無個性は個性をつくる 作:匿名希望
少なくとも、私の周囲では静かだった。
翌日も、昼まではそうだった。
雄英が謝罪会見を開く。昨日、1年H組のグループLINEへ流れていた話。
時間になったので、研究室の端末でニュースを表示する。
特別、学校を応援したいわけではない。ただ、自分が所属している学校がかなり大きな事件を起こした直後、何を説明するのかは確認しておいてもいい。
画面。雄英高校。校長、教師、複数。頭を下げる。
林間合宿。ヴィランの襲撃。生徒の負傷。爆豪さんの拉致。安全管理。謝罪。記者、質問。
私は別の画面で設計を続けながら、音だけ聞く。
特に、新しい情報は多くない。爆豪さんはまだ見つかっていない。警察、ヒーロー、捜索中。雄英、批判。保護者への説明。今後の安全対策。
「大変そうですね」
家事型が近くを通る。反応しない。当然、質問していない。
私は研究を続ける。
◇ ◇ ◇
会見の途中、ニュース画面下部。速報。
別件。
ヴィラン連合関連施設へ、警察とプロヒーローが踏み込んだ。
私は手を止める。
会見は続いている。
画面を分割。速報側、現地映像。
まだ遠い。ヘリ、警察車両、ヒーロー、規制線。詳細、不明。
場所、確認。
一つ、神野区。
「近いですね」
自宅も神野区。ただし、同じ区内でもすぐ隣というわけではない。
ここはやや郊外側。報道されている地点からは少し離れている。普通なら、直接関係する距離ではない。
普通なら。
私は地図を表示。自宅、報道地点、道路、市街地、距離。確認。
騒ぎが多少大きくなっても、ここまで来る可能性は低い。
そう判断し、研究へ戻る。
◇ ◇ ◇
数分。ニュース、更新。
別地点でも警察、ヒーローが行動。ヴィラン連合への一斉捜査らしい。
詳細は当然、報道されない。
爆豪さん、救出。そのための作戦か。可能性は高い。
でも、私が考えても意味はない。
私は直接参加していない。警察の作戦計画も知らない。どこに誰がいるか、報道以上の情報はない。
なら、見るだけ。
会見側。記者の質問は厳しい。
ヒーロー科の生徒を危険な場所へ集めたこと。合宿地がなぜ知られたのか。教師の責任。雄英の管理体制。
聞いているうち、速報側の映像が変わる。
揺れる。
カメラが一度、空を向く。
音が遅れて入る。
低い。
破裂音ではない。もっと大きい。
私は端末を見る。
「何でしょう」
現地リポーター、状況不明。規制線、さらに後退。
煙が上がる。一部、建物が見えなくなる。
そして、中継が切れる。
◇ ◇ ◇
直後、家が微かに揺れた。
地震ではない。
一度だけ、窓が鳴る。
私は椅子から立つ。研究室の観測設備、起動。
振動、記録。方向、市街地側。
さっきニュースで見ていた場所。
「……かなり大きいですね」
数分前まで、遠い事件だった。
条件が変わった。
ニュース。別カメラの映像。
神野区、市街地。一部、大きく破壊されている。
建物、複数、倒壊。
爆発というより、広い範囲が一度に吹き飛ばされたように見える。
中心はまだ分からない。報道も混乱。
警察、ヒーロー、ヴィラン、市民避難。複数の言葉だけ流れる。
私は地図を見る。
距離はまだある。
ただ、今の破壊範囲。一回。
あれが何度も起きるなら、話が違う。
◇ ◇ ◇
私は研究施設の安全系を確認する。
電力、正常。外壁、正常。窓、正常。地下部分、異常なし。火災、なし。
周辺住民、普通。避難指示はまだ、この辺りまでは来ていない。
家事型は台所。
待機させる。
「家事作業を停止してください」
「承知しました」
「生活区画で待機。外出は禁止です」
「承知しました」
買い物へ行かせる状況ではない。
次、試作区画。
九体。人工ヒーロー型、待機。
私は少し見る。
何となく作った個性兵。
