ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい! 作:SUAPF→NFLPT
ボクは、困惑が勝ったままの足取りで護衛軍詰所へと戻っていった。
早速プフが「いかがでした!?」と尋ねてきたので、完全に駄目だった旨をありのまま報告した。
「おのれェェ、コムギ!! どこまでも我が王を縛り付けるか……!」
「そうですか……メルエム様……」
二人のあからさまな失望顔は、見るに耐えないものだった。
それゆえに、この後に続く別の話題を切り出すのは、ちょっと気が引けたのだけれど…
「でもさ、王はボクに【託した】とか言ってこられたんだよねぇ……次代を築いてほしい、とか何とか」
「「えっ……?」」
二人の声がきれいにハモった。
「一応聞くんだけど…これってさ、どういう意味だと思う?」
「考えるまでもありません!」
プフは口を手で覆い、「そうか、その手があったか」と言いたげな歓喜の表情を浮かべた。
「我らは獣人ではなくキメラアントです! すなわち、次代を築ける可能性は大いにありましょう!」
「で、でもさ、次代を築くったって……ボクたちは直属護衛軍だよ? 具体的に何をするのさ?」
「…………あ」
ここでプフも、ピタリと言葉を失った。
キメラアントは主に、王と女王が繁殖を担当する生き物だ。
女王は【摂食交配】――すなわち、食べたものを元に子を成し、次代に食べた生き物の特徴を反映して産み落とすわけだが、ボクたちにそんな機能はない。
また、師団長以下の下級蟻らも、王が亡くなれば自分たちで異種交配を行うそうだけれど……ボクやプフは、王を守ることにその生涯を捧げるために特化した『直属護衛軍』だ。
王族でなければ、下級兵でもない。次代…つまり子供の作り方なんて、知るはずもなかった。
………
………………
「………赤ん坊が入っているという、キャベツでも探しに行くニャ?」
「無知ですね、ピトー。それはコウノトリが運んでくるものですよ」
「ニャハハハハ……はぁ……」
「アハハハハハ……はぁ……」
ボクたちの乾いた笑い声が虚しく響く。
「プフの能力を使うのもマズいよね。人間を繭に包んでキメラアントにするわけだし、そんなことをしたら、こちらの騎士団が黙ってないにゃあ」
「残念ですが、今の私は念能力を失っています。もし使えたとて、貴女の言う通り、今の勢力で人間とことを構えるのは自殺行為でしかありません。手出し無用が賢明でしょう」
駄目だ、完全に詰んだ。
打つ手なしかと思われたその時、小さなユピーが「あのぅ」と遠慮がちに口を挟んできた。
「コーノトリを、本当に探しに行けば良いのではないでしょうか?」
「ものの例えですよ、ユピー! 貴方までそんな馬鹿げたお伽話を真に受けるのですか!」
「い、いえ……コーノトリと言われたのでしょう? 確か、触れた存在の情報を解析して、そのコピーを作り出す鳥型の魔獣だったと思いますが……え?」
「「え?」」
ボクとプフの動きが、同時に止まった。
「ああ、でも……何処に棲んでいるかも分からない珍しい魔獣ですし、危険がある可能性も……」
「ネフェルピトー」
不気味なほど真剣な顔になったプフが、ボクの肩を掴んだ。
「……なぁに、シャウアプフ」
「早速、私はその【コーノトリ】について、あらゆる情報を集めます!」
「いや、もしかして本気で信じてるの!? 第一、ユピーはそんなのどうやって知ったのさ?」
「ダートンさんが知っておいででして……昔、実際に見たことがあると言っていました」
「ダートン? って誰だニャ?」
「亀の獣人ですよ。いつもハンカチを持ち歩いている、あの爺様です」
「ああっ!」
ボクの脳裏に、長寿な獣人の姿がありありと思い浮かんだ。
ーー「はい…はい。確かにわたくし、コーノトリを見ましたなぁ…80年も前でしょうか」
早速ボクはダートンに話を聞きに行っていた。
彼はあっさりと肯定し、ゆっくりゆっくりと話しはじめた。
「あの純白無垢な翼と、燃える様に紅い眼、見るも魅惑のーー」
ーー3時間後
(なっがい話だったニャ……)
ボクなりに要点をまとめると、
① コーノトリは北寄りの地域にいるらしい。
② ダートンが目撃したのは80年も前で、それ以降の足取りは不明。
③ 純白の翼と、紅い眼を持っている。
④ 非常に希少な魔獣であるということ。
⑤ ダートンはコーノトリが、別の魔獣を生み出している瞬間を見た。
信憑性で言えば限りなくゼロに近い眉唾ものだが、今は藁にも縋る思いで信じるしかない。
またペギーの所にでもお邪魔しようかと思っていると、ちょうどプフが帰って来た。
