無個性は個性をつくる   作:匿名希望

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第39話 家事をする個性兵

個性兵を作って、試して、直して、また作る。それを何度も繰り返していると、当然、個性兵を作る技術そのものも上がる。

 

最初の個体は、人工肉体、人工OS、任務用人工個性。それぞれを組み合わせて、とりあえず自律して動けば成功。その程度だった。

 

荷運び用では、念動力を使って、指示された資材を指定された場所へ運ばせた。その後、有名ヒーローの機能を参考に、身体強化、炎、飛行、遠隔操作、繊維操作、身体変形、障壁、拘束、泡、大型化。いろいろ作った。

 

結果、分かったことも多い。

 

どの程度の身体性能があれば、どの程度の個性出力に耐えられるか。人工OSへ、どこまで判断を任せられるか。任務を細かく指定すべき部分。逆に、目的だけ与えて自分で判断させた方が効率的な部分。複数機能を一つの複合人工個性へまとめた時、どこまで干渉するか。

 

設計、製造、起動、試験、修正。その周期もかなり短くなった。

 

私は研究室に並んだ個性兵を見る。

 

もう、試しに作って、偶然うまく動くという段階ではない。

 

求める性能を決める。必要な身体を決める。OS、個性、安全条件、自己維持。そこまで設計すれば、だいたい最初から想定した性能になる。

 

「実用品を作ってもよさそうですね」

 

遊ぶための試作品ではなく、実際に継続して使うもの。

 

何を作るか考える。

 

その答えは、すぐ出た。

 

「家事ですね」

 

◇ ◇ ◇

 

一人暮らし自体は問題ない。

 

料理、できる。洗濯、できる。掃除、できる。買い物、できる。特に苦手なものはない。

 

問題は、全部時間を使うことだった。

 

食事を作る。食べる。片付ける。洗濯機を回す。干す。取り込む。畳む。床、机、浴室、台所を掃除。消耗品、食料を買い足す。

 

一つ一つは大した時間ではない。ただ、毎日ある。研究中でもなくならない。

 

食事をしなければ腹が減る。服を洗わなければなくなる。掃除をしなければ汚れる。

 

「全部任せればいいですね」

 

今まで、自分でやるしかなかった。今は違う。

 

命令通り動いて、疲れず、文句も言わず、必要な仕事だけ続ける人工生命を作れる。

 

なら、自分でやる理由がない。

 

◇ ◇ ◇

 

家事用。

 

まず、人工肉体。

 

戦闘能力、不要。高出力、不要。高速飛行、不要。極端な耐久、不要。

 

必要なのは、人間の生活環境で普通に物を扱えること。

 

両手、指、適度な力、高い精密性。階段を歩く。荷物を持つ。台所用品を使う。洗濯物を扱う。食材を切る。熱い鍋を持つ。

 

最低限、それでいい。

 

身体構造を決める。

 

次、外見。

 

ここも、人間へ似せる必要はない。今までと同じ、明確な人工個体。

 

ただし、買い物へ行かせるなら、大型、奇抜。それは邪魔。

 

人間と同程度の大きさ。服も必要ない構造。体表は汚れにくく、洗浄しやすい。

 

外から見れば、異形型の個性を持つ人間。その程度に見えると思う。

 

この社会では、変わった外見の人間自体、珍しくない。単体でスーパーへ行くくらいなら、特に問題にはならないだろう。

 

◇ ◇ ◇

 

次、人工OS。

 

ここが重要。

 

家事は、戦闘より曖昧な判断が多い。

 

「片付ける」

 

だけでは困る。

 

何を、どこへ、どの基準で。触っていいのか。

 

研究室には、試料、試作品、測定途中のもの、保存中の個性因子。外見だけではゴミと区別しにくいものもある。

 

家事型が勝手に判断して処分したら、かなり困る。

 

だから、最上位条件。

 

研究設備へ、許可なく触れない。試料へ触れない。研究室の机の上、触れない。試作区画、触れない。保存区画、入らない。

 

生活空間と研究空間を明確に分ける。

 

生活空間でも、登録されていない物品は勝手に処分しない。迷ったら、そのまま。必要なら、私へ確認。

 

逆に、仕事として設定したものは、毎回私の指示を待たない。

 

床が汚れる。掃除。洗濯物、一定量。洗濯。食事時間、調理。食料、減る。買い物。使った食器、洗浄。消耗品、残量低下。補充。

 

定型化できるものは、全部自動。

 

「これでいいですね」

 

余計なことをしない。でも、決められた仕事は言われなくてもやる。

 

必要なのは、その程度だった。

 

◇ ◇ ◇

 

