無個性は個性をつくる   作:匿名希望

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第77話 突破

ミッドナイト先生へ向かう人影が、森の中を進んでいる。

 

複数。

 

全員、超常解放戦線側。

 

私はこちらから一番近い観測型の高度をさらに下げた。

 

枝が視界を遮る。

 

角度を変える。

 

「出口候補を確認します」

 

ワープゲートは開けられる。

 

ただし、人間を安全に通す以上、出口を木や地面と重ねるわけにはいかない。

 

ミッドナイト先生のすぐ横は斜面で、倒木も多い。

 

少し離れた場所なら開ける。

 

「ここですね」

 

位置を固定。

 

ゲートを開く。

 

「救助型一体、防衛型一体。ミッドナイト先生を回収してください」

 

「承知しました」

 

二体がゲートを抜ける。

 

森の中へ。

 

ミッドナイト先生までの距離は近い。

 

間に合えば、そのまま連れて戻せる。

 

だが。

 

敵の方が近かった。

 

◇ ◇ ◇

 

「先生、敵が接近しています」

 

私は通信へ言う。

 

少し間があった。

 

「……見えてるわよ」

 

声が弱い。

 

それでも意識はある。

 

ミッドナイト先生が片腕を使って身体を起こす。

 

立てない。

 

落下時の負傷が大きいらしい。

 

「救助型が向かっています。可能ならその場で待ってください」

 

「分かった、って言いたいところだけど……」

 

ミッドナイト先生が前を見る。

 

木々の間からPLF構成員が現れた。

 

一人。

 

二人。

 

さらに後ろ。

 

「そうもいかなさそうね」

 

眠り香が広がる。

 

倒れたままでも個性は使える。

 

先頭の一人が足を止めた。

 

身体が揺れる。

 

次の一人も動きが鈍る。

 

「まだ使えるんですね」

 

私は観測する。

 

ギガントマキアへかなり放出した後。

 

さらに本人は重傷。

 

それでも発動可能。

 

ただし、戦闘を継続できる状態ではない。

 

「救助型、急いでください」

 

「承知しました」

 

二体の個性兵が森を進む。

 

あと少し。

 

◇ ◇ ◇

 

PLF側も眠り香に気づいた。

 

先頭の構成員が口元を覆う。

 

後ろの者が距離を取る。

 

何かを叫ぶ。

 

一斉に散った。

 

ミッドナイト先生はさらに香気を広げる。

 

「眠らせれば……終わりでしょ……!」

 

一人が倒れた。

 

もう一人も膝をつく。

 

効いている。

 

だが、全員ではない。

 

風向き。

 

距離。

 

個性への耐性。

 

状況はギガントマキアの時より複雑だった。

 

横へ回った一人が攻撃する。

 

ミッドナイト先生が避けようとする。

 

身体が動かない。

 

直撃。

 

通信へ衝撃音が入った。

 

「ミッドナイト先生」

 

返答はある。

 

「……まだ、生きてるわよ」

 

「あと数秒で救助型が到着します」

 

その数秒が。

 

長かった。

 

◇ ◇ ◇

 

別方向から攻撃。

 

今度は複数。

 

ミッドナイト先生が腕で頭を庇う。

 

一撃。

 

二撃。

 

身体が地面へ倒れる。

 

眠り香が薄くなる。

 

PLF構成員が近づく。

 

「防衛型、前へ」

 

「承知しました」

 

木々の間から防衛型が出る。

 

ミッドナイト先生との間へ割り込もうとする。

 

敵の一人が気づいた。

 

「なんだあれ!」

 

攻撃が防衛型へ向く。

 

一発なら問題ない。

 

外装が破損する。

 

再構築開始。

 

もう一撃。

 

防衛型は止まらない。

 

ミッドナイト先生まで、あと数メートル。

 

救助型も続いている。

 

「対象まで三・二メートル」

 

間に合う。

 

そう判断した直後。

 

PLF構成員の一人が、倒れているミッドナイト先生へ攻撃した。

 

観測型の視界が木に遮られる。

 

一瞬。

 

角度を変える。

 

再び見えた時。

 

ミッドナイト先生は動いていなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

「先生?」

 

応答なし。

 

救助型が到着する。

 

周囲の敵を防衛型が遮る。

 

救助型がミッドナイト先生へ触れる。

 

生命状態を確認。

 

数秒。

 

「生命反応を確認できません」

 

指揮所が静かになった。

 

「もう一度」

 

私は言う。

 

「確認します」

 

脈拍。

 

呼吸。

 

反応。

 

「生命反応なし。死亡状態です」

 

間に合わなかった。

 

「医療型は?」

 

