夏休みに入った。
親も小町も雪ノ下の事は知っているので、雪ノ下は基本的に朝から晩まで俺の家で過ごしている。
帰る時間を逃してしまった時は泊まったりもしているが、俺と雪ノ下は健全なお付き合いをしているので寝床を共にするような事はまだしていない。
雪ノ下は乙女な部分があるので、そういう事をやるとしたらクリスマスだと思う。
そんなこんなで夏休みをダラダラとエンジョイしていると、平塚先生から長文メールが来た。
『比企谷八幡君。夏休みを満喫している所に急に連絡をしてしまって申し訳ない。実は君に折り入って頼みがあります。実は夏休み明けに私の教師としての査定があるのですが、どう計算しても点数が足りないません。点数を上げる方法としては幾つかありますが、どれも時間が足りない。しかし、一つだけ、夏休みの部活顧問実績での上乗せがあります。これがあれば査定を乗り切れます。どうか、私を助けると思って、夏休みに部活動をしてくれませんか?部活内容は小学生の林間学校の付添です。内容は添付した資料をご確認ください。不明点あればすべて答えます。旅費等は全て出します。夏休みの思い出にもどうでしょうか?急なお願いで申し訳ありませんが、今週中に可否の連絡をいただきたいです。どうか、どうか、宜しくお願いします。』
相当切羽詰まってるな。教師向いてないだろあの人。
雪ノ下に確認してみると問題ないとの事。
よし、助けてやるか。
メンバーは正部員の俺と雪ノ下。
サポートとして以下のメンバーを加える。
キャンプ気分の妹小町。
平塚先生に恩がある川崎(姉)だ。
平塚先生の荒い運転の車に揺られる事数時間。
林間学校をやる千葉村に着いた。
平塚先生に彼氏ができない理由の一つは運転だろう。
小町は我慢できずに吐いていた。
総武高校からはボランティアとして葉山グループも来ていた。ふむ。陽キャグループがいれば俺たちの仕事は無さそうだから、ゆっくりオリエンテーションを楽しむとしますか。
とはいえ小学生向けのアクティビティ。高校生には物足りないと思っていたが、雪ノ下は途中離脱した。なんか段々と体力落ちてないか?前はもうちょい体力あっただろ。
雪ノ下の看護は小町に任せ、最後の奉仕部員として平塚先生の為に仕事をこなしていく。通路誘導、声掛け、etc。
川崎も良く頑張ってくれている。
「目が死んでる」
ふと、後ろから声を掛けられた。目が死んでるのは俺しか居ないし、俺の事か。
子供が居た。見た目は美少女と言えるだろう。何処となく雪ノ下に似ている。雪ノ下に妹だと紹介されれば信じてしまうほどだ。ツンとした態度も雪ノ下そっくり。だけど、俺と同じで目が死んでる。そこだけ、雪ノ下と違う。
「なんでこんな雑用やってるの?」
「大人にはやりたくなくても、やらなきゃいけないこともあるんだよ。ワガママ言えるのは今だけなんだから、子供ならもっと楽しめ。」
「じゃぁ私も大人だ。林間学校なんてきたくなかったけど行かされてるもん。」
周りにはこの子以外に子供がいない。はぐれた……訳ではなさそうだ。1人でいる理由は分からないが、このまま集団に戻しても辛い思いをするだけだろう。俺は川崎に事情を伝えて、この子の相手をする事にした。
「俺の名前は比企谷八幡。君の名前は?」
「鶴見留美。八幡は仕事しなくていいの?」
「留美ちゃんね。子供の相手しろって言われてるから、これが仕事みたいなもんだ。」
「ちゃん付け辞めて。留美でいいよ。じゃぁ私が居てよかったね、サボれるじゃん」
「悪意のある言い方は辞めろ。サボってる訳じゃない。」
留美は賢い子供だった。1時間ほど話すと、そろそろオリエンテーションの時間が終わりカレー作りの時間になる。
「そろそろカレー作りか。どうする?」
