無個性は個性をつくる   作:匿名希望

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第79話 三百体

設計条件は揃った。

 

対象はギガントマキア。

 

目的は殺害ではなく、行動不能にして捕縛すること。

 

大型の身体へ外から作用させるのではなく、超小型の個性兵を体内へ入れて、内部から活動を落とす。

 

私は工廠型との共有を開いた。

 

「新規設計を送ります。受信準備をしてください」

 

「承知しました」

 

返答と同時に、工廠型の状態が共有される。

 

複数の製造ライン。

 

備蓄材料。

 

使用可能な素体設計。

 

全部正常。

 

なら始める。

 

◇ ◇ ◇

 

最初に決めるのは身体だった。

 

人間型にする理由はない。

 

戦闘もしない。

 

物を運ぶ必要もない。

 

必要なのは小ささと飛行能力。

 

それから、対象の身体へ侵入した後も動けること。

 

「かなり小さくできますね」

 

通常の飛行型個性兵から、不要なものを削っていく。

 

外装。

 

大型の観測器官。

 

長距離活動用の余剰容量。

 

戦闘機能。

 

どれもいらない。

 

標的は一体。

 

場所も分かっている。

 

使用時間も長期間ではない。

 

必要なのは移動。

 

最低限の感覚。

 

私との共有。

 

自律OS。

 

そして制圧用の人工個性。

 

身体構造が一気に単純になる。

 

小型化には向いていた。

 

「これなら製造時間もかなり短くできます」

 

公安担当者が横から画面を見る。

 

「どのくらいだ?」

 

「最初の一体を作ってみないと正確には分かりません。ただ、普通の個性兵よりはかなり速いです」

 

設計さえ終われば、工廠型は同じものを繰り返し作れる。

 

問題は最初の設計だった。

 

◇ ◇ ◇

 

次に人工個性を組む。

 

最優先は睡眠。

 

これは決まっている。

 

ミッドナイト先生の『眠り香』で、ギガントマキアに睡眠作用が通ることは確認できた。

 

完全には眠らなかった。

 

それでも歩行速度と反応は落ちた。

 

なら、同じ目的の作用を体内から継続すればいい。

 

ただし。

 

睡眠だけに依存する必要もない。

 

「睡眠誘発を主にします」

 

私は構造を組む。

 

「それだけじゃないんだろ?」

 

公安担当者が聞く。

 

「はい」

 

ギガントマキアの身体は特殊だ。

 

眠気が出ても、そのまま動き続けられる可能性がある。

 

実際、ミッドナイト先生の眠り香を受けても完全には止まらなかった。

 

なら別方向からも活動を落とす。

 

神経活動。

 

筋活動。

 

代謝。

 

運動機能。

 

全部を完全に止める必要はない。

 

少しずつでいい。

 

一体の個性兵で大きく抑えるのではなく、複数で累積させる。

 

一体目で少し。

 

二体目でもう少し。

 

十体。

 

五十体。

 

百体。

 

数が入るほど作用が重なる。

 

「一体の出力を高くするより安全です」

 

「何が?」

 

「加減がしやすいです」

 

いきなり呼吸や循環まで止めれば死ぬ可能性がある。

 

今回の目的は捕縛。

 

なら、必要以上に作用させる意味はない。

 

動けなくなれば終わり。

 

それ以上は抑えない。

 

「個体ごとの出力を低めにしておけば、途中で十分だと判断した時点で追加を止められます」

 

「なるほどな」

 

さらに。

 

役目が終わった後も残す必要はない。

 

自己分解機能。

 

これは既存の個性兵にも使っている。

 

「捕縛完了後は順次自壊させます」

 

「体内で爆発とかはするなよ」

 

「しませんよ」

 

分解するだけだ。

 

周囲の組織を傷つける必要はない。

 

そこまで含めて設計する。

 

◇ ◇ ◇

 

問題は数だった。

 

一体でどこまで効くか。

 

分からない。

 

ギガントマキアの身体容量も、人間とは比較にならない。

 

必要量を正確に出せるデータはない。

 

「何体作る?」

 

「多めに用意します」

 

少なければ追加製造すればいい。

 

だが、その間にもマキアは進む。

 

