無個性は個性をつくる   作:匿名希望

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第31話 世界最大の研究都市

比較するには。

 

ちょうどいい。

 

そう思っていた。

 

実際に到着してみると。

 

比較対象としては。

 

少し大きすぎた。

 

◇ ◇ ◇

 

I・アイランド。

 

海上に造られた。

 

巨大な人工移動都市。

 

世界中から研究者を集め。

 

個性。

 

ヒーロー。

 

サポートアイテム。

 

それらに関する研究開発を行うための場所。

 

空港で入島手続きを受ける。

 

本人確認。

 

招待情報。

 

荷物検査。

 

持ち込み物の確認。

 

セキュリティはかなり厳しい。

 

研究者。

 

研究成果。

 

企業機密。

 

それらを守る必要がある以上。

 

当然だと思う。

 

私は。

 

大量の装備を持ってきてはいない。

 

衣類。

 

端末。

 

筆記具。

 

許可された範囲の簡単な測定機器。

 

その程度。

 

自宅で作っている人工個性や個性兵を。

 

観光旅行へ持ってくる理由はない。

 

必要なら。

 

帰ってから作ればいい。

 

発目さんの荷物は。

 

私より多かった。

 

かなり。

 

「これも駄目なんですか!?」

 

検査員へ言っている。

 

「規定上、事前申請のない試作機の持ち込みは――」

 

「でも安全ですよ!」

 

「その確認ができていませんので」

 

「今ここで動かせば分かります!」

 

「動かさないでください」

 

少し離れたところから見る。

 

いつも通りだった。

 

最終的に。

 

持ち込めるもの。

 

預けるもの。

 

戻すもの。

 

分けられている。

 

私は先に検査を終えた。

 

少しして。

 

発目さんが来る。

 

「結構取り上げられました!」

 

「没収ではなく預かりでは?」

 

「使えないなら同じです!」

 

「違うと思います」

 

少なくとも。

 

返ってくる。

 

◇ ◇ ◇

 

入島手続きが終わる。

 

案内表示。

 

I・Expo。

 

現在は一般公開前。

 

招待客向けの先行公開期間。

 

研究成果。

 

新型サポートアイテム。

 

個性関連技術。

 

展示。

 

実演。

 

企業ブース。

 

研究機関。

 

かなりの数。

 

そして。

 

島そのものが。

 

普通の都市として成立している。

 

研究棟だけではない。

 

道路。

 

商業施設。

 

宿泊施設。

 

居住区画。

 

物流。

 

発電。

 

交通。

 

一つの研究所ではない。

 

研究するために作られた。

 

都市。

 

「すごいですね!」

 

発目さんが言う。

 

「そうですね」

 

「どこから行きます!?」

 

「案内を確認してから決めます」

 

「全部行けばいいんですよ!」

 

「時間が足りません」

 

「走れば増えます!」

 

増えない。

 

移動時間が減るだけ。

 

ただ。

 

発目さんの気持ちは。

 

分からなくもない。

 

見る場所は多かった。

 

◇ ◇ ◇

 

最初に見たのは。

 

公開展示区画。

 

理由は。

 

入口から近かったから。

 

サポートアイテム。

 

多い。

 

単純な補助具。

 

防護装備。

 

拘束。

 

救助。

 

移動。

 

通信。

 

センサー。

 

個性使用時の身体負荷を軽減するもの。

 

個性の発動方向を整えるもの。

 

出力を使いやすい形へ変換するもの。

 

私が学校で依頼を受けて作ったものと。

 

思想が近い装備もある。

 

ただ。

 

違う。

 

製品として。

 

完成している。

 

「これ」

 

発目さんが一つの展示へ近づく。

 

腕部装着型。

 

複数の規格へ対応する。

 

交換式の補助ユニット。

 

「接続部が共通です!」

 

「そうですね」

 

別の企業。

 

別の製品。

 

それでも。

 

同じ規格の接続部が使われている。

 

私は。

 

近くの展示を見る。

 

電源。

 

通信。

 

固定位置。

 

データ形式。

 

安全規格。

 

同じものが多い。

 

