ルピナスの花   作:良樹ススム

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大変お待たせいたしました!
今回の話は過去最長の一万字に達したのでゆっくり読んでいただければと思います。


第三十二話 固い絆

 

 色鮮やかに変化した世界で、敵はゆっくりと迫ってくる。自分たちが戦う存在が近づいてくるのを肌で感じ、少女たちは身体をこわばらせていた。

 迫ってくるバーテックスは七体。つまり、勇者部が遭遇した事のあるバーテックスを除いた全てのバーテックスが集結していた。

 バーテックスたちは壁を前に動きを止めている。嵐の前の静けさとはこのようなことを言うのだろう。

 

「……総攻撃。最悪の襲撃パターンね。……樹もサプリキメとく?」

 

「その表現の仕方はちょっと……」

 

 少し引いた様子で夏凜からの誘いを断る樹。まだ無駄話をしている余裕はある。

 ――いや、むしろそうでもしないと耐えられないのかもしれない。彼女たちは覚えている。今まで戦ったバーテックスたちの恐ろしさを。今回も例に違わずUNKNOWNがバーテックスたちの進化を施してくるだろう。 

 友奈たち勇者部は前回の戦いで、相当な失態を犯した。今までの強化と変わらないものだと思い込み、いざというときは“満開”を使えばいいと慢心をして、敵の樹海への大ダメージを許してしまったのだ。

 最早あんなミスは許されない。それに、強化されたのは何もバーテックスだけではない。友奈たち勇者も、大赦によって大幅なシステムのアップグレードを施されている。細かい変化は幾らでもあるが、最も大きな変化は和魂システムだ。アレを使いこなすことが出来れば相当な破壊力を期待できる。

 

「あれ、何ですぐ攻めてこないんだろう」

 

「さぁ、どのみち神樹様の加護が届かない壁の外に出てはいけないって教えがある以上、私たちからは攻め込めないけどね」

 

 夏凜が友奈の疑問に答えた直後、風が勇者に変身した姿で四人の元にやって来た。

 

「敵さん壁ギリギリの位置から攻め込んでくるみたい。決戦ね、みんなもそろそろ準備を」

 

 風が真剣な顔でそう告げ、樹がこわばった表情を浮かべた。覚悟は出来ているとはいえ、散々痛い目に合わされてきたバーテックスが今までに無い数で襲い掛かってくるのだ。少なからず緊張で身体が力みすぎてしまっても仕方のないことだろう。

 だが、それに気がついた気遣いの鬼がそれを放っておくわけがなかった。

 樹は身体にむず痒いものを感じ笑い始める。その原因に気がついた樹は原因に問いかけた。

 

「――何ですか、友奈さん!?」

 

 友奈が樹にくすぐりを仕掛け、思い切り笑わせたのだ。友奈は樹を安心させるような笑みを浮かべて、問いかけに答えた。

 

「緊張しなくても大丈夫! みんないるんだから」

 

「っ! はい!」

 

 樹の緊張が程よく解かれたことにほっとしたような表情を浮かべる風。そして彼女は、決戦に備え仲間たちに指示を出した。

 

「よし、勇者部一同変身!」

 

 その言葉と共に、全員が端末を操作して勇者の服装へと変わる。

 変身した勇者たちはとうとう壁を越えて迫ってくるバーテックスを見据える。

 

「敵ながら圧巻ですね……」

 

「逆にいうとさ、こいつら殲滅すればもう戦いは終わったようなもんでしょ?」

 

 夏凜の言葉を聞いた勇者部の面々はそれぞれ気合を引き締めなおした。すると、風がある提案をしてくる。

 

「みんなここはあれいっときましょ?」

 

「あれ? ……どれ?」

 

 一人戸惑う夏凜を尻目に、夏凜を除いた全員が輪になった。そして彼女たちは円陣を組む。しっかりと夏凜の入る隙間も用意されていた。

 

「円陣!? それ必要?」

 

「決戦には気合が必要なんでしょ?」

 

「はぁ?」

 

「夏凜ちゃん!」

 

「……ったく、しょうがないわね」

 

 友奈に名前を呼ばれると、夏凜は笑みを浮かべて仕方なさそうな素振りを見せながら近づいてきた。そして全員で円陣を組み終えると、風が代表して声を出す。

 

