ネフェルピトー! 異世界で王をお救いなさい!   作:SUAPF→NFLPT

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まあ魔獣なんてボクの相手じゃないニャ

(うぅ…しかし寒いにゃあ…ボク、思ってたよりも寒さ耐性がないかもしれないニャ)

 

例えばピトーが耳を伏せてブルルと身震いしていると、ハイヤは、

 

「お嬢ちゃん、ちょいと手を貸してみな」

 

と気さくに笑いながら、手をそっと握りしめてきた。

その瞬間、手のひらから心地よい温もりが広がっていく。

 

「ん? なんだか凄いポカポカしてきた…」

 

「だろう? オレの魔術は火系統でね。熱も操れるから、こうして身体伝いに相手を芯から温めることができるのさ。また寒くなったら言いな、お嬢ちゃん限定でタダでやってやるぜ…まぁ、そこの野郎共は一回につき千ジェニーだけどな」

 

親しげに笑うハイヤ。

 

だが、この時彼はピトーの表皮の硬さ、体内を流れる異質なものの密度、体温等を測り終えていた。

これが下準備であることなど、誰も知る由はない。

 

一方、ハイヤの有料宣言には案の定、誰も応えなかった。

 

「お、おいおい冗談だって! なぁ皆、冷たいぜ! じゃあ仕方ねぇ五百…いや、何なら百ジェニーでいいぜ、これ以上は負けられねぇ!」

 

「じゃあ、オレの雪掻きも次から金を取ろうかな?」

 

ポックルが口元を少し緩めてからかう。

 

「分かった分かった。そんじゃあ坊っちゃん嬢ちゃんはタダ、ウボォーとカイトは五百だ」

 

「あぁ!? テメェさっき百まで下げてただろうが! 勝手に引き上げてんじゃねぇぞ!」

 

「じゃあ百なら払うんだな!? 言質は取ったぜウボォー、お前は百ジェニー決定~!」

 

「フッ…」

 

カイトの口元から、思わずといった風に小さな笑みが漏れた。

 

「ホレ見ろハイヤ、カイトにまで笑われてんぞ」

 

「な、おいおい、カイトまで――」

 

「いや、オレは賑やかでいいと思うな。続けてくれ」

 

極限の雪山という状況の中、ようやくこのチームが本当の意味で打ち解け始めた――誰もがそう、錯覚した瞬間だった。

 

そんな彼らの平穏を、遠方から見つめる無数の眼光があった。

 

 

 

 

「…ん?」

 

ボクが最初にそれに気がついた。

 

周囲に張り巡らされた【円】の領域に、異質なノイズが幾重にも引っかかったのだ。

 

「ねえ皆、あっちの方に何かいるね。しかも…十よりは多いよ」

 

「へぇ、オレの目には何も見えんが、ピトーが言う事だ、間違いはねぇんだろ?」

 

「勿論だよウボォー。こっちを伺っているだけみたいだけど、不気味なくらい動きがない。このサイズからいって、恐らくすべて魔獣だろうね」

 

「やれやれ、ついにおいでなすったか。そんじゃあ野郎共、いっちょやってやりますかね」

 

ハイヤの低く鋭い号令に合わせ、全員が一瞬にして険しい臨戦態勢へと切り替わる。

直後のことだった。

 

「ーー来たよ!」

 

と、ボクが声を上げた刹那。

 

白銀に染まる斜面の上、はるか山頂の方角より、周囲の空間ごと叩き割るような、凄まじい地鳴りが轟いた。

 

山頂の方角で、真っ白な雪原そのものが身動ぎしたように見える。

 

最初は巨大な雪崩かもと思ったが、斜面を怒涛の勢いで駆け下りてきたのは、魔獣の群れ。

 

体毛が雪景色に完全に溶け込む、純白のベア型魔獣。

 

巨躯が横一列に並び、強固な陣形を組んでこちらへ突進してきている。

 

だけど、その絶望的な圧力を前に、慌てふためく者は誰一人としていない。

 

