ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい! 作:SUAPF
ーースラクストン大陸中央、パスパサ王国、王城。
王城の会議場…巨大な円卓が配置された部屋がそれに当たる。
その日はたまたま、異常獣人の周知と対策の場が設けられており、各騎士団長らの半数程が会議場へと集まっていた。
パスパサ王も、グランドマスターネテロを伴って入場し、王は玉座へ、ネテロは最奥の席へと移動した。
騎士らはこれを起立し直立不動で迎え、ネテロが腰掛けるのを見届けてから、各々も着席する。
「さて……ひとまずは揃った様じゃな」
ネテロが厳かにそう言い、間もなく検討会が始まろうかというタイミングで、それは起こった。
「む…?」
ネテロが、彼だけが王城の高い天井を仰ぎ見た。
そこには太陽を模した意匠が施されており、円卓の全てを見渡している。
「いかん! 備えよ!!」
その直後だった。
ドゴンッ!! と。
轟音を響かせながら、太陽のレリーフの中心をぶち抜き何かが、飛び込んできたのだ。
咄嗟のことに場は阿鼻叫喚の坩堝と成り果てるところだったが、
「うろたえるなッ!!」
と、ネテロの一括によって、直ぐ様波が引いた様に静まり返った。
騎士らは皆、あるものは武器を取り、ある者はいつでも魔術を行使可能とし、統制の取れた動きで玉座前へと集結する。
ネテロは最前線にて、爆心地…何かが落下してきた場所…粉砕された円卓を睨み付け、拳を構えた。
土煙が引き、そこに立っていたのは、ネテロらが今から討論しようとしていた猫魔獣型の獣人であった。
「人間の王様とグランドマスターって、ここにいるかにゃ?」
「お主は……こりゃいかん、王よ、すぐにご避難を」
ピトーの姿を認めたネテロは、すぐに提案したが、
「避難? ネテロよ、お前の後ろが一番安全な避難先じゃろうがよ」
パスパサ王は動じる事なく、こう言ってのけた。
「ったく、このジジイは…ワシにプレッシャーを掛けよってからに。で、何用でここに来た、獣人?」
と、話を振られたピトーは、
「ちょっと乱暴になっちゃったけれど、話し合いに来たんだよね…嘘じゃない証拠に、この人間を返すにゃ。はい」
と、雑にポイッ、とカイトを投げ渡した。
「ちょっ…わわっ!?」
女性の騎士団長が慌ててカイトをキャッチするが、体格差が大きかったのか体勢を崩して下敷きになっていた。
(断罪騎士までもが敗れてしもうた、か)
断罪騎士カイトは、騎士団長でこそないが、パスパサではグランドマスターを除き1、2を争う実力者だった。
彼が敗れた今、この相手に真正面から対抗出来るものは自分しかおるまい、とネテロは覚悟した。
魔王の再来。
頭の片隅を常に支配していたものが、現実になったのだ。
(だが…どういう訳か…)
それにしては、眼前の獣人からは禍々しさを一切感じない。
どころか神々しささえ感じる。
挙げ句に話し合いだの、返すだのと…
かつての、破壊の限りを尽くした魔王とはまるで違う。
闇の魔術の力に呑み込まれておらんだけか?
「あとさ…ボクがうっかり殺しちゃった騎士の人達…その件で謝る。心から、謝罪させて貰うよ、この通りだ」
この瞬間。
場の空気は一気にピリ付いた。
頭を垂れるピトーに、騎士団長らは言葉を失った。
先んじて封じられた。
思うだけの罵声を、引っ込めざるを得なかったのだ。
こうして頭を垂れる相手を罵るなど、騎士道から言えば有り得ないのだから。
「テメェ…今さら何を言ってやがるッ…」
「ボクは本気だ。それと怪我をさせた人達も居ただろう? ボクならすぐ治せるから、その人達の所に案内して欲しい」
緊張感増す空気の中、ネテロは違和感に気付いた。
コイツは今、治せる、と言ったのだ。
「治せるだァ? 獣人風情がどうやって? いい薬草でもあんのかい?」
「それは、こうやって、かな」
ピトーはそう言うと、指先から光を放った。
ネテロらにとっては見覚えがありすぎる光だった。
その光を受けたあらゆる破片らは、まるで時間を巻き戻されたかのように、元通りの円卓となる。
そして大穴の空いた天井を塞ぎ、太陽のレリーフが再び昇っていた。
「精密に治したいなら念もあるし。あとついでに、実はボク獣人じゃないんだよね」
「ば、馬鹿な」
「あれってグランドマスターと同じ…勇者の力?」
「獣人じゃないって言ったのか? じゃあ、あの耳と尻尾はなんなんだよ!」
「こ、こいつぁ……」
魔王どころか、この獣人…獣人モドキは、ネテロのみが持つ力を有していた。
それも、遥かに凌駕する出力で。
(参ったぜ…こいつ、ワシより強くね?)
