無個性は個性をつくる 作:匿名希望
外部増幅機構を、サポートアイテム用の標準部品として登録した。
それで一段落。
学校から依頼が来れば使う。来なければ、今すぐ作るものはない。
夏休み。時間はある。研究室も広くなった。個性兵も作れる。
なら、何か作る。
明確な必要性は、特にない。
私は端末を開いた。
表示したのは、ヒーロービルボードチャート。上位の有名なヒーロー。
映像資料が多い。戦闘、救助、災害対応、訓練、取材。能力について公開されている情報も多い。
個性兵の設計対象として、都合がいい。
「この辺からでいいですか」
特に深い理由はなかった。
上から、目立つものをいくつか作ってみる。
◇ ◇ ◇
最初、オールマイト。
本人を作る必要はない。外見、性格、声。そういうものは不要。
欲しいのは、公開映像から確認できる機能。筋力、速度、反応、耐久、跳躍、打撃による衝撃。その程度。
個性の正体まで分からなくても、同じ結果を出す人工個性は設計できる。むしろ、同じ構造にする意味がない。
私は人工肉体を設計する。
通常の個性兵より、骨格、筋組織、関節、循環を強く。
役割用人工個性。身体強化、衝撃耐性、高速行動時の知覚補正、自己損傷防止、空気圧を生むほどの打撃。一つの複合能力へまとめる。
完成。
人型。ただし、当然オールマイトには似せていない。
人工的な顔。人工的な外皮。識別しやすい無機質な外見。
起動。
「前方の標的を破壊してください」
個体が走る。速い。
拳。衝撃。試験用標的、破壊。
そのまま止まる。
壁、無傷。床、少し傷。
「床の方を補強した方がいいですね」
研究施設を改装した時、試作区画はかなり丈夫にした。それでも、この出力で繰り返すなら、さらに耐衝撃層を追加した方がいい。
個体側ではなく、研究室側に新しい課題が出た。
悪くない。
◇ ◇ ◇
二体目。エンデヴァー。
これも、人間本人を作らない。
必要なのは、炎、高熱、出力制御、広範囲、集中、噴射、熱への耐性。
個性兵自身が、自分の炎で壊れるのは困る。
人工肉体。耐熱、冷却。高温環境でも、知覚と判断を維持。
役割用人工個性。炎生成、高熱化、方向制御、出力量調整。
完成。
起動。
標的、燃焼。
次。一点、高熱。
次。広範囲。
消火設備、作動。
「問題ありませんね」
火力、使いやすい。
ただ、室内試験には向いていない。排熱が大きい。
私は個体を止める。
隣、最初の身体強化型。その横へ、炎型を並べる。
特に意味はない。保管場所はある。邪魔になったら、消せばいい。
個性兵はもう、命令一つで自己分解できる。だから、試作品を残すことへの抵抗もかなり減った。
◇ ◇ ◇
三体目。ホークス。
映像を見る。
高速飛行。羽。一枚ずつ動く。複数、同時。遠隔操作。救助。攻撃。そして、羽を通した周囲認識。
かなり個性兵向き。
私は構造を分ける。
飛行、羽生成、遠隔制御、羽への感覚共有、複数対象追跡、人工OSとの連携。
この型は、本人が一枚一枚の羽を全部意識して動かす必要はない。個性兵だから、OS側へ処理を回せる。
命令、救助。なら、複数の羽を自律的に対象へ配分。
私は小型の試験物体を、試作区画内に散らす。
「すべて回収してください」
翼、展開。
羽、分離。十枚、二十枚。別方向へ、一つずつ物体を持つ。
戻る。机へ並べる。
「便利ですね」
荷運び用個性兵より細かい。高速。同時処理数が多い。
ただ、重量物には弱い。役割が違う。
次、飛行。
試作区画内では狭い。低速。浮上、旋回、着地。正常。
「屋外で試したいですが」
やめる。