誰もが能力に意識を研ぎ澄ます中、ハイヤが鋭く号令を下した。

 

「正面からバカ正直にやり合うな! まずは牽制で敵の陣形を崩し、そこから各個撃破だ! お嬢ちゃんは向かって右翼を削れ、カイトは左翼、ウボォーは中央で敵を止めろ! 坊っちゃんは全体のサポートだ、やれるか!?」

 

「うん、分かったニャ」

 

ボクが喉を鳴らすのと同時に、カイトは

 

「了解だ」

 

と短く応じて愛用の帽子を深く被り直す。

 

ポックルが

 

「ああ」

 

と魔力を練り上げれば、ウボォーは

 

「おぅ!!」

 

と咆哮を上げた。

 

誰も異を唱えることすらなく、一斉に、かつ完璧な足並みで散開していくメンバー。

 

ハイヤはその場に止まり、冷静な視線で全体を見渡していた。

 

激突の瞬間は間近。

魔獣たちが巻き上げる凄まじい雪煙によって、またたく間に視界は不良になっていく。

 

ここで派手にやり合いすぎれば、本当の雪崩という二次災害を引き起こしかねない。

 

必要なのは、隠密かつ迅速な、圧倒的蹂躙による決着。

ハイヤの脳裏で、プロとしての計算が静かに弾き出されていた。

 

 

 

 

ーーボクはハイヤの指示通り、右翼へと向かって雪面を駆け抜けた。

 

足首まで埋まるような不安定な雪原は、ボクの得意な全力の跳躍には不向きだ。

 

だからこそ、いつでも方向転換や空中制御ができるよう、背中の羽根をいつでも解放できる状態で地を走る。

 

こっちが散開したのに合わせるように、ベア型の魔獣たちも均等に散らばって襲いかかってきた。

 

(…へぇ)

 

ボクの元へ向かってくるのは4体。

他のメンバーのところよりも1体多い。

 

(ま、余裕だけどねッ!)

 

猛スピードで滑り降りてきた先頭の一体を、限界まで引きつける。

 

鼻先が触れ合うほどの至近距離。

すり抜けざまに回避し、無防備な脇腹を強化した爪で一閃。

 

さすがに魔獣の分厚い表皮と頑強な肉付きは、踏み込みの勢いなしに両断とまではいかなかった。

が、致命傷には十分だった。

 

踏ん張り切れなくなったベアは、真っ白な雪の斜面に鮮やかな青い血のラインを引きながら滑落していく。

 

一方、残る3体は雪面にスパイクのような鋭い爪を突き立てて急減速し、向き直ってきた。

 

だけど、全然遅いね。

敵がターンを終えるよりも早く、ボクはすでにその目の前に肉薄していた。

 

今度はしっかりと体重を乗せた爪斬撃。

2体目、3体目の首が、抵抗もなく同時に宙へ飛ばされた。

 

首を失った魔獣が、狂ったようにしばらく腕を振り回していたが、すぐにバランスを崩して青い血飛沫をブチまけながら転がっていく。

 

直後、死角から迫っていた最後の4体目が、ナイフのような大爪をボクの眼前に振り下ろしてきた。

 

地面を蹴って避けるのは間に合わない――

 

「にゃはッ!」

 

かと思ったニャ?

ボクは不敵に笑うと、翼を広げ、真上へと飛翔した。

 

空を切ったベアの爪。

標的を見失い困惑するその腕を、ボクは急降下からの一撃で、容赦なく切り裂いた。

 

宙を舞うベアの剛腕。

ボクはそのまま、剥き出しの胴体へ強烈なボディーブローを叩き込む。

 

凄まじい衝撃音と共に、最後の一匹は山の下方へと文字通りぶっ飛んで消えていった。

 

(終わりっ。さて、他の奴らはどうなってるかニャ…)

 

ふわりと身体を浮かせたまま、ボクは雪煙に包まれた中央と左翼へと視線を巡らせた。

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