出るわけでもない。普通に終わった。

 

そして、休み。

 

今の方が、時間の使い方としては好きだった。

 

その日も、次の人工個性を考えていた。強度、出力、身体側との接続、人工OSがどこまで扱えるか。

 

頭の中で構造を組んでいると、端末が鳴った。

 

学校から。

 

夏休みに入ってから、学校側から直接連絡が来ることは多くない。開く。

 

登校依頼。用件、サポート科、パワーローダー。日時、今日。

 

「急ですね」

 

ただ、行けない時間ではない。試験も途中ではない。

 

私は準備する。外出中に、自宅研究設備を動かしておく必要もない。最低限だけ稼働。戸締まり。

 

それから、雄英へ向かった。

 

◇ ◇ ◇

 

夏休みの雄英は、普段より人が少ない。当然、授業はない。

 

部活動や何らかの用事がある生徒、教員。それくらい。

 

サポート科の実習棟へ向かう。指定された部屋へ入る。

 

「失礼します」

 

「来たか」

 

パワーローダー。そして、もう一人。

 

「空木さん!」

 

発目さん。先に来ていた。

 

「発目さんもですか」

 

「呼ばれました!」

 

それは見れば分かる。ただ、同じ用件らしい。

 

「二人とも座れ」

 

パワーローダーが言う。

 

机の上には、封筒が二つ。見慣れない意匠。英字。

 

私は座る。発目さんは、既に封筒へ視線が固定されている。

 

「何ですかこれ!」

 

「今から話す」

 

「開けちゃ駄目ですか!?」

 

「話を聞いてからにしろ」

 

「はい!」

 

返事だけは早い。

 

パワーローダーが一度ため息をつく。それから、こちらを見る。

 

「急な話で悪い」

 

「はい」

 

「先に言っとくが、無理なら断っていい」

 

それなら、学校行事ではないらしい。

 

「日程も近い。夏休みの予定があるなら、そっち優先でも構わん」

 

「分かりました」

 

発目さんが手を挙げる。

 

「予定ないです!」

 

「まだ中身言ってねえ」

 

「でも面白そうです!」

 

封筒を見ただけで、そこまで判断するのは早い。

 

パワーローダーは、もう一度ため息をついた。

 

「I・アイランドからだ」

 

発目さんが止まった。一秒。

 

「――I・アイランド!?」

 

今度は声が大きかった。

 

私も封筒を見る。

 

I・アイランド。知っている。

 

世界でも最大級の、個性、ヒーロー、サポート技術、それらを研究するための人工島。多数の研究者、企業、研究施設、開発設備。個性社会に関係する、かなり大規模な研究拠点。

 

「招待状が来てる」

 

パワーローダーが言った。

 

◇ ◇ ◇

 

発目さんが、封筒とパワーローダーを交互に見る。

 

「誰にですか!?」

 

「お前らだよ」

 

「私に!?」

 

「そう言ってる」

 

「何でですか!?」

 

「そっちも書いてある」

 

発目さんが今すぐ開封しそうになる。パワーローダーが止める。

 

「待て」

 

「待てません!」

 

「待て」

 

「はい!」

 

私は聞く。

 

「学校宛てに来たんですか?」

 

「ああ。正確には学校を通して、お前ら二人へ話が来た」

 

「それぞれですか?」

 

「理由は別だ」

 

なるほど。

 

私と発目さんを一組として招待したわけではない。同じ雄英サポート科だから、学校でまとめて説明している。そういうことらしい。

 

「急に決まった話だからな。向こうも、絶対来いって招待じゃない」

 

パワーローダーが続ける。

 

「日程が合うなら来ないか、程度だ。だから今日呼んだ」

 

「断っても問題なし」

 

「そういうことだ」

 

なら、検討。

 

発目さんを見る。検討する顔ではない。

 

「行きます!」

 

「まだ説明終わってねえ!」

 

やはり。

 

◇ ◇ ◇

 

パワーローダーは、まず発目さん側の書類を置いた。

 

「発目は、サポート科の発明系の学生として」

 

「ベイビーを見せられるんですね!」

 

「展示するとは言ってない」

 