「戻る。作業あれば暇にならないし。それに、作業してなかったらそれを理由にされるし。」
ほんとに賢い子だ。それだけに少し心配だ。
「そうか。あそこに車見えるだろ?俺はそこに居るから、なんかあったら来るといい。」
「ん。ありがと。八幡は明日もいるの?」
「詳しくは知らんが、林間学校がある内は居ると思うぞ。」
「わかった。じゃあまた明日。」
トコトコと道を降りて行き、カレー作りの場所に留美は向かった。良い思い出作れとは言わんが、悪い思い出が作られなければそれで十分だ。
川崎も頼んでた仕事が終わったようなので、俺たちは平塚先生の車のもとに行く。これから平塚先生の金で買ったお高い肉でBBQなのだ。
葉山グループは小学生と一緒に作ったカレーを食べるらしい。千葉村まで来て素人が作った安物のカレーを食べるなんて正気の沙汰ではない。
雪ノ下も復活していたので、奉仕部グループはカレー班と離れて美味いBBQに舌鼓を打っていた。平塚先生は軽くなった財布を悲しんでいたが、自業自得なので気にしない。
カレー班でもカレーが出来上がったようで、美味い美味いと声が聞こえてくる。煉獄さんでもいるのか?
少し経って、カレー班の方から小さい人影がこっちに近付いてくる。留美だ。留美は泣きながら俺に抱きついてきた。何が何だか分からんので、とりあえず撫でていたら、追いかけるように葉山が現れた。お前が原因か。子供相手に何やったんだよ……。
葉山の言い分はこうだ。『鶴見さんが1人で輪に混じれずにいた。気を利かせて、輪に入りやすいように鶴見に話を振った。しかし、鶴見がみんなの輪に入りきれてないので、イジメを辞めるように皆を説得したら、謝ってくれたので、解決した』と。
俺は小学生の相手をしていた川崎に留美周りの状況は調べて貰っていた。留美はイジメられてるわけではなく、留美の高飛車な性格にどう接して良いか分からないだけだったのだ。
つまり、留美が軟化すればすべて丸く収まる。
だからこそ留美のことは今日放置していたのだが………
葉山は罪の無い子供にイジメのレッテルを貼り付け謝らせた。お前らが悪い、と。その結果、留美は『大人を使って自分たちを悪者にした存在』になる。大人がいなくなった後に、留美へのイジメが始まる可能性がかなり高い。留美はそれに気付いて、今後の自分に降りかかる悪意を想像してしまったんだろう。
雪ノ下は頭を抱えているし、俺も頭を抱えてる。
肝心の葉山は良いことをしたと思い込んでいる。
由比ヶ浜と三浦はなんで葉山の暴走止めなかったんだ……
泣きじゃくる留美は林間学校の班に帰りたく無いそうだ。
そりゃそうだ。俺も同じ立場なら帰りたくない。
とりあえず葉山は今後一切、子供達への接触を禁止。薪拾いやらゴミ拾いやら、元々は俺がやろうとしてた作業をやってもらう事にした。一応、留美のためを思っての行動ではあったので、強制送還だけは無しにした。
留美は林間学校の間は俺達と行動することになった。
何の解決にもならないが、結局は林間学校が終わった後に留美が頑張るしかないのだ。俺と雪ノ下でぼっちの流儀を教え込むとしよう。
そうして、最悪な林間学校は終わった。
林間学校が終わっても夏休みは続く。
俺と雪ノ下に懐いた留美は俺の家に居着くようになった。
留美の家は案外近く、電車で2駅の距離だ。
俺や雪ノ下の話を聞いたこともあり、留美はそれほどイジメについて悲観することはなくなった。雪ノ下のイジメエピソードは強烈だ。上履きを60回隠された事にも驚きだが、隠された回数数えてるあたりが雪ノ下らしい。
平塚先生は『今回の林間学校が成功した』という嘘レポートを書く仕事が残っており、1番頭を悩ませていた。
いや、無理だろ。