無個性は個性をつくる   作:匿名希望

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第43話 奪わせる

今まで見た中で、一番興味深いヴィランだった。

 

私はホークス型の羽を通して、戦闘を見る。

 

視点。正面、側面、上空、遠距離。音、振動。個性発現。複数、重なる。

 

オールマイトが男へ向かう。男もオールマイトを知っている。当然。

 

ただ、知っているという程度ではない。

 

会話の内容。過去。因縁。明らかに長い。

 

私は個性より先に、名前を知った。

 

オール・フォー・ワン。

 

呼称なのか、ヴィラン名なのか。最初は判断できない。

 

でも、会話を聞く限り、男自身を指している。そして同時に、その男が持つ個性の名でもあるらしい。

 

「同じ名前ですか」

 

珍しい。

 

ただ、問題はそこではない。

 

◇ ◇ ◇

 

会話、断片。戦闘で途切れる。それでも、情報は増える。

 

個性を奪う。他人から奪った個性を、自分のものにする。そして、場合によっては別の人間へ与える。

 

私は手を止めた。

 

聞き間違いではない。

 

オールマイト側も、その能力を前提として話している。既知。少なくとも、この二人の間では。

 

確認、十分。

 

「なるほど」

 

複数個性をどうやって一人へ入れたのか。答えはかなり近い。

 

一つずつ奪った。それを自分で使う。必要なら、他人へ与える。

 

それなら、脳無を説明できる。

 

青山さん。可能性が出てくる。

 

後付けの個性。誰かが個性を与えられるなら、成立する。

 

もちろん、同一人物が全部やったとはまだ断定できない。

 

でも、個性を人から外して、別の場所へ移す。その現象自体は、今、目の前の男ができるらしい。

 

私はホークス型の位置を確認する。

 

距離、十分近い。

 

◇ ◇ ◇

 

知りたい。

 

個性を奪う、その瞬間。何が起きるか。

 

映像で見るだけでは足りない。

 

個性因子が身体からどう分離するのか。どこから、どの順番で接続が切れるのか。奪う側との間に、どんな作用が発生するのか。

 

私が欲しいのは結果ではない。

 

過程。

 

幸い、現場に個性兵が一体いる。

 

そして、その個体の個性は、なくなっても困らない。

 

ホークス型。正式な名前は付けていない。設計上の仮称、『模倣ホークス』。

 

高速飛行。遠隔羽。羽の操作。羽を介した簡易知覚。

 

それらを一つの任務用人工個性としてまとめている。

 

ホークス本人の個性そのものではない。公開されている機能を見て、私が用途に合わせて再設計したもの。

 

また作れる。

 

いくらでも。

 

◇ ◇ ◇

 

確認。

 

個性兵の構造。

 

人工肉体。人工OS。命令理解。個体識別。共有機能。自己分解。

 

中核。

 

そこへ、役割用人工個性『模倣ホークス』。

 

別。

 

元から一つにする理由がなかったので、分けている。

 

もし役割用個性だけ外れても、個性兵自体は止まらない。飛べなくなる。羽が使えなくなる。それだけ。

 

都合がいい。

 

私は命令を送る。

 

「対象へ接近してください」

 

ホークス型、応答。

 

「承知しました」

 

「戦闘はしなくていいです」

 

少し考える。

 

正確に追加。

 

「オール・フォー・ワンが個性を奪う行動を取れる距離まで接近してください。『模倣ホークス』が奪取された場合、抵抗しないでください」

 

一瞬、間。

 

人工OS、命令処理。

 

「承知しました」

 

翼が動く。

 

高度が下がる。

 

◇ ◇ ◇

 

戦場。近い。

 

かなり危険。

 

オールマイトとオール・フォー・ワン。その間に入れるつもりはない。それでは、単に壊される可能性が高い。

 

オール・フォー・ワン側。横。死角。ただし、視認できる位置。

 

羽を減らす。攻撃意思を見せない。

 

私が欲しいのは奪取。破壊ではない。

 

問題は、相手が奪うか。

 

これは相手次第。

 

個性が有用だと思われなければ、無視される。

 

