ルピナスの花   作:良樹ススム

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第二十話 逆境で生まれる力

 

 ――――撃つ。撃つ。撃つ。リロード。撃つ……。

 気が遠くなるような狙撃を美森は繰り返す。驚くほど正確に、敵の攻撃の隙間を狙って撃ち抜く。集中して、苦痛や焦りなどの感情を少しも見せず、凛々しい顔で敵を撃ち抜くその姿は、初めてとは思えないほどだ。まるで何度も扱い、共に幾つもの戦場を潜り抜けてきたかのような貫禄すら感じる。

 

 一方、犬吠埼風は大剣を振り回す。時に巨大化をさせ、炎を豪快に凪ぎ払うのと同時に、蟹座を胴体ごと叩き飛ばす。強化されたバーテックスは攻撃力や技の多彩さこそ変わったが、耐久力自体は多少固くなった程度のようだ。

 しかし、樹が友奈を救出に向かう機会をうかがっている今、たった二人しかいない勇者部では三体のバーテックスの足止めは難しいと思われた。

 

 そう、()()()()のだ。だが、風と美森のコンビネーションは予想を遥かに越えていた。風へと攻撃を仕掛けようとする蠍座へ牽制の狙撃。そして、風が大剣を構えて振り始めるのと同時に、風の最も力の入る部分へ球を打ち出す。それをバッティングの要領で牽制された蠍座へと打ち放つ。直撃を食らった蠍座は、食らった場所にダメージを受け、そこへ美森の連続の狙撃が襲いかかる。

 

「樹、今よ!」

 

 風の指示が終わる前に動き始めていた樹。蠍座は再生に集中しており、蟹座は吹き飛ばされた後に樹が糸で根に縫い付けたので、未だに遠くにいる。唯一遠距離攻撃をすることができる射手座が樹を射抜こうとするも、それすらも美森に邪魔される。

 無事に友奈を保護した樹はすぐにその場を離れ、友奈を比較的安全な場所へと連れて行った。

 

「よし……。これで後は友奈ちゃんが目を覚ます前に、残るバーテックスを殲滅するだけね。風先輩、樹ちゃん。まずは蠍座を集中して襲撃し、封印してしまいましょう。射手座の攻撃は脅威ではありますが、振りかかる光の矢は避けることができますよね? 避けることが至難な一本の矢は私が撃ち落とします。……任せても大丈夫ですよね?」

 

「誰に言ってると思ってんの、任せなさい! その代わりそっちはお願いね。行くわよ、樹!」

 

「うん。東郷先輩、お願いしますね!」

 

「ええ、任せて。射手座の攻撃は私が絶対に阻止するわ」

 

 風と樹は蠍座の元へと跳ぶ。美森はライフル型の銃を構え直し、射手座へと狙いを定める。射手座が矢を放とうとしているところに、弾をぶつける。射手座はまさに放つ直前に狙撃をされたことで、半分の矢の制御を失敗する。

 しかし、半分程度なら風たちでも余裕を持って回避できる。先程までの矢の大群を見ていたことによって、目が慣れたのだ。

 蠍座は近づいてくる風と樹に炎を放つ。その炎を軽々とかわした風と樹は二手に別れる。

 蠍座に近づきながら、樹は考える。糸で何をできるのかを。糸とは普段使うものならば貧弱で簡単にちぎれてしまうものだろう。いくら勇者の扱う糸とはいえ、蠍座の攻撃に真っ向からいっては耐えられない。他のバーテックスでも同様だ。ならばどうするか。樹が考え付いた答えは――

 

「お姉ちゃん、今のうちに封印しよう!」

 

「ええ、ナイスよ樹。まさかあんな捕まえ方するなんてね」

 

 ――敵を捕縛することだった。

 前回よりも扱いが上達していることで、四つの発射口から出る複数の糸を操る位ならば造作もないようだ。

 しかもその捕まえ方もなかなかにえげつない。蠍座の尾を蠍座自体に突き刺さるようにして捕まえているのだ。炎を放てばよいだけなのになぜ放たないのか。理由は簡単だ。バーテックスが炎を放つ際にどこから放っているのか。それは全身にある亀裂からだ。樹の糸によってぎちぎちに絞められた蠍座はヒビを無理矢理塞がれているのだ。隙間はあるのでそこから多少の炎は出るが、そこを避けて縛られているので問題はない。

