ルピナスの花   作:良樹ススム

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お待たせしました。冒頭では樹の一人称が入ります。
そして今回は場面転換が多いです。ご注意ください。


第三十一話 献身

 

 樹は心地いいまどろみの中で、夢を見ていた。

 

 真生と懐かしい昔話をしたからだろうか、夢の内容すらも小学生の頃のものであった――――。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 小学生の頃、知らない大人たちが家にやってきたことがあった。私はお姉ちゃんの背中に隠れているだけで、後でお姉ちゃんがお父さんとお母さんが死んじゃったって……教えてくれた。

 

 あの日からずっとお姉ちゃんは私のお姉ちゃんで、お母さんでもあって。ずっとお姉ちゃんの背中があんしんできる場所で……。お姉ちゃんがいれば私、なんだって出来るよ。

 ……でも私一人じゃ、お姉ちゃんを支えきる事なんてできなくて。

 

 お姉ちゃんは勇者部のことを、真生さんと一緒にずっと隠し通して、真生さんすら頼らずに一人で抱え込もうとしてた。

 もし、もし私がお姉ちゃんの後ろに隠れてる私じゃなくて、隣を一緒に歩いていける私だったら。真生さんのようにお姉ちゃんを支えられるのかな……。

 

 

 

 

 憧れるだけの私を、変えられるのかな……?

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「……い……き……」

 

 樹の耳に声が届く。

 

「…………つき……」

 

 半分ほど開いた瞳に映るのは見慣れた自分の部屋の天井。布団の温もりが樹の身体を包んでいた。

 

「樹、起きなさい」

 

「ん……んぅ……」

 

 樹は近づいてくる足音と聞きなれた声に、くぐもった声を返す。足音の主は、樹のクローゼットから制服を取り出し、丁寧に椅子にかけると再び樹に声をかけた。

 

「樹? 着替えて顔洗ってきなさいよ~」

 

 風はそう言うと、樹の部屋を出て自らの取り掛かるべき準備に戻っていった。

 風がいなくなった後、樹はうめき声を漏らして起き上がった。彼女の目は未だうとうとしており、意識は朦朧としているようだ。しかし、布団の魔力に負けじと立ち上がろうとしていることから彼女の意識が目覚める時が近い事が分かる。

 

 

 樹が睡魔と格闘している間に、風は朝御飯の用意をしていた。時折あくびが出ていることから、睡眠が少し浅いことが理解できた。そんな彼女のエプロンを引っ張る精霊の犬神。風はすぐに餌をねだっていることを理解すると、ドッグフードを取り出し犬神専用の皿にドッグフードを適量入れる。ゴリゴリとドッグフードをほおばる犬神を、慈愛に満ちた微笑をもらしながら撫でる風。

 彼女が朝御飯の仕上げを完了したところで、樹の部屋の扉が開いた。

 

「おはよ~お姉ちゃん」

 

「おはよう、もうスープも出来てるから先にトースト食べてて」

 

「……うん」

 

 眠そうに目を擦り、樹は風の言葉に同意を示した。

 席に着くとゆっくりとした動作でトーストにマーガリンを塗り、小さな口でトーストに噛み付いた。風はスープを机の上に置き、自分も朝御飯を食べようとした瞬間に気がついた。

 

「ちょっと動かないで」

 

「……?」

 

 髪を傷めないようにして、樹の髪についた寝癖を整えていく風。寝癖も直ったところで、風は満足そうに手を離した。

 

「よし、今日も可愛いぞ~」

 

 樹は風が自分の寝癖を直したことに気がつき、頬を赤らめてうつむく。風は愛らしい妹をみて嬉しそうに笑った。しかし、樹の顔に少しの不安を感じ取った風は、樹に質問する。

 

「元気ないね、どうした?」

 

「あのね……」

 

 相槌を打つ風に樹は前日も告げた感謝の言葉を言い放った。

 

「あのね、お姉ちゃん。ありがとう……」

 

 二度目になる感謝の言葉は前日ほどの勢いは無く、段々としぼんでいった。風は樹の様子を見て、笑い飛ばすようなことはせずに優しく訊いた。

 

「何、急に?」

 

「……何となく、言いたくなったの。……この家の事とか、勇者部のこととか、お姉ちゃんにばっかり大変なことさせて……。何回お礼言っても、足りないから……」

 

「そんな、アタシなりに理由があるからね」

 

「理由って……?」

 