オールマイトの機能を参考にした身体強化型。エンデヴァーの炎。ホークスの飛行。ベストジーニストの繊維。エッジショットの身体変形。クラストの障壁。カムイウッズの拘束。ウォッシュの泡。リューキュウの大型飛行。
使い道は決めていなかった。
邪魔になったら消せばいい。そう思って置いていただけ。
「ちょうどありますね」
この状況なら、かなり使える。
◇ ◇ ◇
問題は、命令。
今まで個性兵へ指示する時は、家の中、近く。それで十分だった。
家事型、直接。人工ヒーロー型、試作区画。運搬型、改築現場。
長距離で複数を動かす必要がなかった。
でも、今、外へ出すなら違う。
電話、無線。使える。
ただ、個性兵のために通信機器を持たせる意味は薄い。
通信網が混雑、切断、破損。それだけで指示不能。
さらに、欲しいのは命令を送るだけではない。
何を見ているか。何が起きているか。こちらで分かる方がいい。
なら、作る。
◇ ◇ ◇
必要機能。
私と個性兵、双方向。命令、状態、視覚、聴覚、必要ならその他の知覚を共有。
距離は、少なくとも神野区内の活動に支障がない。
個性兵側、全ての感覚を常時私へ流す必要はない。九体同時では情報量が多すぎる。
通常は要約。異常は優先通知。私が特定個体を指定した時だけ詳細共有。
命令は逆方向。個体指定、複数指定、全体、優先順位。
人工OSは、命令が途切れても最後の任務を続ける。元々、そう作っている。
だから、共有が一時切れても停止しない。
「これでいいですね」
構造を考える。
難しくない。
既に個性兵には、命令理解系、個体識別、人工OS、知覚。全部ある。
足りないのは、遠隔で私と繋ぐ部分。
新しく人工個性を設計。
共有、接続、命令、感覚伝達。
対象は、私が指定した個性兵のみ。第三者、接続不可。
不用意に人間の思考まで読まない。個性兵のOSそのものも私へ流さない。
必要情報だけ。
「製造」
私自身の中で、人工個性を作る。
以前なら、外部設備が必要だった。今は、頭の中で構造を完成させれば、そのまま作れる。
組み込む。
発現。
一瞬、感覚が増える。
目の前の九体を認識。
近い。
視覚ではない。接続先が分かる。
身体強化型。炎型。飛行型。繊維型。変形型。障壁型。拘束型。泡型。大型飛行型。
家事型。
十。
「家事型は対象外」
接続を切る。
九体、残る。
◇ ◇ ◇
試験。
障壁型。
「こちらを見てください」
口には出さない。
共有、命令。
個体の頭部が動く。こちらを見る。
正常。
次、視界を要求。
切り替わる。
自分の目、研究室。同時に、別の角度。
私自身が見える。障壁型から見た私。
二重。不自然。
でも、処理できる。
情報経路を分ける。必要な時だけ意識を切替。
「右手を上げてください」
遠隔命令。
上げる。
「下げる」
下げる。
次、別室。
飛行型。扉が閉じた状態。
命令。
翼、展開。視界、共有。
問題なし。
距離。
家の外、庭へ出す。
私は研究室。飛行型は外。
視界、入る。
上空へ上げる。
屋根、周囲、道路。
遠く、神野区市街地側。煙が見える。
「使えますね」
◇ ◇ ◇
その瞬間、ニュース側の音が大きくなる。
私は飛行型の視界を維持したまま、画面を見る。
オールマイト、確認。
現場に来ている。
映像は完全ではない。遠距離。でも、分かる。
相手、正体不明の男。周囲、破壊。オールマイト、交戦。
普通のヴィラン事件ではない。
衝撃。
再び、空気が震える。
飛行型、上空。姿勢を一瞬崩す。すぐ復帰。
家の窓が鳴る。
距離はある。それでも、ここまで来る。
「これは困りますね」
研究拠点。精密機器。試料。試作品。家。
壊されると、かなり困る。
周辺住宅。人。当然、いる。
私の家だけ障壁で囲えば、飛んできた瓦礫、衝撃、熱は周囲へ行く。
