無個性は個性をつくる   作:匿名希望

83 / 91
第78話 三つの選択肢

私は公安担当者へ向き直った。

 

「止める方法はいくつかあります」

 

「いくつか?」

 

「はい。何を優先するかで変わります」

 

ギガントマキアの映像を横に表示する。

 

プロヒーローの阻止線を抜け、そのまま病院側へ向かっている。

 

ミッドナイト先生の『眠り香』による影響はまだ残っている。

 

ただ、それだけで停止するほどではない。

 

周囲では追撃するヒーローたちが動いている。

 

進路上では避難も始まっていた。

 

全部を同時に考える必要がある。

 

「大きく分けるなら三つですね」

 

公安担当者が黙る。

 

私は一つ目から説明した。

 

「一つ目。今まで通り救助を優先して、ギガントマキアの直接制圧はヒーローへ任せます」

 

「……止めないのか?」

 

「私の個性兵では、です」

 

既に救助型と防衛型の投入制限は緩和されている。

 

なら、マキアの進行予測上にいる住民を先に逃がす。

 

救助型で搬送。

 

防衛型で避難路を維持。

 

必要ならワープゲートも使う。

 

ヒーロー側はそのままマキアを追う。

 

「一番準備がいりません。既存個体だけで対応できます」

 

「欠点は?」

 

「ギガントマキアを止められる保証がありません」

 

むしろ。

 

ここまでの戦況を見る限り、止められない可能性も考えるべきだった。

 

眠り香の影響を受けた状態で、複数のプロヒーローが作った阻止線を突破している。

 

このまま進めば、市街地へ被害が出る。

 

救助で減らすことはできる。

 

ゼロにはできない。

 

「ただし、私の戦力を直接戦闘へ投入する必要はありません。最初の運用方針を一番維持できるのはこれです」

 

公安担当者が画面を見る。

 

マキアの進路上。

 

避難区域。

 

追撃するヒーロー。

 

「……次は?」

 

「二つ目。生かしたまま止めます」

 

担当者がこちらを見た。

 

◇ ◇ ◇

 

「できるのか?」

 

「たぶん、一番捕縛には向いています」

 

私はミッドナイト先生がギガントマキアへ接近した時の映像を戻した。

 

眠り香を吸入する前。

 

吸入後。

 

濃度が上がった時。

 

そして、ミッドナイト先生が落下した後。

 

順番に並べる。

 

「ここです」

 

歩行速度が低下している。

 

反応も鈍っている。

 

一時的には前進も止まった。

 

「さっき確認した通り、ミッドナイト先生の『眠り香』は効いています」

 

「だが、眠らなかった」

 

「量が足りなかっただけだと思います」

 

無効なら、最初から変化しない。

 

実際には吸入量が増えるほど影響も強くなった。

 

なら、原理的には眠らせられる。

 

問題はギガントマキアの大きさだった。

 

外から気体を吸わせる方式では効率が悪い。

 

大量に拡散する。

 

風にも左右される。

 

敵側から妨害も受ける。

 

「なので、外から吸わせる必要はありません」

 

公安担当者が眉を寄せる。

 

「どうする?」

 

「体内で直接、睡眠を誘発します」

 

一瞬。

 

周囲の会話が止まった。

 

「……体内?」

 

「はい」

 

個性兵の大きさは固定されていない。

 

役割に合わせて設計できる。

 

人間型にする必要もない。

 

「超小型の個性兵を作ります。ギガントマキアの体内へ侵入させて、内部から睡眠を誘発させます」

 

「注射みたいなものか?」

 

「少し違います」

 

薬剤を一度入れるだけではない。

 

個性兵なら、自分で動ける。

 

対象の内部へ入る。

 

そのまま留まる。

 

必要な作用を継続する。

 

「ミッドナイト先生の個性と同じものを作るという意味ではありません。睡眠させるための人工個性を、体内で使わせます」

 

対象が大きいなら数を増やせばいい。

 

一体で足りないなら複数。

 

作用を積み重ねる。

 

外から身体全体を倒そうとするより、かなり効率がいい。

 

◇ ◇ ◇

 

「でも、入れるだけで大丈夫なのか?」

 

「睡眠だけに限定する必要もありません」

 

眠らせる。

 

それが最初。

 

ただ、ギガントマキアがどれだけ睡眠へ抵抗できるかは分からない。

 

なら、同時に別方向から活動量を落とせばいい。

 

「必要なら神経活動や筋活動、代謝や運動機能も抑えます。全部を一体で強く作用させるより、複数個体で少しずつ重ねた方が安全です」

 

担当者の顔が少し固まる。

 

「安全?」

 

「殺さないという意味では」

 

止めるだけなら、過剰な出力は必要ない。

 

反応を見ながら作用を増やす。

 

動けなくなれば、それ以上強くする必要もない。

 

「それと、捕縛後に体内へ残るのは問題なので、不要になったら自壊させます」

 

「……体の中で?」

 

「はい」

 

爆発させるわけではない。

 

人工生命としての構造を自分で分解すればいい。

 

回収を前提にする必要がなくなる。

 

「役目が終われば消せます。捕縛して、その後ずっと異物を体内に残す必要もありません」

 

公安担当者が少し考える。

 

「侵入させられるのか?」

 

「方法はいくつかあります。そこは設計すればいいです」

 