なら最初からある程度の数を想定した方がいい。

 

私は対象の大きさと、各個体へ持たせる作用量から大まかな目安を出す。

 

厳密な必要数ではない。

 

運用上の上限目安。

 

「三百体くらいにします」

 

公安担当者がこちらを向いた。

 

「三百?」

 

「はい」

 

「また急に多いな」

 

「一体がかなり小さいですから」

 

以前、全体で千体程度用意すると言った時とは意味が違う。

 

今回は一体一体が小さい。

 

機能も限定されている。

 

三百体すべてを使うとも限らない。

 

途中で止まれば残りは投入しなければいい。

 

「三百体を作って、必要なだけ入れます」

 

「全部必要になる可能性は?」

 

「あります」

 

そこは分からない。

 

だから用意する。

 

◇ ◇ ◇

 

設計をまとめる。

 

超小型飛行型。

 

対象はギガントマキア限定。

 

睡眠誘発。

 

神経活動抑制。

 

筋活動抑制。

 

代謝・運動機能抑制。

 

作用は低出力。

 

複数個体による累積を前提。

 

共有機能。

 

自律OS。

 

自己分解。

 

対象識別。

 

任務終了条件。

 

余計なものは入れない。

 

「設計完了です」

 

工廠型へ送信する。

 

「新規設計受領」

 

「一体試作してください」

 

「承知しました」

 

製造が始まる。

 

◇ ◇ ◇

 

私は工廠型内部の工程を見る。

 

今回は身体が小さい。

 

構造も単純。

 

まず人工肉体。

 

次に必要な個性因子。

 

OS。

 

共有機能。

 

識別。

 

任務設定。

 

自己分解。

 

順番に組み込まれる。

 

大型個体を作る時とは違い、一つ一つの工程が短い。

 

数秒。

 

さらに数秒。

 

「完成しました」

 

時間を見る。

 

ほぼ十秒。

 

「約十秒ですね」

 

公安担当者が目を丸くする。

 

「一体?」

 

「はい」

 

私は完成個体を確認する。

 

飛行。

 

正常。

 

共有。

 

正常。

 

個性発動。

 

まずは外部で最低出力だけ確認する。

 

正常。

 

自己分解は実行せず、命令受付だけ確認。

 

問題なし。

 

「これで量産できます」

 

「三百体だと五十分か?」

 

「一つのラインだけならそれくらいですね」

 

もちろん。

 

一つだけ使う理由はない。

 

◇ ◇ ◇

 

工廠型には複数の製造ラインがある。

 

同じ設計を流す。

 

「使用可能なラインを並列化してください」

 

「確認しました」

 

一つ。

 

二つ。

 

三つ。

 

さらに増やす。

 

通常の個性兵製造と違い、一体が小さいため、材料消費も少ない。

 

別の作戦支援に必要な製造余力は残す。

 

全部をマキア専用にする必要はない。

 

それでも十分だった。

 

「各ライン、同一設計で製造開始。目標三百体」

 

「承知しました」

 

複数のラインが同時に動き始める。

 

一体目。

 

二体目。

 

三体目。

 

別ラインでも完成。

 

数が急速に増える。

 

「どのくらいで揃う?」

 

公安担当者が聞く。

 

私は進行速度を見る。

 

ライン間で多少の差がある。

 

それを含めても。

 

「百秒前後で三百体までいけると思います」

 

「そんなに早いのか」

 

「小さいので」

 

大型の重戦闘型とは違う。

 

使う機能も決まっている。

 

設計さえ終われば、複製は速い。

 

◇ ◇ ◇

 

「じゃあ三百揃うまで待つのか?」

 

「いいえ」

 

私は答える。

 

待つ理由がない。

 

既に完成している個体がいる。

 

ギガントマキアは今も移動している。

 

「完成した個体から送ります」

 

「少数でも意味があるのか?」

 

「あります」

 

完全に眠らせられなくてもいい。

 

ミッドナイト先生の眠り香で、それは確認している。

 

完全停止しなくても。

 

眠気が強くなれば反応は鈍る。

 

歩行速度が落ちる。

 

判断や行動開始も遅くなる可能性がある。

 

それだけで価値がある。

 