なら、見せる。

 

ホークス型、高速移動。一度、上昇。

 

複数の羽を展開。瓦礫を避ける。羽を遠隔で別角度へ。感覚、共有。また本体へ戻す。

 

機能を見せる。

 

高速飛行。遠隔操作。知覚。

 

戦場では十分便利。

 

オール・フォー・ワンの顔が、わずかにこちらを向いた。

 

認識した。

 

◇ ◇ ◇

 

「近づいてください」

 

命令。

 

ホークス型、距離を詰める。

 

オールマイト、攻撃。オール・フォー・ワン、受ける。

 

衝撃。

 

ホークス型、回避。近づく。

 

男がこちらへ手を伸ばした。

 

接触。

 

その瞬間、私は共有感覚を最大まで上げた。

 

◇ ◇ ◇

 

来た。

 

最初、接触。

 

次、個性因子側へ外から作用。

 

力ではない。物理的に引っ張るわけでもない。

 

でも、接続を掴まれる。

 

明確。

 

『模倣ホークス』。

 

人工肉体へ接続されている個性因子。その全体が一つの対象として認識される。

 

次、身体との接続部が変化。

 

切断。

 

乱暴ではない。

 

少なくとも、因子構造を破壊してはいない。

 

個性そのものを成立した状態のまま外へ移すための切り離し。

 

一部、順番がある。

 

発現系。身体接続。維持。

 

それぞれ剥がれる。

 

でも、因子本体は壊れない。

 

そして、向こう側。

 

接続先、発生。

 

奪う側へ、そのまま移る。

 

私は全部覚える。

 

◇ ◇ ◇

 

ホークス型。翼、消失。

 

正確には、役割用個性の発現が消える。

 

遠隔羽、落ちる。共有感覚、一部途切れる。

 

でも、人工OSは残っている。中核共有も残る。

 

ホークス型から状態報告。

 

『任務用個性の喪失を確認』

 

正常。

 

「分かりました」

 

十分。

 

見た。

 

もう、この個体を現場へ残す理由はない。

 

むしろ、残すべきではない。

 

オール・フォー・ワンは個性を奪える。今、人工個性を一つ渡した。

 

それだけで十分。

 

個性兵の身体。人工OS。共有。自己分解。他。

 

調べられる理由を与える必要はない。

 

個性兵という技術そのものを、必要以上に見せる利益はない。

 

リスクはある。

 

「自己分解してください」

 

ホークス型、即答。

 

「承知しました」

 

中核、停止準備。記録。最後の状態を共有、送信。任務、終了。人工OS、停止。

 

人工肉体、分解。個性因子、中和。残留物、安全処理。

 

ホークス型は、その場から崩れるように形を失う。

 

燃える、でもない。爆発、でもない。

 

人工的な身体が、回収されるものを残さない形で分解。

 

共有が切れる。

 

そこで、戦場が消えた。

 

◇ ◇ ◇

 

私の視界。

 

研究室。ニュースだけ。

 

飛行型、別地点、遠距離。戦闘中心を詳細に見る能力はない。

 

他の個性兵は、救助、消火、瓦礫処理。そのまま。

 

でも、オール・フォー・ワンのすぐ近くにいた観測個体は、もういない。

 

必要なデータは取った。

 

だから、問題ない。

 

私は今得た感覚を、忘れないうちに整理する。

 

接触。対象個性の認識。因子接続への干渉。身体側からの切断。個性因子構造を保持。奪取側へ再接続。

 

一連。

 

これ、使える。

 

その先を考え始める。

 

◇ ◇ ◇

 

――オール・フォー・ワン。

 

妙な個性だった。

 

奪うこと自体には、何の問題もない。

 

こちらの手に、確かに収まっている。

 

飛行。羽。遠隔操作。羽から周囲を拾う。

 

複数の機能が、一つの個性として綺麗にまとめられている。

 

単独でも使い道はある。

 

私は試す。

 

背中、羽、展開。

 

身体、浮く。

 

問題ない。

 

一枚、飛ばす。曲げる。戻す。

 

その羽を通じて、僅かな振動、位置を拾える。

 