「標準化されていますね」

 

「便利ですよね!」

 

「かなり」

 

自宅研究では。

 

必要なら。

 

その場で専用品を作る。

 

使う人間も私。

 

整備する人間も私。

 

次に変更するのも私。

 

だから。

 

規格を揃える必要が薄い。

 

一つしか作らないなら。

 

その時点で最適な構造にすればいい。

 

でも。

 

企業。

 

研究所。

 

複数人。

 

大量生産。

 

違う。

 

部品を作る人。

 

組み立てる人。

 

整備する人。

 

使う人。

 

全員が別。

 

なら。

 

誰が扱っても。

 

一定の方法で繋がる必要がある。

 

面白い。

 

◇ ◇ ◇

 

次。

 

製造設備。

 

見学可能な区画だけ。

 

当然。

 

企業秘密のある製造ラインまで。

 

自由に入れるわけではない。

 

ただ。

 

公開用の生産設備でも。

 

十分だった。

 

大きい。

 

単純に。

 

機械が。

 

ではない。

 

流れが。

 

大きい。

 

材料受入。

 

検査。

 

前処理。

 

加工。

 

組立。

 

中間検査。

 

調整。

 

最終試験。

 

記録。

 

梱包。

 

一方向へ流れる。

 

一つの機械が。

 

全部やるわけではない。

 

工程ごとに分かれている。

 

途中で。

 

不良。

 

自動排除。

 

製造番号。

 

記録。

 

使用した材料。

 

担当設備。

 

検査結果。

 

全部。

 

紐付いている。

 

「空木さん!」

 

発目さんが言う。

 

「この加工機欲しいです!」

 

「置く場所がありますか?」

 

「作ります!」

 

「学校にですか?」

 

「家に!」

 

「先に家の人へ確認した方がいいと思います」

 

「大丈夫です!」

 

何が大丈夫かは。

 

分からない。

 

私は。

 

製造ラインの方を見る。

 

自宅にも。

 

大型加工設備は作った。

 

機能だけなら。

 

かなりのものがある。

 

精度も。

 

必要な水準は出せる。

 

ただ。

 

私の設備は。

 

私が一人で使うことを前提にしている。

 

一個作る。

 

少数作る。

 

試す。

 

直す。

 

そのため。

 

ここは違う。

 

同じ品質のものを。

 

大量に。

 

別の人間が。

 

何度でも作れる。

 

この差は。

 

設計能力ではない。

 

運用。

 

工程。

 

管理。

 

◇ ◇ ◇

 

製造設備の説明をしていた研究者へ。

 

私は質問する。

 

「一ついいですか?」

 

「もちろん」

 

英語で返ってくる。

 

そのまま話す。

 

「設計変更が入った場合、どの工程まで共通規格を維持するんですか?」

 

研究者が少し考える。

 

「製品によるね。機能部まで変更するなら全部見直すこともある。ただ、可能な限り接続、電源、通信、検査形式は残す」

 

「性能が落ちてもですか?」

 

「許容範囲なら」

 

なるほど。

 

「専用品なら、最適化した方が軽くできます」

 

「できるよ。ただ、それを百個、千個作って、別の工場で修理するなら話が変わる」

 

「修理まで含めて設計する」

 

「そういうことだ」

 

研究者が。

 

展示のユニットを指す。

 

「研究者は性能だけを考えがちだけど、世の中に出すなら性能だけじゃ足りない。誰が作るか。誰が使うか。誰が直すか。何年使うか。別の製品と繋がるか」

 

私は聞く。

 

「完全な専用設計が必要な場合は?」

 

「必要ならやる。ただし、本当に必要な部分だけだ」

 

その答えは。

 

分かりやすかった。

 

私も。

 

爆豪さんのガントレットで。

 

似た判断はしている。

 

本人ができることへ。

 

余計な機能を足さない。

 

必要なところだけ変える。

 

ただ。

 

規模が違う。

 

一人の依頼人に合わせる。

 

ではなく。

 

製造。

 

流通。

 

整備。

 

そこまで含めている。

 

「ありがとうございます」

 

「君、学生?」

 

