無個性は個性をつくる 作:匿名希望
設計条件は揃った。
対象はギガントマキア。
目的は殺害ではなく、行動不能にして捕縛すること。
大型の身体へ外から作用させるのではなく、超小型の個性兵を体内へ入れて、内部から活動を落とす。
私は工廠型との共有を開いた。
「新規設計を送ります。受信準備をしてください」
「承知しました」
返答と同時に、工廠型の状態が共有される。
複数の製造ライン。
備蓄材料。
使用可能な素体設計。
全部正常。
なら始める。
◇ ◇ ◇
最初に決めるのは身体だった。
人間型にする理由はない。
戦闘もしない。
物を運ぶ必要もない。
必要なのは小ささと飛行能力。
それから、対象の身体へ侵入した後も動けること。
「かなり小さくできますね」
通常の飛行型個性兵から、不要なものを削っていく。
外装。
大型の観測器官。
長距離活動用の余剰容量。
戦闘機能。
どれもいらない。
標的は一体。
場所も分かっている。
使用時間も長期間ではない。
必要なのは移動。
最低限の感覚。
私との共有。
自律OS。
そして制圧用の人工個性。
身体構造が一気に単純になる。
小型化には向いていた。
「これなら製造時間もかなり短くできます」
公安担当者が横から画面を見る。
「どのくらいだ?」
「最初の一体を作ってみないと正確には分かりません。ただ、普通の個性兵よりはかなり速いです」
設計さえ終われば、工廠型は同じものを繰り返し作れる。
問題は最初の設計だった。
◇ ◇ ◇
次に人工個性を組む。
最優先は睡眠。
これは決まっている。
ミッドナイト先生の『眠り香』で、ギガントマキアに睡眠作用が通ることは確認できた。
完全には眠らなかった。
それでも歩行速度と反応は落ちた。
なら、同じ目的の作用を体内から継続すればいい。
ただし。
睡眠だけに依存する必要もない。
「睡眠誘発を主にします」
私は構造を組む。
「それだけじゃないんだろ?」
公安担当者が聞く。
「はい」
ギガントマキアの身体は特殊だ。
眠気が出ても、そのまま動き続けられる可能性がある。
実際、ミッドナイト先生の眠り香を受けても完全には止まらなかった。
なら別方向からも活動を落とす。
神経活動。
筋活動。
代謝。
運動機能。
全部を完全に止める必要はない。
少しずつでいい。
一体の個性兵で大きく抑えるのではなく、複数で累積させる。
一体目で少し。
二体目でもう少し。
十体。
五十体。
百体。
数が入るほど作用が重なる。
「一体の出力を高くするより安全です」
「何が?」
「加減がしやすいです」
いきなり呼吸や循環まで止めれば死ぬ可能性がある。
今回の目的は捕縛。
なら、必要以上に作用させる意味はない。
動けなくなれば終わり。
それ以上は抑えない。
「個体ごとの出力を低めにしておけば、途中で十分だと判断した時点で追加を止められます」
「なるほどな」
さらに。
役目が終わった後も残す必要はない。
自己分解機能。
これは既存の個性兵にも使っている。
「捕縛完了後は順次自壊させます」
「体内で爆発とかはするなよ」
「しませんよ」
分解するだけだ。
周囲の組織を傷つける必要はない。
そこまで含めて設計する。
◇ ◇ ◇
問題は数だった。
一体でどこまで効くか。
分からない。
ギガントマキアの身体容量も、人間とは比較にならない。
必要量を正確に出せるデータはない。
「何体作る?」
「多めに用意します」
少なければ追加製造すればいい。
だが、その間にもマキアは進む。
なら最初からある程度の数を想定した方がいい。
私は対象の大きさと、各個体へ持たせる作用量から大まかな目安を出す。
厳密な必要数ではない。
運用上の上限目安。
「三百体くらいにします」
公安担当者がこちらを向いた。
「三百?」
「はい」
「また急に多いな」
「一体がかなり小さいですから」
以前、全体で千体程度用意すると言った時とは意味が違う。
今回は一体一体が小さい。
機能も限定されている。
三百体すべてを使うとも限らない。
途中で止まれば残りは投入しなければいい。
「三百体を作って、必要なだけ入れます」
「全部必要になる可能性は?」
「あります」
そこは分からない。
だから用意する。
◇ ◇ ◇
設計をまとめる。
超小型飛行型。
対象はギガントマキア限定。
睡眠誘発。
神経活動抑制。
筋活動抑制。
代謝・運動機能抑制。
作用は低出力。
複数個体による累積を前提。
共有機能。
自律OS。
自己分解。
対象識別。
任務終了条件。
余計なものは入れない。
「設計完了です」
工廠型へ送信する。
「新規設計受領」
「一体試作してください」
「承知しました」