「あんたたち、勝ったら好きなもの奢ってあげるから絶対死ぬんじゃないわよ」

 

「よ~し、おいしいものいっぱい食べよっと。肉ぶっ掛けうどんとか!」

 

「言われなくても殲滅してやるわ!」

 

「私も……叶えたい夢があるから!」

 

「頑張ってみんなを、国を、護りましょう!」

 

 精一杯の気合とともに威勢よく啖呵を切る友奈たちに、風は後輩たちの成長を感じ、喜びを得る。そして風自身も強い笑みを浮かべて、大きく声を上げた。

 

「よーし! 勇者部ファイト――!」

 

「「「「おぉ――――!!」」」」

 

 義輝が笛を鳴らし、夏凜が我先にと飛び出した。

 

「よし、殲滅っ!」

 

「私たちも!」

 

 美森を除いた全員が飛び出し、美森も狙撃を行うために地に伏せる。そしてバーテックスたちの現在位置を確認する。そこには七体のバーテックスと共にUNKNOWNも表示されていた。

 自らの目でバーテックスを見つめなおす。彼女は七体全てのバーテックスの姿を見つけ、その中の一体の異様さに気がつく。

 

「あの巨大な奴……。別格の威圧感ね……」

 

 美森は自らの直感に従い、巨大なバーテックスへの警戒を強める。彼女は地に伏せたままもう一度端末を覗く。そこで彼女はバーテックスたちの特異な行動に気がつき、眉をひそめた。

 

「……何故、動かないの?」

 

 バーテックスたちは壁を越えても尚、ほぼ侵攻を進めていなかった。石のように一箇所に固まったまま動く様子がない。

 訝しむ美森に端末は何の反応も見せずに、ただ動かないバーテックスの情報のみを送り続けてくる。ふと端末から目を逸らして、バーテックスの方向に目を向けなおす美森。

 しかし、目をそちらに向けた途端に彼女の元に熱風が吹き荒れる。

 

 

 

 

 ――――その時端末に、一瞬のノイズが走った。

 

 

 

 

「何なの……アレは……」

 

 バーテックスに近づいていた風は思わずそう呟いた。彼女だけでなく、勇者全員がその異形を見て自らの目を疑っていた。

 遠目から見ても感じる、圧倒的な威圧感。頬を撫でる風は熱く、彼女たちの皮膚をジリジリと焦がす。

 

 

 

 

 

 彼女たちの瞳に映る、――――その異形は今までにないほどに全身に炎を滾らせていた。まるで太陽のように――。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 “共感覚(シナスタジア)”というものをご存知だろうか。共感覚とは、ある刺激に対して通常の感覚だけでなく、一般とは異なる種類の感覚を生じさせる一部の人に見られる特殊な知覚現象のことである。

 この共感覚の中に、ミラータッチ共感覚と呼ばれるものがある。このミラータッチ共感覚は、第三者が対象者に触れているのを見て自分が対象者に触れているのと同じ触覚が生じたり、第三者が対象者に触れられているのを見て自分が対象者に触れられているのと同じ触覚が生じたりする共感覚のことだ。

 

 もしも、バーテックス全てがこのミラータッチ共感覚のように触覚を共有していたなら。触覚だけでなく、意識までも共有することが可能であったならどうなるだろうか。

 バーテックスは全て知能を持っている。それは今に始まったことでなく、彼らが生まれた頃から持っているものだ。

 それが何を示すか。人類の敵であるバーテックスは幾度も人を滅ぼす為に攻撃を仕掛け、その度に撃退をされている。幾多の経験と記憶を受け継ぐ彼らは当然、今代の勇者たちとの戦いも経験している。

 それは倒された乙女座、射手座、蠍座、蟹座、山羊座の全てを含む。

 

 勇者たちはバーテックスを死力を尽くして(ほうむ)ってきた。それは満開であり、精霊であり、新たな力である和魂システムすら含む。これらの情報を得たバーテックスは彼女たちを滅ぼす為、何を行うべきか考える。

 勇者たちの手によって一度崩壊を迎えた五体のバーテックスはまだ完全に復元を出来ていない。残る七体のバーテックスはそれぞれ獅子座、牡牛座、魚座、双子座、水瓶座、牡羊座、天秤座である。

 

