無個性は個性をつくる 作:匿名希望
戦闘の勝敗より、今、頭の中に残っている奪取の感覚。そちらの方が重要だった。
私は机へ座ったまま、記憶を順番に再現する。
接触。対象個性の認識。個性因子への干渉。身体との接続、切断。因子構造を壊さず保持。奪取側へ移動、再接続。
一連。
ホークス型から共有された感覚は、まだかなり鮮明だった。
「外せるんですね」
知識として、個性を与える技術が存在する可能性は、青山さんを見た時から分かっていた。
でも、実際に成立した個性を身体から完全な形で取り外す過程。それは初めて見た。
◇ ◇ ◇
翌日、研究室。
外はまだ、神野の事件で騒がしい。ニュース、警察、雄英、オールマイト、オール・フォー・ワン。いろいろ流れている。
私はほとんど見ていない。
必要な情報は、もうある。
机。人工組織。人工個性。解析装置。
私は昨日の感覚を、構造へ落とす。
オール・フォー・ワンそのものを再現する必要はない。
他人の個性を奪う。他人へ好きに与える。複数を抱える。
そこまで要らない。
欲しい機能は、もっと限定的。
個性を安全に外す。外した個性を壊さず保持。必要なら、同じ身体へ戻す。
それだけ。
◇ ◇ ◇
今まで、個性を入れることはできていた。
人工個性を作る。自分へ組み込む。発現させる。それで終わり。
一度入れた後、必要なくなっても、そのまま。
別に困っていなかった。
私の場合、個性数に現実的な上限を感じていない。一つ増えても、二つ増えても、身体がそれだけで破綻することはない。
だから、昔作った個性。役目を終えた個性。上位互換を後から作った個性。そういうものも中に残っている。
使わなければいい。
そう考えていた。
実害、ほぼない。
でも今、外せる可能性が見えた。
改めて考える。
使わない機能。古い機能。役割が重複した機能。それが身体の中へ残り続ける。
「……あまり綺麗ではありませんね」
必要なら持つ。不要なら外す。その方が合理的。
機械でも、使わない機構を理由なく残すことはしない。重さ、故障点、管理対象が増える。
私の個性に重量はない。でも、考え方は同じ。
持てるから全部持つ。
必要性がない。
◇ ◇ ◇
まず、試験。
人間は使わない。
人工肉体。小型、単純、試験用。
役割用人工個性、『微冷却』。何度も使っている。構造は全部分かる。
人工肉体へ組み込む。発現、正常。
金属片、接触。温度、低下。
次、摘出。
昨日見た切断順序を再現。
ただし、オール・フォー・ワンと同じ方式にはしない。あれは相手の個性を自分へ奪う。
私が欲しいのは着脱。
だから、切断した後、個性因子を私へ移さない。外部保持、保存。そこまで一つの機能にする。
設計。
作用対象、指定個性のみ。身体側、接続点、確認。発現停止。因子状態、安定化。接続解除。摘出。保存状態へ移行。
個性因子本体、損傷禁止。身体側、損傷禁止。異常検出、即中止。
一つずつ条件を入れる。
作る。
◇ ◇ ◇
最初、失敗。
個性因子は外れた。でも、一部、身体側の接続構造が残る。因子側も、発現経路の一部が身体へ引っ張られた。
壊れてはいない。
ただ、綺麗ではない。
やり直し。
二回目。
接続解除の順番を変更。
先に発現経路を停止。次、身体側の受容構造を一時的に非接続状態へ。最後、因子を分離。
成功。
人工肉体から『微冷却』が消失。
外部、保存。
個性因子、完全。測定、異常なし。
もう一度、同じ身体へ戻す。
接続位置、認識。身体側、受容。因子、再接続。
発現。
金属片、温度低下。
元通り。
「そうですか」
難しい部分は、切断より戻す方だった。
個性因子は単なる部品ではない。身体側と接続し、発現系へ組み込まれている。
でも、接続状態さえ正確に扱えるなら、着脱可能。
◇ ◇ ◇
二つ目、発光。
摘出、保存、再装着。
正常。
三つ目、念動。
正常。
次、二個性を同時搭載した人工肉体。
片方だけ外す。
これ、重要。
全部まとめて抜けるなら、使いにくい。
対象、念動。指定。
摘出。
発光、残る。発現、正常。
念動、外部、保存。
戻す。
両方、正常。
「対象指定も問題ありませんね」
さらに三個性。複合。
一つずつ外す。順番を変える。戻す。
接続競合、なし。
◇ ◇ ◇
保存。
これも今まで、個性因子サンプルとしての保存はできている。
血液。培養。人工因子。大量に保存してきた。
でも今回、必要なのは、本人から機能していた個性をそのまま外したもの。
可能なら、再加工なしで戻せる状態。
だから、普通のサンプル保管より接続情報を多く持たせる。