製造が始まる。
◇ ◇ ◇
私は工廠型内部の工程を見る。
今回は身体が小さい。
構造も単純。
まず人工肉体。
次に必要な個性因子。
OS。
共有機能。
識別。
任務設定。
自己分解。
順番に組み込まれる。
大型個体を作る時とは違い、一つ一つの工程が短い。
数秒。
さらに数秒。
「完成しました」
時間を見る。
ほぼ十秒。
「約十秒ですね」
公安担当者が目を丸くする。
「一体?」
「はい」
私は完成個体を確認する。
飛行。
正常。
共有。
正常。
個性発動。
まずは外部で最低出力だけ確認する。
正常。
自己分解は実行せず、命令受付だけ確認。
問題なし。
「これで量産できます」
「三百体だと五十分か?」
「一つのラインだけならそれくらいですね」
もちろん。
一つだけ使う理由はない。
◇ ◇ ◇
工廠型には複数の製造ラインがある。
同じ設計を流す。
「使用可能なラインを並列化してください」
「確認しました」
一つ。
二つ。
三つ。
さらに増やす。
通常の個性兵製造と違い、一体が小さいため、材料消費も少ない。
別の作戦支援に必要な製造余力は残す。
全部をマキア専用にする必要はない。
それでも十分だった。
「各ライン、同一設計で製造開始。目標三百体」
「承知しました」
複数のラインが同時に動き始める。
一体目。
二体目。
三体目。
別ラインでも完成。
数が急速に増える。
「どのくらいで揃う?」
公安担当者が聞く。
私は進行速度を見る。
ライン間で多少の差がある。
それを含めても。
「百秒前後で三百体までいけると思います」
「そんなに早いのか」
「小さいので」
大型の重戦闘型とは違う。
使う機能も決まっている。
設計さえ終われば、複製は速い。
◇ ◇ ◇
「じゃあ三百揃うまで待つのか?」
「いいえ」
私は答える。
待つ理由がない。
既に完成している個体がいる。
ギガントマキアは今も移動している。
「完成した個体から送ります」
「少数でも意味があるのか?」
「あります」
完全に眠らせられなくてもいい。
ミッドナイト先生の眠り香で、それは確認している。
完全停止しなくても。
眠気が強くなれば反応は鈍る。
歩行速度が落ちる。
判断や行動開始も遅くなる可能性がある。
それだけで価値がある。
「一体でほとんど変化がなくても、十体なら少し出るかもしれません。三十体ならもっと出るかもしれない」
累積前提。
なら、完成済みの個体を工廠型の中で待機させる意味はない。
「先行分で少しでも遅くなれば、その間に次の個体が完成します」
マキアが十秒余分にかかる。
その十秒で、さらに複数体作れる。
それを送る。
さらに遅くなる。
また次を送る。
上手く作用すれば、こちらに有利な循環になる。
「なので適宜送ります」
「分かった。投入は任せる」
許可は既に出ている。
なら始める。
◇ ◇ ◇
観測型からギガントマキアの現在位置を確認する。
阻止線突破後も進行中。
追撃するプロヒーロー。
背上の敵。
進路上では避難が続いている。
私はワープゲートの出口候補を決める。
対象のすぐ目の前へ開く必要はない。
完成した超小型個性兵自身が飛べる。
敵に気づかれにくく、なおかつ接近時間を短くできる場所。
「第一投入地点を設定します」
空間を接続する。
入口は工廠型側。
出口はマキア進路近くの空中。
観測型で安全を確認。
「完成済み個体、投入」
小さな個体が次々とゲートへ入る。
一体。
二体。
三体。
最初のまとまった数が戦場側へ出る。
観測型の映像では、ほとんど点にしか見えない。
「投入完了」
「ギガントマキアへ接近してください。ただし、まだ侵入経路を固定しなくていいです。対象周辺へ分散」
「承知しました」
超小型個体が飛ぶ。
巨体へ向かう。
◇ ◇ ◇
工廠型では製造が続いている。
十体。
二十体。
三十体。
数が増えるたび、一定数をまとめて送る。
「次、投入」
ワープ。
さらに完成。
「投入」
またワープ。
三百体が揃うまで待たない。
製造と投入を同時に進める。
指揮所のモニターにも、完成数と投入数を表示する。
「現在、製造四十七。投入三十二」
通信担当者が確認する。
少しして。
「製造六十三。投入四十八」
数字が増えていく。
その間にもギガントマキアは動いている。
「まだ止まらないな」
公安担当者が言う。
「まだ体内へ入れていませんからね」
今は接近させている段階。
周囲には敵もいる。
どこから入れるか。
どう分散するか。
対象の動きと合わせて決める。
「外から攻撃させるわけじゃないんだな」
「それなら小型にした意味があまりありません」
身体の内側へ入れる。
そこから作用させる。
