ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい!   作:SUAPF→NFLPT

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ワンオペピトーさん編
ボクが何歳かなんて意識した事も無かったニャ


 

「ピトー姐さんは、年齢はおいくつなのですか?」

 

そう言ってきた狼型獣人は、最近よく話し掛けて来るヤツだ。

 

年齢なんて言われても…そんな概念自体、考えた事さえなかった。

 

産まれた時を0として、ボクは…えぇと、生後3〜4ヶ月かぁ。

 

(思えば短い命だったニャ〜)

 

「あの…姐さん?」

 

「ああゴメン。ボクは1歳にもなってないね」

 

「ええ!? それで、そのぅ、ソレなのですか!?」

 

上から下まで、ジロジロと見られるのは良い気はしない。

ボクはわざと意地悪げに

 

「“ソレ”っていうのは、どういう意味かニャ?」

 

と聞き返してやった。

獣人はしどろもどろになり、見る見るうちに顔を青ざめさせていく。

 

(うーん? なんでコイツ、答えずに怯えてるのかニャ?)

 

「ピトー、あまりそやつを苛めてやるな」

 

そこへ、ボクたちの間に割って入ってきたのはメルエム様だった。

 

「あ、いえ! 違うのですメルエム様! 俺がピトー姐さんに失礼な言動をしちまいまして!」

 

獣人が、先んじて必死に申し開きをした。

 

というか、さっきのってボクに対して失礼な話だったの?

 

「全く、性のない奴だ…で、何を言ったのだ?」

 

「…年齢の話、でぇす」

 

「ボクはそこが気になったんじゃないよ。“ソレ”って何のことか訊いただけだニャ」

 

ボクが口を挟むと、獣人はますますバツの悪そうな顔をする。

 

「あー、あ〜……その、年齢の割に、ずいぶんと大人びていらっしゃると思いまして…」

 

ふぅん? それならそうと、ハッキリ言えばいいのに。

 

でも大人びてるって言われても、ボクは生まれた時から何ひとつ姿が変わってないんだけどなぁ。

 

(ああ、元の世界じゃ、顔付きが優しくなったとか時々言われたことはあったけども)

 

そもそもキメラアント自体が、早熟極まる生き物だ。取り込んだ生物の特性や知識を最初から引き継いで生まれてくる。

 

例えば、ボクよりも後に生まれた護衛軍の仲間やメルエム様だって、最初から大きくて強くて、難しい言葉をたくさん知っていた。

 

…ああ、でも。

こちらのメルエム様やユピーはキメラアントじゃないんだから、ボクたちとは違って、ちゃんと時間をかけて年齢を重ねてきてるんだよね。

 

「お前のことだ。大方、不埒なことでも考えていたのであろう?」

 

「あ、う…そ、それはぁ…」

 

不埒、かぁ。よく分からないや。

 

それよりもボクは、ふと浮かんだ疑問を口にしてみることにした。

 

「あの〜、メルエム様は、おいくつなのですか?」

 

と。

あちらの、元のメルエム様はボクより歳下だった。

だから、こちらの王が何年くらい生きているのかが純粋に気になったのだ。

 

メルエム様は少し意表を突かれたように瞬きをし、それから顎に手を当て、考え込むような仕草をした。

 

「……ふむ。申し訳ないがピトー、余は歳を細かく数えて生きてきたわけではないのだ。恐らくは、六十前くらいだと思うがな」

 

(六十、魔王騒動があったのも五十年前だし、そのくらいでもおかしくない、かニャ)

 

獣人の寿命はバラバラで、長寿種であればかなりの年月を生きるらしいとは聞いていた。

 

長生きといえば、いつもハンカチを持ち歩いている亀獣人などは、本人いわく二百歳を超えるらしい。

 

(そもそも蟻獣人や、ボクたちキメラアントは何歳まで生きられるのやら)

 

――ああ、そうか。

分からないのなら、調べればいいんだ。

 

「メルエム様、ちょっと出掛けてくるニャ!」

 

「ああ、構わぬ」

 

ボクは背に翼を生やすと、勢いよく地を蹴って飛び去った。

 

あっという間に、集落の皆の姿が豆粒ほどに小さくなっていく。

 

「……気ままな奴よ」

 

見送るメルエム様の瞳に、一瞬だけ、深い影が落ちたことには気付けずに。

 

 

 

 

ーーパスパサ北部街、書物庫

 

「ペギー、また見に来たニャ」

 

ペギー司書は、虫干しを終えたばかりの本を、えっちらおっちらと書庫へ戻している最中だった。

 

「これはピトーさん。今日は何をお調べに?」

 

「魔獣の寿命とかが分かる本が欲しいかニャ」

 

「おや…それでしたら、初めてここへいらした時にお見せした魔獣図鑑が良いかと思います」

 

「ああアレね。じゃあ勝手に読むよ」

 

ペギー司書がいつもキチンと並べ直しているおかげで、目当ての本は定位置にバッチリと収まっていた。

 

(えぇと……)

 

パラパラと本をめくっていく。

 