「一体でほとんど変化がなくても、十体なら少し出るかもしれません。三十体ならもっと出るかもしれない」

 

累積前提。

 

なら、完成済みの個体を工廠型の中で待機させる意味はない。

 

「先行分で少しでも遅くなれば、その間に次の個体が完成します」

 

マキアが十秒余分にかかる。

 

その十秒で、さらに複数体作れる。

 

それを送る。

 

さらに遅くなる。

 

また次を送る。

 

上手く作用すれば、こちらに有利な循環になる。

 

「なので適宜送ります」

 

「分かった。投入は任せる」

 

許可は既に出ている。

 

なら始める。

 

◇ ◇ ◇

 

観測型からギガントマキアの現在位置を確認する。

 

阻止線突破後も進行中。

 

追撃するプロヒーロー。

 

背上の敵。

 

進路上では避難が続いている。

 

私はワープゲートの出口候補を決める。

 

対象のすぐ目の前へ開く必要はない。

 

完成した超小型個性兵自身が飛べる。

 

敵に気づかれにくく、なおかつ接近時間を短くできる場所。

 

「第一投入地点を設定します」

 

空間を接続する。

 

入口は工廠型側。

 

出口はマキア進路近くの空中。

 

観測型で安全を確認。

 

「完成済み個体、投入」

 

小さな個体が次々とゲートへ入る。

 

一体。

 

二体。

 

三体。

 

最初のまとまった数が戦場側へ出る。

 

観測型の映像では、ほとんど点にしか見えない。

 

「投入完了」

 

「ギガントマキアへ接近してください。ただし、まだ侵入経路を固定しなくていいです。対象周辺へ分散」

 

「承知しました」

 

超小型個体が飛ぶ。

 

巨体へ向かう。

 

◇ ◇ ◇

 

工廠型では製造が続いている。

 

十体。

 

二十体。

 

三十体。

 

数が増えるたび、一定数をまとめて送る。

 

「次、投入」

 

ワープ。

 

さらに完成。

 

「投入」

 

またワープ。

 

三百体が揃うまで待たない。

 

製造と投入を同時に進める。

 

指揮所のモニターにも、完成数と投入数を表示する。

 

「現在、製造四十七。投入三十二」

 

通信担当者が確認する。

 

少しして。

 

「製造六十三。投入四十八」

 

数字が増えていく。

 

その間にもギガントマキアは動いている。

 

「まだ止まらないな」

 

公安担当者が言う。

 

「まだ体内へ入れていませんからね」

 

今は接近させている段階。

 

周囲には敵もいる。

 

どこから入れるか。

 

どう分散するか。

 

対象の動きと合わせて決める。

 

「外から攻撃させるわけじゃないんだな」

 

「それなら小型にした意味があまりありません」

 

身体の内側へ入れる。

 

そこから作用させる。

 

それが今回の設計理由だった。

 

◇ ◇ ◇

 

ギガントマキアが建物の少ない区域を抜ける。

 

観測型が進路を追う。

 

プロヒーローたちの攻撃が続く。

 

眠り香の影響はかなり薄くなっている。

 

歩行速度も戻りつつある。

 

「先行分を急がせた方がよさそうですね」

 

私は投入済み個体へ指示を変更する。

 

「対象への接近を優先。複数方向へ分散してください」

 

「承知しました」

 

小さな視界が増える。

 

個体ごとにギガントマキアが見える。

 

巨大すぎて、近づくほど全体が分からなくなる。

 

皮膚。

 

髪。

 

口元。

 

耳。

 

鼻。

 

候補はいくつもある。

 

まだ入らない。

 

まず周囲へ散らす。

 

一か所から全部入れば、気づかれた時にまとめて排除される可能性がある。

 

それなら複数方向。

 

「良さそうですね」

 

この程度なら設計通り動ける。

 

◇ ◇ ◇

 

「製造百体到達」

 

報告。

 

まだ開始からそれほど経っていない。

 

「百?」

 

公安担当者が画面を見る。

 

「はい」

 

「もう三分の一か」

 

「並列で作っていますから」

 

そのうち大部分は既に戦場へ送っている。

 

工廠型の中に貯め込む必要はない。

 

「次を送ります」

 

