無個性は個性をつくる   作:匿名希望

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第42話 人工ヒーローたち

九体の個性兵が、もう動いていた。

 

私は共有されてくる情報を整理する。

 

最初に出した命令は、研究拠点とその周辺の保護。警察やヒーローの邪魔をしない。救助、防御、消火、崩落対応。その範囲だった。

 

ただ、実際に動き始めた個性兵は、私が想定していたより少し遠くまで行っていた。

 

「……広いですね」

 

飛行型から位置情報。住宅地、一つ先の区画。さらに、その向こう。

 

拘束救助型も拠点周辺を離れている。大型飛行型はもっと遠い。

 

理由を確認。

 

すぐ分かった。

 

人工OS。作った時、少し遊んでいた。

 

◇ ◇ ◇

 

有名ヒーローの機能を、個性兵へ再構成する。

 

せっかくなので、能力だけではなく、任務判断も少しヒーローらしくしていた。

 

もちろん、本人の人格を再現したわけではない。

 

オールマイト型にオールマイトの性格を入れたわけでもない。ホークス型へホークス本人の考え方を複製したわけでもない。

 

そんな情報は持っていないし、必要もない。

 

入れたのは、もっと単純なもの。

 

人命危険、発見。可能なら対応。

 

火災、延焼可能性、高い。対応。

 

倒壊、要救助者。対応。

 

避難者、危険区域へ向かう。誘導。

 

自分の担当範囲に直ちに対処すべき危険がない。近隣に対応可能な事象がある。なら、そちらへ行く。

 

公開されているヒーロー活動を見て、それらしい判断規則を人工OSへ追加していた。

 

試作品なので、少しそれっぽくしてみただけ。

 

その結果、今、私が、

 

「周辺住民も守ってください」

 

と命令したので、人工OS側が「周辺」をかなり広く解釈していた。

 

◇ ◇ ◇

 

拘束救助型、共有。

 

住宅、一部倒壊。塀、瓦礫。

 

人、一人。脚、挟まれている。

 

近くには既に、プロヒーローらしい人間が別の瓦礫を処理している。

 

個性兵、判断。優先度、高。

 

腕部から木質状の拘束材を伸ばす。瓦礫を固定。別方向から支持。持ち上げる。隙間を確保。

 

人をゆっくり引き出す。

 

救助された人が個性兵を見る。

 

「え、誰……?」

 

返答。

 

「危険区域から離れてください」

 

それだけ。

 

ヒーロー名、なし。所属、なし。説明、なし。

 

個性兵は次、倒れかけた街灯を固定。避難路を空ける。

 

近くのプロヒーローが振り返る。

 

「おい! お前、どこの――」

 

個性兵、回答。

 

「救助を継続します」

 

そのまま次へ。

 

「……は?」

 

共有が離れる。

 

私は少し考える。

 

所属を答えられるように設定していない。当然、所属していないので。

 

問題、今は特にない。

 

◇ ◇ ◇

 

別、泡型。

 

小規模火災。

 

家屋。戦闘地点から飛来した破片。外壁、損傷。出火。

 

まだ建物全体へ回っていない。

 

泡、展開。火を包む。温度を下げる。可燃物を隔離。消火。

 

次、道路へ流れた燃料。

 

泡、被覆。発火防止。

 

人工OS、周囲確認。要救助者、なし。

 

次の火災地点へ移動。

 

「こちらも遠いですね」

 

ただ、やめさせる理由はない。

 

研究拠点への延焼経路になり得るものも、結果的に消えている。

 

周囲の火災が減る。道路が確保される。避難が進む。

 

私の家だけを守るより、二次被害がこちらへ来る可能性は下がっている。

 

なら、そのままでいい。

 

◇ ◇ ◇

 

身体強化型。

 

瓦礫を持ち上げ、道路外へ置く。

 

次、倒れた看板を撤去。

 

次、乗用車。道路中央で動かなくなっている。中、人、なし。

 

持ち上げる。移動。道を開く。

 

本来、オールマイトの高身体能力を参考に作ったもの。

 