元の身体。どこへ、どう接続。発現経路、どの状態。外した時の構成。
全部、付随情報として保持。
そうすれば、再装着時、ゼロから適合させる必要がない。
同一人物なら、かなり簡単。
別人。
それは別問題。
身体適合。接続先。拒絶。負担。調整。
必要。
今はやらない。
目的、自分。
まず、そこ。
◇ ◇ ◇
数日、試す。
人工肉体。人工組織。個性兵。単純個性。複雑個性。複数個性。
外す。戻す。外したまま時間を置く。再装着。
発現、正常。因子損傷、なし。身体損傷、なし。発現性能、変化なし。
それなら、実用できる。
ただ、一つ問題。
この着脱機能自体を、どこへ置くか。
外部装置、可能。個性兵、可能。
でも私は、自分の個性を今後、必要に応じて入れ替えるつもり。
毎回、外部装置を出す理由はない。
それなら、着脱能力そのものを私へ入れる。
自分の個性を、自分で外す。戻す。
その方が早い。
◇ ◇ ◇
設計。
着脱用人工個性。
機能。対象個性指定。安全停止。身体側接続解除。因子完全保持。外部保存。再接続。適合確認。再発現。
対象、まず私自身。
他人へ自由に使えるようにする必要は、今はない。
むしろ、範囲を絞る。
自分の中の個性因子。自分で指定したものだけ外せる。
他人へ触れて、勝手に抜く。
不要。
オール・フォー・ワンは再現しない。
あれは奪取。
これは整備。
目的が違う。
◇ ◇ ◇
完成。
人工個性、生成。
自分へ実装。
身体の中、新しい構造、定着。
個性因子知覚、確認。
異常なし。
まず、この着脱個性を発現。
自分の中、個性群が見える。
昔作った研究補助。今も使うもの。あまり使わないもの。役割が重なっているもの。体育祭以前に試験的に入れた古い補助系。
いろいろある。
「思ったより残っていますね」
今まで、数えようとは思わなかった。
必要な時、使う。新しい方があれば、そちら。古いものは放置。
上限で困らない。
だから、整理する理由がなかった。
でも、着脱できるなら話は違う。
これ、次にやる。
◇ ◇ ◇
ただ、最初から古い研究補助個性を大量に外すのは、試験として少し雑。
まず、簡単なもの。
今、使っていない試験用。以前、自分に入れて、そのまま残していた小規模な感覚補助。
対象、指定。
発現停止。接続、確認。解除。
個性因子が身体から離れる。
感覚は、AFOに奪わせた時と似ている。
でも、違う。
向こうは外から強制的に掴まれた。今回は、自分の身体側から順番に接続を閉じる。
そして、安全な状態へ外す。
痛み、なし。
欠損感、少しある。
今まで使わなくても、そこにあった機能がなくなる。
でも、身体異常なし。
私は外した因子を、保存容器へ出す。
透明な小型容器。
中、個性因子。状態、安定。
「外れましたね」
当然、もうその感覚補助は使えない。
発現を試す。
何も起きない。
正常。
次、戻す。
保存、解除。
因子、自分へ接続。発現経路、復帰。
試す。
元通り。
性能、変化なし。
◇ ◇ ◇
一度、外せた。
戻せた。
それで、かなり大きい。
今まで人工個性は、作る、入れる、増える。一方向だった。
これからは違う。
作る。入れる。外す。保存。作り直す。戻す。不要なら戻さない。
身体の中も、研究設備と同じ。
更新できる。
私は自分の個性を、もう一度見る。
古いもの、多い。
中学以前。個性因子知覚を作る途中で使っていた補助。精密作業。観測。実験。体育祭以前、段階改造を少しでも効率化するために作ったもの。
今、任意人工個性製造がある。個性兵がある。研究設備も大幅に良くなった。
当時の能力を、今そのまま使う意味は薄い。
同じ役割でも、今ならもっと良く作れる。
「一度、整理した方がよさそうですね」
全部持てる。
だから、全部残す。
その必要はない。
必要な機能を、必要なだけ。できれば、一番良い形で持つ。
その方が、私には合っている。
◇ ◇ ◇
私は着脱用人工個性を、恒久搭載側へ分類する。
少なくとも、今後、自分の能力を更新するためには使う。
次、やることは決まった。
自分の中にある旧式人工個性、全部、棚卸し。
必要。不要。重複。現行。旧式。
分ける。
古いものは外す。
必要な機能は、現在の技術で作り直す。
それから、改めて入れる。
今まで、増やすことしかできなかった。
でも、もう違う。
個性は、入れたら終わりではない。
必要に合わせて、着けて外せる。
私は自分の中へ新しく入れた着脱用の個性を、もう一度確認した。
問題なし。
これでようやく、中身も整理できるようになった。