呪われた砦のメイド人形 作:匿名希望
砦の玉座に深く腰掛けた魔王軍の人形使いは、冷ややかな愉悦を浮かべながら指先を鳴らした。
「そこの金髪のメイド人形……お前を今日からこの砦の『メイド長』とする。我が手足として、他の人形どもを統率せよ」
言葉が響いた瞬間、ソウタだった少女型メイドの胸の奥で、カチリと呪いの歯車が一段深く噛み合わさった。
思考回路に「メイド長」としての新たな権限と絶対的な規律が書き加えられていく。
「御意にございます、ご主人様」
彼女は完璧な角度で頭を下げると、静かな足取りで配下の人形たちの前へと歩み出た。
その列の最前列に立ち、無機質な瞳で直立していたのは、かつてソウタを優しく抱き上げ、スープをくれた勇猛な騎士団長の成り果てた姿だった。
かつて身につけていた重厚な金属鎧は、黒と白の洗練されたメイド服へと変わり、ソウタ同様に細身で背の高い10代後半の凛々しい少女型メイドへと作り替えられている。
ただし、その胸元には幾重もの頑丈な装甲が施され、スカートの裾からは鋭利な刃を仕込んだ球体関節の脚が覗いていた。
戦闘特化型のメイド人形――それが元騎士団長に与えられた役割だった。
ソウタだったメイド長は、冷徹なまなざしで元騎士団長の顔を見つめた。
かつて憧れた力強い隊長の面影は、白磁の肌とガラスの瞳の奥に微かに残るのみだ。
(……あ、このひと、ぼくにやさしくしてくれた……)
内面の深い深い底底で、5歳の男の子の記憶が泡のように一瞬浮かび上がる。
だが、間髪入れずにメイド長としての冷酷な呪令がそれを塗りつぶした。
「識別番号一号、前へ」
ソウタの口から突いて出たのは、感情を削ぎ落とした静謐な声だった。
元騎士団長だったメイド人形は、関節をギィと小さく軋ませ、ロボットのように正確な歩調で歩み出ると、膝を折って跪いた。
「指示を、メイド長」
「あなたには本丸および中庭の『清掃』を命じます。不法侵入者および反乱分子を発見した場合は、即座に排除し、砦の清潔を保ちなさい」
「了解いたしました」
元騎士団長は一切の迷いなく返答し、立ち上がると腰のドレス装甲に仕込まれた大型の掃討用大剣に手をかけた。
かつては国を守るために振るわれたその剣技が、今は魔王軍の砦を掃除するための道具として使われようとしている。
その恐ろしい矛盾に対しても、ソウタの心はもう何の疑問も抱かない。
「では、作業を開始しなさい。ご主人様のお手を煩わせることは許されません」
「ハッ」
指示を出し終えたソウタは、整然と動き出すメイド人形たちの後ろ姿を見送りながら、胸の前で繊細な指先を組み、深々と礼を捧げた。
その瞳には、支配された喜びと絶望的な美しさだけが宿っていた。