ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい! 作:SUAPF→NFLPT
(う〜ん、思ってたより厳しい条件だにゃあ……)
結論から言えば、ボクのハムストリン大陸調査の許可は下りた。
下りたんだけどね……提示された条件が、これだ。
一、調査期限は出発より四ヶ月とする。
二、調査隊の構成は、ネフェルピトー、および王国軍より選出された二名とする。
三、現地に到着後、さらに現地の案内人二名を同行させる。
四、【ネフェルピトーの単独行動は一切許可しない】
五、全体の命令系統は現地人二名を「主」とし、王国兵二名がそれに追従する。ネフェルピトーはこれに順ずるものとする。
六、【ネフェルピトーは、いかなる場合も命令に従うこと】
七、調査隊に死傷者が出た場合は即刻報告の上、調査を中止する。
八、【ネフェルピトーは緊急時を除き、魔術の使用を禁ずる】
あからさまにボクを名指しした制約が三つも。
要するに、王国兵と現地人にボクは監視され、主導権は完全に握られるというわけだ。
基本的にボクに自由はない。
それどころか、ボクは人間の命令に絶対服従しなければならない。
そして『死傷者が出た場合は中止』という項目。
これはボクに対し「お前さんの技や魔術なら少々の怪我や病気は治療できるんだから、死人なんて出すなよ?」と言っているに等しい。
……にもかかわらず、その魔術の使用に制限をかけてくる意地の悪さ。
ボクはあえて、獣人という扱いにしてあるから、人間の前で安易に超常の力を見せるな、ということなんだろうけど。
「何とも不平等で一方的な、醜いルールを押し付けられたものですね、ピトー」
集落に戻り、条件を伝えると、案の定プフが顔をしかめた。
「まあまあプフ、そうは言うけどさ。かなり妥協してもらってコレだよ? 行かせてもらえるだけマシだと思うしかないニャ」
「ですが、気まぐれで自由奔放な貴女が、この条件で四ヶ月も我慢できますか?」
プフの心配ももっともだ。
ボクだって、人間の指示に一方的に従い続けるなんて真っ平ごめんだし。
「だけど、我慢しないと人間がキミたちに何かしないとも限らないからね。この集落の近くに、王国が騎士団を駐留させて大規模な訓練を始めるらしいよ……丁度、ボクたちが遠征する、四ヶ月間ほどね」
もしボクが現地で下手を打てば、その訓練部隊は一瞬で【獣人討伐隊】に早変わりすることだろう。
今のボクたちには、これに対抗する力はない。
王やユピーは元より、プフも念を使い果たして満足に戦えない状態だからだ。
「抜かりのないことで……ですが、コーノトリさえ手に入ればこちらのものです。くれぐれもお気をつけて」
「うん、まあ。ボクはただ大人しく指示に従っていればいいだけだから、ある意味気楽なもんだニャ」
そう言ってボクは、無理やりにでも、行ってみようやってみよう、のポジティブなメンタルに切り替えた。
ーーハムストリン大陸までは、船で三日程だという。
当日に集合場所のパスパサ港へと来てみれば……同行する王国騎士2名というのは、ボクにとっても見覚えのある男2人組だった。
(なるほど。実力者、ねぇ)
「よろしく」
「…………」
「久し振りだね、よろしくカイト。そっちのキミは…」
2人のうち、片方はカイト。
かつてボクと死闘を演じた、断罪騎士の男。
もう1人の黙っている男も、見覚えがある。
確かこちらの世界に来て、最初に尋問した若い兵士だ。
あの時は周りの騎士を片付けた後、彼だけ気まぐれで見逃してあげたっけ。
「ポックルだ。あの時以来だな」
「ああ。ボクはネフェルピトー。ピトーでいいニャ」
差し出した4本指の手を、彼はあからさまに拒否した。
ま、そりゃあそうだろう。
彼の同行者を殺し糧にした様な相手と、そう易々と握手なんて出来る訳がないよね。
じゃあ、ちょっとだけ揺さぶってみようかな?
