私は比企谷くんとの出会いを思い出していた。
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高校入学式の日
私の乗っていた車が人を轢いた。
謝罪する為、私が轢いてしまったという男の病室に入ったが、男は私の存在に気付いていないようだ。
男が窓を眺めながら『あの桜が散る時、俺は死ぬんだろう』などと言っている。脚の骨折程度で何を言ってるのだろうか。
『なら余命1週間くらいかしら。-------。』
つい、いつもの癖で冷たい言葉を投げ返してしまった。
男は怒るでもなく、すり寄るでもなく、淡々と私に応対した。
私は顔が良いし、家柄も良い。これまで会ってきた男は私に対して見栄を張る人ばかりだ。少なくとも、ラノベを勧めてくるような人はいなかった。
彼の横で本を読むが、話しかけてこない。
彼も本を読み始めた。
好きなだけ読んでいいということだろう。
そして、好きなだけここにいてもいいということだろう。
家でも学校でも私は姉と比べられてきた。姉と同等を常に求められ、私もそれを目指していたが姉には追いつけなかった。何処にいても劣等感が付き纏っていた。
彼がくれた居場所は心地よかった。
彼は必要以上に私に近付いてこない。
私が一歩近づけば、彼も一歩近付いてくる。
徐々に歩み寄る関係性。3ヶ月という期間は私の警戒心を解き、彼に対して執着心を抱くのに十分過ぎるほどだった。
姉に関係しない物で初めて手に入れたい物が出来た。
それは恋心ではなく、ただの執着心だと思った。
彼の退院の日、彼から告白を受けた。
普段から軽口を叩く彼からは想像できないほど飾り気の無い告白の台詞だった。嘘偽りのない、彼の自身の気持ちということだ。
今まで告白は何度も受けている。もっと気の利いた告白をしてくる人も大勢いた。だけど、これほどに相手の気持ちが嬉しいと思った事はなかった。
身体が燃えるように熱い。気付いてしまった。いつのまにか私は彼のことを本当に好きになってしまっていて、それを隠すように執着心で上塗りしていただけだった。
彼と恋人になった。
家族は彼との交際に否定的だった。
どこから調べたのか彼についての情報を私に伝えてきたが、彼は彼自身の事を悪い方に盛って私に話しているので、どの情報を聞いても何も感じなかった。
私は彼との時間を最大限に作った。
少し学校の規則を破ってしまった事はあったけれど、私はテストでは毎回一位を取っているし、彼は10位付近を毎回取っている。あれこれ言われる謂れはない。
そうして、彼と出会って1年経った。
私と彼の仲を知らない人は学校にいなくなった。
2年生になって、彼以外との時間も増えた。
友達………と、呼べる人も出来た。
ある日、姉(を騙る不審者)と会ったという連絡が彼から来た。
彼は不審者と一言も話さず逃げ切った事を自慢していた。
私が焦がれ追い求めた姉は、彼にとっては話す価値もないということらしい。彼は私にしか興味がないのだろう。それがとても嬉しかった。
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昔話は終わり。今の話をしましょうか。
今度の文化祭。去年同様に全てをバックれて比企谷くんと文化祭を楽しむつもりだったのに、文化祭実行委員に選ばれてしまった。
去年バックれた事はバレてるので、当然と言えば当然の処置なのだけれど、、、とは言え、クラスの人には勉強を教えたり根回しはしていた。
私が比企谷くんを大好きなのは周知の事実なので、クラスの人達もそれ自体を邪魔したいわけではない。バックレたとしても、実行委員として仕事はしたという実績だけ残しておこうという配慮らしい。
実行委員として仕事する比企谷くんを見るのも悪くないんじゃない?と言われて、確かにそれも悪くないと思った。真面目な顔の彼はカッコいいので見てて飽きない。
彼に実行委員になるように連絡すると、一悶着あったらしいが実行委員の席を勝ち取れたらしいので一安心した。
実行委員会初日。
役職決めをする日。
姉が実行委員長をやっていたという事で推薦されたが、比企谷くんとの時間が減りそうなので拒否した。
私と比企谷くんは記録雑務の係だ。文化祭当日までは委員会の雑務をこなし、当日は文化祭の写真を撮って回る。比企谷くんと全てを見て回るつもりなので都合がいい。
委員長は相模さんという女子がやるんだそう。
相模さんは奉仕部に助力を求めてきたけれど、拒否した。
比企谷くんとの時間を削るつもりはないのよ。
実行委員会中盤。
相模さんの手際が悪い。大丈夫かしら。
それに引き換え、比企谷くんの仕事ぶりは惚れ惚れする。
彼は自身の事を無能と評価しているが、私から見ても充分有能で頼りになる。カッコいい。
姉がOGとしてイベントに参加するとの事で、その申請で委員会にやってきた。姉は比企谷くんを見つけるとダッシュで捕まえに走り、私とのイチャイチャで油断していた比企谷くんは姉に取り押さえられてオモチャにされていた。私の比企谷くんをあまりイジメないでほしいわ。
実行委員会終盤。
相模さんが学校に来なくなったらしい。
体調不良かどうか分からないけれど、委員会も当然欠席。
暫定で委員長は城廻先輩が引き継ぐことになった。
相模さんは仕事が溜まっていたらしく、仕方ないので私のクラスの子達に頼むことにした。
比企谷くんもクラスの人に頼んでいたようで、私と彼で合計30人くらいの助っ人が集まり、一気に仕事を処理して貰えた。
文化祭当日。
結局、相模さんは最後まで姿を現さなかった。
まだ体調不良なのか、或いは責任を感じて城廻先輩に委員長の役割を譲ったのか、真相はわからない。
去年同様に、私は比企谷くんと文化祭を満喫した。気を遣ってくれたのか、知り合いは誰も私達に声を掛けてくることはなかった。或いは声を掛けられていたが、聞こえず無視しちゃっていたのか。
文化祭後夜祭。
キャンプファイヤーを囲んでみんなが踊っている。
私と比企谷くんは少し離れた所に座りそれを眺めていた。
比企谷くんに視線を移すと、目が合った。
今の私は比企谷くん無しでは生きていけないと思う。
比企谷くんもまた私無しでは生きていけないと思う。
私が進んだ分だけしか、比企谷くんも進めないから。
比企谷くんは私に依存してると思うだろうけど、それは逆で、私が比企谷くんの優しさに依存してしまっているのだ。
比企谷くんが私を大切にしてくれると信じてるから、私はそれに甘えてしまう。
比企谷くんの目は私をしっかり見てくれている。
顔を近付けていく。顔が熱くなる。
初めて比企谷くんにキスをした。
比企谷くんも私にキスをしてくれた。
やはり、私は比企谷くんに依存してしまっているようだ。