 バーテックスたちはそれぞれ一つの特殊な能力を持っている。乙女座なら主に爆撃、射手座なら遠距離射撃、蟹座なら反射を行うことの出来る板状の物質。その他のバーテックスも個体ごとに固有の能力を持っている。

 

 

 ここで話を戻そう。バーテックスたちは人を滅ぼすために考える知能がある。それを生かすために感覚すらも共有し、情報を取得し戦術を練る。

 満開という強大な力を認識しているバーテックスは、それを出す暇もなく葬り去ることを考えた。人を滅ぼすのなら神樹を殺すのが一番楽だ。邪魔をしてくる勇者諸共それを狙うのは当然の帰結だろう。

 勇者を守る存在である精霊が守れる範囲は顕現させている勇者のみということは既に獅子座は看破している。ならば精霊を気にする必要はなく神樹さえ破壊できればいいわけだ。そこで必要となるのは勇者でも止められない一撃を放つこと。個々の一撃の場合どれだけ渾身の力を振り絞ったところで満開によって止められてしまうだろう。しかし、個々で無かったとしたら?

 

 勇者部一の慧眼の持ち主である東郷美森にすら、別格と称されたバーテックス。その名は獅子座を冠するレオ・バーテックスだ。

 獅子座は別格とまで言われながらも、最も勇者を仕留めやすい時期である初陣に参加しなかった。

 ――その理由は不足している情報を得るためであり、獅子座のもつバーテックスの能力にあった。もともと獅子座はバーテックス最強の座を不動のものとしていたが、他の一部のバーテックスの持つような奇抜な能力を有してはいなかった。獅子座は大小様々な大きさの火球を操る能力を有している。それ単体でも他のバーテックスを軽く凌ぐ破壊力を持っている。

 しかし過去の戦いからそれだけでは足りない事を理解していた獅子座は、他のバーテックスから送られてくる情報を元に膨大な時間を消費して新たな能力を手にした。それこそが――

 

 

 

 

「バーテックスが合体した……!!」

 

 

 

 

 ――バーテックス同士の合体である。これによる利点は数の利を捨てて尚余りある。一つは全てのバーテックスの持つ能力の統合。もう一つはUNKNOWNの能力による恩恵の増加。そして最後にもう一つ。

 

「あんなの撃たれたら……樹海が……!!」

 

 暴力的なまでの攻撃の威力の強化。

 最早彼らは一個体である星座ではない。獅子座のレオ・バーテックスを中心とした星座の集団。星団と呼ばれるこの存在はレオ・スタークラスターというバーテックスの集合体へと進化したのだ。

 星団は自らの身体の中心から巨大な火の玉を生み出していた。友奈たちは息を呑む。その巨大な火の玉は今まで見た何よりも強いものだと確信したからだ。そしてそれは放たれたが最後、樹海そのものを飲み込みながら神樹を焼き尽くすことすら幻視した。だが、

 

 ――――勝手な真似をするな。

 

 突如星団は動きを止めて火の玉の規模を圧縮したことによって、全てを呑み込むかと思われたその火の玉が実際に放たれることは無くなった。それは樹海にギリギリ被害の届かない範囲に絞られており、友奈たちはそれを見た瞬間我に返り、その一撃を阻止する為に動き始める。

 放たれた火の玉は規模こそ縮小したもののバーテックスの放ってきた怪光線とは比べ物にならない程の破壊力を秘めている事は一目見て分かった。それを理解した勇者たちは、迷う事無く美しく大きな儚い花を咲かせた。

 

「「「「「――満開!!」」」」」

 

 友奈たちは満開したことによって増大した力を頼りに火の玉へと突進する。友奈が二つの豪腕を持っているように、美森は戦艦のごとき威圧感を放つ幾つもの砲台を携え、夏凜は友奈の携える豪腕より幾らかは華奢な四本の腕に刀を持っていた

 風と樹は一見衣装こそ他の勇者と同じ風貌になっているが、大きな違いは存在していなかった。しかし内包する力は凄まじく、全くもって他の勇者と遜色ないものだった。

 彼女たちが突撃したことによって火の玉の勢いは多少衰える。しかし、この火の玉は勇者たちの抵抗も考慮した上でのまさしくバーテックスの最強の一撃。それを止めきるにはまだ一手足りなかった。

 

