無個性は個性をつくる 作:匿名希望
これでようやく、中身も整理できるようになった。
翌日、私は自分の個性因子を改めて確認する。
今までも、何が入っているか把握はしていた。当然、自分で作って、自分で入れたものだから。
ただ、把握していることと、整理していることは少し違う。
必要になった。作る。入れる。もっと便利なものができた。そちらも入れる。古い方は使わなくなる。でも、外せない。だから、そのまま。
そうやって積み重なっている。
「多いですね」
困ってはいない。
それが一番の原因だった。
◇ ◇ ◇
最初、個性因子の研究を始めた頃、私は普通の人間だった。
正確には、無個性の人間。
観測、機械、顕微鏡、測定、試料。全部、外部設備。
そこから少しずつ、個性因子を道具として使えるようになった。さらに、自分用の研究補助個性を作った。
個性因子を直接知覚するもの。
これは今でも、研究の中核。
でも、そこへ至る途中、いろいろ作っている。
微細な差を見つけやすくする感覚補助。手作業を安定させる精密操作補助。測定中、一定条件を維持する補助。小さな試料を扱うためのもの。観測範囲を少し広げるもの。実験時の誤差を減らすもの。
一つ一つ、当時は意味があった。
今見ると、かなり古い。
◇ ◇ ◇
私は一覧を頭の中で分ける。
一、今でも必要。
二、機能は必要だが、設計が古い。
三、別の個性と役割が重複。
四、現在の設備や別の能力で完全に代替済み。
五、試験用に入れただけで、もう使わない。
かなり、三から五が多い。
「残す理由がありませんね」
上限、問題なし。負荷、ほとんどなし。だから、残しても実害はない。
でも、実害がないから残す、というのは設計理由ではない。
使わない部品を機械へ付けたままにする。私は普段、そんな作り方をしない。
必要な機能。必要な性能。必要な安全性。
それだけ。
身体も同じでいい。
◇ ◇ ◇
まず、簡単なものから。
昔、微細作業用に作った精密操作補助。現在、ほぼ使っていない。
理由は単純。
性能が低い。
中学生の頃の設計。今なら、同じ機能をもっと高精度に、もっと広い対象へ、もっと自然に使える。
外す。
着脱用個性、発現。
対象、指定。発現経路、停止。身体との接続、順番に解除。因子、分離。保存。
成功。
身体、異常なし。
古い精密操作、使えない。
当然。
「問題ありません」
次、観測補助。外す。
次、実験条件維持。外す。
次、感覚補助。外す。
一つ一つ確認。
急ぐ理由はない。
◇ ◇ ◇
途中、少し妙な感覚がある。
能力が減る。
今までは、増えることしかなかった。新しい個性を入れる。使えることが増える。
でも、今日は逆。
できていたことが、一時的にできなくなる。
それでも困らない。
外した能力の多くは、そもそも何か月も使っていない。
「あっても、使わないなら同じですね」
正確には違う。
使おうと思えば使えた。今は使えない。
でも、必要になればまた作れる。設計ももっと良くできる。
なら、古いものを保存する価値はさらに低い。
◇ ◇ ◇
ただし、何でも外すわけではない。
個性因子知覚。残す。
人工個性製造。残す。
個性兵との共有、命令。残す。
精神干渉への防御。残す。
研究、運用、防御。今使っている基盤は触らない。
更新するにしても、代替を先に設計する。
当然。
今の自分を、わざわざ不便にする必要はない。
今回整理するのは、古い補助系中心。
◇ ◇ ◇
外した個性因子が、保存容器に並ぶ。
昔なら、これだけの個性因子を一つ作るだけでも、かなり手間だった。
改変。培養。安定化。また改変。
時間がかかる。
だから、完成したものは多少性能が低くても、使い続ける価値があった。
今は違う。
構造を考える。設計、完成。作る。終わり。
なら、古いものへ執着する必要はない。
私は一つ目、精密操作を再設計する。
◇ ◇ ◇
目的、研究作業。
対象、微細部品、生体試料、測定器、機械加工、個性因子関連作業。
以前のものは、単純に手指の精密性を上げる。それだけ。
今なら、もっと広くできる。
身体動作、補正。微細な力、調整。震え、抑制。対象物の破損限界、推定。
必要なら、人工個性製造や知覚した情報と連動。
ただし、自動で作業するわけではない。
考えるのは私。個性は手段。
そこは変えない。
設計、完了。
生成。自分へ入れる。定着。
試験。
ピンセット。極細線。微細部品。
問題なし。
古いものより、かなりいい。
◇ ◇ ◇
次、観測補助。
以前、光、音、温度、微細な変化。それぞれ別に作ったものもある。