 風は樹にそれを伝える事を躊躇う。なぜなら、風は両親について割り切っていても、その両親を失った原因については赦していないからだ。犬吠埼家の両親は、自然災害によって死んだことになっている。

 しかし、勇者となった風は知ってしまった。二年前に起こった自然災害が、バーテックスによって引き起こされたものだということを。

 

「まぁ簡単に言えば、世界の平和を守る為……かな。だって勇者だしね」

 

 故に彼女はごまかしてしまった。樹のため、勇者部のため、世界の為という大義名分の裏にバーテックスへの復讐という目的が少なからずあることを。

 樹はその答えに納得がいかず、なおも風に食い下がろうとするも、風自身の発言によってそれは止められた。

 

「でも……」

 

「なんだっていいよ! どんな理由でも、それを頑張れるならさ」

 

 風は言い聞かせるようにしてそういった。その対象は樹か、それとも自分自身か。それは風にしか分からないままだった。

 

 

 

 

 その後風によって強引に打ち切られた会話の内容を、樹は学校に着いてからも思い浮かべていた。

 

(どんな、理由でも……)

 

 樹は考える。ならば自分はどうなのだろうと。

 

(勇者になったのも部に入ったのも、お姉ちゃんの後ろについていっただけ)

 

 授業にも集中できず、樹のノートに丸を付けられていた理由の二文字。

 

(私、理由なんて何も無い)

 

「――今日はここまで」

 

「起立」

 

 樹は授業が終わることに気がつき慌てて席を立った。

 

「礼。神樹様に、拝」

 

 チャイムと共に静かだった教室も騒がしくなる。真面目な性格の樹が自分が授業をきちんと受けられていなかった事に自己嫌悪していると、携帯に反応があることに気がつく。

 風からの連絡だった。猫の里親の件について、当てが見つかったので依頼主の元に行って猫を引き取ってくる事だそうだ。班は二組に分かれる。友奈、美森、夏凜の三人班と、風、樹、真生の三人班だ。

 樹は、重い足取りで部室に向かった。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 風たち三人は依頼主の住所へと順調にたどり着いた。風がインターフォンを鳴らす。

 

「すいませーん。讃州中勇者部でーす。仔猫を引き取りに来ました」

 

 そういって家の中に入ろうとすると、子供の泣き声が聞こえた。

 

「やだ、ぜったいやだ! この子をあげるなんて、わたしが飼うからぁ!!」

 

「……でもね、家では飼えないのよ」

 

 子供が親に仔猫について訴えているのがわかる。三人はそれを聞いてすぐに理解した。子供が仔猫を連れて行かれることを嫌がっていることに。

 

「どうしよう。この家の子、泣いてるみたい……」

 

「それを何とかするのが俺たちの仕事だよ。風先輩も行くんでしょう?」

 

「……! もちろん、お姉ちゃんたちが何とかするわ」

 

 真生と風は、挨拶と同時に家へと上がりこんでいく。樹はその後姿(うしろすがた)を見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 

 陽も落ちかけている頃、三人は一緒になって部室へと戻っていた。 

 依頼主である親子は和解し、親の方も考え直す事を決めてくれた。それを自分の事のように喜ぶ樹。樹はこの事を風と真生のお陰だという事を確信していた。そこに自分が入っていないことも含めて、彼女は納得していたのだ。しかし、続く風の言葉によって樹は考え直させられることになる。

 

「ごめんね……。ごめん、樹」

 

「……何で、謝るの?」

 

「……樹を、勇者なんて大変な事に巻き込んじゃったから」

 

 樹は風の言葉に驚愕を示す。風はその様子にも構わず、自分の心の内を吐露した。

 

「さっきの家の子。お母さんに泣いて反対してたでしょ? それで思ったんだ。樹を勇者部に入れろって大赦に命令された時、アタシ……やめてっていえばよかった。さっきの子みたいに、泣いてでも」

 

 真生は風の独白を聞き、目を背けるほか無かった。現状、勇者部の五人程勇者適正の高い少女はあまりいない。樹一人に抜けられただけでも、残りの四人の負担が跳ね上がるのだ。たとえ泣いて(すが)ったところで、それを大赦が受け入れた可能性は、無いに等しい。

 

「そしたら……もしかしたら、樹は勇者にだってならずに普通に……」

 

 風だってそのことを理解している。しかし、自分のやらなかった事がある時点で彼女は後悔をせずにはいられないのだ。

 そんな風の言葉を樹は簡単にはねのけた。

 

