無個性は個性をつくる   作:匿名希望

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第41話 戦闘開始

少なくとも、私の周囲では静かだった。

 

翌日も、昼まではそうだった。

 

雄英が謝罪会見を開く。昨日、1年H組のグループLINEへ流れていた話。

 

時間になったので、研究室の端末でニュースを表示する。

 

特別、学校を応援したいわけではない。ただ、自分が所属している学校がかなり大きな事件を起こした直後、何を説明するのかは確認しておいてもいい。

 

画面。雄英高校。校長、教師、複数。頭を下げる。

 

林間合宿。ヴィランの襲撃。生徒の負傷。爆豪さんの拉致。安全管理。謝罪。記者、質問。

 

私は別の画面で設計を続けながら、音だけ聞く。

 

特に、新しい情報は多くない。爆豪さんはまだ見つかっていない。警察、ヒーロー、捜索中。雄英、批判。保護者への説明。今後の安全対策。

 

「大変そうですね」

 

家事型が近くを通る。反応しない。当然、質問していない。

 

私は研究を続ける。

 

◇ ◇ ◇

 

会見の途中、ニュース画面下部。速報。

 

別件。

 

ヴィラン連合関連施設へ、警察とプロヒーローが踏み込んだ。

 

私は手を止める。

 

会見は続いている。

 

画面を分割。速報側、現地映像。

 

まだ遠い。ヘリ、警察車両、ヒーロー、規制線。詳細、不明。

 

場所、確認。

 

一つ、神野区。

 

「近いですね」

 

自宅も神野区。ただし、同じ区内でもすぐ隣というわけではない。

 

ここはやや郊外側。報道されている地点からは少し離れている。普通なら、直接関係する距離ではない。

 

普通なら。

 

私は地図を表示。自宅、報道地点、道路、市街地、距離。確認。

 

騒ぎが多少大きくなっても、ここまで来る可能性は低い。

 

そう判断し、研究へ戻る。

 

◇ ◇ ◇

 

数分。ニュース、更新。

 

別地点でも警察、ヒーローが行動。ヴィラン連合への一斉捜査らしい。

 

詳細は当然、報道されない。

 

爆豪さん、救出。そのための作戦か。可能性は高い。

 

でも、私が考えても意味はない。

 

私は直接参加していない。警察の作戦計画も知らない。どこに誰がいるか、報道以上の情報はない。

 

なら、見るだけ。

 

会見側。記者の質問は厳しい。

 

ヒーロー科の生徒を危険な場所へ集めたこと。合宿地がなぜ知られたのか。教師の責任。雄英の管理体制。

 

聞いているうち、速報側の映像が変わる。

 

揺れる。

 

カメラが一度、空を向く。

 

音が遅れて入る。

 

低い。

 

破裂音ではない。もっと大きい。

 

私は端末を見る。

 

「何でしょう」

 

現地リポーター、状況不明。規制線、さらに後退。

 

煙が上がる。一部、建物が見えなくなる。

 

そして、中継が切れる。

 

◇ ◇ ◇

 

直後、家が微かに揺れた。

 

地震ではない。

 

一度だけ、窓が鳴る。

 

私は椅子から立つ。研究室の観測設備、起動。

 

振動、記録。方向、市街地側。

 

さっきニュースで見ていた場所。

 

「……かなり大きいですね」

 

数分前まで、遠い事件だった。

 

条件が変わった。

 

ニュース。別カメラの映像。

 

神野区、市街地。一部、大きく破壊されている。

 

建物、複数、倒壊。

 

爆発というより、広い範囲が一度に吹き飛ばされたように見える。

 

中心はまだ分からない。報道も混乱。

 

警察、ヒーロー、ヴィラン、市民避難。複数の言葉だけ流れる。

 

私は地図を見る。

 

距離はまだある。

 

ただ、今の破壊範囲。一回。

 

あれが何度も起きるなら、話が違う。

 

◇ ◇ ◇

 

私は研究施設の安全系を確認する。

 

電力、正常。外壁、正常。窓、正常。地下部分、異常なし。火災、なし。

 

周辺住民、普通。避難指示はまだ、この辺りまでは来ていない。

 

家事型は台所。

 

待機させる。

 

「家事作業を停止してください」

 

「承知しました」

 

「生活区画で待機。外出は禁止です」

 

「承知しました」

 

買い物へ行かせる状況ではない。

 

次、試作区画。

 

九体。人工ヒーロー型、待機。

 

私は少し見る。

 

何となく作った個性兵。

 

