ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい! 作:SUAPF→NFLPT
ボクは、王の元へと這い進んだ。
「メルエム様ァァ!!」
王はもう、目も口も、開く事はなかった。
王の頭を抱き抱えるかのように、手を触れた。
徐々に失われてゆく温度が、嫌でも現実を押し付けてくる。
「クソっ、まだ…まだぁ!!
念能力、玩具修理者が展開されると昆虫の脛節にも似た触腕が、メルエムへ伸びる。
(ボクはどうなってもいい! だからお願いだ、王をこの世界に繋ぎ止めて!!)
奇しくも…ピトーの想いは。
ピトーを倒すため、他の全てを犠牲にしたゴン=フリークスの考えと、似ていた。
その出力方向は真逆であるが。
己を犠牲に、何かを成す…その苛烈な感情は自身を内側から燃やし尽くしそうだった。
(ああ、だから
念とは誓約と制約。
力を最大限に引き出す為には、ハイリスクを…多くのものを支払い、自らの身をすり潰すまでの覚悟がいる。
ゴン=フリークスは未来を全て支払い、一時的に、ボクを凌駕した。
ならば、ボクにだってそれが出来る筈!
だが、玩具修理者の触腕は、黒化し砕けてゆくメルエム様の身体に取り付く事が出来なかった。
それは、治す余地が無い事を意味した。
「あ……う、嘘……」
ポキリ、と折れる音がした気がする。
…………
………………
……………………
…………………………
違う!
それでも!!
玩具修理者が無理でも!
ボクは言ったんだ。
私にも望むものはあるって!
最期の最期! 終わりの終わりまで、
諦めて、たまるか!!
ボクの全ての念を!
使い尽くしてでもォォ!!!
その時だった。
ピトーから、光が溢れ出たのは。
すぐそれは御来光の如き閃光として、暗き洞穴を反転した。
爆発的な光、ピトーから放たれた光が、世界を書き換えていった。
(な、何!? これって…まさか!?)
それは紛うことなく光の魔術だった。
破壊を司る闇の魔術を持つものが魔王となるなら。
再生を司る光の魔術を持つものは…
差し詰め、勇者とでも言うべきであろう。
結論から言えば、ネフェルピトーは目醒めた。
光の魔術に。
彼女から発せられた光は、腕の中のメルエムを繋ぎ止め、肉体を再構築していった。
回復どころか、再誕の域にまで踏み込んだ技だ。
そうして光の引いた後、残っていたのはネフェルピトーがよく知る、キメラアントの王、メルエムそのままの姿だった。
(これは……そうか、ボクの、意味だ)
メルエム様が目を開いた。
王は反射的に身体を起こし…起こせた事にまず困惑していた。
未だに処理が追いついていないらしく、自分の肉体を何度も眺めては呆けた様な顔をしている。
身体を蝕む壊蟻病の痕跡さえ、完璧に消え失せていた。
ボクの両足もまた、いつの間にやら修復されていた。
立ち上がったボクは……
「め、メルエム様…よかっ、お、お加減はいかがでしょうか……」
メルエム様は、「あ、ああ」と返すのが精一杯みたいだ。
「私は王の希望に背き、貴方様をお救い致しました。処罰は何なりとお受けします」
ボクの言葉に、メルエム様は何やら吹き出した。
「ふ、ふふ、はははは…全く、しょうがない人だな、貴殿は」
涙を見せまいと下げていたボクの頭を、王の手が優しく撫でた。
「ありがとう。大義であったピトー」
ああ、ああ!
そうだ。
ボクはこの言葉を聴くために。
思えば短く、永かった。
それでも辿り着いた頂きが、絶景であるなら。
これ以上の事はない。
「王ぉぉぅぅーー!! 良かった、本当に良かった!!」
ユピーが感極まり、涙を撒き散らしながら、ブンブンと飛び回る。
「これユピー、あまりはしゃぐと身が持たぬぞ?」
「ネフェルピトー殿、ありがとうございます。さ、涙をお拭きなさい。私め、丁度ハンケチを持っておりまして」
周りの獣人がそう言い、ハンカチを差し出した。でも、
「いや、今はいいよ。まだボクにはやる事がある」
と申し出を断り、後1人の、救うべき相手の元へ向かった。
カイト。
ボクが殺め、人生を狂わせた男。
彼の念人形は消滅した。
だが彼は生きている。
驚くべき事だが、彼の肉体を強引に繋いでいた縫い跡も消え、全て元の通りとなっていた。
(これも光魔術の力なのかニャ…?)
その威力たるや、いつか本で見た通り、何でもありだった。
カイトは未だ目覚めていない。
でもお目覚めまで待つつもりはない。
だから彼の頬に、ペシッと肉球パンチを見舞った。
「ぶべっ!?」と、何とも間抜けな声をあげ、カイトは意識を取り戻した。
「なっ…!? こ、ここは……」
「目が覚めたかニャ?」
「獣人、か? 何だここは!? 俺をどうするつもりーー」
「ごめんなさい」
「ん…??」
「ボクは貴方に酷い事をしたニャ。具体的には腕をぶった切って首をはねて殺した後に死体を繋ぎ合わせて復活させ操って部下の教育用人形にしてしまったニャ。決して許される事のない鬼畜の所業だと後悔しているニャ」
「…さっきから、お前は一体何を言っている!」
「分からないならいいニャ。じゃあ次、君を人間の街へと五体満足で送り届けるから、抵抗しないで欲しいにゃあ」
「そんな矢継ぎ早に言われてもーー」
バキッ!
「ぐぇ…」
有無を言わさずカイトを気絶させ俵負い。
ああそうだ。メルエム様にお伝えしよう。
「ではメルエム様、諸問題の片付けをして参ります。しばしお待ち下さい」
あまりの展開に王は顔を引きつらせ、投げやり気味に頷いた。
「じゃあ、行って来るニャー」
洞穴を勢い良く飛び出し、密林を駆け抜ける。
身体はいつもより遥かに軽い。
(力が溢れて来る。今なら何でも出来そう)
試しに、彼女は空を飛びたい、と思った。
それだけで彼女の背に、純白の翼が構築された。
「おお、マジかニャ…」
そこからボクは跳躍すると、天使の羽根を広げ舞い上がった。
【ハンカチを差し出した獣人役・・・亀型キメラアント】