ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい! 作:SUAPF→NFLPT
夜も更けた頃。
ハイヤたちが用意してくれた宿舎の一室で、ポックルがふと、重い沈黙を破るように口を開いた。
「あの連中…ウボォーやハイヤたちのこと、カイトさんはどう思います?」
暖炉の灯りのそば。
ダイタイまでの道程、が記された地図を頭に叩き込んでいたカイトは、ゆっくりと顔を上げた。
「ふむ。実力に関しては、間違いなく本物のようだったな」
「それはそうなんですけど…ちょっと胡散臭いというか、現地ハンターって名乗ってはいますけど、モノは言いようじゃないかって邪推してしまうんです」
「何のハンターか、って事だな…血の匂いがする連中であることは確かだ。だが、だからといって悪人と決まったわけじゃない」
「どうでしょうね…実力があっても、何を考えているのかさっぱり分からない相手じゃ不安です。今回のミッションだって、パスパサとスニィの利害がたまたま一致したからってだけですし、本来は外交だってほとんどない国同士でーー」
「ポックル」
懸念をまくし立てようとしたポックルを、カイトの静かな声が遮った。
「お前のそういう慎重さは、長所であり、同時にちょっとした短所でもある」
「……ハッキリ言ってください。オレが未熟者だから、余計な心配をしてるんだって」
悔しげに視線を落とすポックルに、カイトは小さく首を振った。
「そうは言わない。お前も、そしてオレも、この大陸においてはまだまだ未熟だ。今回の件でも、こちらの勉強がまるで足らなかった。彼らからすれば、『そんな軽装でダイタイまで行くつもりか』と不安に思っただろうからな」
「でも、それは…オレたちがハムストリン大陸の事情をよく知らなかったからで…」
「ああ、その通りだ」
カイトは地図を静かに折り畳み、暖炉の炎を見つめた。
「だが、その言い訳はもう通用しない。これからはオレも、彼らの動向にはしっかり目を光らせておく。何が起きても即座に対処できるよう、最善を尽くすつもりだ。お前も気を引き締めておけ」
と、カイトが言ったところで、部屋の扉がノックされた。
「オレが出ますよ……どちら様?」
扉のすぐ近くにいたポックルが、警戒を孕んだ声で対応に向かう。
『お〜いオレだ、開けてくれぇ』
扉越しに聞こえてきたのは、ハイヤの緊張感のない声だった。
「こんな時間に何の用だ」
とポックルが低く問い詰めると、ハイヤは
『避難させてくれよ』
と情けない声を出す。
ポックルは振り返ってカイトに目配せをし、カイトもまた静かに頷いた。
鍵を開けると、防寒ジャケットを羽織ったハイヤが寒そうに身を縮めて佇んでいた。
「寒い寒い。やー、すまんねぇ。吹雪の中でも野宿できるのが自慢のオレだが、さすがにギブアップだ。悪いがアンタらの部屋に泊めてくれ……隅っこでいいぜ」
「何があったんです?」
ポックルが不審そうに眉をひそめる。
「可愛い猫ちゃんと、ウチの猛獣の
その言葉に、ポックルはハッと目を見開いた。
そういえば、スパーリングの直後にピトーはウボォーに連れて行かれていた。
「アンタ! アイツらを、二人きりにしたのか!?」
「ん? あーあー、安心しなって。ウチのウボォーはああ見えて紳士なんだ、男女の仲にゃならんだろうよ。はは〜ん、さては……そう
ニヤニヤと下品に笑うハイヤに、ポックルは拳を握りしめる。
「妬いてなんかいない! オレは、ウボォーを心配しているんだ!」
「はあ? それこそ失礼だろ。アイツに何があるっての? アイツの寝首を掻けんのなんて、伝説のドラゴン魔獣くれーだぜ」
「フッ、大丈夫だポックル。何もないさ」
「カイトさんまで! あの化け物は――」
「ただの猫型獣人さ。そうだろう?」
カイトの、静かな視線がポックルを射抜く。
ポックルはそれ以上続けることができず「…どうなっても知らないぞ」とだけ吐き捨てて、部屋の奥のベッドへと引っ込んでしまった。
(ふぅん……やはりな、オレの見立て通りだ)
ハイヤはポックルの去り際をじっと見送った後、一呼吸置いて、今度はカイトへ向き直った。
「あんたらも大変だねぇ…あの嬢ちゃんの戦いぶりといい、ただの獣人じゃねえよなァ? とんでもねえ厄介事を抱え込んでるだろ?」
カイトは表情を変えないまま、暖炉に新しい薪を焚べた。
「おや、パスパサから訊いていないか?」
「いいやぁ。オレ達が上から訊かされてんのは、【ダイタイまでコーノトリを探しに、ガイドを頼む。王国からとびきりの腕利きを2人出す。獣人も居るよ】ってことくらいさ。ウボォーは戦闘能力しか気にしちゃいねえが、オレは違ってね」
パチパチと音を立てて薪が燃える。
いわゆる暖炉前の雑談というやつだ。
人は揺れる炎を前に語らうと、警戒を緩め、感情を出しやすくなるという。
ハイヤはその心理を巧みに利用しようとしていた。
「な、いいだろ? オレたちゃこれから命を預け合う仲間だ……誰だって、火薬庫の前でダンスを踊るマヌケにゃなりたくねえだろ、兄弟?」
ハイヤはカイトの肩に馴れ馴れしく手を回した。
ツンと鼻を突くのは、タバコの臭い。
「アイツは、ちょっと腕に覚えのある獣人だ。腕利きに含まれている、ただそれだけさ」
だがカイトは、その揺さぶりに身動ぎ一つせず、淡々と答えた。
ハイヤはカイトの横顔を覗き込み、やがて諦めたように口元を歪めた。
「そうかい。アンタ、ポーカーが得意だろ」
燃え残りの炭を静かに掻き出し、カイトはまた新しい薪を火の中へ加えた。
「ああ。ありがとう、その通りだ」
「まあいい……オレは寝るぜ」
探り合いの終わりを察したハイヤは、それ以上追及せず、壁に背中を預けて毛布を頭から被った。