オールマイトの機能を参考にした身体強化型。エンデヴァーの炎。ホークスの飛行。ベストジーニストの繊維。エッジショットの身体変形。クラストの障壁。カムイウッズの拘束。ウォッシュの泡。リューキュウの大型飛行。

 

使い道は決めていなかった。

 

邪魔になったら消せばいい。そう思って置いていただけ。

 

「ちょうどありますね」

 

この状況なら、かなり使える。

 

◇ ◇ ◇

 

問題は、命令。

 

今まで個性兵へ指示する時は、家の中、近く。それで十分だった。

 

家事型、直接。人工ヒーロー型、試作区画。運搬型、改築現場。

 

長距離で複数を動かす必要がなかった。

 

でも、今、外へ出すなら違う。

 

電話、無線。使える。

 

ただ、個性兵のために通信機器を持たせる意味は薄い。

 

通信網が混雑、切断、破損。それだけで指示不能。

 

さらに、欲しいのは命令を送るだけではない。

 

何を見ているか。何が起きているか。こちらで分かる方がいい。

 

なら、作る。

 

◇ ◇ ◇

 

必要機能。

 

私と個性兵、双方向。命令、状態、視覚、聴覚、必要ならその他の知覚を共有。

 

距離は、少なくとも神野区内の活動に支障がない。

 

個性兵側、全ての感覚を常時私へ流す必要はない。九体同時では情報量が多すぎる。

 

通常は要約。異常は優先通知。私が特定個体を指定した時だけ詳細共有。

 

命令は逆方向。個体指定、複数指定、全体、優先順位。

 

人工OSは、命令が途切れても最後の任務を続ける。元々、そう作っている。

 

だから、共有が一時切れても停止しない。

 

「これでいいですね」

 

構造を考える。

 

難しくない。

 

既に個性兵には、命令理解系、個体識別、人工OS、知覚。全部ある。

 

足りないのは、遠隔で私と繋ぐ部分。

 

新しく人工個性を設計。

 

共有、接続、命令、感覚伝達。

 

対象は、私が指定した個性兵のみ。第三者、接続不可。

 

不用意に人間の思考まで読まない。個性兵のOSそのものも私へ流さない。

 

必要情報だけ。

 

「製造」

 

私自身の中で、人工個性を作る。

 

以前なら、外部設備が必要だった。今は、頭の中で構造を完成させれば、そのまま作れる。

 

組み込む。

 

発現。

 

一瞬、感覚が増える。

 

目の前の九体を認識。

 

近い。

 

視覚ではない。接続先が分かる。

 

身体強化型。炎型。飛行型。繊維型。変形型。障壁型。拘束型。泡型。大型飛行型。

 

家事型。

 

十。

 

「家事型は対象外」

 

接続を切る。

 

九体、残る。

 

◇ ◇ ◇

 

試験。

 

障壁型。

 

「こちらを見てください」

 

口には出さない。

 

共有、命令。

 

個体の頭部が動く。こちらを見る。

 

正常。

 

次、視界を要求。

 

切り替わる。

 

自分の目、研究室。同時に、別の角度。

 

私自身が見える。障壁型から見た私。

 

二重。不自然。

 

でも、処理できる。

 

情報経路を分ける。必要な時だけ意識を切替。

 

「右手を上げてください」

 

遠隔命令。

 

上げる。

 

「下げる」

 

下げる。

 

次、別室。

 

飛行型。扉が閉じた状態。

 

命令。

 

翼、展開。視界、共有。

 

問題なし。

 

距離。

 

家の外、庭へ出す。

 

私は研究室。飛行型は外。

 

視界、入る。

 

上空へ上げる。

 

屋根、周囲、道路。

 

遠く、神野区市街地側。煙が見える。

 

「使えますね」

 

◇ ◇ ◇

 

その瞬間、ニュース側の音が大きくなる。

 

私は飛行型の視界を維持したまま、画面を見る。

 

オールマイト、確認。

 

現場に来ている。

 

映像は完全ではない。遠距離。でも、分かる。

 

相手、正体不明の男。周囲、破壊。オールマイト、交戦。

 

普通のヴィラン事件ではない。

 

衝撃。

 

再び、空気が震える。

 

飛行型、上空。姿勢を一瞬崩す。すぐ復帰。

 

家の窓が鳴る。

 

距離はある。それでも、ここまで来る。

 

「これは困りますね」

 

研究拠点。精密機器。試料。試作品。家。

 

壊されると、かなり困る。

 

周辺住宅。人。当然、いる。

 

私の家だけ障壁で囲えば、飛んできた瓦礫、衝撃、熱は周囲へ行く。

 

それでは、防御として雑。

 

