無個性は個性をつくる 作:匿名希望
個性兵を作って、試して、直して、また作る。それを何度も繰り返していると、当然、個性兵を作る技術そのものも上がる。
最初の個体は、人工肉体、人工OS、任務用人工個性。それぞれを組み合わせて、とりあえず自律して動けば成功。その程度だった。
荷運び用では、念動力を使って、指示された資材を指定された場所へ運ばせた。その後、有名ヒーローの機能を参考に、身体強化、炎、飛行、遠隔操作、繊維操作、身体変形、障壁、拘束、泡、大型化。いろいろ作った。
結果、分かったことも多い。
どの程度の身体性能があれば、どの程度の個性出力に耐えられるか。人工OSへ、どこまで判断を任せられるか。任務を細かく指定すべき部分。逆に、目的だけ与えて自分で判断させた方が効率的な部分。複数機能を一つの複合人工個性へまとめた時、どこまで干渉するか。
設計、製造、起動、試験、修正。その周期もかなり短くなった。
私は研究室に並んだ個性兵を見る。
もう、試しに作って、偶然うまく動くという段階ではない。
求める性能を決める。必要な身体を決める。OS、個性、安全条件、自己維持。そこまで設計すれば、だいたい最初から想定した性能になる。
「実用品を作ってもよさそうですね」
遊ぶための試作品ではなく、実際に継続して使うもの。
何を作るか考える。
その答えは、すぐ出た。
「家事ですね」
◇ ◇ ◇
一人暮らし自体は問題ない。
料理、できる。洗濯、できる。掃除、できる。買い物、できる。特に苦手なものはない。
問題は、全部時間を使うことだった。
食事を作る。食べる。片付ける。洗濯機を回す。干す。取り込む。畳む。床、机、浴室、台所を掃除。消耗品、食料を買い足す。
一つ一つは大した時間ではない。ただ、毎日ある。研究中でもなくならない。
食事をしなければ腹が減る。服を洗わなければなくなる。掃除をしなければ汚れる。
「全部任せればいいですね」
今まで、自分でやるしかなかった。今は違う。
命令通り動いて、疲れず、文句も言わず、必要な仕事だけ続ける人工生命を作れる。
なら、自分でやる理由がない。
◇ ◇ ◇
家事用。
まず、人工肉体。
戦闘能力、不要。高出力、不要。高速飛行、不要。極端な耐久、不要。
必要なのは、人間の生活環境で普通に物を扱えること。
両手、指、適度な力、高い精密性。階段を歩く。荷物を持つ。台所用品を使う。洗濯物を扱う。食材を切る。熱い鍋を持つ。
最低限、それでいい。
身体構造を決める。
次、外見。
ここも、人間へ似せる必要はない。今までと同じ、明確な人工個体。
ただし、買い物へ行かせるなら、大型、奇抜。それは邪魔。
人間と同程度の大きさ。服も必要ない構造。体表は汚れにくく、洗浄しやすい。
外から見れば、異形型の個性を持つ人間。その程度に見えると思う。
この社会では、変わった外見の人間自体、珍しくない。単体でスーパーへ行くくらいなら、特に問題にはならないだろう。
◇ ◇ ◇
次、人工OS。
ここが重要。
家事は、戦闘より曖昧な判断が多い。
「片付ける」
だけでは困る。
何を、どこへ、どの基準で。触っていいのか。
研究室には、試料、試作品、測定途中のもの、保存中の個性因子。外見だけではゴミと区別しにくいものもある。
家事型が勝手に判断して処分したら、かなり困る。
だから、最上位条件。
研究設備へ、許可なく触れない。試料へ触れない。研究室の机の上、触れない。試作区画、触れない。保存区画、入らない。
生活空間と研究空間を明確に分ける。
生活空間でも、登録されていない物品は勝手に処分しない。迷ったら、そのまま。必要なら、私へ確認。
逆に、仕事として設定したものは、毎回私の指示を待たない。
床が汚れる。掃除。洗濯物、一定量。洗濯。食事時間、調理。食料、減る。買い物。使った食器、洗浄。消耗品、残量低下。補充。
定型化できるものは、全部自動。
「これでいいですね」