今やっていること、ほぼ力仕事。

 

でも、向いている。

 

別、繊維操作型。

 

破れた建物外装。落下しかけ。

 

繊維、ケーブル、布材。周辺の操作可能なものを使い、仮固定。

 

その下を避難者が通過。

 

落下危険、解除。

 

さらに、救急隊の簡易担架を補強。

 

こちらも戦っていない。

 

でも、役には立っている。

 

◇ ◇ ◇

 

大型飛行型。

 

一番遠い。

 

理由、搬送。

 

負傷者、複数。

 

既存の救急車まで、道路が一部塞がっている。

 

人工OS、判断。空から運ぶ。

 

大型化。人間を複数、安全に保持。飛行。救護地点へ下ろす。

 

救急隊員、当然驚く。

 

「なんだ、こいつ!?」

 

近くのヒーロー。

 

「味方なのか!?」

 

個性兵。

 

「負傷者三名。搬送を完了しました」

 

「誰の指示で――」

 

もう、次の要救助者を検出。

 

飛ぶ。

 

私は共有経由で、その会話を聞く。

 

「正体不明ですね」

 

自分で作ったので、正体は分かっている。

 

相手から見れば、分からない。

 

警察、ヒーロー、市民。突然、どこの登録にもない人工的な外見の何かが救助している。

 

普通なら、確認したくなる。

 

ただ、今は大規模戦闘。建物、倒壊。負傷者、多数。

 

救助をしているものへ、一体ずつ職務質問する余裕はないらしい。

 

そのまま使われている。

 

◇ ◇ ◇

 

変形潜入型。

 

崩れた建物。狭い隙間へ入る。

 

内部、人、二名。生存。

 

一人、動ける。一人、負傷。

 

外へ情報共有。

 

拘束救助型、接近。瓦礫、固定。

 

身体強化型、持ち上げ。

 

変形型、内部から位置を指示。

 

三体、連携。

 

私は命令していない。

 

個性兵同士で情報交換、役割分担。人工OS、判断。

 

救出、成功。

 

「想定以上ですね」

 

作った時は、単体試験中心だった。

 

複数個体へ、それぞれ似た優先規則を入れた結果、現場で勝手に連携し始めている。

 

私は一体ずつ細かく操作する必要がない。

 

そのための人工OSではある。

 

実際の災害環境で、ここまで普通に動く。

 

それは良いデータだった。

 

◇ ◇ ◇

 

炎型。

 

こちらは少し使いづらい。

 

街中。既に火災、高熱。

 

炎を出す。救助にはあまり向かない。

 

だから、人工OSも無理に使わない。

 

高熱で切断が必要な金属構造。周囲に可燃物なし。人、十分離れている。

 

条件が揃った時だけ、短時間使用。

 

それ以外は、身体能力と耐熱性を生かして火災区域へ入り、人を運ぶ。

 

元にしたヒーローの主機能は炎。

 

でも、今、炎を使わない方が任務達成に向いている。

 

なら、使わない。

 

その判断も正常。

 

◇ ◇ ◇

 

そして、クラスト型。

 

これだけは、ほとんど動いていない。

 

自宅、研究拠点、その周囲。

 

障壁を配置。

 

上空、市街地方向、道路側。複数、待機。

 

衝撃、飛来物、熱、火災。来れば防ぐ。

 

他の個体が救助へ遠くまで行っても、この一体だけは最初に与えた拠点防御を維持している。

 

私は状態確認。

 

障壁、正常。余力、十分。

 

自宅、異常なし。研究区画、異常なし。

 

外部電力、一部不安定。内部蓄電、切替可能。空調、正常。試料保存、正常。

 

周辺、火災、ほぼ消火。燃料漏れ、泡型が処理。倒壊危険、近距離、なし。大きな瓦礫、道路上、撤去済み。

 

「問題ありませんね」

 

拠点を守ることがおざなりになっているわけではない。

 

むしろ、周囲まで個性兵が処理したので、延焼、崩落、避難混乱。そういう二次的な被害がここまで届く可能性は、かなり下がった。

 