 風と樹が蠍座の封印に向かう。しかし、そこで蟹座が怪光線を放ってくる。

 

「くっ、またこのビーム! ――ってちょっと、仲間ごと!?」

 

 そう、蟹座は蠍座が巻き込まれることもいとわずに巨大な怪光線を放ってきたのだ。怪光線によってボロボロと崩れ落ちていく蠍座。

 ――怪光線が止まったとき、そこに居たのは蠍座ではなかった。いや、この言い方では語弊があるかもしれない。蠍座だったものがそこには存在していた。

 それはまるで太陽。輝かしいほどに燃え盛るその体は球体になっていた。その球体から伸びる尾は、これが蠍座であることを示していた。

 樹は蠍座が動かないうちにもう一度捕縛してしまおうと糸を放つ。しかし、その見るからに熱そうな体でいとも簡単に焼き尽くしてしまう。

 

「……再生しないってことは、アレは殻だったって事? でも、バーテックスの弱点は御霊のはず……。あんなものがあるなんて情報には……」

 

 風は思考する。しかし、それを許す事無く、蠍座は攻撃を加えてきた。長い尾を五つに分け、鞭のように振り回す。風と樹はそれをかわそうとするも、周り一帯を自由自在に動き回る尾をかわすことは難しく、ついに当たってしまう。

 

「うぐっ……」

 

「お姉ちゃん! きゃああぁぁ!!??」

 

 二人の悲鳴に美森は動揺する。しかし今射手座から目を離すと、それこそ全滅する可能性が高まってしまう。風と樹に狙いを定めたのか、蟹座までもが彼女たちの元へと向かう。

 根を焼き払いながら彼女たちに近づいていくバーテックス。流石の美森もたった一人ではたとえ一体であっても、完全に引き止めることなどは不可能だ。

 何度も攻撃を阻害され、痺れを切らしたのか美森に光の矢を放ってくる。動揺しているところを狙われ、美森は矢を防ぎきれずに攻撃を食らってしまう。美森のいる場所も無数の矢に抉られ、原型を無くしてしまっている。

 

「ぐっ……!? どうしたらいいの……!!」

 

 長い時間狙撃を続けていた疲労が今更襲ってきたのか、憔悴している美森に再び光の矢が襲ってくる。目前まで迫ってくる無数の光の矢。近距離の攻撃手段が無いに等しい美森にはもう成す術は無かった。

 こんなものにどう勝てばいいのか。一体一体が高度な知能を持ち、強力な固有能力を保有している。しかも、それを倒す方法は御霊を破壊することだけ。その御霊すらも封印の儀で表に出さなければ破壊することは出来ない。

 

(あの硬い体を容易く破壊できるような……御霊まで一撃で攻撃を通すようなことが出来れば……)

 

 美森は諦めきれずに出来もしないことを望んでしまう。

 風と樹も蠍座と蟹座の攻撃を何度も受けてしまっている。二人ともが攻撃の合間に抵抗をしているようだが、蠍座は軽くかわし、蟹座は真正面から受け止めて、すぐに再生をしてしまう。

 もうダメかと思われたその時、

 

 

 

 

 ――――美森の目の前を桜の花びらが舞った。

 

 

 

 

「ゴメンね、東郷さん。ちょっと遅れちゃった」

 

 美森の目の前に立ちふさがり、射手座の放った光の矢をその拳で全て弾く。威力も高いその矢を真正面から拳で弾くことができるものなど、勇者の中では一人しかいなかった。

 

「友奈……ちゃん……?」

 

「うん、そうだよ。今度はさっきみたいなヘマしないから、後は任せて」

 

 結城友奈は再び立ち上がった。

 友奈に自らの攻撃を防がれた射手座は、次で仕留めるつもりなのか、既に射撃の用意を開始している。しかも先の射撃よりも数が多い。

 美森を気遣い、友奈はたった一人で戦おうとする。そんな友奈を美森は放ってはおかなかった。

 

「……!! ううん、私だってさっきみたいに友奈ちゃんに全部を任せッきりになんてしない! 精霊が守ってくれたから怪我だって無いわ。大丈夫、私が援護するから。友奈ちゃんこそ後ろは任せて?」