公安担当者が聞く。

 

「死亡が成立しています。送っても戻せません」

 

生存していれば治せる。

 

欠損でも。

 

臓器損傷でも。

 

神経損傷でも。

 

今は違う。

 

「……そうか」

 

担当者が答える。

 

私はミッドナイト先生の状態を死亡へ変更する。

 

雄英で何度も顔を合わせていた。

 

授業でも。

 

校内でも。

 

今後は会わない。

 

そういう事実になった。

 

「救助型は遺体を回収してください。防衛型は援護」

 

「承知しました」

 

生きている人間を助ける仕事ではなくなった。

 

ただ、敵の中へ残しておく理由もない。

 

二体へ任せる。

 

私はもう一つの映像へ注意を戻した。

 

ギガントマキアが進んでいる。

 

◇ ◇ ◇

 

眠り香の影響はまだ残っていた。

 

初動時と比べて、動きが少し鈍い。

 

頭の動きも重い。

 

歩幅も完全には戻っていない。

 

だが。

 

止まってはいなかった。

 

「マキア、阻止線へ接近」

 

観測型が通知する。

 

山荘側のヒーローたちは、進路上へ集まっていた。

 

Mt.レディ。

 

他のプロヒーロー。

 

負傷している者もいる。

 

それでも、正面から止めるしかないらしい。

 

ギガントマキアが一歩進む。

 

地面が揺れる。

 

二歩。

 

さらに加速。

 

「眠り香の影響が弱まっています」

 

私は比較データを見る。

 

完全に消えてはいない。

 

それでも時間とともに動きが戻っている。

 

ミッドナイト先生が追加で吸わせることは、もうできない。

 

「持続だけで眠る可能性は?」

 

公安担当者が聞く。

 

「低いと思います」

 

断定はできない。

 

ただ。

 

現在の変化を見る限り、眠気はある。

 

行動も鈍っている。

 

その程度だった。

 

「必要量に届いていません」

 

「……そうか」

 

ギガントマキアがまた前進する。

 

◇ ◇ ◇

 

プロヒーロー側が一斉に攻撃を始めた。

 

足元。

 

関節。

 

進行方向。

 

倒せなくても進ませないための攻撃。

 

拘束系の個性も重なる。

 

巨大な身体へ何本もの拘束が巻き付く。

 

一瞬。

 

ギガントマキアの足が止まった。

 

「停止!」

 

通信担当者が声を上げる。

 

だが。

 

観測型は警告を出していない。

 

完全停止ではない。

 

「動いています」

 

脚。

 

肩。

 

腕。

 

拘束へ力がかかる。

 

一本が切れた。

 

二本。

 

三本。

 

「拘束破断!」

 

ギガントマキアが腕を振る。

 

周囲の木々がまとめて折れる。

 

ヒーローが吹き飛ばされる。

 

Mt.レディが正面から身体をぶつけた。

 

「行かせるかァ!」

 

両腕で押す。

 

マキアも押し返す。

 

しばらく均衡する。

 

眠り香が残っているからかもしれない。

 

初動時よりは、明らかに抵抗できている。

 

「今なら止められるか?」

 

公安担当者が聞く。

 

「ヒーロー側がどこまで持つか次第ですね」

 

私はマキアだけではなく周囲を見る。

 

一対一ではない。

 

複数のプロヒーローがいる。

 

個性の組み合わせ次第では可能性はある。

 

ただ。

 

ギガントマキアの背にも敵がいる。

 

◇ ◇ ◇

 

青い炎が落ちる。

 

ヒーロー側の進路を分断する。

 

別方向から攻撃。

 

拘束を切る。

 

Mt.レディにも攻撃が集中する。

 

ギガントマキアを止めるだけならまだしも、その上の敵まで同時に相手にしなければならない。

 

「背上の構成員による妨害継続」

 

観測型の報告。

 

ヒーロー側の包囲に隙間ができる。

 

ギガントマキアがそこへ足を入れた。

 

一歩。

 

Mt.レディが横からしがみつく。

 

「止まれええええ!」

 

巨体が傾く。

 

完全には倒れない。

 

マキアが前傾姿勢になる。

 

手を地面についた。

 

四足。

 

「体勢変更」

 

次の瞬間。

 

速度が変わった。

 

「速い」

 

私は映像を拡大する。

 

二足歩行より明らかに速い。

 

身体の形まで変化している。

 

進行に適した状態。

 

ヒーローたちが追う。

 

Mt.レディも離さない。

 

だが、引きずられる速度が上がる。

 

◇ ◇ ◇

 

「前方阻止班! 来るぞ!」

 

現場通信。

 