それが今回の設計理由だった。
◇ ◇ ◇
ギガントマキアが建物の少ない区域を抜ける。
観測型が進路を追う。
プロヒーローたちの攻撃が続く。
眠り香の影響はかなり薄くなっている。
歩行速度も戻りつつある。
「先行分を急がせた方がよさそうですね」
私は投入済み個体へ指示を変更する。
「対象への接近を優先。複数方向へ分散してください」
「承知しました」
小さな視界が増える。
個体ごとにギガントマキアが見える。
巨大すぎて、近づくほど全体が分からなくなる。
皮膚。
髪。
口元。
耳。
鼻。
候補はいくつもある。
まだ入らない。
まず周囲へ散らす。
一か所から全部入れば、気づかれた時にまとめて排除される可能性がある。
それなら複数方向。
「良さそうですね」
この程度なら設計通り動ける。
◇ ◇ ◇
「製造百体到達」
報告。
まだ開始からそれほど経っていない。
「百?」
公安担当者が画面を見る。
「はい」
「もう三分の一か」
「並列で作っていますから」
そのうち大部分は既に戦場へ送っている。
工廠型の中に貯め込む必要はない。
「次を送ります」
ワープを開く。
完成個体が通る。
閉じる。
別の投入地点。
また開く。
同じ場所だけから出す必要もない。
マキアの移動に合わせて出口も前へ動かす。
完成数が増える。
投入数も追う。
「こういう使い方を想定して工廠型を作ったのか?」
公安担当者が聞く。
「具体的にギガントマキアへ使うとは想定していませんでした」
必要な個性兵を必要な時に作る。
そのためのものだ。
今回が超小型侵入型になっただけ。
「事前に全部の敵専用兵を作っておくより、この方が無駄が少ないので」
ただ。
製造時間の長いものなら話は変わる。
今回は小さいから間に合う。
その違いは覚えておいた方がいい。
◇ ◇ ◇
観測型から進路上の避難状況も入ってくる。
救助型が住民を運ぶ。
防衛型が経路を確保する。
ワープゲートで安全区域へ抜く。
マキア制圧を始めたからといって、そちらを止める理由はない。
「救助側の個性兵数は維持してください」
「了解」
公安側から返答。
私は二つを並行する。
救助。
制圧準備。
どちらか一方ではない。
ギガントマキアが止まるまで救助は必要。
止まれば、その時点で進路上の危険は減る。
◇ ◇ ◇
「製造百五十」
約半分。
投入済み個体は、マキア周囲へかなり集まっている。
それでも小さい。
ギガントマキア本人や背上の敵が明確に反応している様子はない。
観測型から見ても分かりにくい。
近距離共有でなければ見失う程度。
「小さくした意味はありましたね」
「気づかれてないのか?」
「今のところは」
絶対ではない。
気づかれる可能性はある。
そのためにも、早く作用させた方がいい。
三百を待つ必要はない。
むしろ待てば発見される時間が増える。
「十分な数が先行しています」
私は個体の配置を見る。
口元。
鼻周辺。
耳側。
各方向。
侵入経路は確保できそうだった。
「そろそろ始められます」
公安担当者が私を見る。
「三百揃ってないぞ」
「揃える必要はありません」
最終的な目安が三百。
開始条件ではない。
「先に入った個体で眠気が強くなれば、それだけマキアが遅くなります。その間に残りを作れます」
止め切れなくてもいい。
少し遅くする。
それだけでも。
今逃げている人間には意味がある。
追っているヒーローにも意味がある。
次の個性兵を完成させる私たちにも意味がある。
「完全停止を待ってから効果が出る方式ではありません」
一体ずつ。
少しずつ。
積み重ねる。
今回の設計は、そのためのものだった。
◇ ◇ ◇
「製造二百」
工廠型から報告。
さらにラインは動いている。
残り百。
予想通り、全体で百秒前後に収まりそうだ。
「投入を継続してください」
「承知しました」
新しく完成した個体がゲートを通る。
既に現場へいる個体へ合流。
数が増える。
ギガントマキアはまだ走っている。
まだ止まらない。
当然だ。
こちらはまだ、その身体の外にいる。
私は各個体から入る共有視界を整理する。
口。
鼻。
耳。
いずれも接近可能。
複数経路を使える。
「侵入準備」
返答が重なる。
「承知しました」
その間にも工廠型の数字は増える。
二百十。
二百二十。
二百三十。
作る。
送る。
作る。
送る。
三百体すべてが完成するまで、待つつもりはない。
ギガントマキアが少しでも遅くなるなら。
完成した一体から使う価値がある。
私は先行している超小型個性兵へ命令を送った。
「予定通り、複数経路から侵入を開始してください」
巨大な顔の周囲で。
小さな個性兵たちが、一斉に動き始めた。