「勿論、疑うならいつでもボクを攻撃していいよ。でもボクにも、やる事があるから抵抗はするけどにゃ」
(そこまで言うかい! なら、証明してみろ娘ッコ!!)
刹那。
隙とも言えぬ隙に。
歴戦の勇者は拳を捩じ込んだ。
誰もが動きに気付く暇もない。
ピトーはじいっ、と。
身動ぎひとつせずに。
ネテロの拳を、視ていた。
それは彼女の鼻先、1ミリで止まった時もだ。
拳の生み出した暴風が、ピトーの髪を、調度品を激しく揺らした。
静寂。
静寂。
それを先に破ったのはネテロだった。
「ったく、バカバカしい。光魔術使う奴が魔王なワケあるかい。王よ、ワシの責任で、コイツを連れて行っていいじゃろ?」
その言葉にパスパサ王は「お主が言うなら違いあるまい。良いぞ〜」と返した。
「聞いての通りだお嬢さん。お前さんを客人として迎える。じゃがの…」
ネテロはわざわざ声を大にして、念押しした。
「これだけは言っとくぞ。いくら緊急時の事とはいえ、我が騎士団の兵に犠牲を出した事、簡単に許される等と思うなよ」
ネテロは、周囲の騎士団長らの言葉を代弁していた。
同時に彼らを牽制もしているのだろう。
その為の、王への確認と、ワシの責任という言葉。
「騎士団長各位、貴様らの手出しは無用」と。
暗にそう言っているのだ。
「うん、よく、分かっているよ」
ピトーの瞳にはもう、迷いは無かった。
ーー二ヶ月後
ピトーの存在は獣人に対する考えを、大幅に変える切っ掛けとなった。
パスパサ王とグランドマスターネテロは、既存の獣人に対するルールを改定。
公に彼らの存在、人権を認める方針で動いているそうな。
とはいえ実際、変われと言われても、すぐには変わらないだろう。
それをこの二カ月、色んな形でピトーも味わった。
あれから団員の遺族に面会もしたし、怪我をさせた兵士を治したりもした。
獣人を見る目は(ボクは獣人じゃないけれど、彼らには関係ない)変わってはいるけど、ほんの、ほんの少しだ。
いざこざになりかけたのも、1度や2度ではない。
「むぅ…もどかしいものだにゃあ…」
ネフェルピトーは今日も、原始森近くでの開拓作業を手伝っている。
ここはメルエム様が、その昔に生活していた土地であるらしい。
集落を作りたいとの希望も即決であった。
今は、開拓作業をしている獣人しか住んでいないが、いずれは人間とも生活したいと、メルエム様は考えている。
ならばボクは、王の願いを聞いて、あくせく働くだけだ。
「ここに居られましたかピトー……殿」
ブンブンと羽音を響かせながら、ユピーが現れる。
「ハァ…ねえユピー、ボクの事はピトーでいいって言ってるにゃあ」
「す、すみません。私などがそう呼ぶにはまだまだ…そのぅ、時間が掛かりそうです」
「君もボクと同じ立場のメルエム様護衛軍なんだからさ、慣れてもらわないとにゃ〜…ああ、そうだ。護衛軍といえばーー」
まだまだ彼女らの闘いは始まったばかりだ。
が、それでもひとまずはネフェルピトーの旅は終わった。
【カイトをキャッチした女騎士団長役・・・ポンズ】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私はゆっくりと手を止めた。
指はもう痺れている。
喉ももう、枯れ果てている。
だがやれるだけの事はやった。
ーー満足です。
ただただ、今は満足です。
舞台の上の王は、メルエム様は確かに生きている。
一時はどうなる事かと思いましたが。
王が生きていて下さる、その事実があるだけで良い。
本当によくやってくれましたピトー。
ありがとう、ありがとう。
……これで思い残すことはありません。
ゆっくりと、私も眠る事が出来るでしょう。
さらばです王、さらばですピトー、ユピー。
貴方達の行く先に幸あれかし
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【語り手・・・シャウアプフ】
↓↓
ーーーーーーー (ΦωΦ) ーーーーーーーーーー
「護衛軍といえば、やっぱり君がいないとにゃ、プフ」
「は? ぴ、ピトー!? どうして……」
「どうでもいいからほら、早く来るにゃ。王が待ってる」
「王が、わ、私を!? メルエム様がっ!?」
「うん」
「ああ……あああああああああああ!!! め、メルエム様ァァァァ!!! 承知仕りました、不肖このシャウアプフ、今すぐそちらへ向かいますゥゥゥゥ!!!」
【語り手・・・シャウアプフ】
↓
【メルエム護衛軍・・・シャウアプフ】
完