料理。

 

これについては、私が教える意味がない。

 

人間が既に大量に記録している。

 

私はネットへ接続する。

 

料理、レシピ、調理法、下処理、保存、食材、温度、時間、分量。

 

主要な公開レシピデータをまとめて取得。

 

和食、洋食、中華、その他。家庭料理、簡単なもの、時間がかかるもの。一通り、家事型へ入れる。

 

「多いですね」

 

ただ、記憶容量を人間へ合わせる必要はない。

 

問題なし。

 

レシピをそのまま実行するだけでは、少し足りない。

 

冷蔵庫にある食材、賞味期限、栄養、調理時間、私が指定した希望。そこから候補を選ばせる。

 

例えば、朝。時間優先なら短時間。

 

夕食。指定なしなら、在庫から期限が近いものを優先。

 

私が、

 

「カレーで」

 

と言えば、カレー。それだけ。

 

味付けも、最初はレシピ通り。食べて、必要なら私の評価を次へ反映。

 

それで十分。

 

◇ ◇ ◇

 

買い物。

 

これも難しくない。

 

近所にセルフレジのスーパーがある。

 

必要な食材、日用品。在庫から買い物リストを生成。指定予算、決済手段を持たせる。

 

店。商品識別。価格。数量。セルフレジ。支払い。帰宅。

 

普通。

 

多少、見た目が変わっていても、異形系と思われる程度だろう。

 

わざわざ、

 

「人工生命です」

 

と説明して歩く必要もない。

 

人間に危害を加えない。揉め事へ関わらない。何か問題が起きたら、買い物を中断。帰宅。

 

それでいい。

 

◇ ◇ ◇

 

掃除。

 

ここは少し個性を使う。

 

前に作った、ウォッシュの機能を参考にした個性兵。泡、洗浄、除染、消火。

 

あれは災害対応も想定して、出力が大きかった。

 

家事には不要。

 

もっと小さく。

 

床、窓、浴室、台所。汚れ。そこへ使える簡易洗浄泡。

 

洗浄力、対象に合わせて調整。家具を傷めない。電気機器へ不用意に使わない。泡自体は短時間で回収、あるいは無害な状態へ分解。

 

掃除機、雑巾、ブラシ。普通の掃除道具も使う。

 

何でも個性で済ませる理由はない。個性の方が便利な場所だけ使う。

 

「これくらいで十分ですね」

 

◇ ◇ ◇

 

もう一つ。

 

限定版『創造』。

 

個性兵の自己維持用にも、同系統の機能は使っている。今回は家事用品用。

 

範囲を限定。

 

掃除機、破損。新しいものを作る。モップ、壊れる。作る。食器、不足。作る。簡単な調理器具、必要。作る。

 

ただし、何でも自由に作らせる必要はない。

 

登録された物だけ。設計データ、事前に入れる。

 

掃除機。各部品、モーター、回路、樹脂、フィルター、完成構造。全部、レシピとして登録。

 

必要な外部エネルギーは、家庭内電源から安全範囲で取得。

 

「掃除機が壊れました」

 

その後、私を呼びに来る。

 

必要なし。

 

状態確認。修理するより新品生成の方が早いなら、古いものを停止。新しく作る。破損品、分別、処理。そのまま掃除続行。

 

理想的。

 

私の研究を、掃除機の故障で止める必要がなくなる。

 

◇ ◇ ◇

 

洗濯。

 

普通に洗濯機を使わせる。

 

衣類、分類。洗濯表示。洗剤。乾燥。収納。

 

必要なら、小規模洗浄泡。ただ、普通の洗濯機で十分なら、そちら。

 

食器、食器洗浄。台所、整理。ゴミ、分類。指定日に、指定場所。

 

家のルール。自治体の分別。収集日。入力。

 

日常生活。思ったより条件が多い。

 

でも、一度設定すれば、毎日私が覚えて実行する必要はなくなる。

 

その方が重要だった。

 

◇ ◇ ◇

 

設計、終わり。

 

製造。

 

人工肉体、生成。自律OS、搭載。生活管理用複合人工個性。限定版『創造』。小規模洗浄泡。状態認識。登録。自己維持。自己分解。

 

そして、家事データ。料理、買い物、掃除、洗濯、片付け。

 

全部、入れる。

 

完成。

 

個体が目を開く。

 

「起動してください」

 

起動。こちらを見る。

 

「家事管理を開始してください」

 

「承知しました」

 

会話能力も普通に持たせた。必要な時、報告できる方が便利。

 

個体が周囲を見る。

 

現在時刻、生活空間、在庫、洗濯物、台所、掃除状態。一つずつ確認。

 