余計なことをしない。でも、決められた仕事は言われなくてもやる。
必要なのは、その程度だった。
◇ ◇ ◇
料理。
これについては、私が教える意味がない。
人間が既に大量に記録している。
私はネットへ接続する。
料理、レシピ、調理法、下処理、保存、食材、温度、時間、分量。
主要な公開レシピデータをまとめて取得。
和食、洋食、中華、その他。家庭料理、簡単なもの、時間がかかるもの。一通り、家事型へ入れる。
「多いですね」
ただ、記憶容量を人間へ合わせる必要はない。
問題なし。
レシピをそのまま実行するだけでは、少し足りない。
冷蔵庫にある食材、賞味期限、栄養、調理時間、私が指定した希望。そこから候補を選ばせる。
例えば、朝。時間優先なら短時間。
夕食。指定なしなら、在庫から期限が近いものを優先。
私が、
「カレーで」
と言えば、カレー。それだけ。
味付けも、最初はレシピ通り。食べて、必要なら私の評価を次へ反映。
それで十分。
◇ ◇ ◇
買い物。
これも難しくない。
近所にセルフレジのスーパーがある。
必要な食材、日用品。在庫から買い物リストを生成。指定予算、決済手段を持たせる。
店。商品識別。価格。数量。セルフレジ。支払い。帰宅。
普通。
多少、見た目が変わっていても、異形系と思われる程度だろう。
わざわざ、
「人工生命です」
と説明して歩く必要もない。
人間に危害を加えない。揉め事へ関わらない。何か問題が起きたら、買い物を中断。帰宅。
それでいい。
◇ ◇ ◇
掃除。
ここは少し個性を使う。
前に作った、ウォッシュの機能を参考にした個性兵。泡、洗浄、除染、消火。
あれは災害対応も想定して、出力が大きかった。
家事には不要。
もっと小さく。
床、窓、浴室、台所。汚れ。そこへ使える簡易洗浄泡。
洗浄力、対象に合わせて調整。家具を傷めない。電気機器へ不用意に使わない。泡自体は短時間で回収、あるいは無害な状態へ分解。
掃除機、雑巾、ブラシ。普通の掃除道具も使う。
何でも個性で済ませる理由はない。個性の方が便利な場所だけ使う。
「これくらいで十分ですね」
◇ ◇ ◇
もう一つ。
限定版『創造』。
個性兵の自己維持用にも、同系統の機能は使っている。今回は家事用品用。
範囲を限定。
掃除機、破損。新しいものを作る。モップ、壊れる。作る。食器、不足。作る。簡単な調理器具、必要。作る。
ただし、何でも自由に作らせる必要はない。
登録された物だけ。設計データ、事前に入れる。
掃除機。各部品、モーター、回路、樹脂、フィルター、完成構造。全部、レシピとして登録。
必要な外部エネルギーは、家庭内電源から安全範囲で取得。
「掃除機が壊れました」
その後、私を呼びに来る。
必要なし。
状態確認。修理するより新品生成の方が早いなら、古いものを停止。新しく作る。破損品、分別、処理。そのまま掃除続行。
理想的。
私の研究を、掃除機の故障で止める必要がなくなる。
◇ ◇ ◇
洗濯。
普通に洗濯機を使わせる。
衣類、分類。洗濯表示。洗剤。乾燥。収納。
必要なら、小規模洗浄泡。ただ、普通の洗濯機で十分なら、そちら。
食器、食器洗浄。台所、整理。ゴミ、分類。指定日に、指定場所。
家のルール。自治体の分別。収集日。入力。
日常生活。思ったより条件が多い。
でも、一度設定すれば、毎日私が覚えて実行する必要はなくなる。
その方が重要だった。
◇ ◇ ◇
設計、終わり。
製造。
人工肉体、生成。自律OS、搭載。生活管理用複合人工個性。限定版『創造』。小規模洗浄泡。状態認識。登録。自己維持。自己分解。
そして、家事データ。料理、買い物、掃除、洗濯、片付け。
全部、入れる。
完成。
個体が目を開く。
「起動してください」
起動。こちらを見る。
「家事管理を開始してください」
「承知しました」
会話能力も普通に持たせた。必要な時、報告できる方が便利。
個体が周囲を見る。