なら、救助範囲が想定より広いことは別にいい。

 

◇ ◇ ◇

 

ニュースはまだ戦闘を追っている。

 

オールマイト。正体不明のヴィラン。

 

いや、現場側では何か知っているらしい。

 

会話、届かない。報道も詳しい説明はない。

 

私が興味を持っているのは、名前ではなかった。

 

能力。

 

明らかにおかしい。

 

共有映像、飛行型、遠距離。

 

私は戦闘地点を拡大。

 

ヴィラン。腕、変形。複数の構造が重なる。

 

空気、一気に圧縮。放出。衝撃波。

 

オールマイト、受ける。

 

次、別の挙動。

 

腕、膨張。筋力、増大。

 

それだけではない。

 

身体、複数の効果、同時。

 

「一つではありませんね」

 

一つの複雑な個性。その可能性も最初は考えた。

 

でも、発動、切替、組み合わせ。それぞれ独立性が高い。

 

何より、私の個性因子知覚。共有映像。十分な発現。

 

そこから見える範囲では、一種類の構造が多機能に枝分かれしているというより、別系統の能力が重なっているように見える。

 

身体強化、別。衝撃、別。腕の変形、別。

 

複数。

 

「脳無と似ていますが」

 

違う。

 

脳無。人工的に複数個性を入れられている。報道、事後資料。そこまでは知っている。

 

目の前のヴィランは、会話、判断、戦術。オールマイトと対等に言葉を交わしながら、複数の能力を意図的に組み合わせている。

 

脳無とは、かなり違う。

 

◇ ◇ ◇

 

さらに、気になる。

 

青山さん。

 

後付け個性、一つ。身体、適合、悪い。それだけでも明確な痕跡があった。

 

目の前の男、複数。

 

それなのに、戦闘中、使い分けている。身体側も壊れているようには見えない。

 

どうやって、複数の個性を一人へ入れた。

 

そこから疑問が増える。

 

誰が入れた。

 

元々持っていた可能性。

 

低い。

 

複数個性、自然発生。

 

絶対ない、とは言えない。

 

私は全世界の個性を知っているわけではない。

 

でも、脳無の存在。青山さんの後付け痕。そして、今の男。複数。

 

人為的な個性移植技術。

 

存在している可能性、かなり高い。

 

「見たいですね」

 

救助より、そちら。

 

もちろん、救助をやめさせる必要はない。

 

個性兵、勝手にやっている。

 

私は観察に一体使う。

 

◇ ◇ ◇

 

九体の中、最適。

 

ホークス型。

 

高速飛行。遠隔羽。羽による知覚。

 

近づかなくても、複数方向から見られる。

 

小さい羽なら、瓦礫、人、建物、その間を通せる。

 

本体を戦闘中心へ、いきなり入れる必要はない。

 

私は共有。ホークス型、選択。

 

現在位置、倒壊区域。救助一件、終了直後。次の救助対象、人工OS、検索中。

 

「任務変更」

 

個体、受領。

 

「市街地中心の戦闘を観察してください。戦闘へは介入しない。あのヴィランの能力発現を可能な限り記録してください」

 

共有経由。

 

対象、指定。

 

男、認識。

 

「承知しました」

 

翼、開く。

 

飛ぶ。

 

◇ ◇ ◇

 

速度、上がる。

 

共有視界。景色が流れる。

 

私は処理を調整。

 

飛行型、通常の周辺観測。ホークス型、詳細、メイン。クラスト型、常時、拠点防御。他、異常時のみ通知。

 

これで、情報量は問題ない。

 

ホークス型、戦闘地点へ接近。

 

ただし、直線では行かない。

 

人工OS。遮蔽物、高度、戦闘衝撃を計算。

 

建物の間を飛ぶ。

 

途中、飛来瓦礫。回避。

 

一枚、羽、分離。

 

人。倒れた標識、その下。

 

羽で支える。近くの避難者を引き離す。

 

本体、止まらない。

 

「まだ救助しますか」

 