今回に関しては彼も着いてくる訳だし。
「よろしくポックル。まだボクとは仲良くしてくれないニャ?」
「……あれは任務中の事だった。彼らだって覚悟はしていたし、オレももう気にしちゃいない」
(いや〜、めちゃくちゃ気にしてるとしか思えないけどニャ)
「だが勘違いするな。お前は危険だ。怪しい動きをすれば、背中から撃つからな」
「へぇ。キミにボクの不意が突けるのかな?」
と、挑発的に微笑んでみせた。
ボクの立場が弱いからといって、好き放題出来るワケじゃないよ、ってね。
「なんだと!?」
「やめろポックル。挑発的な態度は控えて貰おうか」
そこにカイトが割って入った。
鋭い眼光が、ボクの動きを制するように射抜いてくる。
「ピトーもだ。お前に対しての命令権はこちらにある。悪いが従って欲しい」
「……はぁいはい、分かってるよ。ボクは静かにしとくニャ」
これ以上刺激するのは得策じゃない。
ボクはわざとらしく両手を頭の後ろで組んで、一歩下がる。
ふん、と鼻を鳴らし、ポックルは背を向けた。
異なる大陸の探索とあって、それなりのメンバーが来るものと思っていたけれど……
(カイトはまだしも、ポックルはあんまり頼りにならなさそうだね)
率直に、そういう感想を抱いた。
そこからは船に乗り、大陸間を移動することになった。
初めて乗り込んだ船の感想はというと、意外にも悪くないというものだった。
比較的波が穏やかだったこともあるけれど、何より甲板から見る景色は新鮮味に溢れていたのだ。
辺り一面に広がる蒼い海は勿論、船首に当たり白く弾ける波しぶき、波間に飛び跳ねる名も知らない魚たち。
ボクにとってはどれもが新たな発見の連続だった。
最初は、波の音に合わせてピコピコと耳を動かすくらいには楽しんでいたのだけれど……
(…うーん、さすがに飽きてきたにゃあ……)
変わり映えのしない青い景色に、ボクの尻尾はすっかり垂れ下がってしまう。
船がダイタイ近くのスニィ港に辿り着く頃には、最初の感動はどこへやら、すっかり退屈しきっていた。
船が着くなり、ボクは他の誰よりも早くささっと陸に足をつける。
やっぱり、踏みしめるなら土の上が一番落ち着くね。
港のあるスニィから、目的地のダイタイまではおおよそ四百キロ程度の道のりだ。
ここはまだ比較的穏やかな気候をしているが、高地であるダイタイまでは複数の山脈を越えねばならず、難所とされる。
現に港から見上げる山々には重々しい雲が立ち込め、その山頂は白く染まっていた。
「パスパサ王国の方ですな? この様な僻地まで遠路はるばるご苦労様、とでも言っておきましょうか」
船を降りたピトーらの一行に、声を掛けて来た男が2人いた。
ベレー帽を被る軍人然とした男と、人間にしてはとりわけ体躯の大きい、野生児じみた大男だ。
2人とも過酷な気候に備えてか、分厚い防寒着を身に纏っていた。
背中には山のような巨大なリュック。
多分、この2名が同行する現地人なのだろう。
「ハイヤ=オソロシック。見ての通り流れの探索者…ハンターをやっている者でね、ちょいとばかし腕には自信がある。よろしく」
ベレー帽を被った男は、うさんくさい笑みを浮かべてそう名乗った。
「こちらこそハイヤ。オレはカイト。こちらがポックル、そしてネフェルピトーの計3名だ。腕利きの現地ガイドだと訊いている。よろしく」
一方の大男は腕を組んだまま仁王立ちし…こちらを品定めするかのような、獰猛な眼光で見下ろしている。
「おいおい、パスパサの騎士の皆さんだぜ。お前さんも自己紹介くれぇしな」
「ウボォーギンだ」
「ホレ、相方は見ての通り小鳥みてぇに大人しい奴でね。こいつが隣に居てくれりゃあ、どんな戦場でもグッスリ眠れるって寸法さ」
「よろしくウボォーギン。それでは早速出ぱーー」
カイトが一同を纏めようとした、その時だった。
「待て」
と、ウボォーギンが言った。
「……何か?」
「そう焦るなって。オレはまだテメェらの実力をしらねえ。こちとらも命懸けになるんでな、使えるか使えねえか確かめるのは当然だろう?」
「テスト、という訳か? 時間も無いし、手短にして頂きたいが」
「指揮権はこちらにあるのを忘れんな、王国騎士様のカイトさんよ。使えねえ駒を連れてって巻き添えを食うのは勘弁だからなァ」
「ま、そうさな。実際オレたちもびっくりしたぜ。ひょろちい若造と、荷物持ちの獣人のチームだし? オマケにこれからダイタイまで行こうってのに、その軽装はどうだい。ピクニックかっての。おんぶに抱っこじゃあるめえな?」
ウボォーギンとハイヤは一転、挑発的な態度を隠さなくなっていた。
ちなみに荷物類はボクが全部持っている。
だから、現地人の2人からは荷物持ちだと思われているみたいだね。
「それは申し訳なかった。装備類は手早く揃えさせてもらおう。それで、テストとは?」
(なんかサシで戦えとか言いそうな奴だニャ)
(オレと戦えとか言い出しかねんな)
(オレと戦えとか言いそうだな……)
王国側3人の予想が奇妙な一致を見せるなか、ウボォーギンは口を開いた。
「ここは寒いだろ。オレ様とスパーリングでもしようや」
ウボォーギンは大方の予想通りの言葉を吐いた。