当時、一つの人工個性へ複雑な機能をまとめる技術は、今より低い。だから、目的ごとに分けていた。
今、分ける理由は薄い。
ただ、何でも見える万能感覚。そんなものにする必要もない。
研究で使う範囲。必要な観測。通常感覚を邪魔しない。必要時だけ詳細。
それで一つにまとめる。
設計。生成。実装。確認。
以前、複数あった機能。一つで足りる。
古いものは戻さない。
◇ ◇ ◇
次、実験補助。
これも似ている。
昔、一定温度、一定圧力、小さな振動抑制。そういう細かな条件ごとに補助を作ったことがある。
今、研究室側の設備はかなり良い。必要なら個性兵も使える。
本人へ恒久搭載する必要は、ほとんどない。
考える。
削除。
更新しない。
「これは要りませんね」
外したまま、終わり。
能力を新しく作れる。
だからこそ、作らないという選択が簡単になった。
◇ ◇ ◇
一日、二日、続ける。
外す。確認。必要性を評価。必要なら再設計。作る。入れる。不要なら戻さない。
重複しているものは統合。
使う可能性が低いものは、外部装備か個性兵へ任せる。
自分へ入れる意味があるものだけ残す。
結果、数は減った。
機能は減っていない。
むしろ、よくなっている。
「こちらの方が自然ですね」
私は現在の個性因子構成を見る。
以前は、古い構造、新しい構造、試験用、似たもの。いろいろ混じっていた。
今はかなり単純。
基幹。研究。個性兵運用。防御。必要な補助。
それだけ。
◇ ◇ ◇
古い個性因子。
保存容器にまだある。
再移植できる。
でも、する理由はない。
研究資料として残すか、考える。
構造は全部覚えている。必要なら、同じものを再現可能。
現物の保存、不要。
なら、処理。
因子、中和。安全に分解。
いくつか比較用に残す理由も、特にない。
「処分でいいですね」
順番に処理。
容器、空。
昔、かなり時間をかけて作ったもの。
でも、だから残すという判断はしない。
役目が終わった。
それだけ。
◇ ◇ ◇
最後、個性因子知覚。
これだけ、少し考える。
最初に本格的な研究補助として作った個性。今までずっと使っている。
当然、設計は古い。
ただ、途中で何度か調整している。完全に最初のままではない。
それでも、現在の技術ならもっと整理できる。
個性因子。存在。構造。適合。異常。後付け。発現。観測情報。人工個性製造との連携。
これが研究の中心。
止める時間は短くしたい。
だから、先に新しい設計を完成。
古い個性因子知覚を外す。
一瞬、世界から一つの情報層が消える。
人はいない。
研究室。人工個性。試料。
今まで直接分かっていたものが、普通の感覚だけになる。
珍しい。
昔は、これが普通だった。
でも、感慨は特にない。
新しいものを生成。実装。
視界ではない。
知覚が戻る。
前より明確。
個性因子。構造。接続。周囲の人工個性。自分の内部。
全部分かる。
人工個性製造系との連携、確認。
正常。
「こちらの方がいいですね」
古い方は戻さない。
◇ ◇ ◇
更新、終了。
私は今の構成を記録する。
数。目的。依存関係。更新日。
以前、そこまで管理していなかった。
自分で覚えている。だから、必要なかった。
でも今後、外す、入れ替える。それを普通にするなら、管理した方が早い。
ただし、詳細な設計図を外部へ残すとは限らない。
危険。重要。
そういうものは今まで通り、頭の中。
記録するのは、機能、状態、更新履歴。必要範囲。
それでいい。
◇ ◇ ◇
今回、分かった。
個性をいくつ持てるか。そこは重要ではない。
百、千、もっと入れられるとしても、使わないなら意味がない。
必要になった時、作ればいい。必要がなくなれば、外せばいい。古くなれば、新しくする。
それで十分。
私は自分を、個性の倉庫にしたいわけではない。
研究に必要なもの。個性兵を運用するためのもの。普段邪魔にならず、持つ意味のある防御。
それ以外、本人へ恒久的に入れる理由はあまりない。
戦うための能力は、個性兵へ持たせればいい。
救助、個性兵。
移動、必要なら専用品。
何でも自分でやる必要はない。
◇ ◇ ◇
着脱用人工個性。
これは残す。
更新。
今後、何度も使う。
新しい技術を得る。古い能力を更新。必要な機能が変わる。
そのたび、身体も変えられる。
追加しかできなかった頃より、ずっと扱いやすい。
私は最後に、自分の中をもう一度確認する。
不要な旧式個性、なし。
重複、必要範囲。
研究補助、最新版。
中核能力、正常。
「これでいいですね」
持てるものを全部持つ必要はない。
必要なものを、必要な時に、必要なだけ。
それが一番、使いやすかった。