少し、笑うほどではない。

 

でも、設計通り。ヒーローっぽいOS。自分で入れた。仕方ない。

 

別に、観察が遅れるほどではない。

 

◇ ◇ ◇

 

距離、縮まる。

 

音、共有。大きい。

 

衝撃。空気。振動。

 

オールマイト、視認。相手、視認。

 

近くには、複数のプロヒーロー。負傷者。瓦礫。警察。

 

そして、戦場の端へ、見覚えのない人工個体が一つ入っていく。

 

当然、ヒーロー側が気づく。

 

「なんだ、あれ!?」

 

「さっき救助してた連中と同じだ!」

 

「誰のサポートだ!?」

 

ホークス型、無視。

 

戦闘へ介入しない。

 

高度、確保。

 

翼、開く。

 

羽。十、二十、三十。

 

分離。

 

それぞれ別角度へ配置。

 

視界。触覚的な空気振動。音。位置。複数。

 

私へ入る。

 

一つのカメラではない。

 

男。正面、側面、背後、上、遠。

 

私は研究室に座ったまま、戦場を囲うように見る。

 

◇ ◇ ◇

 

男が腕を上げる。

 

私は集中。

 

筋構造、変化。

 

その前、個性発現。

 

一。腕、複数、異常な増幅。

 

二。バネのような構造変形。

 

三。空気、圧縮。

 

四。さらに出力を押し上げている何か。

 

一つ、二つではない。

 

重ねている。

 

発動。

 

衝撃。

 

羽、数枚、吹き飛ぶ。

 

共有、切れる。

 

残り、維持。

 

「そうですか」

 

複数個性。

 

ほぼ確定。

 

しかも、組み合わせることを前提にしている。

 

相互干渉、少ない。発動速度、速い。使い慣れている。

 

脳無のように、ただ複数載っているだけではない。

 

自分で選んで使う。組み合わせる。

 

私は戦闘そのものより、その構造を見る。

 

オールマイト、攻撃。男、防御。別の能力。反撃。また別。同時。

 

「かなり持っていますね」

 

いくつかは、まだ不明。

 

見えていない個性は解析できない。

 

でも、今発現したものだけでも十分、異常。

 

◇ ◇ ◇

 

ふと、疑問。

 

複数個性を、どうやって手に入れたか。

 

脳無。誰かが入れた。

 

青山さん。誰かから後付け。本人、詳細、話さなかった。

 

目の前の男。大量。

 

もし、同じ技術系統なら。

 

個性を人間から人間へ移す技術。

 

既に、どこかにある。

 

私は個性を作れる。入れることもできる。

 

でも、既存の人間から安全に個性だけを外す。その方法はまだない。

 

血液、採取。因子、複製。それなら昔からやっている。

 

でも、本人から個性そのものを取り外して、別の人間へ移す。

 

それは違う。

 

目の前の男が、その答えを持っている可能性がある。

 

興味、大きい。

 

かなり。

 

◇ ◇ ◇

 

私はクラスト型へ状態確認。

 

研究拠点、正常。障壁、正常。周辺火災、ほぼ鎮火。二次被害、現時点、なし。

 

命令、維持。

 

「拠点防御を継続してください」

 

応答。

 

「承知しました」

 

それだけ。

 

他の個性兵は救助を継続。

 

好きにさせる。

 

私が今見るものは、決まった。

 

ホークス型、さらに位置調整。羽を広げる。ヴィラン、中心。

 

私は共有感覚を深くする。

 

複数個性。どういう構造で、一人の身体に収まっているのか。どうやって入れたのか。

 

そこまで映像だけで分かるとは思わない。

 

だから、まず、可能な限り近くで見る。

 

「もう少し接近してください」

 

ホークス型が高度を落とす。

 

戦場へ近づく。

 

私の研究拠点は、クラスト型が守っている。周囲の二次被害も、今は抑えられている。

 

なら、こちらへ意識を使っていい。

 

私は複数の羽越しに、オールマイトと戦う男を見た。

 

今まで見た中で、一番興味深いヴィランだった。

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