無個性は個性をつくる 作:匿名希望
今まで見た中で、一番興味深いヴィランだった。
私はホークス型の羽を通して、戦闘を見る。
視点。正面、側面、上空、遠距離。音、振動。個性発現。複数、重なる。
オールマイトが男へ向かう。男もオールマイトを知っている。当然。
ただ、知っているという程度ではない。
会話の内容。過去。因縁。明らかに長い。
私は個性より先に、名前を知った。
オール・フォー・ワン。
呼称なのか、ヴィラン名なのか。最初は判断できない。
でも、会話を聞く限り、男自身を指している。そして同時に、その男が持つ個性の名でもあるらしい。
「同じ名前ですか」
珍しい。
ただ、問題はそこではない。
◇ ◇ ◇
会話、断片。戦闘で途切れる。それでも、情報は増える。
個性を奪う。他人から奪った個性を、自分のものにする。そして、場合によっては別の人間へ与える。
私は手を止めた。
聞き間違いではない。
オールマイト側も、その能力を前提として話している。既知。少なくとも、この二人の間では。
確認、十分。
「なるほど」
複数個性をどうやって一人へ入れたのか。答えはかなり近い。
一つずつ奪った。それを自分で使う。必要なら、他人へ与える。
それなら、脳無を説明できる。
青山さん。可能性が出てくる。
後付けの個性。誰かが個性を与えられるなら、成立する。
もちろん、同一人物が全部やったとはまだ断定できない。
でも、個性を人から外して、別の場所へ移す。その現象自体は、今、目の前の男ができるらしい。
私はホークス型の位置を確認する。
距離、十分近い。
◇ ◇ ◇
知りたい。
個性を奪う、その瞬間。何が起きるか。
映像で見るだけでは足りない。
個性因子が身体からどう分離するのか。どこから、どの順番で接続が切れるのか。奪う側との間に、どんな作用が発生するのか。
私が欲しいのは結果ではない。
過程。
幸い、現場に個性兵が一体いる。
そして、その個体の個性は、なくなっても困らない。
ホークス型。正式な名前は付けていない。設計上の仮称、『模倣ホークス』。
高速飛行。遠隔羽。羽の操作。羽を介した簡易知覚。
それらを一つの任務用人工個性としてまとめている。
ホークス本人の個性そのものではない。公開されている機能を見て、私が用途に合わせて再設計したもの。
また作れる。
いくらでも。
◇ ◇ ◇
確認。
個性兵の構造。
人工肉体。人工OS。命令理解。個体識別。共有機能。自己分解。
中核。
そこへ、役割用人工個性『模倣ホークス』。
別。
元から一つにする理由がなかったので、分けている。
もし役割用個性だけ外れても、個性兵自体は止まらない。飛べなくなる。羽が使えなくなる。それだけ。
都合がいい。
私は命令を送る。
「対象へ接近してください」
ホークス型、応答。
「承知しました」
「戦闘はしなくていいです」
少し考える。
正確に追加。
「オール・フォー・ワンが個性を奪う行動を取れる距離まで接近してください。『模倣ホークス』が奪取された場合、抵抗しないでください」
一瞬、間。
人工OS、命令処理。
「承知しました」
翼が動く。
高度が下がる。
◇ ◇ ◇
戦場。近い。
かなり危険。
オールマイトとオール・フォー・ワン。その間に入れるつもりはない。それでは、単に壊される可能性が高い。
オール・フォー・ワン側。横。死角。ただし、視認できる位置。
羽を減らす。攻撃意思を見せない。
私が欲しいのは奪取。破壊ではない。
問題は、相手が奪うか。
これは相手次第。
個性が有用だと思われなければ、無視される。
なら、見せる。
ホークス型、高速移動。一度、上昇。
複数の羽を展開。瓦礫を避ける。羽を遠隔で別角度へ。感覚、共有。また本体へ戻す。
機能を見せる。
高速飛行。遠隔操作。知覚。
戦場では十分便利。
オール・フォー・ワンの顔が、わずかにこちらを向いた。
認識した。
◇ ◇ ◇
「近づいてください」
命令。
ホークス型、距離を詰める。
オールマイト、攻撃。オール・フォー・ワン、受ける。
衝撃。
ホークス型、回避。近づく。
男がこちらへ手を伸ばした。
接触。
その瞬間、私は共有感覚を最大まで上げた。
◇ ◇ ◇
来た。
最初、接触。
次、個性因子側へ外から作用。
力ではない。物理的に引っ張るわけでもない。
でも、接続を掴まれる。
明確。
『模倣ホークス』。
人工肉体へ接続されている個性因子。その全体が一つの対象として認識される。
次、身体との接続部が変化。
切断。
乱暴ではない。
少なくとも、因子構造を破壊してはいない。
個性そのものを成立した状態のまま外へ移すための切り離し。
一部、順番がある。
発現系。身体接続。維持。
それぞれ剥がれる。
でも、因子本体は壊れない。
そして、向こう側。
接続先、発生。
奪う側へ、そのまま移る。
私は全部覚える。
◇ ◇ ◇
ホークス型。翼、消失。
正確には、役割用個性の発現が消える。
遠隔羽、落ちる。共有感覚、一部途切れる。
でも、人工OSは残っている。中核共有も残る。
ホークス型から状態報告。
『任務用個性の喪失を確認』
正常。