「ぐっ……! 止まらない……!!」

 

「諦めんじゃないわよ! まだまだやりたい事があるんなら!!」

 

「でも、このままじゃ……」

 

 美森の発言に風が喝を入れる。しかし、その後の夏凜の言葉通りこのままでは自分たちもろとも神樹へぶつかってしまう。

 そんな事になってしまっては自分たちの全滅は必至。それどころか神樹が生きていられるかも分からない。

 友奈たちは自分たちに残された短い猶予を利用して必死に考える。どうすればこの火球を消すことが出来るのか。神樹を守る為には何をすればいいのか。

 そんな時、友奈はふと思いついたことを試そうと風に声をかけた。

 

「あっ、風先輩! やりたい事があるんですがいいですか!!」

 

「何!? この状況を何とか出来るなら何でもいいわ! やっちゃいなさい友奈!!」

 

 風の返答を聞き、友奈は傍らに白娘子を顕現させて二つの豪腕を振りかぶる。すると豪腕の甲と手首に何かの噴射口が現れた。そしてそのままの勢いで友奈は新たな技の名前を叫ぶ。

 

 

「超!! 勇者パアァァ――ンチ!!!!」

 

 

 その言葉と共に噴射口から桜色の輝きが勢いよく噴き出し始める。豪腕が強く唸りをあげると同時に友奈は渾身の力でそれを火球へと叩きつけた。

 二つの豪腕が叩きつけられても尚止まらぬ火球。

 

「押し、込めええぇぇェェェェェ!!!!」

 

 諦めず身体全体を前のめりにしながら友奈は叫ぶ。しかし気合とは裏腹に拳は徐々に押し返されていく。

 動かない状態から攻撃を仕掛けることのできる美森も砲撃をぶつけてはいるが大きな効果を見せることは出来ないでいた。

 それでも勇者たちは諦めない。夏凜は使命のために、樹は夢のために、風は復讐のために、美森は護るために。そして友奈は救うために。

 純粋な少女たちの思いは、人類への混じりけの無い殺意の塊であるバーテックスには届くのだろうか。

 彼女たちに言わせれば、その答えは決まっているだろう。届くかではない、届かせるのだと――――!

 

「ハアアァア!!」

 

 叫びと共に友奈の携える豪腕が火球を押し返し、打ち砕いた。火球は行き場を無くしその場で爆発し周囲に煙が舞う。押し返されかけていた友奈の豪腕が火球を打ち砕いたのは奇跡ではなく、(しっか)りとした理由があった。

 

 白娘子は現存する精霊の中でかなりの力を誇る精霊だ。幸福を授ける他に、友奈の放った超勇者パンチのように本来持つ力以上の力を引き出す能力を持っている。しかしそれすら白娘子の持つ能力の一端に過ぎない。白娘子の持つ能力は周囲からその分の力を取りだしそれを付与することだ。神樹への幸福の付与は樹海化する前から少しずつ貯めていた幸福を解放したものであり、なにもない場所から突然幸福を授けたわけではない。超勇者パンチは友奈の持つスタミナを削ぎとり、それを利用して火事場の馬鹿力と類似するものを引き出しているに過ぎない。

 しかしそれだけでは火球を打ち破るには足りなかった。では、打ち破るに至って必要なエネルギーは何処から引っ張り出してきたのか。答えは単純だ。力の源である神樹から引っ張り出してくればいい。樹海は神樹が自らの力を使って世界を覆ったものだ。樹海は神樹が本来の姿を見せることのできる唯一といっても過言ではない場所だ。ならば力を引き出すのも容易であると言えよう。

 しかし、自分の限界以上の力を出したことによって友奈はスタミナが切れ、満開も解けてしまう。

 

「東郷は友奈を守って! 樹と夏凜は警戒を続けて!」

 

 勇者たちは火球を打ち破っても尚油断しない。そして、周囲を漂う煙が晴れた瞬間に星団は攻撃を仕掛けてきた。同じ手を利用しても変わらぬと思ったのか新たな火球を召喚するのではなく、水瓶座の能力である水球を飛ばしてきた。しかし水球は美森の連続砲撃によって蒸発した。蒸発したことによって生じた気体を風が大剣によって吹き飛ばすも既に星団は姿を消していた。

 

「いったい何処に……?」

 