「何言ってるのお姉ちゃん! ……お姉ちゃんは、間違ってないよ」

 

 風と向き合い、晴れやかな顔で樹は言った。

 その言葉が樹の口から発せられる間に一体幾度の葛藤があったのだろう。尚も後悔の言葉を重ねようとする姉に樹はこう言った。

 

「それに私、嬉しいんだ。守られるだけじゃなくて、お姉ちゃんとみんなと一緒に戦えることが」

 

 風は、見誤っていたのだ。樹の心の強さを。

 守られるだけだった樹は、風の力になれるような強さを望んでいた。そして、その力を手に入れた彼女は、風と、勇者部全員と肩を並べることができる。

 樹は既に持っていたのだ。力はなくとも、彼女たちと肩を並べられるだけの想いを。

 

「……ありがと」

 

「どういたしまして!」

 

 風は成長した樹をまぶしそうに見つめる。樹はとても元気よく風に言葉を返した。

 どうしようもないほどであった後悔は、その源であった樹によって否定された。どこか吹っ切れた様子の樹に風と真生は微笑みかけた。

 

「良い雰囲気のところ悪いが、樹は部室に戻ったら歌の練習だからな?」

 

「うっ。が、頑張ります!」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 そして時は経ち、歌のテストの当日となった。

 

「~♪」

 

 樹の前の番の子が歌い終わり、とうとう樹の番が来る。

 

「次は犬吠埼さん」

 

「は、はいっ」

 

 教科書を丸めたまま前に出た樹は、下を向いていた目線を上げて教室を見渡してしまった。

 そして否応にも理解してしまう視線、視線、視線。周りが良く見える位置だからこそ明確に感じる興味に、樹は気圧された。

 

(やっぱり……)

 

 無理だ――、そう思った瞬間に教科書から一つの紙が落ちた。

 

「す、すいませ……!」

 

 紙を覗いた樹は、目を見開いた。そこに書いてあったのは勇者部全員からの応援の言葉。それぞれの文字で、それぞれの形で書かれたその言葉は、樹の心に勇気を再び芽生えさせた。

 

 ――テストが終わったら打ち上げでケーキ食べに行こう、周りの人はみんなカボチャ、気合よ、周りの目なんて気にしない! お姉ちゃんは樹の歌が上手だって知ってるから、悔いは残さないように、樹ちゃんならできるよ!

 

 友奈から、美森から、夏凜から、風から、そして真生と明から。心の中でメッセージを復唱し、もう一度前を向く。

 そこに広がっていたのは、多くの興味の視線。しかし、樹はうろたえる事無く教科書を前に掲げた。その際に明と目が合う。

 楽しそうに目を吊り上げて、樹に微笑む明。樹はそれに微笑を返して、流れてくるメロディーに耳を澄ませた

 

(興味の視線? そんなものを怖がってちゃ駄目だ。私はみんなと一緒に居るんだから。勇者としてだって、この歌だって! 見せ付けるんだ、こんなにも成長したんだって!)

 

 思いを込めて歌い始めた樹に、教室は小さくどよめいた。 

 前回とは比べ物にならないほどに上手くなっていたということもあるだろう。だがそれだけでなく樹の美しい歌声に魅了されていたのだ。

樹の歌声は教室全体に響き渡る。

 

 緊張に囚われず歌う彼女は、飛ぶことを思い出した鳥のように強く、大きく羽ばたいていたのだった。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 勇者部の部室では、樹以外の全員が揃って樹が来るのを待っていた。真生と風以外は落ち着きがない様子を先程から見せ付けている。

 

「……そんなにそわそわするなよ、こっちまで不安になるだろ」

 

「だって~」

 

 真生が指摘すると、友奈たちも反論は出来ず眉を下げて静かに待とうとする姿勢を見せる。しかし友奈はそれでも待ちきれないのか、再びそわそわとし始めてしまう。

 不意に真生は読んでいた本を閉じて顔を上げると、扉のほうを見た。

 ――扉が開く。その音と同時に他の全員も扉の方へと視線を向け、入ってきた樹はすっきりした顔で部室のみんなのほうを見た。

 

「あ、樹ちゃん!」

 

「歌のテストは?」

 

 美森が代表して訊くと、樹はピースサインと共に報告をした。

 

「バッチリでした!」

 

「「「「おおぉぉ~~!!」」」」

 