「分かりました」
十分。
見た。
もう、この個体を現場へ残す理由はない。
むしろ、残すべきではない。
オール・フォー・ワンは個性を奪える。今、人工個性を一つ渡した。
それだけで十分。
個性兵の身体。人工OS。共有。自己分解。他。
調べられる理由を与える必要はない。
個性兵という技術そのものを、必要以上に見せる利益はない。
リスクはある。
「自己分解してください」
ホークス型、即答。
「承知しました」
中核、停止準備。記録。最後の状態を共有、送信。任務、終了。人工OS、停止。
人工肉体、分解。個性因子、中和。残留物、安全処理。
ホークス型は、その場から崩れるように形を失う。
燃える、でもない。爆発、でもない。
人工的な身体が、回収されるものを残さない形で分解。
共有が切れる。
そこで、戦場が消えた。
◇ ◇ ◇
私の視界。
研究室。ニュースだけ。
飛行型、別地点、遠距離。戦闘中心を詳細に見る能力はない。
他の個性兵は、救助、消火、瓦礫処理。そのまま。
でも、オール・フォー・ワンのすぐ近くにいた観測個体は、もういない。
必要なデータは取った。
だから、問題ない。
私は今得た感覚を、忘れないうちに整理する。
接触。対象個性の認識。因子接続への干渉。身体側からの切断。個性因子構造を保持。奪取側へ再接続。
一連。
これ、使える。
その先を考え始める。
◇ ◇ ◇
――オール・フォー・ワン。
妙な個性だった。
奪うこと自体には、何の問題もない。
こちらの手に、確かに収まっている。
飛行。羽。遠隔操作。羽から周囲を拾う。
複数の機能が、一つの個性として綺麗にまとめられている。
単独でも使い道はある。
私は試す。
背中、羽、展開。
身体、浮く。
問題ない。
一枚、飛ばす。曲げる。戻す。
その羽を通じて、僅かな振動、位置を拾える。
「ふむ」
使える。
壊れてはいない。劣化も見当たらない。
それなのに、違和感。
◇ ◇ ◇
個性は、人の身体と共にある。
奪えば、それまで誰かの中にあった形が残る。馴染み方。癖。長く使われた痕跡。
ある。
これは薄い。
いや、薄いというのも少し違う。
最初から完成品として組み上げられている。
そんな感触。
自然に生じ、成長し、本人と共に形を変えてきたものではない。
不要な部分が妙に少ない。
高速飛行。遠隔羽。操作。知覚。
用途、明確。
「人工物かな?」
可能性。
面白い。
そして、先ほどまでそれを持っていた者。
人間には見えなかった。
だが、脳無とも違う。
言葉。理解。判断。自律。救助。こちらの戦いを観察。
そして、個性を奪った直後、崩壊した。
死体を残さず。
意味がある。
処分された。
誰かが見ていた。
そこまで考える。
でも、今、優先するほどではない。
◇ ◇ ◇
オールマイト。
目の前。
積み重ねた長い因縁。後継者。死柄木弔。
そして、ここで終わらせるべき相手。
妙な個性が一つ増えた。
それだけ。
私は羽を一度広げる。
浮力、十分。空中での位置調整、できる。
遠隔羽を複数、周囲へ飛ばす。
視覚ではない。それでも、破片、人、動き。多少、拾える。
便利。
ただ、私の中には既に数え切れないほどの個性がある。
これも、その一つ。
使えるなら使う。
それ以上ではない。
私は新しく得た羽を、戦場へ散らした。
◇ ◇ ◇
戦いは続く。
オールマイトの姿。限界。世間の前へ露出する。
それでも、立つ。
こちらも個性を重ねる。
筋力増強。衝撃。腕。発条。複数、積む。
最大。
一撃を受けるため。返すため。
新しい羽も、位置、感知、補助。
それだけ。
主役にはならない。
必要な力は、既に他にある。
拳、ぶつかる。
衝撃。
街、揺れる。
オールマイト、押される。
それでも、止まらない。
最後。
残った力。
右腕ではなく、反対へ移す。
動きが変わる。
私は気づく。
遅い。
拳、来る。
◇ ◇ ◇
一撃。
視界、揺れる。
身体、地面へ沈む。
意識、遠のく。
あの妙な人工個性も、他の無数の個性も、まだ私の中にある。
それでも、身体は動かない。
周囲、歓声。声。
オールマイト、立っている。
辛うじて。
だが、立っている。
勝者として。
そして私は、敗者として地面に沈んだ。
◇ ◇ ◇
その後の戦場を、私は知らなかった。
ニュース映像。しばらく混乱。通信、途切れ。現場、煙。遠距離。詳細、分からない。
私は気にしない。
必要なものは、もう取った。
個性を安全な形で身体から外す、その方法。
完成形ではない。
でも、原理は見た。
接続を切る。個性因子本体を壊さない。状態を保持したまま身体から分離。別の身体へ接続。
それができる。
オール・フォー・ワンが実際にやった。
なら、私にも作れる可能性は高い。
しばらくして、ニュースが結果を伝える。
オールマイト、勝利。オール・フォー・ワン、拘束。周辺、救助活動継続。
私は画面を一度見た。
「終わりましたか」
それだけ。
個性兵へ、救助活動は必要範囲で継続。クラスト型、拠点防御、維持。
私は研究机へ戻る。
戦闘の勝敗より、今、頭の中に残っている奪取の感覚。
そちらの方が重要だった。