少なくとも、この周辺一帯。危険が来たら、対処した方がいい。

 

幸い、ちょうど向いているものがある。

 

◇ ◇ ◇

 

九体へ接続。

 

私は命令を整理する。

 

最優先。研究拠点と周辺住民の保護。

 

戦闘中心地へ無意味に突入しない。警察、ヒーローの活動を妨害しない。ヴィランを積極的に追跡しない。

 

救助、防御、火災、崩落、避難路を優先。

 

人工OS、受領。

 

障壁型、応答。拘束救助型、応答。泡型、応答。大型飛行型、応答。身体強化型、応答。炎型、応答。飛行型、応答。繊維型、応答。変形型、応答。

 

私は自宅の出入口を開く。

 

「活動開始」

 

九体、動く。

 

◇ ◇ ◇

 

最初に、飛行型。

 

上空、状況確認。羽、展開。複数方向。視界、共有。

 

一気に周辺情報が増える。

 

道路、住宅、人。騒ぎに気づいて外へ出る人。市街地方向、煙。緊急車両。

 

次、障壁型。

 

自宅周辺、主要方向で待機。衝撃、飛来物が来た場合、防御。

 

拘束救助型。住宅地側。倒壊発生時、救助。

 

泡型。火災、消火。

 

大型飛行型。重量物、避難、運搬。

 

身体強化型。瓦礫、撤去。必要なら持ち上げ。

 

炎型。火災へ、炎ではなく高熱源の処理。今は直接出番が少ない。

 

繊維型。拘束、固定、崩れたものの仮支持。

 

変形型。狭所、確認。

 

個体ごとに役割がある。

 

元々、ヒーローの機能を遊びで再設計した。だから当然、人命救助や災害対応へ使えるものも多い。

 

◇ ◇ ◇

 

飛行型、共有。

 

中心地側の視界。

 

距離はある。細部は見えない。

 

でも、衝撃は分かる。

 

建物がさらに崩れる。警察、避難。ヒーロー、戦闘。

 

中心、オールマイト。その相手。

 

規模、大きい。

 

私は地図上で破壊範囲を更新。

 

今のところ、自宅まで直接来ていない。

 

ただ、安全とは言えない。

 

戦闘がどちらへ動くか分からない。相手が何をできるかも分からない。

 

なら、遠くへ逃げる選択肢もある。

 

でも、研究施設を置いていく必要は、今の時点ではない。

 

防御手段はある。周囲も守れる。

 

なら、まずそのまま状況を見る。

 

◇ ◇ ◇

 

家事型が生活区画からこちらへ来る。

 

「夕食準備時刻です」

 

戦闘音が遠く、また響く。

 

私は時計を見る。

 

確かに、いつもの時間。

 

「今日は保留してください」

 

「承知しました」

 

戻る。

 

便利。

 

状況が大きく変わっても、設定された仕事以外、勝手に増やさない。

 

その間、九体は外で自律行動。

 

情報がこちらへ次々入る。

 

飛行型、上空。障壁型、待機。泡型、移動。大型飛行型、屋根を越える。

 

自分の目。ニュース。複数個体。同時。

 

少し多い。

 

私は共有個性の処理を、その場で修正する。

 

通常情報、圧縮。異常時だけ優先。映像は要求時、詳細。

 

個体側で、

 

「瓦礫落下」

 

「火災確認」

 

「要救助者なし」

 

「道路通行可能」

 

そこまで要約。

 

必要なら、映像は私が見る。

 

それで、かなり楽になる。

 

一度作ったばかり。まだ改良できる。

 

◇ ◇ ◇

 

ニュース画面。

 

戦闘、続く。

 

オールマイトと相手、真正面から衝突。周囲、被害。

 

私は相手の個性を映像から見る。

 

一つではないように見える。

 

衝撃。空気。何かの強化。複数の挙動。

 

でも、映像は不十分。

 

今、解析は優先ではない。

 

それより、周辺。次の破壊。飛んでくるものに備える。

 

共有。

 

飛行型、遠方。

 

大きな瓦礫の一部が、戦闘方向から住宅地側へ飛ぶ。

 

まだ、こちらではない。

 

障壁型へ予測方向、移動。大型飛行型、補助。

 

命令を送る。

 

個性兵、動く。

 

私は家にいる。外へ出ない。

 

それでも、現場の一部が分かる。指示できる。

 

思ったより、共有個性は便利。

 

神野区。少し離れた市街地で、オールマイトと正体不明のヴィランが大規模な戦闘を始めた。

 

そして、その周囲には、私が何となく作って残していた九体の個性兵が、もう動いていた。

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