無個性は個性をつくる   作:匿名希望

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第62話 オールマイトを戻せるか

それから数日後。

 

緑谷さんの六個性については、相澤先生の監督下で訓練が始まっていた。

 

一度発現経路を開いてしまえば、私が関わることはほとんどない。あとは本人がそれぞれの出力と感覚に慣れ、ワン・フォー・オール本来の身体強化と組み合わせられるようにするだけだ。

 

私は通常の研究へ戻っていた。

 

そこへ、今度はオールマイトから連絡が来た。

 

相談したいことがあるらしい。

 

内容までは書かれていなかったが、ここ数日ずっと緑谷さんの個性を調べていたので、何となく予想はできた。

 

指定した時間に研究室へ来たオールマイトは、いつもの細い姿だった。

 

「時間を取ってもらってすまないね、空木少年」

 

「構いません。それで、相談というのは?」

 

「ああ」

 

オールマイトが少し言いにくそうに間を置く。

 

それから、自分の身体へ視線を落とした。

 

「私のワン・フォー・オールも、何とかならないだろうか」

 

大体予想通りだった。

 

◇ ◇ ◇

 

詳しく聞く。

 

オールマイトは既にワン・フォー・オールを緑谷さんへ譲渡している。

 

神野の戦いまでは残り火があり、それを使って戦うことができた。

 

しかし、今はもう使えない。

 

以前なら、それで終わりだった。

 

一度譲ったワン・フォー・オールを取り戻すという発想自体がなかったらしい。

 

ただ、ここ数日で事情が変わった。

 

私は緑谷さんの中にあるワン・フォー・オールを解析した。

 

内部の六個性まで見つけた。

 

休眠していた五つを外部装置で目覚めさせた。

 

さらに、個性を人工的に作れることもオールマイトは知っている。

 

なら、自分の分もどうにかできないか。

 

そう考えたらしい。

 

「できますか、と聞かれれば、たぶんできます」

 

私が答えると、オールマイトの姿勢が少し前へ出た。

 

「本当かい?」

 

「まず診てみましょう。元のワン・フォー・オールが何か残っているなら、それを利用した方が簡単かもしれません」

 

「頼む」

 

今日は相談だけかと思っていたが、本人がいるなら確認はすぐできる。

 

私は個性因子知覚を使った。

 

◇ ◇ ◇

 

オールマイトの身体を見る。

 

生まれつき無個性だったことは、既に本人から聞いている。

 

だから探すべきものは一つ。

 

長年保有していたワン・フォー・オールの痕跡。

 

身体に定着していた経路。

 

残存因子。

 

発現に使われていた構造。

 

何かしら残っていれば、そこから再構成する方法も考えられる。

 

ただ。

 

「……ありませんね」

 

「ない?」

 

「はい」

 

もう一度見る。

 

結果は同じだった。

 

「少なくとも、利用できる形では何も残っていません。ワン・フォー・オールの個性因子も、発現可能な残存構造もありません」

 

「完全に消えている、ということかい?」

 

「そう考えていいと思います」

 

長期間使った身体なので、身体側には戦い方や負荷へ適応した痕跡がある。

 

だが、それは個性因子そのものではない。

 

神野まで使っていた残り火も、もう存在しない。

 

今のオールマイトは、本来の状態へ戻っている。

 

無個性。

 

加えて、過去の重傷による大きな身体欠損と後遺症を抱えている。

 

「元から無個性だったという話とも一致します」

 

「そうか……」

 

オールマイトは少しだけ目を伏せた。

 

落胆はしているようだったが、驚いてはいない。

 

本人も、もう残っていないと思っていたのだろう。

 

◇ ◇ ◇

 

「ただ、元の因子が残っていないことと、戻せないことは別です」

 

「というと?」

 

「緑谷さんのワン・フォー・オールは、もう詳しく解析しています」

 

構造は知っている。

 

中核。

 

蓄積。

 

譲渡。

 

内部の六個性。

 

特殊な折り畳み方も、今では見える。

 

同等の人工個性を設計すること自体は可能だった。

 

「緑谷さんのワン・フォー・オールと同じ機能を持つ個性を作って、オールマイトへ移植する方法があります」

 

オールマイトが目を見開く。

 

「ワン・フォー・オールを……作る?」

 

「正確には、現在解析できている構造を基準にした人工個性です。同じ歴史を作り直すわけではありません」

 

七代分の履歴。

 

オールマイト自身が使っていた期間。

 

歴代継承者の人生。

 

そういうものまで作る話ではない。

 

個性として必要な機能を再現する。

 

それだけだ。

 

