無個性は個性をつくる 作:匿名希望
研究へ使える時間が、また増えた。
家事型個性兵を動かし始めてから、それはかなり分かりやすかった。
朝、起きる。食事はできている。食べる。研究室へ入る。
昼、呼ばれる。食べる。戻る。
夜、同じ。
その間、洗濯、掃除、買い物、片付け。全部、私がやる必要はない。
研究途中で冷蔵庫の中身を思い出す必要も、洗濯機が止まった音を聞いて立ち上がる必要もない。
かなりいい。
「食事の準備ができました」
研究室の扉の外から、家事型の声。
「分かりました」
保存。立つ。食事。終われば、食器を置く。それだけ。
以前と比較すると、一日に使える時間が確実に増えている。少しずつの作業でも、全部足せばそれなりになる。
そして、その時間を私はまた個性兵へ使っていた。
◇ ◇ ◇
試作区画。
人工ヒーロー型、九体。まだ残している。
邪魔ではない。だから、消していない。
並べてある個体を、順番に試す。
身体強化型。出力を少し上げる。ただし、人工肉体側の負荷が増える。なら、筋組織、骨格、関節を先に強化。
炎型。最大出力は十分。問題は長時間使用。人工肉体なら、人間と違って最初から冷却系を役割用人工個性へ組み込める。改良。
飛行型。羽の同時制御数を増やす。人工OSへ処理を任せる割合も変更。一枚ずつ、私が命令する必要はない。
「この区域を観測してください」
それだけ。
どの羽を、どこへ、何枚。人工OSが決める。
戻ってくる情報、正常。
「こちらの方がいいですね」
個性兵は、人間のように一つ一つの行動を訓練で覚える必要がない。
必要な判断規則と、十分な身体、十分な個性。それを最初から用意できる。
だから、試作を繰り返すほど、設計時点でどこまで作ればいいか見えてくる。
面白い。
◇ ◇ ◇
自宅、という言い方が最近、少し合わなくなってきた。
もちろん、住んでいる。寝室、台所、浴室。生活空間も残っている。
でも、それ以外。研究室、解析区画、工作区画、個性因子区画、試作区画、保管。
かなり研究施設。
場所は神野区。雄英へ通うために、こちらへ来た時から住んでいる場所。
市街地の中心からは少し外れている。一戸建て。元は普通の家。
今は、中身だけならかなり違う。
外から見ても、特に研究所には見えない。それでいい。研究拠点であることを、近所へ宣伝する理由はない。
家事型が普通に買い物へ行き、戻ってくる。私も必要なら外出する。それ以外は、ほぼ家の中。
夏休みなので、学校へ行く必要もほとんどない。
研究するには、かなり良い。
◇ ◇ ◇
人工ヒーロー型。
試す。直す。また試す。
途中、一体。障壁型へ条件を追加。
人間、建物。それぞれ、保護対象の優先順位、障壁の置き方を変える。
単純に攻撃を防ぐだけではない。崩落、飛来物、熱、衝撃。対象との距離。複数。人工OS側で判断。
「この人形を保護してください」
模擬落下物を落とす。
障壁、展開。
人形、無傷。ただ、床側へ衝撃が少し大きい。
次。力を分散。角度、調整。
再試験。改善。
次、拘束救助型。
人形を倒れた建材の下へ置く。救出。
単に引けば傷つく。だから、固定、持ち上げ、空間確保、搬出。順番を覚えさせる。
正確には、覚えるというより、判断規則を組む。
一度、正しい形にできれば、次から同じ問題へ安定して対応する。
「使いやすいですね」
用途を最初から決めた個性兵。かなり効率がいい。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
家事型、研究室の外。
「消耗品の補充へ行きます」
「お願いします」
「研究区画用のものは対象外です」
「それで合っています」
生活用品だけ。
研究に使うものは、勝手に補充させない。必要なもの、種類、純度、規格。研究ごとに違う。
そこは私が決める。