プロヒーローたちが進路上へ並ぶ。

 

地面へ個性を使う。

 

障壁。

 

拘束。

 

衝撃。

 

複数の攻撃が同時にギガントマキアへ当たる。

 

巨体が揺れた。

 

速度が落ちる。

 

「止めろ!」

 

さらに攻撃。

 

眠り香の影響も残っている。

 

ここで押し切れば止まるかもしれない。

 

私はマキアの身体の動きを見る。

 

反応は確実に鈍い。

 

しかし。

 

止まるほどではない。

 

「前進継続」

 

「まだ動くのか!」

 

「眠ってはいませんからね」

 

眠気のある人間でも歩ける。

 

ギガントマキアも同じ。

 

単純に規模が違う。

 

◇ ◇ ◇

 

マキアが吠えた。

 

音だけで観測型の入力が一瞬乱れる。

 

前方のヒーローたちが怯む。

 

そこへ腕。

 

地面を薙ぐ。

 

複数人が吹き飛ぶ。

 

「負傷者!」

 

「後送しろ!」

 

阻止線の一角が崩れる。

 

すぐ別のヒーローが入る。

 

穴を埋める。

 

だが、ギガントマキアは止まらない。

 

一歩。

 

二歩。

 

身体ごと押し込む。

 

「救助型を阻止線後方へ増やしますか?」

 

私は公安へ聞く。

 

「やってくれ。戦闘には入れるな」

 

「分かりました」

 

既に投入制限は緩和されている。

 

救助型を追加。

 

負傷者を拾う。

 

医療型へ運ぶ。

 

生きていれば戻せる。

 

戦線が崩れても、死者を減らすことはできる。

 

◇ ◇ ◇

 

ギガントマキアへ別の攻撃が集中する。

 

足元が大きく沈む。

 

膝が落ちた。

 

「今だ!」

 

拘束。

 

再び複数。

 

腕。

 

首。

 

脚。

 

身体。

 

Mt.レディも背後から押さえる。

 

一瞬。

 

完全に停止した。

 

指揮所でも全員が画面を見る。

 

数秒。

 

動かない。

 

眠り香。

 

蓄積した攻撃。

 

拘束。

 

全部が重なっている。

 

それでも。

 

ギガントマキアの腕が動いた。

 

「動作再開」

 

拘束が軋む。

 

一本。

 

切れる。

 

二本。

 

三本。

 

巨体が起き上がる。

 

Mt.レディが振り落とされた。

 

「くっ……!」

 

地面へ転がる。

 

他のヒーローが退避させる。

 

前方の阻止線が薄くなった。

 

「再拘束!」

 

間に合わない。

 

ギガントマキアが走り出す。

 

◇ ◇ ◇

 

「突破される!」

 

現場から叫び。

 

最後の数人が正面へ入る。

 

攻撃。

 

障壁。

 

拘束。

 

マキアは止まらない。

 

一人を押し退ける。

 

障壁を割る。

 

拘束を千切る。

 

さらに一歩。

 

そこが。

 

事前に設定されていた阻止線だった。

 

観測型が自動判定する。

 

「高優先度変化」

 

同時に。

 

地図上でギガントマキアの表示が、阻止区域を越えた。

 

「ギガントマキア、プロヒーロー阻止線を突破」

 

私が言うより先に、同じ警告が公安側モニターへ表示される。

 

映像も出ている。

 

誰かの報告を待つ必要はなかった。

 

マキアが線を越える瞬間。

 

指揮所全体が同時に見ていた。

 

◇ ◇ ◇

 

「突破確認!」

 

「進路予測を更新!」

 

「周辺市街地へ追加避難指示!」

 

公安側がすぐに動く。

 

病院側だけではない。

 

今度は山荘から病院へ向かって巨大な戦力が移動を開始した。

 

その進路上にも人がいる。

 

街がある。

 

ヒーローたちだけで追い続ければ、被害は増える。

 

私はギガントマキアの速度を更新する。

 

眠り香の影響はまだ完全には消えていない。

 

初動時より少し鈍い。

 

だが。

 

阻止線は越えた。

 

止められなかったということになる。

 

公安担当者がこちらを見た。

 

「空木君」

 

「はい」

 

「今の戦力で、あれを止められるか?」

 

私は画面を見る。

 

巨大な身体。

 

移動速度。

 

眠り香への反応。

 

既に確認できている身体性能。

 

背にいる敵。

 

使える工廠型。

 

ワープゲート。

 

既存の個性兵。

 

条件を並べる。

 

止め方はいくつかある。

 

ただし。

 

どれを選ぶかで、必要な設計も結果も変わる。

 

私は公安担当者へ向き直った。

 

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