 

 友奈は美森に花のような笑みを向ける。美森は友奈に二丁の銃を渡すと、美森は再び射手座を撃つために銃を構える。友奈も射手座を倒すために身を翻した。

 風たちは未だに苦戦を続けている。彼女たちの援護にいくためにも、射手座をなるべく早めに討たなければならない。

 

「行くよ……東郷さん」

 

「えぇ、大丈夫。どんな動きにだって合わせてみせるわ」

 

 射手座は準備を終えたようで、友奈たちに狙いを定めようとしている。美森は規則正しい呼吸を心がけながら、リロードをする。

 そして、ついに無数の矢が放たれた。それはまるで流星。光がいくつも重なった影響で、一つの塊に見えるほどだ。しかし、どれだけ固まって見えようと、実際は個別にあるだけだ。それぐらい、友奈と美森ならば乗り越えられる。

 友奈は光の矢の上部へと跳ぶ。そして、美森から受け取った銃を構えると、自分の目の前にある矢を片っ端から撃ち抜いていく。打ち漏らしは全て美森がカバーし、友奈は最後に銃を後ろに向かって撃つ。弾がなくなった銃を投げ捨てると同時に、銃を撃った反動で前に進みながら、光の矢を破壊していく。

 

「絶対に、負けない!」

 

 友奈がそう叫んだ時、彼女の手の甲にある花の紋様が輝いた。花の紋様の光が友奈の身を包んでいく。

 突然の事態に美森は驚き、銃を撃つことも忘れて暫しの間呆けていた。

 友奈の身を包む光は輝きを増し、空に満開の花を咲き誇らせた。

 

「……これ、何?」

 

 友奈も自分に起きた現象が何なのかわからず困惑していた。光から解き放たれた彼女の格好は変わっていた。全体的な色は白色で、巫女服のような形になっており、所々に小さなアーマーも装着している。

 しかし、先程までとの最も大きな違いは彼女の背中に浮かぶ二本の豪腕だろう。薄い桜色のその巨大な拳は何が立ちはだかろうとも、破壊できそうなほどだ。

 困惑していた友奈だが、自らの身から沸き上がる力に自信を持ち始める。

 

(これなら、みんなを助けられる!)

 

 友奈は再び射手座の元へと移動を開始する。変身した影響か、浮遊しながら移動できるようだ。接近してくる友奈に射手座はあがく。

 しかし、姿を変えた彼女には射手座の攻撃は簡単に迎撃される。

 気を取り戻した美森も援護を再開し、ついに射手座の攻撃は何の意味も無くした。

 

「はああああぁぁぁぁ!!!!」

 

 友奈は雄叫びをあげながら、射手座に豪腕を振りかぶる。

 最後の抵抗とばかりに体が崩れるほどに、炎を放つ射手座。崩れた体からは、蠍座のような炎の球体が覗いている。

 それを無視して友奈は拳を振り抜く。その巨大な拳が振り抜かれたあとに残っていたのは、射手座の残骸だけだった。

 彼女の拳は射手座の体ごと御霊を破壊したのだ。

 御霊は光となって天へと昇っていき、射手座の残骸は砂のようになっていた。

 

「これで一匹!」

 

 射手座を完全に倒したことを確信した友奈は、蠍座と蟹座を相手に苦戦を強いられている風と樹を助けに向かう。

 美森はいとも簡単に射手座を倒した友奈に驚きを隠せない。

 

(あの姿になる前は普通だった。でも、あんなに簡単にバーテックスを倒せるのなら、何で今まであの姿になれなかったの? 変身した時に友奈ちゃん自身も驚いていたからアレは意図的な変身じゃない事は確かのはず。……あまり気にしていてもキリがないわね。後で風先輩に聞いてみましょう)

 

 美森は思考を終わらせ、風と樹のほうの戦場へと銃を向ける。美森が目を向けた時、友奈の動きは止まっていた。それと同様に美森も目を見開く。

 

「アレは……何?」

 

 

 

 

「風先輩、樹ちゃん! 助けに来ました!」

 

「友奈さん……!?」

 

「……本当に友奈なの? 何その姿、凄い神々しいんだけど……」

 