家事型、出ていく。
私は作業継続。
少しして戻る。異常、なし。
このあたりも、かなり安定した。
最初の数日、一応、買い物履歴、経路、行動を確認。今は、ほとんど見ない。
設定されたことしかしない。
便利。
◇ ◇ ◇
夕方。
端末、通知。
研究関係ではない。学校関係。
1年H組、グループLINE。
夏休みに入ってから、ほとんど見ていない。授業もないので、当然。
開く。
かなりメッセージが増えていた。
発目さんではない。別のクラスメイト。
ヒーロー科。林間合宿。ヴィラン。襲撃。負傷。病院。
断片的に流れている。
最初、何の話か少し分からなかった。
上へ戻る。読む。
ヒーロー科が林間合宿へ行っていた。そこへヴィランが襲撃。生徒、負傷。複数、入院。教師側にも被害。
かなり大きな事件だったらしい。
1-Hは当然、合宿には参加していない。だから、誰も現場は見ていない。
ニュース、学校からの連絡、知り合い。そこから情報が混ざっている。
一人、書く。
『A組かなり入院してるらしい』
別。
『B組もいるって』
別。
『大丈夫なのかこれ』
別。
『またヴィラン連合?』
確定しているものと、推測が混じっている。
私は読み分ける。
詳細、まだ不明。
「そうですか」
端末を置こうとする。
また通知。
今度、爆豪さん。名前が出ている。
『爆豪が連れてかれたって本当?』
少し待つ。
返信。
『ニュースでも行方不明って』
『ヴィランに拉致されたらしい』
爆豪さん。
私は体育祭で戦った。その後、ガントレットを作った。I・アイランドにも同じ時期にいた。
個性制御、かなり上手い。外部増幅装備とも相性がいい。
その程度、知っている。
拉致された。
なら、警察、ヒーロー、学校。そちらの仕事。
私が見舞いに行く。できない。本人、病院にいない。
他の入院した生徒へ見舞いに行く。理由、特にない。クラスも違う。親しいわけでもない。
「大変そうですね」
それで終わる。
◇ ◇ ◇
ただ、グループLINEは終わらない。
『学校、会見するらしい』
『謝罪会見?』
『合宿先バレてたんだろ?』
『場所変更してたんじゃなかったっけ』
『それでも襲撃されたってヤバくない?』
『保護者めっちゃ怒りそう』
雄英、謝罪会見。開くらしい。
学校側の管理、警備、合宿先。ヴィラン襲撃、生徒拉致。
外から見れば、かなり問題。そうなるのも分かる。
私は、学校へ何か言うことがあるか考える。
ない。
私はその合宿へ参加していない。場所も事前には知らない。警備計画も知らない。事件経緯、知らない。
判断材料、ない。
なら、何も言えない。
LINEへ書き込む内容も、特にない。
そのまま閉じる。
◇ ◇ ◇
少し後、ニュースも見る。
さすがに、大きく扱われていた。
雄英高校。林間合宿。ヴィラン襲撃。負傷者。生徒拉致。警察、捜索。学校、対応。
それ以上、今の時点で私が必要とする情報はあまりない。
映像に新しい個性が映る。そういう話なら、見る価値はある。
でも、公開映像は断片的。暗い。距離、遠い。解析するほど十分な発現情報もない。
ヴィラン側の能力へ少し興味はある。
ただ、それだけ。
私はニュースを閉じる。
研究室へ戻る。
◇ ◇ ◇
家事型が夕食を準備している。
人工ヒーロー型、待機中。
研究室、変化なし。
私は席へ座る。
途中だった個性兵の人工OS、改善。再開。
少しして、またクラスの通知。
見る。
『会見、明日らしい』
『先生たち大変だな』
『ヒーロー科どうなるんだろ』
閉じる。
ヒーロー科がどうなるか、分からない。
学校がどうするか、学校が決める。
爆豪さんは、警察とヒーローが探している。
それで十分。
私は設計へ戻る。
自宅のある神野区は、いつも通りだった。
車、人、店、夕方の音。
特に変わったことはない。
少なくとも、私の周囲では静かだった。