「技術的には問題ありません。緑谷さんの個性構造を基準にするので、本人にも説明して許可を取っておいた方がいいとは思いますが」

 

勝手に作っても技術上は困らない。

 

ただ、本人たちが秘密として扱ってきた個性だ。

 

わざわざ余計な問題を増やす必要はない。

 

正式に進めるなら、緑谷さんと学校側を通した方が楽だった。

 

オールマイトはしばらく黙っていた。

 

「それなら……また、ワン・フォー・オールを使えるのか」

 

「使えるようにはできます」

 

私は答えてから、少し考える。

 

できる。

 

でも。

 

必要だろうか。

 

◇ ◇ ◇

 

「ただ、ワン・フォー・オールを作る必要はないと思います」

 

オールマイトが止まった。

 

「……どういうことだい?」

 

「オールマイトが欲しいのは、ワン・フォー・オールそのものですか?」

 

「それは……」

 

すぐには答えなかった。

 

私は続ける。

 

「今の話だと、目的はもう一度ヒーローとして動ける身体を得ることですよね」

 

「そうだ」

 

「それなら、もっと単純にできます」

 

ワン・フォー・オールは非常に特殊な個性だ。

 

力を蓄積する。

 

所有者間で継承する。

 

過去所有者の個性を内部へ保持する。

 

現在は六種類の追加個性まで発現できる。

 

それらは緑谷さんにとっては意味がある。

 

九代目として受け継いでいるからだ。

 

でも、オールマイトを再び戦える状態へするという目的だけなら、不要な機能が多い。

 

「オールマイトに必要なのは、継承機能ではありません」

 

私は端末へ必要条件を書き出していく。

 

「筋力。速度。反応速度。耐久性。この四つがまず必要です」

 

全盛期のオールマイトの映像資料は大量に残っている。

 

神野以前には、その機能を参考にした人工ヒーローまで試作した。

 

本人そのものを再現したわけではないが、オールマイト級の身体強化がどういう要素で成立するかは、既に設計経験がある。

 

ただし、本人へ入れるなら人工身体とは条件が違う。

 

「それから、身体側も補助した方がいいですね」

 

「身体側?」

 

「今のオールマイトは、単純に個性がないだけではありませんから」

 

大きな古傷がある。

 

長年の戦闘で身体にも負担が蓄積している。

 

年齢も若くはない。

 

そこへ全盛期級の筋力だけを追加しても、身体側がついてこなければ意味がない。

 

「循環器系。呼吸。代謝。高出力運動時のエネルギー供給。加齢による身体機能低下の補正。それから古傷によって失われた機能の補助」

 

オールマイトが静かに聞いている。

 

「筋力を上げた結果、その筋力で自分の身体を壊さないための保護も必要です。関節、骨、腱、内臓への過負荷を自動的に抑える機能も入れた方がいいでしょう」

 

「待ってくれ」

 

オールマイトが手を上げた。

 

私は止める。

 

「つまり君は……」

 

少し間を置いてから聞いてきた。

 

「ワン・フォー・オールを戻すんじゃなくて、私が昔のように動ける個性を新しく作ると言っているのかい?」

 

「そうです」

 

その方が簡単だ。

 

◇ ◇ ◇

 

目的から逆算する。

 

オールマイトを再び全盛期に近い能力で動かす。

 

必要なのは、全盛期の彼がワン・フォー・オールによって得ていた結果だ。

 

力。

 

速度。

 

頑丈さ。

 

反応。

 

長時間戦闘を成立させる身体性能。

 

今の負傷した身体でも、それを安全に使える補助。

 

それらを一つの複合人工個性へまとめればいい。

 

ワン・フォー・オールの再現より、よほど設計しやすい。

 

「緑谷さんが使っている六個性も必要ありません。浮遊したいなら別ですが」

 

「いや……特には」

 

「煙幕は?」

 

「必要ないかな……」

 

「危機感知も、オールマイトの戦闘経験を考えれば必須ではないと思います。追加したければできますが」

 

「いや、待ってくれ空木少年。そういう注文方式なのかい?」

 

「人工個性なので」

 

必要な機能だけ入れればいい。

 

余計な機能を増やす意味はない。

 

オールマイトは額へ手を当てた。

 

最近、教師からよく似た反応をされる気がする。

 

◇ ◇ ◇

 

「一つ確認したい」

 

「はい」

 

「それを受け取った場合、私は……また戦えるのかい?」

 

そこは少し慎重に答える。

 

「設計通り適合すれば、近い水準までは戻せると思います」

 

全盛期そのもの。

 

そう断言する必要はない。

 

当時の本人を完全に計測したデータがあるわけではない。

 

映像。

 