「……!! 下です!」

 

 端末を確認した樹によってすぐに星団の居場所は発覚した。それとほぼ同時に魚座の能力によって地面に潜伏していた星団が勇者たちの間近に現れる。燃え盛る星団が突如近くに出現したことによって勇者たちは一瞬怯んでしまう。その隙を逃さず星団は牡牛座の能力である音波攻撃を発生させた。響き渡る音波攻撃に勇者たちは思わず耳を塞いでしまう。そのまま追撃を開始しようとする星団だったが、それを阻止するための突破口を開いたのは樹だった。

 

「音は、皆を幸せにするもの……! こんな音は、こんな音はぁぁあ!!」

 

 音を侮辱(ぶじょく)するような星団の攻撃に激昂した樹によって星団の持つ牡牛座の鐘が破壊される。樹のワイヤーでは灼熱を纏う星団を破壊することは無理だったはずだ。しかし、彼女の持つワイヤーは神樹のエネルギーによって作られたため物質ではない。その性質を利用して星団と同じようにワイヤーを束ね、エネルギーの密度を増加させて灼熱に耐えられるようにしたのだ。

 樹が鐘を破壊したことによって解放された美森は、星団が追撃のために発動させた多数の小さな火球を次々と破壊していく。

 

「すぐに封印の儀をするわよ! 相手に猶予を与えないように!」

 

 風がそう命令すると全員が同時に散開し、星団を取り囲む。星団は再生させた鐘を使い勇者たちの動きを止めようとするも、それすらさせぬまま勇者たちは封印を成功させた。

 

「よし、せい……こ……う?」

 

「え、えええぇぇ――――!?」

 

 封印に成功した彼女たちが見たものは肉眼では見通せないほどの御霊。それは比べるまでもないほどに今までで最大の大きさであった。その大きさは果てしなく宇宙にまで到達している。

 

「こんなのどうすれば……」

 

 自分の常識を疑う光景を見せられ狼狽える夏凜。風と樹すらそれぞれ動揺するかのような反応を見せている。しかし友奈と美森だけが目の前の御霊を破壊するために思考を重ねていた。

 

「……東郷さん、どう?」

 

「大丈夫よ友奈ちゃん。今の私なら彼処(あそこ)まで飛んでいける。でも大丈夫? 連続での満開は体力の消耗が激しいって真生くんも……」

 

「大丈夫! こんなときのための和魂システムだよ。確か浮くための機能が備わってるって話だし、なせば大抵なんとかなるだよ!」

 

 不安そうに見つめる美森を安心させるように明るく振る舞う友奈。美森は友奈がよく無茶をすることを知っているし、いつだってそれを支えてきたのは自分であり、真生であると自負している。しかしここに真生はいない。ならばここで彼女を支えるのは自らしかいないのだ。

 

(――友奈ちゃんなら、大丈夫)

 

 根拠はない。しかし友奈はいつだって帰ってきた。ならば今回も信頼して無傷で送り出す、それが自分の役目だと美森は決断する。

 それに影響されたのか、風たちもまた不安や焦燥の表情を消し自分達にできることをやることを決意する。

 

「封印はアタシたちに任せて、二人は御霊を!」

 

「早く殲滅してきなさいよ」

 

「分かりました! 東郷さん、お願い!」

 

「えぇ、では行ってきます」

 

「はい、お願いします!」

 

 それぞれの激励を胸に、友奈たちは宇宙(そら)へ飛び立つ 。残った勇者たちも全身全霊を込めて封印に集中する。しかし、満開している三人の拘束力ですら、無情にも九十秒という短い時間しか星団を拘束出来なかった。

 

「侵食が早い……!!」

 

「拘束力が……」

 

「……無くなる前に頼むわよ、二人とも!」

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 暗い宇宙の中でも、神樹の加護の為か呼吸はできる。そして周囲が真っ暗であっても分かるほどの巨大な御霊へと二人は近付く。御霊は炎の一つも纏わずに荘厳に其処(そこ)に存在している。

 御霊は近付いてくる二人へ迎撃を始める。無数の隕石を放ってくる御霊に対し、美森は身を乗り出そうとする友奈を制止する。

 

「迎撃するわ。友奈ちゃんは見てて」

 

 ――一つたりとも下に落とさせない……!