まだ具体的な個体は作っていない。

 

どの程度まで小型化するか。

 

侵入経路。

 

必要数。

 

内部での移動。

 

睡眠誘発の出力。

 

そのあたりはこれから決める。

 

ただし、成立する見込みはある。

 

「ギガントマキアが眠りへ反応することは確認できています。なので、今ある情報だけで考えるなら、これが一番捕縛向きだと思います」

 

生かして止める。

 

周囲への被害も減らす。

 

倒した後の処理も簡単。

 

三つの中では一番条件に合っている。

 

◇ ◇ ◇

 

公安担当者はしばらく黙っていた。

 

その間にもギガントマキアは進む。

 

観測型から現在位置が更新される。

 

「第三案は?」

 

「殺していいなら、もっと選択肢は増えます」

 

担当者の目が細くなる。

 

「致死制圧か」

 

「はい」

 

相手を生存させる必要がない。

 

捕縛後の安全性も考えない。

 

それなら設計条件はかなり緩くなる。

 

「大型の戦闘用個性兵を作って正面から止めてもいいですし、専用の攻撃手段を作ってもいいです。時間をかければ確実性も上げられます」

 

「時間?」

 

「大型になるほど製造時間が伸びます」

 

工廠型があるから何でも瞬時に完成するわけではない。

 

小型の標準素体なら速い。

 

大型。

 

高出力。

 

新しい複合構造。

 

そういうものほど時間がかかる。

 

ギガントマキアは今も動いている。

 

「なので、今すぐ止める手段としては、二つ目の方が速いと思います」

 

超小型なら製造時間を短くできる。

 

数も並列化できる。

 

必要な機能も限定できる。

 

戦闘用の巨大な身体を一から作るより合理的だった。

 

◇ ◇ ◇

 

私は三つを画面へ表示した。

 

「整理すると」

 

一つ目。

 

「救助を優先して、直接制圧しない。マキアはヒーローへ任せる」

 

二つ目。

 

「生かして止める。超小型個性兵を体内へ入れて、睡眠を中心に内部から活動を落とす」

 

三つ目。

 

「致死を許可する」

 

公安担当者が画面を見る。

 

「君ならどれを選ぶ?」

 

「捕縛するなら二つ目です」

 

迷う理由はなかった。

 

「眠り香が効くことはもう確認できています。なら、その作用を外から大量に浴びせるより、体内から直接使った方が効率がいいです」

 

しかも。

 

「小型なら数を揃えるのも早いです。役目が終われば自壊させればいいので、回収も必要ありません」

 

「失敗する可能性は?」

 

「ありますよ」

 

まだ作っていない。

 

実際にギガントマキアの体内で動かしたこともない。

 

「どれだけの数が必要かは分かりません。体内で破壊される可能性もあります。睡眠への耐性が途中で上がる可能性もあります」

 

だから複数機能を重ねる。

 

睡眠だけに依存しない。

 

それでも。

 

「今ある情報から設計するなら、一番成功率を上げやすいと思います」

 

公安担当者はまた画面を見る。

 

◇ ◇ ◇

 

別の通信が入る。

 

「ギガントマキア、進行継続!」

 

現在位置が更新される。

 

プロヒーローが追っている。

 

時折攻撃が当たる。

 

拘束も試みている。

 

それでも止まらない。

 

眠り香の影響も、時間とともに弱くなっている。

 

「市街地避難、次区域へ移行!」

 

救助型も動く。

 

ワープゲートを使い、進路上から人間を外へ出す。

 

こちらは既にやっている。

 

第一案の一部は、選ばなくても必要だった。

 

問題は。

 

マキアそのものをどうするか。

 

公安担当者が通信担当へ聞く。

 

「現場側で止められる見込みは?」

 

少しして返答。

 

「追撃中。ただし、阻止線突破後も有効な停止手段は確立できていません」

 

予想通り。

 

「進路上の避難完了率は?」

 

「全区域ではありません」

 

担当者が黙る。

 

選択肢は三つ。

 

何もしないわけではない。

 

どれも何かをする。

 

違うのは、どこまで直接介入するかだった。

 

◇ ◇ ◇

 

「空木君」

 

「はい」

 

「二つ目でいく」

 

答えが出た。

 

「生かして止める。できるか?」

 

「設計してみます」

 

「必要なものは?」

 

「工廠型を使います。あとは投入許可をください」

 

「今出す」

 

担当者が周囲へ指示する。

 

「ギガントマキアに対する個性兵の直接制圧を許可! ただし非致死! 空木君の内部停止案を採用する!」

 

通信担当が復唱する。

 

命令系統へ流れる。

 

これまで制限されていた、個性兵による大型敵への直接制圧。

 

その制限が一つ外れた。

 

「殺すなよ」

 

担当者が言う。

 

「そのための案ですからね」

 

私は工廠型との共有を開く。

 

まだ製造命令は出さない。

 

先に設計が必要だった。

 

対象はギガントマキア。

 

超大型。

 

高耐久。

 

眠りへの反応あり。

 

目的は死亡させずに行動不能へすること。

 

外からではなく。

 

内部から。

 

「では、作ります」

 

必要なのは大きな兵器ではない。

 

むしろ逆だった。

 

できるだけ小さく。

 

大量に。

 

体内へ入り。

 

少しずつ。

 

確実に止める。

 

設計条件は揃った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。