「ピトー! 北です、北の地域に目撃情報が集中しているとか!」
「ああ、それなら今知ったところだよ」
「ですが、それ以上の詳細は分かりません!」
「やっぱり人間に訊いてみるしかないんじゃないかな。彼らは沢山の資料を持っているし」
「ふむ、確かに。ではよろしくお願いいたします、行きなさいピトー!」
「面倒だにゃあ…って、プフは手伝ってくれないの?」
「私は護衛軍! 王の側を離れるわけにはいきませんので!」
「あぁ、そう」
結局、全部ボクがやるんじゃないか。
こういうのを、人間は【ワンオペ】って言うんだっけ。
でも、仕方ないか。
自由に動けて、念も魔術も使えて、人間とのコネクションを持っているのはボクだけだし。
「じゃあ…また行ってくるにゃ〜…」
ーー「お前さんはよぉ、もちっと静かに来られねぇのか」
所変わって、パスパサ王国、王城、玉座の間。
ボクは城壁を飛び越え、王城の天窓を派手に破って侵入した(勿論、後で光の魔術を使って綺麗に直しておいたよ)。
行き交う兵たちの目をすり抜け、そのまま王の間へと突入。
額に青筋を浮かべた王国騎士最強の男、ネテロの前に立っていた。
「王ォォォォ! ネテロ様ァァァァ! 獣人の侵入者がァ!!」
「あー、皆、気にせんでええぞ!! 解散じゃ! ……ほら見てみろ、混乱しとるじゃねえか」
「だって、見張りが通してくれないんだもの」
「当たり前じゃろ! 次に来る時は、まっとうな手続きを踏まんかい!! ……それで、何用だ?」
「ああ、それなんだけどさ。ハムストリン大陸の【ダイタイ】ってトコ、キミたちの領土じゃあないよね?」
人間の王に向けて、ボクは首を傾げて問うた。
王は何かを思案しながら、
「……そうじゃな」
とだけ、重々しく返事をした。
「そこにトラブル無く行きたいんだけど、誰にお願いすればいい?」
「ほぅ……貴殿はダイタイに行きたい、と? 何故かな? まさか観光ではあるまい?」
「コーノトリを探しにね」
調べた結果、北方ハムストリン大陸のダイタイ。
そこでコーノトリはよく見られるのだとか。
「コーノトリを……どうして、かのぅ?」
あからさまに、玉座の間の空気が変わる。
どうやら王もネテロも、コーノトリ、ひいてはその能力について把握しているらしい。
二人とも平静を装ってはいるが、その瞳はこちらの真偽を値踏みするような、鋭いものへと変わっていた。
ネテロに至っては、いつでも動けるよう全身の魔力を活性化させている。
ふーん。やっぱり、コーノトリの効果は本物みたいだね。
「いやだなぁ、分かっているでしょ? コーノトリは触れた存在のコピーを産み出すらしいし。だったら、ねぇ?」
「……おめぇさん自身を増やすってか?」
「ああ、それもいいかも。ワンオペで大変だし?」
ネテロがずいと一歩前に出て、身構える。
「冗談じゃねぇぞお嬢ちゃん……そりゃあ、いくら何でも過剰戦力だ」
「冗談だよ。だけどさ、ボクたち獣人の状況はキミたちも分かっているよね。どんどん数が減っているのに、ルールで増やせない。なら、コーノトリの手を借りるしかないじゃない?」
「だからよォ!!」
「まあ待て、ネテロ。……ネフェルピトー殿、我々人間が、そんな危険な真似を簡単に許すとでも思っているのかな?」
「キミたちのスタンスはよく分かったよ」
「…………」
「だけど、こっちの事情も汲んで欲しいな。ちなみにボクは人間と揉める気は一切ないよ。その証拠に、わざわざこうして正直に質問に来ているんだから」
(言葉通りに受け取っていいものかのぅ……)
パスパサ王もネテロも、即座に答えを出せるはずがないよね。
獣人の陣営がコーノトリの力を手にするなど、人間側からすればあまりに危険を孕みすぎている。
当然、パスパサ王国としては容認できるわけがない。
だがーー王の思惑は、別のところにあった。
(……コーノトリの確保、か)
それは国家にとって、至高の有用性を持つ。
存在を完全にコピーできるという能力。これはいかようにも軍事や国力に転用できる。
そして今なら……目の前の化け物、ネフェルピトーが代わりにその捜索に当たってくれるというのだ。
もし彼女が本当にコーノトリを探索し、やり遂げてくれるのであれば、利用しない手はない。
(それにダイタイか……あそこなら、別の副産物も有り得るのぅ)
リスクはある。だが、それ相応の、いやそれ以上のリターンもある。
「ネフェルピトー殿。我らの出す条件を飲んでくれるのであれば、その地への探索を許可しないでもないぞ。当然、かなりの制約を掛けさせてもらうが……如何かね?」
「ああ、うん。内容にもよるけどにゃ」
そうかそうか、と呟くパスパサ王の目は、心底愉快そうに歪められていた。