ワープを開く。

 

完成個体が通る。

 

閉じる。

 

別の投入地点。

 

また開く。

 

同じ場所だけから出す必要もない。

 

マキアの移動に合わせて出口も前へ動かす。

 

完成数が増える。

 

投入数も追う。

 

「こういう使い方を想定して工廠型を作ったのか?」

 

公安担当者が聞く。

 

「具体的にギガントマキアへ使うとは想定していませんでした」

 

必要な個性兵を必要な時に作る。

 

そのためのものだ。

 

今回が超小型侵入型になっただけ。

 

「事前に全部の敵専用兵を作っておくより、この方が無駄が少ないので」

 

ただ。

 

製造時間の長いものなら話は変わる。

 

今回は小さいから間に合う。

 

その違いは覚えておいた方がいい。

 

◇ ◇ ◇

 

観測型から進路上の避難状況も入ってくる。

 

救助型が住民を運ぶ。

 

防衛型が経路を確保する。

 

ワープゲートで安全区域へ抜く。

 

マキア制圧を始めたからといって、そちらを止める理由はない。

 

「救助側の個性兵数は維持してください」

 

「了解」

 

公安側から返答。

 

私は二つを並行する。

 

救助。

 

制圧準備。

 

どちらか一方ではない。

 

ギガントマキアが止まるまで救助は必要。

 

止まれば、その時点で進路上の危険は減る。

 

◇ ◇ ◇

 

「製造百五十」

 

約半分。

 

投入済み個体は、マキア周囲へかなり集まっている。

 

それでも小さい。

 

ギガントマキア本人や背上の敵が明確に反応している様子はない。

 

観測型から見ても分かりにくい。

 

近距離共有でなければ見失う程度。

 

「小さくした意味はありましたね」

 

「気づかれてないのか?」

 

「今のところは」

 

絶対ではない。

 

気づかれる可能性はある。

 

そのためにも、早く作用させた方がいい。

 

三百を待つ必要はない。

 

むしろ待てば発見される時間が増える。

 

「十分な数が先行しています」

 

私は個体の配置を見る。

 

口元。

 

鼻周辺。

 

耳側。

 

各方向。

 

侵入経路は確保できそうだった。

 

「そろそろ始められます」

 

公安担当者が私を見る。

 

「三百揃ってないぞ」

 

「揃える必要はありません」

 

最終的な目安が三百。

 

開始条件ではない。

 

「先に入った個体で眠気が強くなれば、それだけマキアが遅くなります。その間に残りを作れます」

 

止め切れなくてもいい。

 

少し遅くする。

 

それだけでも。

 

今逃げている人間には意味がある。

 

追っているヒーローにも意味がある。

 

次の個性兵を完成させる私たちにも意味がある。

 

「完全停止を待ってから効果が出る方式ではありません」

 

一体ずつ。

 

少しずつ。

 

積み重ねる。

 

今回の設計は、そのためのものだった。

 

◇ ◇ ◇

 

「製造二百」

 

工廠型から報告。

 

さらにラインは動いている。

 

残り百。

 

予想通り、全体で百秒前後に収まりそうだ。

 

「投入を継続してください」

 

「承知しました」

 

新しく完成した個体がゲートを通る。

 

既に現場へいる個体へ合流。

 

数が増える。

 

ギガントマキアはまだ走っている。

 

まだ止まらない。

 

当然だ。

 

こちらはまだ、その身体の外にいる。

 

私は各個体から入る共有視界を整理する。

 

口。

 

鼻。

 

耳。

 

いずれも接近可能。

 

複数経路を使える。

 

「侵入準備」

 

返答が重なる。

 

「承知しました」

 

その間にも工廠型の数字は増える。

 

二百十。

 

二百二十。

 

二百三十。

 

作る。

 

送る。

 

作る。

 

送る。

 

三百体すべてが完成するまで、待つつもりはない。

 

ギガントマキアが少しでも遅くなるなら。

 

完成した一体から使う価値がある。

 

私は先行している超小型個性兵へ命令を送った。

 

「予定通り、複数経路から侵入を開始してください」

 

巨大な顔の周囲で。

 

小さな個性兵たちが、一斉に動き始めた。

 

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