「持っていけば見せられます!」

 

「持ち込み規定を先に読め」

 

「はい!」

 

パワーローダーが、次に私の方へ。

 

「空木」

 

「はい」

 

「お前は体育祭だ」

 

想定できる。

 

「サポート科なのに本戦上位。しかも独自装備を大量に持ち込んでた」

 

「そうですね」

 

「光のやつは特に目立ってた」

 

壊れたベルトを思い出す。もう、同じものならいつでも作れる。

 

「体育祭は外からも注目される。技術関係者も見る」

 

「はい」

 

「その関係で名前が上がったらしい」

 

なるほど。

 

サポート科生徒。体育祭三位。人工個性搭載装備。外部から見える情報だけでも珍しい。

 

興味を持つ研究者がいても、不自然ではない。

 

「ただし」

 

パワーローダーが言う。

 

「お前の研究内容全部が向こうへ伝わってるわけじゃない」

 

「分かっています」

 

学校自体、全部知らない。

 

「招待理由は、あくまで体育祭で見せた装備と実績だと思っとけ」

 

「それなら問題ありません」

 

むしろ、その方がいい。

 

◇ ◇ ◇

 

もう一つ、パワーローダーが資料を見る。

 

「ヒーロー科側にも話が来てる」

 

「誰ですか?」

 

発目さんが聞く。

 

「爆豪」

 

分かりやすい。

 

「体育祭優勝者だからだ」

 

「爆豪さんも行くんですね」

 

「行くならな」

 

まだ、参加確定とは言っていない。理由も、私たちとは違う。

 

爆豪さんは体育祭優勝。発目さんは発明家。私は体育祭上位と独自装備。

 

同じ場所へ行く。ただ、経路が別。

 

「他にも招待客はいる。別に雄英の研修旅行じゃない」

 

「分かりました」

 

「向こうへ行っても、全員で固まって行動する必要もない」

 

その方が助かる。

 

I・アイランドへ行って、一日中、雄英の生徒だけで行動する理由はない。

 

見るべきものは、研究設備、技術、研究者、製造環境。そちら。

 

◇ ◇ ◇

 

「で」

 

パワーローダーが、二つの封筒を前へ押す。

 

「改めて聞くぞ」

 

発目さんは、受け取る前から答えが決まっている。

 

「行きます!」

 

「お前はそうだろうな」

 

私も封筒を取る。

 

中を見る。

 

I・アイランド。滞在。見学可能区画。イベント。研究展示。技術関係者。詳しい内容を一つずつ確認する。

 

かなり大きい。

 

自宅を研究所へ作り替えたばかり。雄英の設備も見ている。それでも、I・アイランドは規模が違う。

 

一人で作った設備ではない。学校でもない。研究都市。

 

多数の研究機関、企業、技術者、サポートアイテム、個性研究。そのために、一つの島全体が使われている。

 

見に行く価値はある。かなり。

 

「私も行きます」

 

「即決か」

 

「研究施設を見られるなら」

 

他に、断る理由がない。

 

夏休み。時間もある。今進めている試作は、途中で止めても困らない。自宅の設備も、無人で管理できる範囲にしておけばいい。

 

「そう言うと思った」

 

パワーローダーが言う。

 

発目さんが、こちらを見る。

 

「空木さん!」

 

「はい」

 

「I・アイランドですよ!」

 

「そうですね」

 

「世界中のサポートアイテムがありますよ!」

 

「研究設備もありますね」

 

「工房も!」

 

「製造設備も気になります」

 

発目さんの目が、明らかに輝いている。

 

話題として、私にも分かる。I・アイランドについては、技術の話をする意味がある。

 

「何持っていきます?」

 

「まだ決めていません」

 

「私はベイビーを――」

 

「持ち込み規定読めっつっただろ!」

 

パワーローダーの声。

 

発目さんが封筒を開く。私は自分の案内を見る。

 

渡航、施設、規則、持ち込み。確認することは多い。

 

ただ、予定そのものは決まった。

 

少し前まで、自宅を十分大きな研究施設にしたつもりだった。その直後に、世界最大級の研究都市を見る機会が来た。

 

比較するには、ちょうどよかった。

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