 友奈たちは歓声を上げて樹のほうへと近づいていく。友奈、夏凜、美森の三人に感謝の言葉とハイタッチを終えると、期待するように風と真生の方に視線を向ける。風も真生もなんともいじらしい樹に微笑み、樹と風は揃って喜んだ。

 

「「やった――!!」」

 

 全員で喜びを分かちあいながら、その日の部活はお祝いムードのまま幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

 樹と風は二人きりで帰り、友奈は美森と、そして真生は夏凜と共に帰路についていた。

 

「樹、合格できてよかったわね」

 

「ああ、まぁ樹ならそれぐらいはできると信じてたさ」

 

 自慢げに言う真生に夏凜は口角を上げる。

 

「まるで自分の事みたいに喜んじゃって。真生も意外と子供っぽいのね」

 

「それを言うなら君もだろ? 人のこといえない癖して何をいってるんだか」

 

「何よ、ちょっとからかった位ですぐにムキになるんじゃないわよ」

 

「ブーメラン」

 

「何がよっ!」

 

 真生と夏凜はひとしきり談笑を楽しみながら歩いていた。そこで真生は珍しく自転車を引いて徒歩で帰っている夏凜に些かの興味を抱き、質問をした。

 

「夏凜、今日のトレーニングはいいのか?」

 

「いいのよ。今日の分は明日倍以上やるつもりだし、あんたに訊きたいこともあったからね」

 

「訊きたい事?」

 

「そ、アンタなら知ってるでしょ? 和魂システムのこと、アレについて訊いておきたいのよ」

 

 和魂システム、夏凜が一度使った精霊を利用した強力な追加プログラムだ。真生は今更それについて何か質問があるのかと疑問に思う。

 夏凜は真生に自らの感じた疑問を告げた。

 

「和魂システムは精霊の武器化の際にどうしても防御機能が手薄になるでしょ? 何でそんな分かりやすい欠陥残したのか気になったのよ。いくら精霊を武器にするっていっても、その分のエネルギーを神樹様から提供してもらえば良い話じゃないの?」

 

「……そんな簡単な話じゃないんだよ。いくら神様だといっても限界はある。勇者に送ることの出来るエネルギーだって無限なわけじゃないんだ。それに明確な欠点が分かっていればその弱点となる部分にもすばやく対処できるだろ?」

 

「……それもそうだけど、ちょっと納得いかないわね。兄貴がそんな手抜き作業するかしら……。まぁいいわ。じゃあ次ね。大赦から何か連絡は入っていない? 私と風のほうは最悪の事態に備えろとしか言われていないけど」

 

「こっちも同じだよ。大赦としても現状は言えることは無いに等しいんだ。バーテックスの出現周期の変化や、UNKNOWNの存在。考える事は山ほどあるが、早急には対抗策が見つからない案件ばかり。これじゃどうしようもないだろう」

 

 夏凜は真生の言葉に違和感を覚えた。普段の真生ならば、こんなにも簡単に諦めたような言葉を吐くだろうか。

 大事なことには真生はいつでも真剣に取り組む。今回の件で言えば、普段の彼ならばもう春信のところにでも行って対抗策などについて話していてもいいはずだ。

 一度芽生えた疑惑の芽は、そう簡単に散るものではない。だが、夏凜はそれを無理矢理に押し留めた。

 何もなければいいと願いながら、心の片隅に不安を押し込んでしまった。

 ――その日から、夏凜は真生の笑みを嘘で塗りかためられたものに思えてしょうがなくなった。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「……ゴメンね樹ちゃん。無理言っちゃって」

 

「ううん、大丈夫。お姉ちゃんにちょっと心配されたけど、私もちょっとやりたいことがあったから。それを手伝ってもらうんだから、問題ないよ! ……ちょっと恥ずかしいけど」

 

 樹と明はカラオケに二人で来ていた。樹はパソコンまで持ちこんでいる。今日、彼女は明確な目的をもってカラオケに来ていた。

 明は樹の準備を手伝いながら、話し始めた。

 

「あのね、最近先輩の様子がおかしいと思うんだ」

 

「……真生さんが?」

 

 樹は作業の手を止めて明のほうを見る。明は静かに頷いた。

 

「うん。初めは勘違いだと思ったんだけど、やっぱりおかしいの。なんか昔みたいに余裕のある態度じゃなくて、切羽詰ってるっていうか……何か別の方向を見ている、気がする」

 

「どういうこと?」

 