外から見られる理由がない。家の中だけで十分。
ホークス型も、二体の横へ並べる。
三体。
◇ ◇ ◇
次。ベストジーニスト。
繊維操作。服、布、糸。大量の細い対象をまとめて扱う。
本人の個性を完全に再現する必要はない。
人工個性側で、対象物、繊維構造、認識、操作、締め付け、固定、搬送。
設計。試す。
布、複数。動く。標的を拘束。
次、細いワイヤー状素材。同じ。
「拘束用としては使いやすいですね」
戦闘以外、救助にも使える。
落下物、固定。負傷者、搬送補助。構造物、仮固定。
用途、多い。
並べる。
四体。
◇ ◇ ◇
エッジショット。
これは少し違う。
身体そのものを薄く、細く変形。侵入、回避、拘束。
人体なら、かなり特殊な個性。
人工肉体なら、最初から変形を前提にして作れる。
骨格、固定しすぎない。内部構造、変形時にも機能を維持。循環も、通常の人間型へ寄せる必要が薄い。
役割用人工個性。肉体変形、薄化、細線化、高速変形、復元。
狭い隙間、通過。
「これは人工肉体の方が相性がいいですね」
人間の臓器配置を守る必要がない。
試験。
壁。試験用スリット。
個体が細くなる。通過。戻る。
正常。
並べる。
五体。
研究室の一角が、少し狭くなった。
まだ、問題ない。
◇ ◇ ◇
クラスト。
障壁。
これは設計が単純。
壁、盾、足場、複数、方向、展開速度、耐衝撃。
私は人工個性を作る。
試す。
前、障壁。
横、障壁。
上、落下物。防御。
複数、同時。
問題なし。
研究施設の防御にも使えそう。
ただ、今は試作品。実用配備する必要はない。
並べる。
六体。
◇ ◇ ◇
シンリンカムイ。
木質、伸長、拘束、移動補助、救助。
これも、本人の身体を木にする必要はない。
腕、あるいは任意部位から伸長する拘束材。木に似た性質。軽量、高強度、可撓性、自己収納。
それでいい。
人工個性。生成、伸長、巻き付き、固定。切断時、再生成。
試作。
遠くの箱。掴む。引く。
次、人体模型。倒れない程度の力で固定。持ち上げる。搬送。
使える。
並べる。
七体。
◇ ◇ ◇
ウォッシュ。
少し方向が違う。
泡、洗浄、救助、除染、消火。
公開されている活動を見る。
戦闘力より、対応範囲が広い。個性兵へかなり合う。
泡生成、物質除去、洗浄、有害物の隔離、熱抑制、浮力、対象保護。
設計。
個性兵自身は、水や洗浄剤の在庫を持つ必要がない。役割用人工個性で、必要な泡を作る。
試験。
油、除去。粉塵、除去。小型火炎、消火。
壊れやすい物体。泡で包む。落下。衝撃、緩和。
「かなり実用的ですね」
家で使うには大げさ。
でも、災害対応なら使いやすい。
並べる。
八体。
そろそろ、本当に場所を取る。
◇ ◇ ◇
最後。リューキュウ。
大型化、飛行、高耐久、運搬。人を乗せる。物を運ぶ。
大きい。
問題。研究室に入らない。
なら、最初から最大サイズを抑える。
本人と同じ姿になる必要もない。龍を再現する理由なし。
人工的な大型飛行個体。それでいい。
通常時、人型に近い。
起動。大型化。ただし、室内安全限界まで。
翼、展開。飛行、低速。
重量物、保持。複数の人体模型、搭載。移動。
救助運搬。かなり向いている。
「これは外の方が試験しやすいですね」
やはり、家の中では大型個体は面倒。
縮小。停止。
並べる。
九体。
◇ ◇ ◇
私は端末を見る。
他、上位ヒーロー。
ミルコ。
考える。
脚力、高速移動、近接戦闘、高い身体能力。
既に最初に作った身体強化型と、役割がかなり重なる。