戦闘記録。

 

現在の身体。

 

本人の証言。

 

既知のワン・フォー・オール出力。

 

それらから設計する。

 

「年齢そのものを若返らせる話ではありません。身体の外見も、昔と完全に同じになるとは限りません」

 

私自身なら『巻き戻し』を使って年齢制御までしている。

 

しかし、それをオールマイトへ入れる必要はない。

 

今回の目的は若返りではなく、戦闘能力の回復だ。

 

「ただ、筋力、速度、反応、耐久と、高出力運動を支える身体機能をまとめて補えば、少なくとも今より大幅に動けるようにはできます。設計目標を全盛期の戦闘記録へ置くこともできます」

 

オールマイトは黙った。

 

その顔からは、すぐに答えを出していいのか迷っていることが分かる。

 

私は急かさない。

 

どちらでも作れる。

 

◇ ◇ ◇

 

「ワン・フォー・オールには、思い入れがある」

 

しばらくして、オールマイトが言った。

 

「私が師から受け継いだ力だ。長い間、私の人生の中心でもあった。そして今は緑谷少年へ渡した」

 

「はい」

 

「できるなら、もう一度あの力を使いたいと思った。それは本当だ」

 

それは理解できる。

 

私には同じ感覚はないが、長年使っていたものなら愛着はあってもおかしくない。

 

「だが、君が作るものは、私が志村師匠から受け取ったワン・フォー・オールそのものではないんだね」

 

「そうですね」

 

同じ機能を持つ因子を作ることはできる。

 

でも、あの時渡された個体そのものではない。

 

「緑谷さんから取り返すわけでもありません。解析結果から新しく作るだけです」

 

「なら……」

 

オールマイトが少し笑った。

 

「コピーにこだわる必要はないかもしれないな」

 

「私もそう思います」

 

欲しい結果が同じなら、設計しやすい方を使えばいい。

 

◇ ◇ ◇

 

「新しい個性の場合、名前はどうなるんだい?」

 

「必要になれば後で決めればいいと思います」

 

「そこはずいぶん軽いね!?」

 

「機能に影響しませんので」

 

まず作る。

 

名前は登録時に必要なら考えればいい。

 

今決めることではない。

 

オールマイトは少し笑ってから、改めて真剣な表情になった。

 

「では、お願いしたい」

 

「ワン・フォー・オールのコピーではなく、新規の人工個性で?」

 

「ああ」

 

頷く。

 

「私は元々無個性だった。ワン・フォー・オールを受け継いだから、ヒーローとして戦うことができた」

 

その声は静かだった。

 

「だが、今のワン・フォー・オールは緑谷少年のものだ」

 

「はい」

 

「私が再び立てるのなら、その方法まで同じである必要はない」

 

依頼内容は決まった。

 

◇ ◇ ◇

 

私は診察結果を保存する。

 

現状。

 

ワン・フォー・オール残存因子なし。

 

本来無個性。

 

重度の古傷と、それに伴う身体機能低下。

 

加齢による能力低下あり。

 

希望。

 

再びヒーロー活動が可能な身体性能。

 

設計目標。

 

過去の全盛期に近い戦闘能力。

 

必要機能として、筋力、速度、反応、耐久、循環・呼吸・代謝補助、加齢低下補正、旧傷による機能損失への補助、高出力時の自己損傷防止。

 

細部は実際の身体データを取ってから決めればいい。

 

「次は詳細な身体検査が必要になります。それから設計です」

 

「どれくらいかかる?」

 

「まだ検査前なので確定はしませんが、ワン・フォー・オールを一から再現するよりは簡単です」

 

人工個性を作ること自体はもう難しくない。

 

問題はオールマイトの身体へ安全に合わせること。

 

出力を上げすぎればいいわけではない。

 

全盛期級の動きを、今の身体で継続して使えるようにする必要がある。

 

そこを詰める方が重要だった。

 

「正式に進めるなら、学校や医療側の手続きも必要になると思います」

 

「当然だ。そこは私からも話を通そう」

 

「お願いします」

 

勝手に移植して後から問題になる方が面倒だ。

 

今回は本人が希望している。

 

雄英も関わっている。

 

正式に進めればいい。

 

オールマイトが立ち上がる。

 

今はまだ、細く、古傷を抱えた身体のままだ。

 

それをどこまで戻せるか。

 

正確には、戻すのではない。

 

現在の身体へ、新しく必要な性能を与える。

 

ワン・フォー・オールをもう一つ作る必要はない。

 

オールマイトがオールマイトとして動くために必要な機能だけを作ればいい。

 

依頼内容としては、その方がずっと分かりやすかった。

 

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