無個性は個性をつくる 作:匿名希望
九体の個性兵が、もう動いていた。
私は共有されてくる情報を整理する。
最初に出した命令は、研究拠点とその周辺の保護。警察やヒーローの邪魔をしない。救助、防御、消火、崩落対応。その範囲だった。
ただ、実際に動き始めた個性兵は、私が想定していたより少し遠くまで行っていた。
「……広いですね」
飛行型から位置情報。住宅地、一つ先の区画。さらに、その向こう。
拘束救助型も拠点周辺を離れている。大型飛行型はもっと遠い。
理由を確認。
すぐ分かった。
人工OS。作った時、少し遊んでいた。
◇ ◇ ◇
有名ヒーローの機能を、個性兵へ再構成する。
せっかくなので、能力だけではなく、任務判断も少しヒーローらしくしていた。
もちろん、本人の人格を再現したわけではない。
オールマイト型にオールマイトの性格を入れたわけでもない。ホークス型へホークス本人の考え方を複製したわけでもない。
そんな情報は持っていないし、必要もない。
入れたのは、もっと単純なもの。
人命危険、発見。可能なら対応。
火災、延焼可能性、高い。対応。
倒壊、要救助者。対応。
避難者、危険区域へ向かう。誘導。
自分の担当範囲に直ちに対処すべき危険がない。近隣に対応可能な事象がある。なら、そちらへ行く。
公開されているヒーロー活動を見て、それらしい判断規則を人工OSへ追加していた。
試作品なので、少しそれっぽくしてみただけ。
その結果、今、私が、
「周辺住民も守ってください」
と命令したので、人工OS側が「周辺」をかなり広く解釈していた。
◇ ◇ ◇
拘束救助型、共有。
住宅、一部倒壊。塀、瓦礫。
人、一人。脚、挟まれている。
近くには既に、プロヒーローらしい人間が別の瓦礫を処理している。
個性兵、判断。優先度、高。
腕部から木質状の拘束材を伸ばす。瓦礫を固定。別方向から支持。持ち上げる。隙間を確保。
人をゆっくり引き出す。
救助された人が個性兵を見る。
「え、誰……?」
返答。
「危険区域から離れてください」
それだけ。
ヒーロー名、なし。所属、なし。説明、なし。
個性兵は次、倒れかけた街灯を固定。避難路を空ける。
近くのプロヒーローが振り返る。
「おい! お前、どこの――」
個性兵、回答。
「救助を継続します」
そのまま次へ。
「……は?」
共有が離れる。
私は少し考える。
所属を答えられるように設定していない。当然、所属していないので。
問題、今は特にない。
◇ ◇ ◇
別、泡型。
小規模火災。
家屋。戦闘地点から飛来した破片。外壁、損傷。出火。
まだ建物全体へ回っていない。
泡、展開。火を包む。温度を下げる。可燃物を隔離。消火。
次、道路へ流れた燃料。
泡、被覆。発火防止。
人工OS、周囲確認。要救助者、なし。
次の火災地点へ移動。
「こちらも遠いですね」
ただ、やめさせる理由はない。
研究拠点への延焼経路になり得るものも、結果的に消えている。
周囲の火災が減る。道路が確保される。避難が進む。
私の家だけを守るより、二次被害がこちらへ来る可能性は下がっている。
なら、そのままでいい。
◇ ◇ ◇
身体強化型。
瓦礫を持ち上げ、道路外へ置く。
次、倒れた看板を撤去。
次、乗用車。道路中央で動かなくなっている。中、人、なし。
持ち上げる。移動。道を開く。
本来、オールマイトの高身体能力を参考に作ったもの。
今やっていること、ほぼ力仕事。
でも、向いている。
別、繊維操作型。
破れた建物外装。落下しかけ。
繊維、ケーブル、布材。周辺の操作可能なものを使い、仮固定。
その下を避難者が通過。
落下危険、解除。
さらに、救急隊の簡易担架を補強。
こちらも戦っていない。
でも、役には立っている。
◇ ◇ ◇
大型飛行型。
一番遠い。
理由、搬送。
負傷者、複数。
既存の救急車まで、道路が一部塞がっている。
人工OS、判断。空から運ぶ。
大型化。人間を複数、安全に保持。飛行。救護地点へ下ろす。
救急隊員、当然驚く。
「なんだ、こいつ!?」
近くのヒーロー。
「味方なのか!?」
個性兵。
「負傷者三名。搬送を完了しました」
「誰の指示で――」
もう、次の要救助者を検出。
飛ぶ。
私は共有経由で、その会話を聞く。
「正体不明ですね」
自分で作ったので、正体は分かっている。
相手から見れば、分からない。
警察、ヒーロー、市民。突然、どこの登録にもない人工的な外見の何かが救助している。