「はい。雄英高校のサポート科です」

 

「日本の?」

 

「そうです」

 

少し反応が変わる。

 

「何か作ってるのか?」

 

「サポートアイテムをいくつか」

 

それ以上を。

 

説明する必要はない。

 

人工個性。

 

人工生命。

 

そういう話を。

 

初対面の研究者へする理由もない。

 

「設計をやるなら、製造工程も見た方がいい」

 

「そうですね」

 

本当に。

 

その通りだった。

 

◇ ◇ ◇

 

次。

 

研究区画。

 

ここも。

 

公開範囲だけ。

 

それでも。

 

雄英とは違う。

 

一つの研究室に。

 

複数人。

 

ではない。

 

一つの研究テーマへ。

 

複数の研究室。

 

材料。

 

生体。

 

制御。

 

電子。

 

機械。

 

シミュレーション。

 

臨床データ。

 

それぞれ。

 

別。

 

さらに。

 

それらを統合する人間。

 

全員が。

 

同じものを研究している。

 

でも。

 

同じ作業をしていない。

 

「分業ですね」

 

私は言う。

 

「今更ですか?」

 

発目さんが聞く。

 

「規模の話です」

 

学校でも。

 

共同制作はある。

 

企業も。

 

研究所も。

 

分業することは知っている。

 

本でも読んでいる。

 

理解もしていた。

 

でも。

 

見ると。

 

違う。

 

一人の研究者が。

 

全部分かっていなくても。

 

研究が進む。

 

材料担当は。

 

材料を深く見る。

 

制御担当は。

 

制御。

 

生体担当は。

 

身体反応。

 

全体を理解する人間もいるが。

 

全員が全工程をやる必要はない。

 

私は。

 

基本的に。

 

全部。

 

自分でやる。

 

個性因子。

 

生物。

 

機械。

 

電子。

 

材料。

 

設計。

 

加工。

 

試験。

 

全部。

 

できるから。

 

やっていた。

 

その方が早いことも多い。

 

他人へ説明する時間もいらない。

 

ただ。

 

人数を増やせば。

 

同時に進められる。

 

私は一人。

 

一時間に。

 

一つのことしかできない。

 

考える速度が速くても。

 

実際の装置を。

 

十台同時に手で組むことはできない。

 

今は。

 

個性兵へ作業させる方法もある。

 

でも。

 

研究分業として。

 

まだ体系化していない。

 

「なるほど」

 

少し。

 

考える価値があった。

 

◇ ◇ ◇

 

シミュレーション設備。

 

実物試験の前。

 

大量の条件を流す。

 

材料応力。

 

熱。

 

振動。

 

個性使用時の負荷。

 

人体モデル。

 

装備故障。

 

異常入力。

 

数千。

 

数万。

 

条件。

 

結果。

 

危険なものだけ。

 

実物で確認。

 

私は。

 

画面を見る。

 

自宅でも。

 

計算はする。

 

シミュレーションもする。

 

ただ。

 

ここは。

 

データが多い。

 

私個人では。

 

持っていない。

 

多数の使用者。

 

多数の個性。

 

多数の装備。

 

過去の故障記録。

 

事故例。

 

材料ロット。

 

その蓄積。

 

「設備よりデータの方が価値がありますね」

 

近くにいた研究者が。

 

こちらを見る。

 

「そう思う?」

 

「はい。計算機なら作れます。モデルも作れます。ただ、過去十年分の実使用データは一人では作れません」

 

研究者が笑う。

 

「学生にしては地味なところを見るね」

 

「必要なので」

 

「正しいよ。設備は金で買える。データは時間がかかる」

 

発目さんが。

 

別の画面を見ながら言う。

 

「でも設備も欲しいですよ!」

 

「否定はしていません」

 

両方あれば。

 

よりいい。

 

◇ ◇ ◇

 

午後。

 

さらに別の区画。

 

材料研究。

 

個性使用環境に耐える特殊素材。

 

高熱。

 

低温。

 

腐食。

 

衝撃。

 

電気。

 

変形。

 

個性によって。

 

必要条件が大きく変わる。

 