現在時刻、生活空間、在庫、洗濯物、台所、掃除状態。一つずつ確認。
そして、最初に言った。
「冷蔵庫内の食材が不足しています。買い物が必要です」
「お願いします」
「承知しました」
玄関へ移動。
決済手段、買い物用バッグを持つ。
靴は不要な足部構造にしてある。
扉、開く。出ていく。閉める。
私は研究室へ戻った。
かなり普通だった。
◇ ◇ ◇
三十分ほど、私は人工個性の設計を進める。
途中、止めない。買い物、気にしない。
しばらくして、玄関が開く。
家事型、帰宅。
商品、確認。冷蔵庫、収納。常温、収納。購入記録、保存。余計なもの、なし。
「問題ありませんでしたか?」
「ありません」
「そうですか」
終わり。
私は研究へ戻る。
家事型は台所へ。夕食準備。包丁、食材、加熱。匂い。
少しして、食事に呼ばれる。
食べる。
普通。味、問題なし。
「塩分を少し下げてもいいですね」
「次回から補正します」
「お願いします」
食べ終える。食器を置く。研究室へ戻る。
家事型、片付け、洗浄。
私は何もしない。
便利。
◇ ◇ ◇
翌日。
さらに分かりやすかった。
朝、起きる。食事、できている。食べる。食器、置く。そのまま研究室。
途中、洗濯機が動く音。
少し後、掃除。泡。微かな機械音。
私は研究している。
昼、食事が出る。また研究。
午後、家事型から一度だけ報告。
「掃除機の吸引機構に破損を確認しました」
「交換できますか?」
「登録設計があります」
「ではお願いします」
「承知しました」
それだけ。
数分後、新しい掃除機を生成。掃除再開。
私は席から立っていない。
これ、かなりいい。
◇ ◇ ◇
以前、自分で念動力を使って荷物を運ぶより、個性兵へ、
「運んでください」
と命令する方が便利だと思った。
同じ。というより、家事の方が効果は大きい。
荷運びは改築中だけ。家事は毎日。
毎日、少しずつ時間を取る。
それが全部なくなる。
私は自分の一日を確認する。
睡眠、食事、学校。それ以外、研究。
夏休みなので学校もない。そして、家事もほぼなくなった。
食事を食べる時間は残る。風呂も、睡眠も必要。
でも、その前後の準備、片付け、管理。全部、任せられる。
研究時間、明らかに増えた。
「もっと早く作ってもよかったですね」
ただ、以前なら、この性能で狙って作れる保証がなかった。
今だから、実用品として任せられる。
◇ ◇ ◇
家事型の動作を数日見る。
問題、ほとんどない。
研究室、勝手に触れない。床清掃が必要でも、指定された通路だけ。試作品、触らない。机、触らない。保存容器、触らない。
生活空間、自動管理。
冷蔵庫、在庫、洗濯、掃除、調理、買い物、ゴミ。必要なものだけ動く。
指示されていないことへ、勝手に興味を持たない。
「今日は外食してきます」
と言えば、夕食を作らない。
「明日の朝は遅くていいです」
指定変更。それだけ。
不満、なし。疲労、なし。機嫌、なし。休日、不要。褒める必要、なし。
人間の家政婦を雇うより、私にはこちらの方が合う。
人間なら、研究区画を見たくなるかもしれない。質問するかもしれない。勤務時間、ある。休暇、必要。給与、必要。
個性兵は、設定した仕事だけする。それ以上、何も求めない。
かなり便利。
◇ ◇ ◇
夕方。
私は研究室を出る。
廊下、綺麗。洗濯物、収納済み。台所、片付いている。冷蔵庫、補充済み。家事型、次の食事準備中。
少し前まで、全部私がやっていた。
今は、やる必要がない。
私は家事型へ言う。
「今の運用で問題ありません。継続してください」
「承知しました」
それだけ。
私は研究室へ戻る。扉を閉じる。
机の上、途中の設計。続きを始める。
後ろで家事型が何をしているか、もう確認する必要もなかった。
必要な仕事は勝手に終わる。その間、私は別のことを考えられる。
個性兵を実用品として作る価値。最初の一体だけで、十分に分かった。
研究へ使える時間が、また増えた。