「ふむ」

 

使える。

 

壊れてはいない。劣化も見当たらない。

 

それなのに、違和感。

 

◇ ◇ ◇

 

個性は、人の身体と共にある。

 

奪えば、それまで誰かの中にあった形が残る。馴染み方。癖。長く使われた痕跡。

 

ある。

 

これは薄い。

 

いや、薄いというのも少し違う。

 

最初から完成品として組み上げられている。

 

そんな感触。

 

自然に生じ、成長し、本人と共に形を変えてきたものではない。

 

不要な部分が妙に少ない。

 

高速飛行。遠隔羽。操作。知覚。

 

用途、明確。

 

「人工物かな?」

 

可能性。

 

面白い。

 

そして、先ほどまでそれを持っていた者。

 

人間には見えなかった。

 

だが、脳無とも違う。

 

言葉。理解。判断。自律。救助。こちらの戦いを観察。

 

そして、個性を奪った直後、崩壊した。

 

死体を残さず。

 

意味がある。

 

処分された。

 

誰かが見ていた。

 

そこまで考える。

 

でも、今、優先するほどではない。

 

◇ ◇ ◇

 

オールマイト。

 

目の前。

 

積み重ねた長い因縁。後継者。死柄木弔。

 

そして、ここで終わらせるべき相手。

 

妙な個性が一つ増えた。

 

それだけ。

 

私は羽を一度広げる。

 

浮力、十分。空中での位置調整、できる。

 

遠隔羽を複数、周囲へ飛ばす。

 

視覚ではない。それでも、破片、人、動き。多少、拾える。

 

便利。

 

ただ、私の中には既に数え切れないほどの個性がある。

 

これも、その一つ。

 

使えるなら使う。

 

それ以上ではない。

 

私は新しく得た羽を、戦場へ散らした。

 

◇ ◇ ◇

 

戦いは続く。

 

オールマイトの姿。限界。世間の前へ露出する。

 

それでも、立つ。

 

こちらも個性を重ねる。

 

筋力増強。衝撃。腕。発条。複数、積む。

 

最大。

 

一撃を受けるため。返すため。

 

新しい羽も、位置、感知、補助。

 

それだけ。

 

主役にはならない。

 

必要な力は、既に他にある。

 

拳、ぶつかる。

 

衝撃。

 

街、揺れる。

 

オールマイト、押される。

 

それでも、止まらない。

 

最後。

 

残った力。

 

右腕ではなく、反対へ移す。

 

動きが変わる。

 

私は気づく。

 

遅い。

 

拳、来る。

 

◇ ◇ ◇

 

一撃。

 

視界、揺れる。

 

身体、地面へ沈む。

 

意識、遠のく。

 

あの妙な人工個性も、他の無数の個性も、まだ私の中にある。

 

それでも、身体は動かない。

 

周囲、歓声。声。

 

オールマイト、立っている。

 

辛うじて。

 

だが、立っている。

 

勝者として。

 

そして私は、敗者として地面に沈んだ。

 

◇ ◇ ◇

 

その後の戦場を、私は知らなかった。

 

ニュース映像。しばらく混乱。通信、途切れ。現場、煙。遠距離。詳細、分からない。

 

私は気にしない。

 

必要なものは、もう取った。

 

個性を安全な形で身体から外す、その方法。

 

完成形ではない。

 

でも、原理は見た。

 

接続を切る。個性因子本体を壊さない。状態を保持したまま身体から分離。別の身体へ接続。

 

それができる。

 

オール・フォー・ワンが実際にやった。

 

なら、私にも作れる可能性は高い。

 

しばらくして、ニュースが結果を伝える。

 

オールマイト、勝利。オール・フォー・ワン、拘束。周辺、救助活動継続。

 

私は画面を一度見た。

 

「終わりましたか」

 

それだけ。

 

個性兵へ、救助活動は必要範囲で継続。クラスト型、拠点防御、維持。

 

私は研究机へ戻る。

 

戦闘の勝敗より、今、頭の中に残っている奪取の感覚。

 

そちらの方が重要だった。

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