私は。

 

芦戸さんを思い出す。

 

酸。

 

爆豪さん。

 

爆発。

 

青山さん。

 

レーザー。

 

同じサポートアイテム素材で。

 

全部に対応する意味はない。

 

だから。

 

用途別材料。

 

ここも。

 

当然。

 

データベース化されている。

 

発目さんは。

 

試作品の関節へ夢中になっている。

 

「これ面白いですよ!」

 

「可変剛性ですか」

 

「そうです! 動く時は柔らかくて、固定したら硬くなるんですよ!」

 

「形状変化系のコスチュームには使いやすそうですね」

 

「ですよね!」

 

技術の話なら。

 

会話が続く。

 

私は。

 

展示の説明を読む。

 

制御方式。

 

材料。

 

耐久回数。

 

応答速度。

 

一つ。

 

違和感。

 

「ここの耐久試験」

 

「はい?」

 

発目さんが寄る。

 

「回数が少ないですね」

 

説明員へ聞く。

 

理由。

 

試作品段階。

 

材料自体は。

 

別研究チーム。

 

現在の数字は。

 

暫定。

 

なるほど。

 

完成品ではない。

 

I・Expoは。

 

商品展示だけではない。

 

研究途中のものもある。

 

その方が。

 

面白い。

 

◇ ◇ ◇

 

夕方。

 

一度。

 

中央の案内区画へ戻る。

 

歩いた。

 

かなり。

 

発目さんは。

 

まだ元気。

 

「次どこ行きます!?」

 

「今日は見学時間が終わりに近いです」

 

「夜も開けてくれないですかね!」

 

「規則なので無理でしょう」

 

「お願いしたら!」

 

「多分無理です」

 

周囲を見る。

 

研究者。

 

技術者。

 

企業関係者。

 

ヒーロー。

 

招待客。

 

人が多い。

 

それでも。

 

研究施設の全部が。

 

公開されているわけではない。

 

見えているのは。

 

一部。

 

この島の奥には。

 

企業秘密。

 

未公開研究。

 

危険な個性研究。

 

そういうものも。

 

当然あるはず。

 

私は。

 

自宅の研究室を思い出す。

 

工作区画。

 

解析区画。

 

個性因子区画。

 

試作区画。

 

かなり満足していた。

 

今も。

 

自分一人の研究所としては。

 

不満は少ない。

 

でも。

 

ここは。

 

考え方が違う。

 

自宅は。

 

私一人が。

 

必要な研究を。

 

最短で進めるための場所。

 

I・アイランドは。

 

大量の研究者が。

 

大量の研究を。

 

同時に進めるための場所。

 

個人の能力ではなく。

 

仕組みで。

 

研究速度を上げている。

 

研究テーマを分ける。

 

担当を分ける。

 

設備を共有する。

 

規格を揃える。

 

データを蓄積する。

 

製造を工程化する。

 

検査を統一する。

 

一人がいなくても。

 

全体が止まらない。

 

これは。

 

私が今まで。

 

あまり必要としていなかった考え方だった。

 

一人でできるから。

 

一人でやる。

 

それで。

 

かなり遠くまで来た。

 

ただ。

 

できることと。

 

一人で全部やるのが最も効率的かは。

 

同じではない。

 

「空木さん?」

 

発目さんが呼ぶ。

 

「はい」

 

「何見てるんです?」

 

「島です」

 

「島?」

 

「研究所として」

 

発目さんが。

 

少し考える。

 

「でっかい工房ですよね!」

 

かなり簡略化された。

 

でも。

 

間違いでもない。

 

「そうですね」

 

私は。

 

もう一度周囲を見る。

 

自宅に。

 

同じものは作れない。

 

少なくとも。

 

今すぐ。

 

同じ規模は必要ない。

 

でも。

 

一人の研究能力を。

 

設備。

 

標準化。

 

分業。

 

製造。

 

それらで増幅する考え方は。

 

使える。

 

研究そのものではなく。

 

研究の進め方。

 

そこまで。

 

研究対象になる。

 

I・アイランドへ来た価値は。

 

もうあった。

 

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