 

 御霊の破壊に友奈が全力を出せるように、この場に最も適している美森が迎撃に移る。隕石が落ちた場合樹海が受ける被害は想定できる範囲だけでも甚大であり、それによって起きる負荷はほぼ全てを下で封印をしている勇者たちが引き受けることになる。

 かなり分が悪いが、不可能ではない。自らの持つ直感と()()によって御霊に猛スピードで接近しながらも全ての隕石を撃ち砕いていく。

 

 そして遂に御霊の懐にまで接近したところで、友奈は美森に微笑みかけお礼と共に必ずやり遂げるという決意のもとに口を開いた。

 

「ありがとう東郷さん。……見ててね、やっつけてくる」

 

 美森は友奈と見つめあい、暫しの間の次に言葉と共に友奈を送り出す。

 

「――いつも見てる」

 

 友奈は美森のもとを跳び立ち、和魂システムの正式起動の言葉を紡ぐ。

 

「荒ぶる御身(おんみ)よ、鎮まりたまえ。我は御身を清める者(なり)!」

 

 短い詠唱を終えると友奈の傍らに二体の精霊が顕現する。姿かたちを変えていき、やがて牛鬼は剛腕となり、白娘子は友奈を包む桜色の光となる。

 急接近する友奈を撃ち落とそうと御霊は幾つもの隕石を友奈へと飛ばす。しかしその(ことごと)くを美森によって撃ち砕かれる。

 美森は友奈の障害となる隕石を撃ち砕くと共に御霊へとほぼ全ての力を込めた一撃を放つ。

 その一撃によってできた小さなクレーターに友奈は拳を振りかぶり、思いきりよく打ち付けた。

 

「そこだああぁぁ――――!!」

 

 クレーターの中央、友奈の拳が打ち付けられた場所に大きな亀裂が走る。御霊は亀裂を急速に再生させていくが、それを上回る速度で友奈が幾度も拳を叩きつけていく。

 

「硬い、けど!」

 

 みるみるうちに大きくなっていく亀裂。友奈の連打に耐えきれず、御霊の穴が拡がっていく。止めとばかりに友奈は叫ぶ。自らの部の最高の言葉を。

 

「勇者部五箇条、ひとーつ! なせば大抵、何とかなあぁ――――る!!!!」

 

 その言葉を最後に、御霊の亀裂が全体に拡がっていきその全身が崩壊していく。

 天に還っていくような御霊を見て友奈は安心して緊張の糸が切れたのか、体の力が抜けてゆっくりと落ちていく。

 

「……やった」

 

 美森は最後の力を振り絞り朝顔の花の形をしたバリアを作り上げる。花が開いた状態で友奈を受け止めると、美森は優しく友奈をねぎらった。

 

「友奈ちゃん、お疲れ様」

 

「えへへ、東郷さんもありがとう」

 

 友奈は儚げな笑顔で美森にお礼を言う。美森は友奈の様子に顔を伏せて、申し訳ない気持ちで一杯になりながら現状への謝罪を述べた。

 

「ごめん……最後の力でこれだけ残したけど、持つかどうか分からない……」

 

「……大丈夫、神樹様が守ってくださるよ……」

 

「……そうね」

 

 美森は友奈に微笑み、花を蕾状に変える。そして仲間の待つ場所へ帰るために落ちていく。宇宙に昇るときには感じなかった衝撃がバリアを襲う。

 

(きっと帰れる。友奈ちゃんと一緒にみんなの、真生くんの所に帰るんだから……!)

 

(神樹様、二人とも無事に帰らせてください……。お願いします……!)

 

 大気圏を越えて、二人を守るバリアは脅威の無くなった樹海へと落ちていく。二人の反応に気がついていた勇者たちは、二人を救うために行動を開始する。

 唯一樹海に大きな被害を見せる事無く彼女たちを救える可能性のある樹のワイヤーによって減速していく蕾状のバリア。

 

「絶対……助けて見せます!!」

 

 樹の思いに応えたのか、ワイヤーは無事バリアをゆっくりと地面に下ろす。集中力を使い果たしたのか、樹は夏凜の喜びに満ちた言葉にも強い反応を見せることは出来なくなっていた。

 

「行ってあげて、ください……」

 

「あぁ……!」

 