それでは、防御として雑。
少なくとも、この周辺一帯。危険が来たら、対処した方がいい。
幸い、ちょうど向いているものがある。
◇ ◇ ◇
九体へ接続。
私は命令を整理する。
最優先。研究拠点と周辺住民の保護。
戦闘中心地へ無意味に突入しない。警察、ヒーローの活動を妨害しない。ヴィランを積極的に追跡しない。
救助、防御、火災、崩落、避難路を優先。
人工OS、受領。
障壁型、応答。拘束救助型、応答。泡型、応答。大型飛行型、応答。身体強化型、応答。炎型、応答。飛行型、応答。繊維型、応答。変形型、応答。
私は自宅の出入口を開く。
「活動開始」
九体、動く。
◇ ◇ ◇
最初に、飛行型。
上空、状況確認。羽、展開。複数方向。視界、共有。
一気に周辺情報が増える。
道路、住宅、人。騒ぎに気づいて外へ出る人。市街地方向、煙。緊急車両。
次、障壁型。
自宅周辺、主要方向で待機。衝撃、飛来物が来た場合、防御。
拘束救助型。住宅地側。倒壊発生時、救助。
泡型。火災、消火。
大型飛行型。重量物、避難、運搬。
身体強化型。瓦礫、撤去。必要なら持ち上げ。
炎型。火災へ、炎ではなく高熱源の処理。今は直接出番が少ない。
繊維型。拘束、固定、崩れたものの仮支持。
変形型。狭所、確認。
個体ごとに役割がある。
元々、ヒーローの機能を遊びで再設計した。だから当然、人命救助や災害対応へ使えるものも多い。
◇ ◇ ◇
飛行型、共有。
中心地側の視界。
距離はある。細部は見えない。
でも、衝撃は分かる。
建物がさらに崩れる。警察、避難。ヒーロー、戦闘。
中心、オールマイト。その相手。
規模、大きい。
私は地図上で破壊範囲を更新。
今のところ、自宅まで直接来ていない。
ただ、安全とは言えない。
戦闘がどちらへ動くか分からない。相手が何をできるかも分からない。
なら、遠くへ逃げる選択肢もある。
でも、研究施設を置いていく必要は、今の時点ではない。
防御手段はある。周囲も守れる。
なら、まずそのまま状況を見る。
◇ ◇ ◇
家事型が生活区画からこちらへ来る。
「夕食準備時刻です」
戦闘音が遠く、また響く。
私は時計を見る。
確かに、いつもの時間。
「今日は保留してください」
「承知しました」
戻る。
便利。
状況が大きく変わっても、設定された仕事以外、勝手に増やさない。
その間、九体は外で自律行動。
情報がこちらへ次々入る。
飛行型、上空。障壁型、待機。泡型、移動。大型飛行型、屋根を越える。
自分の目。ニュース。複数個体。同時。
少し多い。
私は共有個性の処理を、その場で修正する。
通常情報、圧縮。異常時だけ優先。映像は要求時、詳細。
個体側で、
「瓦礫落下」
「火災確認」
「要救助者なし」
「道路通行可能」
そこまで要約。
必要なら、映像は私が見る。
それで、かなり楽になる。
一度作ったばかり。まだ改良できる。
◇ ◇ ◇
ニュース画面。
戦闘、続く。
オールマイトと相手、真正面から衝突。周囲、被害。
私は相手の個性を映像から見る。
一つではないように見える。
衝撃。空気。何かの強化。複数の挙動。
でも、映像は不十分。
今、解析は優先ではない。
それより、周辺。次の破壊。飛んでくるものに備える。
共有。
飛行型、遠方。
大きな瓦礫の一部が、戦闘方向から住宅地側へ飛ぶ。
まだ、こちらではない。
障壁型へ予測方向、移動。大型飛行型、補助。
命令を送る。
個性兵、動く。
私は家にいる。外へ出ない。
それでも、現場の一部が分かる。指示できる。
思ったより、共有個性は便利。
神野区。少し離れた市街地で、オールマイトと正体不明のヴィランが大規模な戦闘を始めた。
そして、その周囲には、私が何となく作って残していた九体の個性兵が、もう動いていた。