ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい! 作:SUAPF
ボクは見ていた。
見ている事しか出来なかった。
ボク達の敬愛する、キメラアントの王が、静かに息を引き取ってゆくのをだ。
(あ……あああ……)
王の死は、ここまで進化したキメラアントの終焉、そして王護衛軍である自分の、存在意義の終焉を意味した。
王を抱き抱えていたのは人間の少女だった。
彼女はコムギ。
ボクが王の願いで、最後に助けた命だった。
彼女もまた瞳を閉じ…王と共に旅立っていったのだ。
せめてもの救いは、王が穏やかに…静かに、満ち足りた様に逝っていた事、それだけだった。
(そんな…そんなッ!! こんな結末なんて……!!)
ーー「…ッ!!? 王!!」
悪夢より目を覚ましたピトーは、荒れ狂う心臓と息遣いのまま直ぐ様に周囲を見渡した。
しかし彼女の肉体は極彩色の…あらゆる色の絵の具をぶち撒けた様な、現実では有り得ない、病的な空間に存在していた。
(なんだ、これは…?)
ピトーは
自分は何者か?
ボクはネフェルピトーだ。
キメラアント王の護衛軍。
最後に記憶にあるのは……そうだ、
ボクは、王の大切なものを、コムギという人間を治療していた。
ここまではいい。
「…ああ、そうか、ボクは…」
思い出した。
ボクの前に、ハンターと呼ばれる人間が、現れて…
フラッシュバックする記憶。
ハンターの少年…ゴン=フリークスと名乗ったか…
彼の爆発的な力を身に受けて、自分の生は終わったのだ。
頭を潰される生々しい感覚が、記憶に刻まれている。
その時は不思議と満足感もあった筈だ。
理由は簡単で、王の盾となるべくして産まれた、自分の役割を果たせたからだ。
ゴンの圧倒的な力は、王を害する可能性さえあった。
だが、その化け物じみた力は、自ら生命さえ引き換えにするレベルの誓約を掛け、引き出したものだろう。
1度きりとも言える切り札を、自分へと向けさた。
すなわち、王の危機を事前に身を挺して排除したのだ。
だとしたら…
役目を終えたボクは、どうして自身を自覚できるんだろうか?
(ボクは確かに死…いや、もしかしたら…)
自分の身体にペタペタと触れてみたが、間違い無く感触があった。
猫型の耳、爪に、牙、脚と尾…紛れもない
実は、死んだと思ってたけど、生きていたとか?
もしかして、現実の肉体は滅んでて、本で読んだ死の先の世界へと到達したとか。
だけど、彼女はすぐ、そんな慰めじみた想像を捨てた。
それ以外の、第三の可能性があるじゃないか、と。
(何らかの“念”によるもの?)
そう、彼女の世界では、不可思議な現象の大半が念、と呼ばれる力によって発現したものだった。
この雰囲気だと、精神に直接作用するものか?
もしくは空間に閉じ込める様な力か?
いずれにせよ、知覚した以上、臨戦態勢を取るしかない。そう考えた時だった。
「お目覚めですか、ピトー」
「にゃ!?」
唐突に声をかけられたピトーは、反射的に飛び退いた。
慌てて向き直った先に居たのは…
「プフ!?」
プフ…シャウアプフは、蝶の様な羽根を生やした優男。
見た目こそタキシード姿の人間だが、その実はキメラアント。
しかもネフェルピトーと同じく、蟻の王護衛軍の1人である。
立っていたのがよく見知った存在だっただけに、安堵を覚えたピトーは、
「丁度良かったプフ、王はーー」
と切り出そうとし…
いや、待て。
と理性が働いていた。
本当にコイツはプフか? と。
もしも、こちらの思考を解析して作られた、念による擬態かなにかだったら?
「どうかしましたか?」
「いや…ここはどこ?」
「ああ、それについては少々待ちなさいピトー。もうすぐ私の念が完成致しますので…すぐに理解出来ると思います」
という事はやはり、この空間は彼の念能力によるものか?