普通なら、確認したくなる。
ただ、今は大規模戦闘。建物、倒壊。負傷者、多数。
救助をしているものへ、一体ずつ職務質問する余裕はないらしい。
そのまま使われている。
◇ ◇ ◇
変形潜入型。
崩れた建物。狭い隙間へ入る。
内部、人、二名。生存。
一人、動ける。一人、負傷。
外へ情報共有。
拘束救助型、接近。瓦礫、固定。
身体強化型、持ち上げ。
変形型、内部から位置を指示。
三体、連携。
私は命令していない。
個性兵同士で情報交換、役割分担。人工OS、判断。
救出、成功。
「想定以上ですね」
作った時は、単体試験中心だった。
複数個体へ、それぞれ似た優先規則を入れた結果、現場で勝手に連携し始めている。
私は一体ずつ細かく操作する必要がない。
そのための人工OSではある。
実際の災害環境で、ここまで普通に動く。
それは良いデータだった。
◇ ◇ ◇
炎型。
こちらは少し使いづらい。
街中。既に火災、高熱。
炎を出す。救助にはあまり向かない。
だから、人工OSも無理に使わない。
高熱で切断が必要な金属構造。周囲に可燃物なし。人、十分離れている。
条件が揃った時だけ、短時間使用。
それ以外は、身体能力と耐熱性を生かして火災区域へ入り、人を運ぶ。
元にしたヒーローの主機能は炎。
でも、今、炎を使わない方が任務達成に向いている。
なら、使わない。
その判断も正常。
◇ ◇ ◇
そして、クラスト型。
これだけは、ほとんど動いていない。
自宅、研究拠点、その周囲。
障壁を配置。
上空、市街地方向、道路側。複数、待機。
衝撃、飛来物、熱、火災。来れば防ぐ。
他の個体が救助へ遠くまで行っても、この一体だけは最初に与えた拠点防御を維持している。
私は状態確認。
障壁、正常。余力、十分。
自宅、異常なし。研究区画、異常なし。
外部電力、一部不安定。内部蓄電、切替可能。空調、正常。試料保存、正常。
周辺、火災、ほぼ消火。燃料漏れ、泡型が処理。倒壊危険、近距離、なし。大きな瓦礫、道路上、撤去済み。
「問題ありませんね」
拠点を守ることがおざなりになっているわけではない。
むしろ、周囲まで個性兵が処理したので、延焼、崩落、避難混乱。そういう二次的な被害がここまで届く可能性は、かなり下がった。
なら、救助範囲が想定より広いことは別にいい。
◇ ◇ ◇
ニュースはまだ戦闘を追っている。
オールマイト。正体不明のヴィラン。
いや、現場側では何か知っているらしい。
会話、届かない。報道も詳しい説明はない。
私が興味を持っているのは、名前ではなかった。
能力。
明らかにおかしい。
共有映像、飛行型、遠距離。
私は戦闘地点を拡大。
ヴィラン。腕、変形。複数の構造が重なる。
空気、一気に圧縮。放出。衝撃波。
オールマイト、受ける。
次、別の挙動。
腕、膨張。筋力、増大。
それだけではない。
身体、複数の効果、同時。
「一つではありませんね」
一つの複雑な個性。その可能性も最初は考えた。
でも、発動、切替、組み合わせ。それぞれ独立性が高い。
何より、私の個性因子知覚。共有映像。十分な発現。
そこから見える範囲では、一種類の構造が多機能に枝分かれしているというより、別系統の能力が重なっているように見える。
身体強化、別。衝撃、別。腕の変形、別。
複数。
「脳無と似ていますが」
違う。
脳無。人工的に複数個性を入れられている。報道、事後資料。そこまでは知っている。
目の前のヴィランは、会話、判断、戦術。オールマイトと対等に言葉を交わしながら、複数の能力を意図的に組み合わせている。
脳無とは、かなり違う。
◇ ◇ ◇
さらに、気になる。
青山さん。
後付け個性、一つ。身体、適合、悪い。それだけでも明確な痕跡があった。
目の前の男、複数。
それなのに、戦闘中、使い分けている。身体側も壊れているようには見えない。
どうやって、複数の個性を一人へ入れた。
そこから疑問が増える。
誰が入れた。
元々持っていた可能性。
低い。
複数個性、自然発生。
絶対ない、とは言えない。
私は全世界の個性を知っているわけではない。
でも、脳無の存在。青山さんの後付け痕。そして、今の男。複数。
人為的な個性移植技術。
存在している可能性、かなり高い。
「見たいですね」
救助より、そちら。
もちろん、救助をやめさせる必要はない。
個性兵、勝手にやっている。
私は観察に一体使う。
◇ ◇ ◇
九体の中、最適。
ホークス型。
高速飛行。遠隔羽。羽による知覚。