もちろん、細部は違う。下半身、跳躍、蹴撃。そこへ寄せることはできる。
でも、今作る意味はあまりない。
「これはいいですね」
飛ばす。
全部を作る必要はない。思いつきの遊びなので、義務もない。
◇ ◇ ◇
試作区画。
九体、並んでいる。
身体強化型。炎型。高速飛行型。繊維操作型。変形潜入型。障壁型。拘束救助型。洗浄救助型。大型飛行運搬型。
元になったヒーローを知らない人が見れば、何の集団か分からないと思う。
外見は似せていない。色も、衣装も、名前も再現していない。
人工的な個体が、ただ並んでいる。
それでいい。
私は人間を複製したいわけではない。性格、人生、経験、戦い方。そういうものまでコピーする意味はない。
見ているのは、機能。
このヒーローは何ができるか。その機能を人工個性と人工肉体へ置き換えたら、どうなるか。
それだけ。
◇ ◇ ◇
ただ、作ってみると面白い。
ヒーロー本人は、一つの身体、一つの個性、生まれ持った条件。その中で技術を磨く。装備を作る。戦い方を選ぶ。
私は逆。
先に必要な機能を見る。それから、その機能が最も使いやすい身体と個性を作る。
だから、同じ結果を目指しても、構造はかなり違う。
オールマイト型。本人がどういう個性なのか、詳細は知らない。でも、高い身体能力が必要なら、それを設計する。
エンデヴァー型。炎を出す本人の身体構造を、そのまま再現する必要はない。最初から、耐熱と冷却を含めて作る。
ホークス型。羽操作を人工OSと分担する。人間の処理能力へ合わせる必要がない。
リューキュウ型。人間が巨大化する必要はない。最初から、大型化に向いた人工構造へする。
本人たちより強い、弱い。そういう比較でもない。
目的が違う。
私は有名ヒーローを再現しているようで、実際には公開されている能力を設計課題として使っているだけだった。
◇ ◇ ◇
数日、同じことを続ける。
一体、細部修正。別個体、OS調整。
複数同時、命令。
「障壁型は前方防御」
障壁。
「拘束型は対象を固定」
拘束。
「洗浄型は周辺の可燃物を処理」
泡。
「飛行型は上から状況確認」
翼。
複数の個性兵が、別々に動く。
最初に一体だけ作った時より、かなり見栄えはする。
ただ、研究として見ると次の問題も出る。
複数個体、同時運用。
全部、私が一つずつ命令すると少し面倒。
人工OSがあるので、大まかな命令。それで動く。
でも、九体。用途、別。優先順位、別。
大量になれば、中間でまとめる仕組みが欲しくなる。
今すぐ必要ではない。
今は九体。私一人でも十分。
ただ、記録しておく。
将来、増えたら考える。
◇ ◇ ◇
私は研究室の入口から、並んだ個体を見る。
かなり増えた。
邪魔ではない。まだ。
ただ、このまま思いつくたび一体ずつ作れば、そのうち邪魔になる。
その時は、消せばいい。
「自己分解機能を入れておいて正解でしたね」
一体ずつ手で解体する。以前の方法なら、絶対に残したくない数。
今は、命令一つ。それで消える。
だから、保存するか、処分するか。深く考える必要もない。
設計図は私の中にある。必要なら、また作れる。個体そのものに希少性はない。
私は九体へ、待機命令を出した。
一斉に動きが止まる。
ビルボードチャート上位のヒーローを、機能だけ切り出して人工生命へ載せたもの。
それが、自宅の研究室になんとなく並んでいる。
特に使い道は決めていない。作れるから、作っただけ。
そのうち何かに使うかもしれない。使わないかもしれない。
邪魔になれば消す。
今はまだ場所がある。
なら、置いておいても問題はなかった。