 風と樹は姿の変わっている友奈を見て驚いていた。友奈は風と樹がまだ無事だったことに安心する。しかし、蠍座の方へ目を向けたときにその大きな目をより大きく見開いた。炎そのものとなっている蠍座は、友奈の接近に危険を感じたのか、風と樹の方へ向けていた尾の鞭の一部を友奈の方へと向け、攻撃を仕掛ける。

 友奈は警戒を強めて、巨大な拳を振りかぶる。そして、蠍座の尾へと拳を叩きつけようとした。

 しかし、それは敵わなかった。友奈の拳は確かに当たった。だが、当たった直後に炎の尾が霧散したのだ。あまりの手ごたえの無さに友奈は驚くも、すぐに気を取り直して蠍座を倒す為にそのままの勢いでもう一度パンチを繰り出す。

 

「勇者パアアァァンチ!!」

 

 友奈のパンチによって、蠍座はその体を霧散させる。蠍座のいた場所からは御霊と思わしきものが天に昇っていた。

 あまりにもあっけない終わり方に、勇者部の面々は目を見張った。

 だが、仲間をやられた蟹座が黙っているわけが無かった。初めの時のように再び怪光線を友奈に放とうとする蟹座。しかし、それを含めたバーテックスの攻撃を受けている友奈を見たことによって覚醒を果たした一人の勇者が、それをみすみす見逃すことがあるだろうか。

 

 ――――あるはずがない。

 

 

「勇者は一人じゃないのよ。己の浅はかさと共に心に刻んでおきなさい。……あなたたちにそれがあるのかは分からないけれど」

 

 美森の狙撃が胴体に直撃し、それによって蟹座は思わず怯む。美森は見逃してはいなかった。風の攻撃によって叩き飛ばされたときに、どこに攻撃を食らって少しの間動かなかったのかを。

 美森の狙撃に感謝をしながら、友奈は蟹座へと殴打を繰り出す。一撃でその身を凹ませ、二撃目で蟹座の体を貫く。

 蟹座は射手座と同じで砂のようになりながら、御霊を天に昇らせていた。

 

「これで……終わり……」

 

 友奈はそう呟くと疲れ果てたかのように元の勇者の姿へと戻り、樹海の中へと落ちていく。それを空中でキャッチした風は友奈へと労いの言葉をかけた。

 

「よくやったね、友奈。アタシはアンタが誇らしいよ」

 

「……えへへ」

 

 照れたように笑う友奈。だが、彼女はすぐに糸が切れたようにして眠りに着いた。風は眠る友奈を起こさないように、なるべく衝撃がなくなるように着地する。そこには既に樹と美森が待っていた。

 三人で眠る友奈を見つめる。彼女は安心しきったような寝顔をしていた。

 

 こうして彼女たち勇者部は三体のバーテックス相手に無事勝利を収めた。この戦いで一人の勇者が仲間に加わり、一人の勇者が新たな力で敵を圧倒した。彼女たちは必死に戦った勇者を労うようにして、微笑みながら現実へと帰っていく。

 

 ――――残るバーテックスは八体。彼女たちの心の中には希望に満ち溢れていた。




 一週間に一回は更新するんだと、半ば使命感のようなものに駆られながら書いているよしじょーです。

 ほとんどオリジナルばかりの今回はどうだったでしょうか。面白いという感想がもらえればこれからも狂喜乱舞しながら書きます。感想をもらえなくても見てくれている人はいるので、面白いといってもらえるように頑張ります。

 次のバーテックスまで一ヵ月半のクールタイムがあるから日常が書ける……でもその分夏凜の出番ががが

 読んでくれている皆様に聞きたいことがあります。人称に関してです。一章では一人称で、二章では三人称にしましたが、読者の皆様としてはこれはどうなんでしょうか。読みにくいという方がいれば、一人称にしようと思っている三章での人称の変更は控えようと思います。メッセージか活動報告の方で答えてもらえると嬉しいです。何も言われなかった場合は、人称の変更は行われる予定です。三章が終わればまた三人称に戻るのでそれが嫌だと思う方は協力をお願いします。

 気になった点や誤字脱字などがありましたら感想欄にてお伝え下さい。普通の感想や批評でも作者は興奮しながら返信します。いや、やっぱり興奮って所は聞かなかったことにしてください。
 では最後に、


 逆境に耐える、逆境で生まれる力:カモミールの花言葉
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