そして、最初に言った。

 

「冷蔵庫内の食材が不足しています。買い物が必要です」

 

「お願いします」

 

「承知しました」

 

玄関へ移動。

 

決済手段、買い物用バッグを持つ。

 

靴は不要な足部構造にしてある。

 

扉、開く。出ていく。閉める。

 

私は研究室へ戻った。

 

かなり普通だった。

 

◇ ◇ ◇

 

三十分ほど、私は人工個性の設計を進める。

 

途中、止めない。買い物、気にしない。

 

しばらくして、玄関が開く。

 

家事型、帰宅。

 

商品、確認。冷蔵庫、収納。常温、収納。購入記録、保存。余計なもの、なし。

 

「問題ありませんでしたか?」

 

「ありません」

 

「そうですか」

 

終わり。

 

私は研究へ戻る。

 

家事型は台所へ。夕食準備。包丁、食材、加熱。匂い。

 

少しして、食事に呼ばれる。

 

食べる。

 

普通。味、問題なし。

 

「塩分を少し下げてもいいですね」

 

「次回から補正します」

 

「お願いします」

 

食べ終える。食器を置く。研究室へ戻る。

 

家事型、片付け、洗浄。

 

私は何もしない。

 

便利。

 

◇ ◇ ◇

 

翌日。

 

さらに分かりやすかった。

 

朝、起きる。食事、できている。食べる。食器、置く。そのまま研究室。

 

途中、洗濯機が動く音。

 

少し後、掃除。泡。微かな機械音。

 

私は研究している。

 

昼、食事が出る。また研究。

 

午後、家事型から一度だけ報告。

 

「掃除機の吸引機構に破損を確認しました」

 

「交換できますか?」

 

「登録設計があります」

 

「ではお願いします」

 

「承知しました」

 

それだけ。

 

数分後、新しい掃除機を生成。掃除再開。

 

私は席から立っていない。

 

これ、かなりいい。

 

◇ ◇ ◇

 

以前、自分で念動力を使って荷物を運ぶより、個性兵へ、

 

「運んでください」

 

と命令する方が便利だと思った。

 

同じ。というより、家事の方が効果は大きい。

 

荷運びは改築中だけ。家事は毎日。

 

毎日、少しずつ時間を取る。

 

それが全部なくなる。

 

私は自分の一日を確認する。

 

睡眠、食事、学校。それ以外、研究。

 

夏休みなので学校もない。そして、家事もほぼなくなった。

 

食事を食べる時間は残る。風呂も、睡眠も必要。

 

でも、その前後の準備、片付け、管理。全部、任せられる。

 

研究時間、明らかに増えた。

 

「もっと早く作ってもよかったですね」

 

ただ、以前なら、この性能で狙って作れる保証がなかった。

 

今だから、実用品として任せられる。

 

◇ ◇ ◇

 

家事型の動作を数日見る。

 

問題、ほとんどない。

 

研究室、勝手に触れない。床清掃が必要でも、指定された通路だけ。試作品、触らない。机、触らない。保存容器、触らない。

 

生活空間、自動管理。

 

冷蔵庫、在庫、洗濯、掃除、調理、買い物、ゴミ。必要なものだけ動く。

 

指示されていないことへ、勝手に興味を持たない。

 

「今日は外食してきます」

 

と言えば、夕食を作らない。

 

「明日の朝は遅くていいです」

 

指定変更。それだけ。

 

不満、なし。疲労、なし。機嫌、なし。休日、不要。褒める必要、なし。

 

人間の家政婦を雇うより、私にはこちらの方が合う。

 

人間なら、研究区画を見たくなるかもしれない。質問するかもしれない。勤務時間、ある。休暇、必要。給与、必要。

 

個性兵は、設定した仕事だけする。それ以上、何も求めない。

 

かなり便利。

 

◇ ◇ ◇

 

夕方。

 

私は研究室を出る。

 

廊下、綺麗。洗濯物、収納済み。台所、片付いている。冷蔵庫、補充済み。家事型、次の食事準備中。

 

少し前まで、全部私がやっていた。

 

今は、やる必要がない。

 

私は家事型へ言う。

 

「今の運用で問題ありません。継続してください」

 

「承知しました」

 

それだけ。

 

私は研究室へ戻る。扉を閉じる。

 

机の上、途中の設計。続きを始める。

 

後ろで家事型が何をしているか、もう確認する必要もなかった。

 

必要な仕事は勝手に終わる。その間、私は別のことを考えられる。

 

個性兵を実用品として作る価値。最初の一体だけで、十分に分かった。

 

研究へ使える時間が、また増えた。

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