静かな室内には、ペギーがタン、タン、と本を棚に収める音だけが小気味よく響いていた。

 

『獣人の寿命は基本的に魔獣側の血に引っ張られ、人間のそれよりも短命に終わる場合が多い』

 

(それはそうだろうね)

 

だけど、注意点もあるらしい。

魔獣が天寿を全うできる例は極めて少ない、ということ。

 

彼らの世界は完全な弱肉強食であり、さらに寿命は生活環境や立場、栄養状態で大きく上下するため、正確な平均寿命の把握は難しい……そんなことが書いてあった。

 

一応の指標としては、

王や女王蟻の魔獣は、十五年〜二十年。

兵隊なら、五年〜七年。

羽根蟻型が、四年〜五年くらいらしい。

 

(メルエム様の場合は闇の魔術持ちだし、色々な生物の特徴を取り込んでいるから、あんまり参考にはならないニャ)

 

因みに、猫型魔獣の平均寿命は三十年前後らしい。

 

今のボクの身体には直接関係ないけれど、一応は調べてみた。

 

それにしても、ここに書かれている猫型獣人の外観や特徴は、確かにボクをそれと見間違えても仕方がない。

なるほどね、と1人納得していると、

 

「ご自身の寿命でも、調べられているので?」

 

背後から、ペギー司書がひょっこりと顔を覗かせて声をかけてきた。

 

「いや、ボクたちの王様の、かな。残念ながらぜんっぜん当てにはならないけどね」

 

「王様、ですか…ああ、もしかして以前言われていた、蟻の?」

 

「そーそー。だけど全然ダメだね。ここに書いてあるのより、ずっとずっと長く生きているし」

 

「ずっと長く、ですか?」

 

ペギー司書が不思議そうに首を傾げる。

 

「うん。まあ、お強い方だしね。因みにペギーって今いくつなの?」

 

「私は今年で五十四になりますな。平均寿命から言えば、そろそろお迎えが来てもおかしくはありません」

 

「ふぅん、随分と長生きさんだね」

 

「ピトーさんは…見たところ、十六歳くらいで?」

 

「全然違うよ。ボクはまだ赤ん坊だね」

 

クスクスと笑うボクに、ペギー司書は困ったような苦笑いを返した。

 

この大陸における人間の平均寿命は、男性で六十歳ほどらしい。

それを考えれば、ペギーの「迎えが近い」という言葉に何ら違和感はなかった。

 

ただ――あの『ネテロ』だけは例外だ。

光の魔術を持つせいか、人間の平均寿命を大きく上回ってもなお、現役として君臨している。

 

(ふむぅ、うん?)

 

パラリ、と本をめくる手が止まった。

 

【生殖活動とは、生物にとって自身の遺伝子を後世に残し、種の存続を維持するための、最も根本的な生命維持・進化の仕組みである】

 

寿命の話とくれば、どうしても避けて通れないのがこの手の問題だ。

 

キメラアントに関して言えば、女王がその役割をすべて果たしていた。

 

そこから生み出された強き王が――次なる『つがい』を作り、新たな女王を誕生させることで、さらなる繁栄を生み出していく。

 

元いた世界じゃ女王は死んだし、メルエム様も亡くなられているから、キメラアントという進化種はすでに終焉を迎えているけれど。

 

じゃあ、こちらの場合はどうなんだろう?

 

そもそも、この世界の獣人はどうやって子孫を残すのだろうか。

 

獣人とは、人間と魔獣の間に不規則に発生した、自然の摂理にはない存在なのだし。

 

「ねえペギー、獣人って子孫を残したりはするの?」

 

「…ええと、それは、どう答えたら良いのか…」

 

ペギー司書はあからさまに歯切れを悪くした。

 

「ああ、ボクは獣人じゃないから変な気は遣わなくていいよ」

 

その言葉に、何か言いたげな眼差しを向けるペギーだったが、彼はコホンと一度咳払いすると、静かに語り出した。

 

「実は…獣人には、そうした、次代に繋ぐ仕組みは無いとされております。どの個体であれ、一代限りで終わりを迎えると。やはり、自然の体系から考えると、あまりに歪な存在と言わざるを得ませんので……」

 

「じゃあ、放っておいたら滅びちゃうってこと?」

 

「ええ。人間側の魔術練度の向上につれ、魔獣の被害自体が減っていますし、積極的な獣人駆除が行われなくなっても、今後、彼らが増えることは絶対にないでしょう」

 

ついでに宗教的には、今なお『忌むべき存在』とされていることも多いという。

 

ペギーいわく、獣人の出自は人間の倫理観からすると「おぞましい」の一言に尽きるため、こればかりは仕方のないことらしい。

 

(なんてことだろう…)

 

脳裏に、あの集落で同胞を守るメルエム様の姿が浮かぶ。

 

つまり、こちらのメルエム様は、種を残すこともなく…いずれはただ静かに、老いて滅びてしまうというのか。

 

ある意味で、我々王直属護衛軍にとって、何よりも厄介で、受け入れがたい事実が突き付けられてしまった。

 

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