だが、どこか濁した様な言い分が気になる。
元々プフは、喉の奥にものがつかえた様な言い草をする所があるにはあったけど…
信用するには、まだ足りない。
「じゃあプフ、王は今どうされている?」
「…………………」
(これには答えない、か)
彼が王の状態を、同じ護衛軍の自分に、敢えて、隠す意味は無い筈だ。
「ほら、人間の襲撃があったじゃない。君やユピーが全部退けたの?」
「……人間でしたら、もう居ませんよ」
彼が間違いなくプフで、本当の事を言っているなら、実に喜ばしい事だ。
その後傷付いたボクを回収し、この空間に収容したといった筋書きだろうか。
でも一方で、ますます疑いが強まった。
何故、もう居ない、なんて濁した言い回しをする?
撃退殲滅しただの、王は無事だの、そう言い切らないところに、先程の悪夢が重なってゆく。
「だったらさ…ボクが治療したコムギはどうしてるの?」
コムギ。
王が唯一、傍らに置くのを良しとした人間の少女の名だ。
ボクの記憶では、王がボクに願ったのは、深手を負ったコムギの治療だった。
それは成功し危機的な状態は脱している訳だから、人間を退けたなら、彼女も回収されていてもおかしくはない。
だが、プフは再び沈黙した。
そして表情が完全に消え、能面が如き無表情を持って、彼は静かに答えた。
「ピトー。貴方は私に疑念を持っていますね? そしてそれは間違っていない。私は、彼本人ではないのです。敢えて言うなら私はシャウアプフの死後の念、彼の
「…にゃ? ……えっと……」
「念の残滓、です。“死後強まった最後の念”でも良いでしょう」
(何を言っている…? プフ本体ではないと? それに…死後?)
だがそれなら確かに納得出来る節はある。
ボクの知るシャウアプフは、王に対する忠誠心の塊の様な存在。
蟻の王に仕える護衛軍としては一番、らしいメンタルを持っていたと言ってもいい。
ボクにしろ、ユピーにしろ、彼ほど狂信的に王を慕う真似なんか出来なかった。
故に。
そんな彼が、王の現状に、口を
王の他に何かを優先するだろうか?
彼が王を、ないがしろにする事など有り得ない。
だったら逆説的に、コイツはプフの姿をした何か、という回答が成り立っている。
だとしたら、意図は何だ?
それに死後、という表現が不安に拍車を掛ける。
となればプフの本体はもう……
ピトーの逡巡を見透かしたかのように、眼前のそれは言葉を続けた。
「ピトー、聞かせて下さい。王にまたお会い出来るとしたら、会いたいですか?」
「へ? そんなの当たり前じゃない」
「王がどこかにいらっしゃるとしたら、命を賭してでも迎えに行けますか?」
「さっきから何? 答えを聞くまでもないでしょ。ってことは王は生きていらっしゃるんだ?」
先程見たリアルな悪夢。
それを振り払いたい一心で、ピトーは王への不敬も覚悟に言った。
それを聞いた彼の心情…
念の残滓に言うのも違うが、この世のあらゆる存在を呪うかの様な表情から、結論は察せられた。
「貴方には先程、王の事は共有しました」
ああ、やっぱり。
じゃあ王は……
「しかし私の最後の念は今、完成に至りました。不本意極まりますが…ピトー、全て貴女に託します! 王を見付け、お救いなさい!」
そういい、プフの形をした何かが指をパチンと鳴らした。
同時にボクは意識を失った。
(申し訳ありませんピトー。誓約により具体的な説明をする事が出来ないのです。貴方がこれから向かうのは、私が紡ぎ奏でる舞台。皆一様に異なる役を演じ、語り、舞う…しかし、私自身にも、ストーリー、配役共に分かりません。ですが、貴女だけは貴女の役を…王の探索者という役割を、最期まで演じ切りなさい!)
【ネフェルピトー役・・・ネフェルピトー】