 樹の疲れ果てた様子に夏凜は樹をそっと支えて座らせる。夏凜は一刻も早く二人の無事を確認する為にバリアのあった場所まで走っていく。

 夏凜が走り去った後、樹はかすれた声で呟いた。

 

「サプリ……キメとけば、よかったかな……」

 

 そう呟いて樹はついに満開も解けて倒れてしまった。少し遅れてやってきた風は樹を優しく抱きしめて彼女を褒め称えた。

 

「……よくやったね、樹。よく頑張った」

 

 風の賛辞に樹は薄く微笑んだ。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「友奈、東郷!!」

 

 夏凜が二人の名前を大きな声で呼ぶ。バリアから開放された友奈と美森は、バリアのあった場所で二人揃って倒れていた。夏凜はピクリとも動かない二人の様子を見て、最悪の想像をしてしまう。

 

「友奈、東郷! おい、しっかりしろよぉ!!」

 

 夏凜が近くで大きな声を出しても反応しない二人に、夏凜はついに涙ぐんでしまう。

 

 その時、小さな咳が静かな樹海に響いた。

 

「え、へへ。だい、じょうぶ……」

 

 友奈が目を覚まし、夏凜に応答する。彼女たちの傍らには当然の如く精霊が顕現しており、彼らの助力があっての無傷での帰還ということは見たら分かる。それにすら気付かぬほど、夏凜は焦っていた。

 友奈に引き続き、美森も荒い息遣いをし始める。

 

「よかった、全員無事みたいね……」

 

 比較的怪我の少ない風は樹を横抱きにしながら、三人の下へと現れる。夏凜は風が現れたため涙をすぐに拭い去り、返事が遅かったことに対して文句を告げた。

 

「ま、全く。早く返事しろよ、もう!」

 

 怒りを露にする夏凜。しかしその怒りは張りぼてだということは最早バレバレだった。

 和やかな雰囲気がこのまま訪れる、しかしそんな思いは夏凜の次の一言によって破られた。

 夏凜は鋭い目付きで周りを見渡す。満開すら解かぬまま夏凜は自らのリーダーたる風へと問いかける。

 

「風、私が何言いたいか分かる?」

 

「……うん。まだ終わってない、でしょ?」

 

「正解。樹海化が解ける様子も無いし、いるわよ。アイツ」

 

 満身創痍の三人を守るように風と夏凜は武器を構える。

 

 

 

 

 ――――そして、とうとう魔王が動き出す。




 感想欄で七月の初め辺りには更新できると思いますと言ったのはなんだったのか。またもや遅くなってしまい申し訳ありませんorz

 次回は、次回こそは……!(フラグ)

 それと次で蒼い男の正体が分かるといったのは全バーテックス襲撃の話全て含めての話のつもりでしたので、今回では明らかになりませんでした。それどころか名前しか出ませんでした。期待した方には謝罪を述べさせてもらいます。申し訳ありませんでした!

 東郷さんは原作よりもメンタルのレベルが上がっております。原作なら友奈と一緒なら怖くないというようなどこか怖い台詞を言っている彼女ですが、この作品の彼女は友奈一人に依存してないのでそんな簡単に死のうとは思いません。母(仮)は強しです。

 共感覚についての記述はウィキペディア様を参考にさせていただいてます。ちょっと例にするには分かりづらかったかなと使ってから後悔。バーテックスについては考察サイトなどの情報から自分が納得したものや自分の妄想から設定を作っています。

 主人公の真生が空気? もういつもの事です。三章では出番がたくさんあるはずなので大丈夫でしょう(楽観)

 前回のあとがきの最後に書いたように花言葉がなかなか決まらない事が多くなってきたので、三章からは自分が大切に思った回やこれは絶対これだなみたいにすぐに決まったものだけ花言葉をつけることにしようと思います。

 本編同様にあとがきも長くなりましたが、こんなところでしょうか。ブックマークしてくださった方はありがとうございます。333というぞろ目を越えられたのは嬉しいです。

 それでは気になった点や誤字脱字、もしくは明らかな矛盾点がある場合は感想欄かメッセージにてお願いします。もちろん拙作を読んだ感想や批評もじゃんじゃん送ってきてください。作者は感想一つでとても喜びます。
 では最後に、


 固い絆:ヤツデの花言葉
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