「今の先輩がね、何故か昔のお父さんと重なるんだ。まるで樹ちゃんたちを通して、何かを感じてるみたいな……」

 

 明は父のありし姿を思い出す。彼は、明を通して母を感じていた。明はそれに似た何かを真生に感じているのだ。

 そして、父と真生を重ねるというのならその結末も……。

 

「……突然居なくなる。普通はあり得ないだろうけど、そんな気が起きて仕方ないの。樹ちゃんに頼むのも変かもしれないけど、真生さんの事をもっと気にかけて欲しいんだ」

 

 明の懇願に等しい頼み事を聞いた樹は、真生に危険が迫るということを初めて真剣にとらえた。今までは無意識に逃げていたのかもしれない。

 樹はそれを自覚すると共に、絶対に守りたい。そう思った。

 当然恐怖も芽生えた。しかし、彼女にとって家族に等しい真生を失うことはそれ以上に恐ろしい。

 だから彼女は、固い意思をもって明に約束をした。

 

「……うん、わかった。約束するよ、真生さんのことは任せて!」

 

 樹は真生の弱った姿や、明の言ったような感じを覚えてはいなかった。当然だ、真生が意図的に樹には隠し切っているのだから。

 しかし、樹は躊躇なく約束をする。親友である明が、真生に関しての嘘をつくはずがないと分かっているから。

 

 樹は気を取り直して、歌を録り始める。祈りの歌、そう名づけられた歌は多くの感謝を込められた歌だ。それを歌いきると、樹は息をついてパソコンを操作する。

 

(まだこれは夢なんていえない。やってみたいことが出来た、ただそれだけ。けどどんな理由でもいいんだ。頑張る理由があれば、私はお姉ちゃんの後ろじゃなくて、一緒に並んで歩いていける。真生さんだってきっと……)

 

 その時、樹の腕が当たって樹のかばんが落ちてしまった。明が拾い戻すが、一枚だけ意味深に表になっているカードを訝しげに見つめる。それも一瞬の事で、すぐにそのカードもかばんにしまわれた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 風は行きつけのうどん屋がいつもよりも早く終わってしまっていることを知っていた。これも前回の樹海化のときに抑え切れなかった被害の影響だ。風はそれに責任を感じながら、次からの戦いに関して大赦に連絡しようとしていた。自分がバーテックスとの戦いで、戦闘不明になった場合は、夏凜にリーダーを任せる。その旨を大赦、そして夏凜本人にも連絡し終えると彼女は机に突っ伏した。

 後悔するのは、えらそうに樹に告げてしまった、理由の事。

 

(私の理由は、バーテックスのせいで死んだ親の仇)

 

「……凄く個人的なことだしね」

 

 悲しそうにそう呟く風。そんな彼女をあざ笑うように、携帯がけたたましくアラームを鳴らした。

 思わず携帯を置いて、風は外へと出て行く。光の柱が立つと共に、周りの景色がめまぐるしく変わっていく。

 

「始まったの、最悪の事態……!」

 

 犬神の持ってきた携帯を掴み、風は覚悟を決めた。

 

(絶対にみんなを守る。たとえ、この身をかけてでも……!)

 

 

 少女たちはそれぞれの決意を胸に、決戦へと出向く。彼女たちの心は一つ。人類の敵(バーテックス)を打ち砕き、平和をこの世界に訪れさせる事。彼女たちの気持ちはまだ重なっている。

 

 ――――その道の先に待ち受けるものは何なのか。まだ彼女たちは知らない。




 今回で原作第四話の内容は終了しました。次は勇者部の山場であるバーテックスの大侵攻ですね。
 戦闘シーン中心になるうえ用事もあるので少し更新が遅くなるかもしれません。

 次話に関してはここまでにして、活動報告にも衝動的に書いてしまったゆゆゆ続編決定について。

 続くとわかって一安心です。きっとこの作品が終わる方が早いのでオリジナル展開が目立つとは思いますが、頑張りたいと思います。

 ところで、基本ハッピーエンドを目指してはいるのですが……バッドエンドって需要あるんですかね? 友奈たちが死んでしまう訳ではないですが、書くとすれば確実にバッドエンドという名称が正しいと思うので。

 それでは気になった点や誤字脱字がある場合はメッセージか感想欄にてお願いします。拙作を読んだ感想や批評も喜んでお受けするのでお待ちしています。
 では最後に、


 献身:アセビの花言葉



 PS.そろそろ花言葉がピンチ。
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