近づかなくても、複数方向から見られる。
小さい羽なら、瓦礫、人、建物、その間を通せる。
本体を戦闘中心へ、いきなり入れる必要はない。
私は共有。ホークス型、選択。
現在位置、倒壊区域。救助一件、終了直後。次の救助対象、人工OS、検索中。
「任務変更」
個体、受領。
「市街地中心の戦闘を観察してください。戦闘へは介入しない。あのヴィランの能力発現を可能な限り記録してください」
共有経由。
対象、指定。
男、認識。
「承知しました」
翼、開く。
飛ぶ。
◇ ◇ ◇
速度、上がる。
共有視界。景色が流れる。
私は処理を調整。
飛行型、通常の周辺観測。ホークス型、詳細、メイン。クラスト型、常時、拠点防御。他、異常時のみ通知。
これで、情報量は問題ない。
ホークス型、戦闘地点へ接近。
ただし、直線では行かない。
人工OS。遮蔽物、高度、戦闘衝撃を計算。
建物の間を飛ぶ。
途中、飛来瓦礫。回避。
一枚、羽、分離。
人。倒れた標識、その下。
羽で支える。近くの避難者を引き離す。
本体、止まらない。
「まだ救助しますか」
少し、笑うほどではない。
でも、設計通り。ヒーローっぽいOS。自分で入れた。仕方ない。
別に、観察が遅れるほどではない。
◇ ◇ ◇
距離、縮まる。
音、共有。大きい。
衝撃。空気。振動。
オールマイト、視認。相手、視認。
近くには、複数のプロヒーロー。負傷者。瓦礫。警察。
そして、戦場の端へ、見覚えのない人工個体が一つ入っていく。
当然、ヒーロー側が気づく。
「なんだ、あれ!?」
「さっき救助してた連中と同じだ!」
「誰のサポートだ!?」
ホークス型、無視。
戦闘へ介入しない。
高度、確保。
翼、開く。
羽。十、二十、三十。
分離。
それぞれ別角度へ配置。
視界。触覚的な空気振動。音。位置。複数。
私へ入る。
一つのカメラではない。
男。正面、側面、背後、上、遠。
私は研究室に座ったまま、戦場を囲うように見る。
◇ ◇ ◇
男が腕を上げる。
私は集中。
筋構造、変化。
その前、個性発現。
一。腕、複数、異常な増幅。
二。バネのような構造変形。
三。空気、圧縮。
四。さらに出力を押し上げている何か。
一つ、二つではない。
重ねている。
発動。
衝撃。
羽、数枚、吹き飛ぶ。
共有、切れる。
残り、維持。
「そうですか」
複数個性。
ほぼ確定。
しかも、組み合わせることを前提にしている。
相互干渉、少ない。発動速度、速い。使い慣れている。
脳無のように、ただ複数載っているだけではない。
自分で選んで使う。組み合わせる。
私は戦闘そのものより、その構造を見る。
オールマイト、攻撃。男、防御。別の能力。反撃。また別。同時。
「かなり持っていますね」
いくつかは、まだ不明。
見えていない個性は解析できない。
でも、今発現したものだけでも十分、異常。
◇ ◇ ◇
ふと、疑問。
複数個性を、どうやって手に入れたか。
脳無。誰かが入れた。
青山さん。誰かから後付け。本人、詳細、話さなかった。
目の前の男。大量。
もし、同じ技術系統なら。
個性を人間から人間へ移す技術。
既に、どこかにある。
私は個性を作れる。入れることもできる。
でも、既存の人間から安全に個性だけを外す。その方法はまだない。
血液、採取。因子、複製。それなら昔からやっている。
でも、本人から個性そのものを取り外して、別の人間へ移す。
それは違う。
目の前の男が、その答えを持っている可能性がある。
興味、大きい。
かなり。
◇ ◇ ◇
私はクラスト型へ状態確認。
研究拠点、正常。障壁、正常。周辺火災、ほぼ鎮火。二次被害、現時点、なし。
命令、維持。
「拠点防御を継続してください」
応答。
「承知しました」
それだけ。
他の個性兵は救助を継続。
好きにさせる。
私が今見るものは、決まった。
ホークス型、さらに位置調整。羽を広げる。ヴィラン、中心。
私は共有感覚を深くする。
複数個性。どういう構造で、一人の身体に収まっているのか。どうやって入れたのか。
そこまで映像だけで分かるとは思わない。
だから、まず、可能な限り近くで見る。
「もう少し接近してください」
ホークス型が高度を落とす。
戦場へ近づく。
私の研究拠点は、クラスト型が守っている。周囲の二次被害も、今は抑えられている。
なら、こちらへ意識を使っていい。
私は複数の羽越しに、オールマイトと戦う男を見た。
今まで見た中で、一番興味深いヴィランだった。